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第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ
第92話 ギルキス出撃
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一方、レジスタンスは【エテフラム】の背後から奇襲をかけた上で攻め込んでいた。
「コンサキス隊長、一番隊と二番隊を率いて先導しています。このまま【エテフラム】の中枢まで雪崩れ込めればいいのですが」
カラハはそんな希望は口にする。
「そう上手くいかないだろう」
「うむ……」
「むしろ、ここまで上手くいきすぎている」
ギルキスはこれまでの順調は、嫌なことが起こる前触れなのかもしれない、と危惧する。
キャプテンザイアスの提案に乗って、包囲網を一点突破し、雲海に乗る。
磁気嵐の乱気流である雲海に乗れば、敵のレーダーに気取られることなく虚を突ける、と。もちろん、海賊達の奮闘とジャミングもあってのことだが、これほど上手くいくとは思わなかった。
しかし、戦力に乏しいレジスタンスがクリュメゾンの大軍と渡り合うためにはキャプテンザイアス率いる宇宙海賊との共闘は不可欠であった。
その決断には勝ったと思うが、どうにも順調に行き過ぎている。
このまま、クリュメゾン軍に快勝してしまうのでは、と思えるほどに。
「コンサキス隊長のシュヴァリエ機が先行して【エテフラム】に着艦しました!」
オペレーターが報告する。
「少し先行しすぎではありませんか」
カラハは心配する。
「うむ、そうだな。張り切るのはいいが、【エテフラム】には奴がいる」
バゴォォォォォォォォォォン!!
コンサキスが先行した【エテフラム】から爆炎が巻き上がる。
「スクリーン、出します!」
オペレーターは大慌てでディスプレイを操作する。
「その奴ですね」
カラハは汗を浮かべて言う。
ピコン
スクリーンに映し出されたのは、猛禽の爪を思わせる黄土色のマシンノイドであった。
「機体照合! ソジャ・オングル、オーギス・アルシャール軍事長官の専用機です!!」
「コンサキス隊長は!?」
カラハはコンサキスの安否を確認する。
『こ、こちら……コンサキスだ……! やられちまった、ぜ……』
ブリッジにコンサキスの微弱ながらも生存が確認できる通信が入ってくる。
「コンサキスは一番隊に回収させろ!」
「だが、奴への対処は、二番隊では荷が重すぎる! いや、」
ギルキスが言い終わる前に、ソジャ・オングルは動く。
ウィングからのブースターによる一瞬の加速で、十分間合いを取っていたはずのレジスタンスのソルダとの距離を詰めて、鋭い爪を想起させるダガーによる一撃で沈められる。
それを一呼吸のうちに、三機も続けざまに同じように落とされる。
「二番隊、隊列が乱れています。このままでは全滅です!」
「ならば、本艦の直営に控えている四番隊を!」
「いや!」
カラハの進言をギルキスは止める。
「私が出よう」
「団長、自らが!?」
「あれほどの実力者が出たのだ! カラハ、後は任せるぞ!」
「……承知しました」
カラハは即応じる。二人の以心伝心は百年以上の戦友だからこそ成せる業であった。
バゴォン!!
そうこうしているうちに、四機目のソルダが落とされる。
「二番隊、ただちに後退!」
カラハは指示を出す。
「今からギルキス団長が出撃する! それまでも持ちこたえろ!」
『了解!』
二番隊のソルダは戦線を維持しつつ、後退する。
ソジャ・オングルの奮戦によって、【エテフラム】のソルダの部隊も戦線に加わってきた。
このまま戦いが長引くと、ブランフェール収容所を包囲していた戦力も集結し、敗北は必至である。
「ギルキス団長、頼みの綱はあなたですよ」
『そう言ってもらえると助かる』
そうならないためにも、ギルキスはジェアン・リトス・エゲルを駆る。
このジェアン・リトス・エゲルはジェアン・リトスをギルキスの為に調整と改造を施した専用機であり、ギルキスの反応についていけるだけのポテンシャルを持っている。
「ハッチ解放します! ギルキス団長、出撃できます!」
『ジェアン・リトス・エゲル、出撃する!』
輸送艦の開いたハッチから、ジェアン・リトス・エゲルが飛び出る。
「頼みましたよ、ギルキス団長」
カラハがそう言って、エゲルの背中を見つめる。
そうして、ジェアン・リトス・エゲルとソジャ・オングルの戦いは始まった。
エゲルが斬撃を放ち、ソジャ・オンゲルはそれを感知し、かわす。
「レジスタンスが、ジェアン・リトスを!」
アルシャールは驚く。
クリュメゾンの正規軍でも限られた数しか配備できないマシンノイドをレジスタンスが持っているとは思わなかった。それも相当な手練れの操縦者の為の改造が施されている。
間違いなくレジスタンス最大の強敵であろう。逆に言えばこいつさえ倒してしまえば総崩れになるだろう。
それが自分のなすべきことだと見定め、バックパックからプラズマライフルを構える。
照準はエゲル。構えてから一秒に満たない時間で狙いを定めて発射する。
それに対して、エゲルの方もプラズマライフルで迎撃する。
パァァァァァァァァン!
お互いのプラズマ弾が衝突し、拡散する。
そこからお互いにプラズマライフルによる銃撃戦が始まる。
衝突する複数のプラズマ弾によって、拡散するプラズマが雷光のような光が走る。それとともに電波障害も発生する。
「レーダーは役に立たないか。頼るつもりもなかったが」
ギルキスはぼやく。自分は問題ないが、カラハや他の団員が辛いだろうと思わず考えてしまう。
パァァァァァァァァン!
既に二十を超えるプラズマ弾が衝突する。
このまま、残弾が尽きるまで撃ち合うか。それとも、先に仕掛けるか。
「いや、先手を打たれたか!」
ギルキスはソジャ・オンゲルの姿を見失う。
レーダーもプラズマのせいで反応が消失していまい、追うことができない。
「だが!」
ギルキスは戦士としての勘と気配察知で、ソジャ・オンゲルの位置を割り出す。
キィィィィィン!!
ソジャ・オンゲルのダガーをエゲルのサーベルで受け止める。
ダガーが届く間合いまで距離を詰められていた。
驚嘆する加速力だ。他の団員はおろか隊長であってもこの一撃でやられていただろう。
「やるな!」
アルシャールは強敵の手応えを感じる。
「貴公がレジスタンスのトップか!?」
「いかにも」
アルシャールの問いに、ギルキスは応える。
「レジスタンス団長ギルキス・ダイタミア!」
「ほう! 貴公が噂に名高いレジスタンスの剣豪ギルキスか!」
「そういう貴様はクリュメゾン総軍事総軍事長官オーギス・アルシャールか!?」
「いかにも!!」
アルシャールは問われて、高らかに応える。
「この首が欲しければ存分にかかってくるがいい!」
キィィィィィン!!
再びダガーとサーベルが激突する。
「言われなくても!」
ギルキスは剣気を高める。
GFSを通じて機体越しに伝わってくるそれは他を寄せ付けない程の威圧感を帯びている。
(あれが、領主閣下にあだなす反乱の意志か!)
アルシャールはそれを感じて気を引き締める。
「各機へ通達! あのジェアン・リトスには手を出すな! このアルシャール総軍事司令が直々に手を下す!」
「一対一の決闘か!」
「余計な犠牲を出さないための措置に過ぎない!」
アルシャールはそう応えて、サーベルを引き抜く。
自分と対等かそれ以上の敵だと認識した。
二人の気迫が機体越しからでも伝わり、自然と二人の為の闘技場のような空間が戦場に出来上がる。両軍の兵士達がその領域に踏み込んだら死ぬだけだと本能的に察知したからだ。
そうして、エゲルとソジャ・オンゲルは睨み合うように対峙する。
ドォォォォォォォォォォォォン!!
ここは常に嵐渦巻く木星の上空。
雷はどこからでも発生するが、どこかからその中でも一際大きな雷鳴が轟く。
それが戦いの合図となって、互いにブースターを吹かせて一気に距離を詰める。
バァァァァァァァン!!
斬撃が爆音のように鳴り渡る。
互いの持ちうる技量を持てあますことなく、存分に振るう。
バァン!! バァン!! バァン!!
GFSシステムのおかげで達人はマシンノイドに乗ってもその機体を自分の身体の延長として扱え、達人のまま戦うことができる。
剣術、射撃、反応速度、そして、遺伝子エヴォリシオンによる能力も。
「ロンフェール!」
ギルキスの能力によってエゲルの盾が伸び、ソジャ・オンゲルのサーベルを防ぐ。
カキィィィィン
激突する金属音が太鼓のように鳴り響く。
それだけソジャ・オンゲルの一撃は強烈で、能力を使わなければ盾による防御は間に合わず機体は真っ二つに斬られていただろう。
そんな一瞬の躊躇いが命取りになる戦いの最中、アルシャールは次の動作に入っていた。
「メタルトール!」
アルシャールの能力によって巨大化したソジャ・オンゲルのサーベルが盾を斬り捨てる。
「く、だが!」
エゲルは反撃のサーベルで巨大化したサーベルを持つ腕を斬る。
「なッ!?」
片腕を失ったソジャ・オンゲルは後退する。
ギルキスはこれをまたとない好機とみて、一気に仕掛ける。
「でぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
裂帛の気合で畳みかける。
片腕だけでは防ぎきれず、その腕、続いて頭と斬り捨てられる。
「おのれぇぇぇぇぇッ!」
しかし、アルシャールは残った足に取り付けたダガーで、エゲルのブースターを斬る。
「しまったッ!」
二機はお互いに飛行状態を維持できず、【エテフラム】へ不時着し、爆炎が上がる。
「エゲルとともに二機の反応が消失!」
レジスタンスのオペレーターが状況を遺憾ながらも伝達する。
「いえ、団長があの程度で死ぬはずがありません。団長は必ず勝利する、各員、戦線維持に奮闘せよ! 」
カラハは団長を信じ、指示を出す。
ギルキスは飛行不能となったエゲルを乗り捨てて、アルシャールを迎え撃つ。
彼もまた機体が爆散し、生身で戦わざるを得なくなったが、戦力はさして低下していない。
キィィィィィン!!
それはギルキスも同じことであった。
アルシャールの剣戟をギルキスは同じく剣で受ける。
「ギルキス・ダイタミア! やはりお前か!」
「さあ、なんのことだ!?」
ギルキスはとぼけて見せて、アルシャールの剣を受け流す。
キィィン! キィィン! キィィン!
けたたましく剣と剣の衝撃が鳴り響く。
【エテフラム】の広大な甲板を駆けまわり、あらん限りのチカラと技量を用いて剣を振るう。
ドゴォォォン!
時に大砲のエリア、時にブリッジに突入して、激しく戦いを繰り広げる。
「ダイタミア家はクリュメゾン有数の貴族! 領主代理の地位を持っていたはずだ!!」
「それは父の代までの話だ!」
「何故その地位と家柄を捨て、レジスタンスに身をやつした!?」
「捨てたわけではないのだが。先代のテウスパール当主に奪われたのでな」
「そうか! テウスパールとダイタミアの台頭戦争か!」
「そういうことだ!」
クリュメゾンの台頭戦争。
それはジュピターの子供達がジュピターから国を与えられた際に、貴族達が家臣として名乗りを上げ、どの貴族が筆頭の家臣となるかを競うものである。
子供から筆頭に選ばれた貴族は、家名を引き継がせてもらうことになる。
その戦争の中心になったのは、テウスパール家とダイタミア家であった。
ギルキスの父ドルトス・ダイタミアはこの戦いに敗れ、生命を落とし土地も財産も、当時のテウスパール領主デルクにすべて奪われた。晴れてテウスパールがジュピターの子供達を迎え入れることができた。テウスパールの家名を継承させて、アランツィード・テウスパール、ファウナ・テウスパールとして。
一方、全てを奪われたダイタミア家は平民となることさえ出来ず、貧民に身をやつした。
まだ若かったギルキスは、そのどん底を味わい、屈辱と無力感に苦しんだ。
「台頭戦争に敗れたダイタミア家の復讐か!?」
「そんなものではない! 私は貧民に堕ちたことで知ったのだ!
皇族達の理不尽な支配とそれを支える貴族の構図によって苦しめられるヒトビトのことを! この戦争に一体どれだけの国民が生命を落としたと思っているんだ!?」
「国を守るための犠牲だ!」
「国? 未来の皇となる現領主一人のためだろ!? そんなものが我々の生命と釣り合うと思うか!?」
「釣り合わんな! 平民の生命が何万だろうと、国を守る領主一人には!」
アルシャールは迷いなき信念をもって言い放つ。
彼もまた軍人の名家の出であり、生まれながらにして皇族と国を支える使命を背負って今まで戦ってきた自負がある。
「あの新領主にそれだけの価値があるものか!?」
ギルキスは問う。
「アランツィード氏は亡くなったが、その意志は妹のファウナ氏が継いでいる。その器は皇と成り得るものとみた」
「果たしてそれはどうかな。この戦争を治められるチカラが無ければ、皇どころか領主の座すら転落するぞ!」
「ならば、このオーギス・アルシャールが切り開く!」
ギルキスとアルシャールの剣が激突する。
キィィィィィィィィィィィン!!
【エテフラム】どころかこの空域に響き渡り、震撼させる剣戟が繰り広げられる。
「コンサキス隊長、一番隊と二番隊を率いて先導しています。このまま【エテフラム】の中枢まで雪崩れ込めればいいのですが」
カラハはそんな希望は口にする。
「そう上手くいかないだろう」
「うむ……」
「むしろ、ここまで上手くいきすぎている」
ギルキスはこれまでの順調は、嫌なことが起こる前触れなのかもしれない、と危惧する。
キャプテンザイアスの提案に乗って、包囲網を一点突破し、雲海に乗る。
磁気嵐の乱気流である雲海に乗れば、敵のレーダーに気取られることなく虚を突ける、と。もちろん、海賊達の奮闘とジャミングもあってのことだが、これほど上手くいくとは思わなかった。
しかし、戦力に乏しいレジスタンスがクリュメゾンの大軍と渡り合うためにはキャプテンザイアス率いる宇宙海賊との共闘は不可欠であった。
その決断には勝ったと思うが、どうにも順調に行き過ぎている。
このまま、クリュメゾン軍に快勝してしまうのでは、と思えるほどに。
「コンサキス隊長のシュヴァリエ機が先行して【エテフラム】に着艦しました!」
オペレーターが報告する。
「少し先行しすぎではありませんか」
カラハは心配する。
「うむ、そうだな。張り切るのはいいが、【エテフラム】には奴がいる」
バゴォォォォォォォォォォン!!
コンサキスが先行した【エテフラム】から爆炎が巻き上がる。
「スクリーン、出します!」
オペレーターは大慌てでディスプレイを操作する。
「その奴ですね」
カラハは汗を浮かべて言う。
ピコン
スクリーンに映し出されたのは、猛禽の爪を思わせる黄土色のマシンノイドであった。
「機体照合! ソジャ・オングル、オーギス・アルシャール軍事長官の専用機です!!」
「コンサキス隊長は!?」
カラハはコンサキスの安否を確認する。
『こ、こちら……コンサキスだ……! やられちまった、ぜ……』
ブリッジにコンサキスの微弱ながらも生存が確認できる通信が入ってくる。
「コンサキスは一番隊に回収させろ!」
「だが、奴への対処は、二番隊では荷が重すぎる! いや、」
ギルキスが言い終わる前に、ソジャ・オングルは動く。
ウィングからのブースターによる一瞬の加速で、十分間合いを取っていたはずのレジスタンスのソルダとの距離を詰めて、鋭い爪を想起させるダガーによる一撃で沈められる。
それを一呼吸のうちに、三機も続けざまに同じように落とされる。
「二番隊、隊列が乱れています。このままでは全滅です!」
「ならば、本艦の直営に控えている四番隊を!」
「いや!」
カラハの進言をギルキスは止める。
「私が出よう」
「団長、自らが!?」
「あれほどの実力者が出たのだ! カラハ、後は任せるぞ!」
「……承知しました」
カラハは即応じる。二人の以心伝心は百年以上の戦友だからこそ成せる業であった。
バゴォン!!
そうこうしているうちに、四機目のソルダが落とされる。
「二番隊、ただちに後退!」
カラハは指示を出す。
「今からギルキス団長が出撃する! それまでも持ちこたえろ!」
『了解!』
二番隊のソルダは戦線を維持しつつ、後退する。
ソジャ・オングルの奮戦によって、【エテフラム】のソルダの部隊も戦線に加わってきた。
このまま戦いが長引くと、ブランフェール収容所を包囲していた戦力も集結し、敗北は必至である。
「ギルキス団長、頼みの綱はあなたですよ」
『そう言ってもらえると助かる』
そうならないためにも、ギルキスはジェアン・リトス・エゲルを駆る。
このジェアン・リトス・エゲルはジェアン・リトスをギルキスの為に調整と改造を施した専用機であり、ギルキスの反応についていけるだけのポテンシャルを持っている。
「ハッチ解放します! ギルキス団長、出撃できます!」
『ジェアン・リトス・エゲル、出撃する!』
輸送艦の開いたハッチから、ジェアン・リトス・エゲルが飛び出る。
「頼みましたよ、ギルキス団長」
カラハがそう言って、エゲルの背中を見つめる。
そうして、ジェアン・リトス・エゲルとソジャ・オングルの戦いは始まった。
エゲルが斬撃を放ち、ソジャ・オンゲルはそれを感知し、かわす。
「レジスタンスが、ジェアン・リトスを!」
アルシャールは驚く。
クリュメゾンの正規軍でも限られた数しか配備できないマシンノイドをレジスタンスが持っているとは思わなかった。それも相当な手練れの操縦者の為の改造が施されている。
間違いなくレジスタンス最大の強敵であろう。逆に言えばこいつさえ倒してしまえば総崩れになるだろう。
それが自分のなすべきことだと見定め、バックパックからプラズマライフルを構える。
照準はエゲル。構えてから一秒に満たない時間で狙いを定めて発射する。
それに対して、エゲルの方もプラズマライフルで迎撃する。
パァァァァァァァァン!
お互いのプラズマ弾が衝突し、拡散する。
そこからお互いにプラズマライフルによる銃撃戦が始まる。
衝突する複数のプラズマ弾によって、拡散するプラズマが雷光のような光が走る。それとともに電波障害も発生する。
「レーダーは役に立たないか。頼るつもりもなかったが」
ギルキスはぼやく。自分は問題ないが、カラハや他の団員が辛いだろうと思わず考えてしまう。
パァァァァァァァァン!
既に二十を超えるプラズマ弾が衝突する。
このまま、残弾が尽きるまで撃ち合うか。それとも、先に仕掛けるか。
「いや、先手を打たれたか!」
ギルキスはソジャ・オンゲルの姿を見失う。
レーダーもプラズマのせいで反応が消失していまい、追うことができない。
「だが!」
ギルキスは戦士としての勘と気配察知で、ソジャ・オンゲルの位置を割り出す。
キィィィィィン!!
ソジャ・オンゲルのダガーをエゲルのサーベルで受け止める。
ダガーが届く間合いまで距離を詰められていた。
驚嘆する加速力だ。他の団員はおろか隊長であってもこの一撃でやられていただろう。
「やるな!」
アルシャールは強敵の手応えを感じる。
「貴公がレジスタンスのトップか!?」
「いかにも」
アルシャールの問いに、ギルキスは応える。
「レジスタンス団長ギルキス・ダイタミア!」
「ほう! 貴公が噂に名高いレジスタンスの剣豪ギルキスか!」
「そういう貴様はクリュメゾン総軍事総軍事長官オーギス・アルシャールか!?」
「いかにも!!」
アルシャールは問われて、高らかに応える。
「この首が欲しければ存分にかかってくるがいい!」
キィィィィィン!!
再びダガーとサーベルが激突する。
「言われなくても!」
ギルキスは剣気を高める。
GFSを通じて機体越しに伝わってくるそれは他を寄せ付けない程の威圧感を帯びている。
(あれが、領主閣下にあだなす反乱の意志か!)
アルシャールはそれを感じて気を引き締める。
「各機へ通達! あのジェアン・リトスには手を出すな! このアルシャール総軍事司令が直々に手を下す!」
「一対一の決闘か!」
「余計な犠牲を出さないための措置に過ぎない!」
アルシャールはそう応えて、サーベルを引き抜く。
自分と対等かそれ以上の敵だと認識した。
二人の気迫が機体越しからでも伝わり、自然と二人の為の闘技場のような空間が戦場に出来上がる。両軍の兵士達がその領域に踏み込んだら死ぬだけだと本能的に察知したからだ。
そうして、エゲルとソジャ・オンゲルは睨み合うように対峙する。
ドォォォォォォォォォォォォン!!
ここは常に嵐渦巻く木星の上空。
雷はどこからでも発生するが、どこかからその中でも一際大きな雷鳴が轟く。
それが戦いの合図となって、互いにブースターを吹かせて一気に距離を詰める。
バァァァァァァァン!!
斬撃が爆音のように鳴り渡る。
互いの持ちうる技量を持てあますことなく、存分に振るう。
バァン!! バァン!! バァン!!
GFSシステムのおかげで達人はマシンノイドに乗ってもその機体を自分の身体の延長として扱え、達人のまま戦うことができる。
剣術、射撃、反応速度、そして、遺伝子エヴォリシオンによる能力も。
「ロンフェール!」
ギルキスの能力によってエゲルの盾が伸び、ソジャ・オンゲルのサーベルを防ぐ。
カキィィィィン
激突する金属音が太鼓のように鳴り響く。
それだけソジャ・オンゲルの一撃は強烈で、能力を使わなければ盾による防御は間に合わず機体は真っ二つに斬られていただろう。
そんな一瞬の躊躇いが命取りになる戦いの最中、アルシャールは次の動作に入っていた。
「メタルトール!」
アルシャールの能力によって巨大化したソジャ・オンゲルのサーベルが盾を斬り捨てる。
「く、だが!」
エゲルは反撃のサーベルで巨大化したサーベルを持つ腕を斬る。
「なッ!?」
片腕を失ったソジャ・オンゲルは後退する。
ギルキスはこれをまたとない好機とみて、一気に仕掛ける。
「でぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
裂帛の気合で畳みかける。
片腕だけでは防ぎきれず、その腕、続いて頭と斬り捨てられる。
「おのれぇぇぇぇぇッ!」
しかし、アルシャールは残った足に取り付けたダガーで、エゲルのブースターを斬る。
「しまったッ!」
二機はお互いに飛行状態を維持できず、【エテフラム】へ不時着し、爆炎が上がる。
「エゲルとともに二機の反応が消失!」
レジスタンスのオペレーターが状況を遺憾ながらも伝達する。
「いえ、団長があの程度で死ぬはずがありません。団長は必ず勝利する、各員、戦線維持に奮闘せよ! 」
カラハは団長を信じ、指示を出す。
ギルキスは飛行不能となったエゲルを乗り捨てて、アルシャールを迎え撃つ。
彼もまた機体が爆散し、生身で戦わざるを得なくなったが、戦力はさして低下していない。
キィィィィィン!!
それはギルキスも同じことであった。
アルシャールの剣戟をギルキスは同じく剣で受ける。
「ギルキス・ダイタミア! やはりお前か!」
「さあ、なんのことだ!?」
ギルキスはとぼけて見せて、アルシャールの剣を受け流す。
キィィン! キィィン! キィィン!
けたたましく剣と剣の衝撃が鳴り響く。
【エテフラム】の広大な甲板を駆けまわり、あらん限りのチカラと技量を用いて剣を振るう。
ドゴォォォン!
時に大砲のエリア、時にブリッジに突入して、激しく戦いを繰り広げる。
「ダイタミア家はクリュメゾン有数の貴族! 領主代理の地位を持っていたはずだ!!」
「それは父の代までの話だ!」
「何故その地位と家柄を捨て、レジスタンスに身をやつした!?」
「捨てたわけではないのだが。先代のテウスパール当主に奪われたのでな」
「そうか! テウスパールとダイタミアの台頭戦争か!」
「そういうことだ!」
クリュメゾンの台頭戦争。
それはジュピターの子供達がジュピターから国を与えられた際に、貴族達が家臣として名乗りを上げ、どの貴族が筆頭の家臣となるかを競うものである。
子供から筆頭に選ばれた貴族は、家名を引き継がせてもらうことになる。
その戦争の中心になったのは、テウスパール家とダイタミア家であった。
ギルキスの父ドルトス・ダイタミアはこの戦いに敗れ、生命を落とし土地も財産も、当時のテウスパール領主デルクにすべて奪われた。晴れてテウスパールがジュピターの子供達を迎え入れることができた。テウスパールの家名を継承させて、アランツィード・テウスパール、ファウナ・テウスパールとして。
一方、全てを奪われたダイタミア家は平民となることさえ出来ず、貧民に身をやつした。
まだ若かったギルキスは、そのどん底を味わい、屈辱と無力感に苦しんだ。
「台頭戦争に敗れたダイタミア家の復讐か!?」
「そんなものではない! 私は貧民に堕ちたことで知ったのだ!
皇族達の理不尽な支配とそれを支える貴族の構図によって苦しめられるヒトビトのことを! この戦争に一体どれだけの国民が生命を落としたと思っているんだ!?」
「国を守るための犠牲だ!」
「国? 未来の皇となる現領主一人のためだろ!? そんなものが我々の生命と釣り合うと思うか!?」
「釣り合わんな! 平民の生命が何万だろうと、国を守る領主一人には!」
アルシャールは迷いなき信念をもって言い放つ。
彼もまた軍人の名家の出であり、生まれながらにして皇族と国を支える使命を背負って今まで戦ってきた自負がある。
「あの新領主にそれだけの価値があるものか!?」
ギルキスは問う。
「アランツィード氏は亡くなったが、その意志は妹のファウナ氏が継いでいる。その器は皇と成り得るものとみた」
「果たしてそれはどうかな。この戦争を治められるチカラが無ければ、皇どころか領主の座すら転落するぞ!」
「ならば、このオーギス・アルシャールが切り開く!」
ギルキスとアルシャールの剣が激突する。
キィィィィィィィィィィィン!!
【エテフラム】どころかこの空域に響き渡り、震撼させる剣戟が繰り広げられる。
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※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~
アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」
中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。
ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。
『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。
宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。
大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。
『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。
修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
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