オービタルエリス

jukaito

文字の大きさ
上 下
95 / 104
第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ

第88話 海賊船は嵐を往く

しおりを挟む
「マイナ、そっちへ行ったぞ!」
「わかってるわよ!!」

 デランは【クライス】のブレードで、マイナは【アシガル】のランスで、次から次へと押し寄せてくるソルダの大軍にそれぞれ対処する。

「まったくキリがないわね!」
「だが、これぐらいの方が戦いがいがあるぜ!!」
「私、あんたみたいな戦闘狂じゃないんだけど!」

 文句を言いつつも、マイナはランスで敵を倒す。

「やるな!」
「デラン、そっち行ったわよ!」
「おう!」

 デランはブレードを振るう。
 水星人のマイナと金星人のデラン。
 捕らわれた火星人とは何の関わりもない。だけど、木星人の理不尽な支配によって殺されようとしているのを見捨ててはおけないし、すっかりこの戦争に巻き込まれ、関わっている。
 エリス達を助け出し、海賊船で安全圏へ行き、手を引くつもりだったが、迅速に形成された包囲網によってそれは出来なくなった。
 最後までこの戦争の行く末まで見届けなければならない。そんな運命を感じる。
 だからこそ、戦って生き延びなければならない。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 【クライス】のブレードで一閃し、ソルダの装甲を切り裂く。
 それでも、次から次へと敵はとどまることをしらず押し寄せてくる。

――目標・宇宙海賊!

 その一つの意志のもとに、数多の敵がやってくる。

(くそ、数がやたら多い!)

 まさに木星の巨大さを彷彿させる大軍にデランは心の中で吐き散らす。
 デランが幼い頃、火星、水星、金星の同盟軍と木星、土星、天王星の同盟軍との星間戦争があった。
 戦いの詳細は幼いデランには知る由もなかったが、火星、水星、金星は敗れ、火星と金星の都市は戦火に焼かれた。
 その戦争で、金星最強の騎士団といわれたワルキューレもデメトリア一人を残して全滅したときく。
 戦争当時のワルキューレの実力はデランの知る由は無いが、今のアグライアやレダと同じ程の実力者だったことは容易に想像がつく。

(神の雷、ケラウノス! それに、これだけの大軍と真正面にぶつかったら!)

 その彼女達が敗れたという事実はにわかに信じ難かったが、その木星の戦力の一端がこの戦いから見えた気がする。

(だが、俺は負けねえぞ!!)

 デランは闘志を燃やし、敵を斬り裂く。

「いくらでもかかってこい!!」

 そう啖呵を切った途端に、感じ取る。

――あいつが偉い奴か!

 即座にブースターを吹かせて、一直線へ向かっていく。
 その先にいた機体はジェアン・リトス。紛うことなき部隊長機であった。

「でぃぃやぁぁッ!!」

 必殺の勢いで突撃をかまし、斬りかかる。

キィィィィィィィィン!

 それをジェアン・リトスはビッグブレードで真っ向から受け止める。
 さすがに部隊長機だけあって、デランの突撃を見事に凌ぎ切り、プラズマライフルで反撃に転じる。

「おっと!」

 これをデランはさらに突撃しつつ、かわす。今の彼に後退の文字は無かった。

(こいつ、強い!)

 強敵との戦いに心躍らせる。
 そして、こういう敵の戦いの先にこそ勝利への活路があるものと信じて疑わなかった。





「ブラックレーザー!!」

 エリスはフォルティスの肩から黒いレーザーで、ソルダやシュヴァリエを撃ち抜いていく。

「エリス、上から二十、下から三十、来ます!」
「ああ、もう! まずは下からよ!」

 即座の判断でフォルティスの足に力を込める。

「うんうん、ミリアの情報処理とエリスの即断即決は完璧やな!」

 イクミは満悦顔で言う。

「ぼやぼや喋ってると舌噛むわよ!」
「わかってるちゅうに! そっちも音声入力しっかりやりなはれよ!」
「言われなくても!」

 フォルティスの足に取りつけられたビーム砲を下方の敵へ向ける。

「ブレイザーレグ!!」

 超高熱のビームが群がる敵を薙ぎ払っていく。
 しかし、ビームやレーザーを撃っていくうちに押し寄せてくる大量の敵のうち何体かくぐりぬけて接近してくる。

「パァァァァンチ!!」

 そんな敵は即座にエリスの、もといフォルティスの剛腕の餌食になる。

「あんた達も戦いなさいよ!!」

 エリスはミリアとイクミに向かって怒鳴る。

「それでは、これを使ってよろしいですか」

 疑問形では無かった。

「かまへんよ。今は出血大サービス中やからな」
「それでは敵に血を吐いてもらいましょう
――ファイアバット!」

 ミリアの一声で、フォルティスの背面に取り付けられていた蝙蝠の羽を模した遠隔操作型の小銃が飛び出す。
 それらはミリアの脳波によって、敵の周囲へ飛び回り、発砲する。

ズゴォォォォン

 ファイアバットによって上にいた敵が瞬く間に撃墜されていく。

「なるほど、これは便利ですね。自分の分身みたいに動いてくれます」
「ミリアにおあつらえ向きの武装やろ!」

 イクミは得意満面の笑みで言う。

「それじゃ、上の敵は任せるわよ!」
「はい、お任せください!」

 エリスとミリアのごく自然な掛け合いであった。
 気合は入っているものの、気負いは感じない。
 心身ともに充実した状態といえる。

「うんうん、これなら安心やな」」

 イクミは腕を組んで観客のようにエリス達の戦いぶりを見ていた。

ドゴォォォォォォォォォン!!

 そこへ後方から雷鳴のごとき砲弾が鳴り響く。
 海賊船からの援護射撃だ。
 フォルティスが迎撃に入ってからの死角をカバーするように的確に撃ってくれている。

「やりますね、宇宙海賊!」
「包囲網を突破するんだからこれぐらいやってもらわないと!」

 エリスはそう言いつつ、また一機ソルダを剛腕で打ち砕く。

「そこよ! フォーカスビーム」

 さらにその背後から気を伺っていたもう一機のソルダを目からのビーム砲で撃ち貫く。
 いかがわしさとゴテゴテしさが合わさったマシンノイドなのだが、ヴァ―ランスを遥かに超えるパワーと頑強さ、豊富な内蔵武装、さすがにイクミの自信作だけある。
 これなら大軍と十分渡り合える。





「いけ、ダイチ!!」
「おう!」

 フルートの掛け声とともに、ダイチはブレードで斬り裂く。

「その調子じゃ! 追加でソルダ三機来とるぞ!!」
「斬っても斬ってもキリがねえな!」

 ダイチはブレードからハンドガンへ持ちかえて応戦する。

ドゴォォォォォォォォォン!!

 海賊船からの援護射撃のおかげで前方への敵だけに集中できる。

「ありがたいぜ!」
「これほどの戦力差でも渡り合えるとはのう! あっぱれな宇宙海賊じゃ!!」
「俺達も負けないようにな!」
「うむ! もっとパワーを上げるんじゃ!」
「おお!?」

 フルートが言った直後に、ヴァ―ランスのパワーが引き上がるのを実感する。

(やっぱりフルートのチカラなのか?)

 いくらイクミがカスタマイズしたとはいえ、ヴァ―ランスのカタログスペックを遥かに超えているはず。
 GFSは、操縦者の遺伝子情報を読み取って機体を身体の延長のように最適化してくれるシステム。もしも、フルートの遺伝子がヴァ―ランスに反映されているのだとしたら。

――星をも滅ぼしてしまいかねない冥皇のチカラがこの機体に備わり始めるのなら。

 戦争どころの話じゃないと思いつつも、今は生き残ることだけを考えらなければ生き残れない。そういう土壇場の戦場に来ているはずだ。

(今は考えるな! 考えてるヒマなんてないんだ! 戦い抜くんだ!!)

 ダイチは背面のパックからバスタービームライフルを取りかける。

「あ……!」

 軌道エレベーターの時の惨状を思い出す。
 バスタービームライフルから放たれた光が敵であろうと容赦なく飲み込み、軌道エレベーターまでも破壊してしまった。味方を巻き込まなかったのは幸運でしかない。
 もう一度、今ここで使おうものならエリスやデラン達、それどころか守るべき海賊船まで飲み込んでしまうかもしれない。

「どうしたんじゃ、ダイチ!?」
「ダメだ、これだけは使っちゃダメだ!!」

 ダイチはアサルトランチャーに持ちかえる。
 そして、アサルトランチャーからミサイルを発射する。

バァァァァァァァァン!!

 威力はあるが、ありすぎるということはなかった。

「おお、いい調子ではないか!」
「いい調子、ね」

 大はしゃぎするフルートに対して、ダイチは釈然としないものが少しだけこみ上げてくる。

ピコーン!

 そこへザイアスからの通話が入ってくる。

「よお、調子がいいようだな」

 ザイアスはすっかりいつもの人を食ったような調子であった。

「キャプテン! こんな時になんだよ!?」
『ここが勝負どころだと思ってな』
「勝負どころ!?」
『お前等甲板につけ!』

 キャプテン・ザイアスの号令は海賊船の周囲を護衛するマシンノイドの操縦者達に号令をかける。
 いきなり、なんで? と、ダイチが疑問に思ったが、すぐにザイアスは説明してくれる。

『これより、本艦は【エテフラム】へ突撃する。巻き込まれたくなったら速く乗り込め!』
「突撃!? そんな無茶な!」
「じゃが、あの男ならやりかねんぞ」

 フルートの言うことももっともだ。
 ブランフェール収容所襲撃のときも無謀ともいえる海賊船一隻による一点突破で切り抜けたのだ。
 今回もそれでいくつもりなのだろう。
 もう一度上手くいく保証があるのだろうか。戦力はあのときよりも遥かに強大だというのに。

「――!」

 ダイチには海賊船に掲げられたドクロの旗が目に入る。
 あれは宇宙海賊としての信念の象徴。
 どんな困難だろうと立ち向かって必ず乗り越える決めた男だけが掲げられる海賊旗だ。

「了解した! いくぞ!」
「おう!」

 きっとキャプテン・ザイアスなら出来るはずだとダイチにはそう信じられた。





「海賊船が突撃を始めました」

 カラハがギルキスへ報告する。

「よし、手筈通りだ! 我々も動くぞ!!」

 収容所の格納庫で待機していたレジスタンスの部隊が一斉に動き出す。
 先鋒は一番隊の指揮権を預かる二番隊長のコンサキスが務める。

「俺に続け! 何としてでもここを突破するぞ!!」
「「「おおぉッ!!」」」

 号令を飛ばし、一気に進撃を始める。
 目指す先は包囲網の側面部。
 包囲網の中心へ向かう海賊船とは対照的であった。






「レジスタンスが攻撃を開始しました! 包囲網の突破を試みるつもりのようです!」
「海賊船は本艦に攻めてきます!」

 オペレーター達から報告が入ってくる。

「別々に攻めてきたか」

 アルシャールは戦況を見つめる。
 海賊船はこの【エテフラム】へ突撃し、レジスタンスは別方向の包囲網の突破を試みる。

「ならば協力していることはないか」
「海賊船が接近し始めてきました!」
「戦力をこちらに集中させる必要があるな。第三師団、第四師団をこちらに引き寄せろ!」

 アルシャールはオペレーターに指令を言い渡す。

「ですが、それでは反対側の包囲網が手薄になります」

 背後に控える参謀長が異議を申し立てる。

「いや、今はそれより海賊船を叩くことが先決だ。ブランフェール収容所の防衛戦力を突破せしめたケラウノスを侮るわけにはいかない」
「確かに」
「いざとなったら、【メラン・リュミエール】を使用する」
「――!」

 アルシャールの一言に参謀長は狼狽する。

「しかし、あれは我々の判断では!」
「許可はファウナ様からいただいている。充填準備に取り掛かれ!」
「承知しました!」
 参謀長は敬礼する。
「……【メラン・リュミエール】」

 アルシャールは、忌々しげにその超兵器の名を口にする。
 それは、海賊船どころかブランフェール収容所そのものを消滅させうる、領主の許可が無ければ使用することは叶わない超兵器であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

バグった俺と、依存的な引きこもり少女。 ~幼馴染は俺以外のセカイを知りたがらない~

山須ぶじん
SF
 異性に関心はありながらも初恋がまだという高校二年生の少年、赤土正人(あかつちまさと)。  彼は毎日放課後に、一つ年下の引きこもりな幼馴染、伊武翠華(いぶすいか)という名の少女の家に通っていた。毎日訪れた正人のニオイを、密着し顔を埋めてくんくん嗅ぐという変わったクセのある女の子である。  そんな彼女は中学時代イジメを受けて引きこもりになり、さらには両親にも見捨てられて、今や正人だけが世界のすべて。彼に見捨てられないためなら、「なんでもする」と言ってしまうほどだった。  ある日、正人は来栖(くるす)という名のクラスメイトの女子に、愛の告白をされる。しかし告白するだけして彼女は逃げるように去ってしまい、正人は仕方なく返事を明日にしようと思うのだった。  だが翌日――。来栖は姿を消してしまう。しかも誰も彼女のことを覚えていないのだ。  それはまるで、最初から存在しなかったかのように――。 ※第18回講談社ラノベ文庫新人賞の第2次選考通過、最終選考落選作品。 ※『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しています。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【なろう440万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

処理中です...