オービタルエリス

jukaito

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第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ

第87話 戦場の空へ

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『お前等、頼んだぞ』

 ザイアスやリピートが通話ウィンドウが開かれる。

「ああ、だけど凄い数だな」

 レーダーが敵の機影で埋め尽くされている。ダイチはその数に圧倒されずにはいられない。

『クリュメゾン軍の威信をかけた戦いってやつだろうな。あの姫様の執念も感じるぜえ』

 ザイアスはどこか楽し気に言う。

「威信……執念か……そんなのはどっから来るんだろうな……」

 ふとダイチは疑問に浮かぶ。

――私はどうしても兄を殺した火星人を許せないのです!!
――この国の総力を挙げててでも、火星人を捕らえ、この手で処刑します!!

 姫様――ファウナはそう力強く宣言していた。
 あらんかぎりの憎しみと、悲しみを叩きつけるかのように。
 兄は火星人を殺された。
 その復讐心が彼女の原動力なのだろうか。
 皇族や領主の力までをも用いて、容疑のある火星人を全て処刑しようだなんて。
 ダイチには考えられないことであった。

「でも、だからって負けるわけにはいかねえよな」
「その通りじゃ、妾達も横暴な姫の復讐に付き合う義理はないんじゃ」

 フルートの台詞に「おう!」とダイチは答える。

「ヴァ―ランス、出るぞ!」

 ダイチとフルートを乗せたヴァ―ランスは海賊船の格納庫から飛び出る。――敵が視界を覆いつくす戦場の空へ。



「一番隊、二番隊も迎撃に向かいました」
「……そうか」

 レジスタンスの作戦の要である輸送機のブリッジからカラハの報告を受ける。

「……この戦力で持ちこたえられるか」

 ギルキスは不安を口にする。
 クリュメゾン軍と戦う腹積もりはしていたが、総軍といきなり正面衝突なんて事態はさすがに想定外であった。
 疲弊した兵力で果たしてしのぎきれるか。

「しかし、まんまと油断してましたな」
「降伏したとはいえ、ブランフェール収容所の衛兵達があそこまで大人しいのが妙だとは思っていたが」

 ギルキスとカラハは自らの油断を恥じる。
 いかにアルシャールの指揮が迅速だったとはいえ、これだけの大部隊がブランフェール収容所を取り囲みつつあることにさっきの今まで気づかなかった。
 それはブランフェール収容所の衛兵達が表向きは降伏して大人しくしていたことを装いつつ、収容所周囲にジャミングをかけて海賊船やレジスタンスに大部隊の接近を悟らせないように働きかけていたせいだ。

「連戦連勝で無意識のうちに浮かれていたのでしょう」
「うむ……」

 ギルキスは頭を抱える。

「勝てるだろうか……いや、勝たなければならんな」

 しかし、頭を切り替えなければならない。どうやってこの難局を切り抜けるか。

「勝機があるとすれば……クリュメゾン軍の狙いが火星人だというところですか」
「その分、こちらに向ける戦力が少ないならばあるいは突破できるか……」

 ギルキスは希望の道を見い出そうとする。だが、その道は……

「助け出せた火星人を見捨てれば、ですね」
「うむ……」

 ギルキスは苦い顔をする。
 火星人もまた皇族の理不尽な支配によって処刑されようとしている。いわば同じ被害者であり、仲間といっていい。
 ならばレジスタンスとして、仲間を見捨てるという選択肢をとるわけにはいかない。
 だがそうしなければこの包囲網は突破できそうにない。
 レジスタンス団長として苦渋の選択が迫られる。

『よお、団長さん!』

 そこへいきなりザイアスが通信を入れてくる。

「キャプテンか。どうしましたか、このタイミングで?」
『このタイミングだからだ。見ての通り、こっちの収容は完了した。ゆえに戦力はこっちに集中してくるだろうな』
「ええ、そうですね」

 ザイアスは自分の置かれている状況を把握している。
 宇宙海賊を名乗っているが、やはりただの無法者ではない。

「ただ、こちらも自分達を守るだけで手いっぱいだ。戦力を回して欲しいというのなら残念ながら……」
『あ~そういうわけじゃねえんだ』

 ザイアスは面倒そうに否定する。

「では、どういうつもりで?」
『勝機があるって言ってるんだ』

 ザイアスはニヤリと得意顔で告げる。

「勝機?」





『団長からの命令です!』

 一番隊の部下から伝令がやってくる。

「命令?」
『戦力を一極集中し、包囲網を突破する! です!』

 ユリーシャはその命令で絶句する。

「――な! それでは、海賊船は! 火星人達はどうするの!?」

 そのわだかまりを部下に思いっきりぶつける。

『ひ、ひぃ、そんなこと言われましても!』
『ユリーシャちゃん、落ち着いて』

 リッセルが諭そうとする。

『団長の決断なのですから、従った方がいいですよ』
「しかし、それでは!」

 ユリーシャは歯噛みする。
 ここは絶対に負けられない戦いであり、ましてや全滅なんてあってはならない。
 だが、それで火星人達を見捨てることはできない。

「あの船には……! 彼等も!」

 脳裏にデランやダイチ達の顔が浮かぶ。あの船には短い時間とはいえ、戦いを共にした仲間がいる。

「く……!」

 団長の命令は絶対であるが、素直に従うほど利口ではなかった。

『それならばユリーシャちゃんだけでも船の護衛にいくべきですよ』
「……え?」

 苦悩に苛まれるユリーシャにリッセルが告げる。
 ユリーシャにはそれが天啓に聞こえた。

『一番隊の指揮権はコンサキス隊長にお任せしますので』
「俺が!?」

 急な無茶振りといってもいいリッセルの提案にコンサキスは面食らう。

「――コンサキス隊長、一番隊をお任せします!」

 しかし、ユリーシャの決断は早かった。
 コンサキスの了承を取る前に、エアバイクで海賊船へ向けて一直線へ飛び出していった。

『お、おい!?』
『それでは、コンサキス隊長よろしくお願いしますね! 我々一番隊はあなたに命を預けますから』
「むう……」

 コンサキスは戸惑ったが、彼の長所は頭の切り替えが早いところであった。小難しいことを考えるのが苦手ともいえるが。

「よし! 一番隊も二番隊も俺に続けぇッ! 必ず突破口を切り開くぞッ!!」

 コンサキスの号令が一番隊、二番隊へ伝達される。

『了解です!』
『おお、やってやるぜ!』

 隊員達は喝采とともに答える。





ズドォォォォォン!!

 闘技場ではツァニスとアルマンの雷が変わらずぶつかりあっている。

「おおぉぉぉぉッ!!」

 アルマンの槍が落雷とともに振り下ろされ、

「でいやぁぁぁッ!!」

 ツァニスの昇竜のごとき雷がいなす。

ゴロゴロゴロゴロ!!

 闘技場で両雄の激突を見守っていた西軍と南軍の両軍は、外の包囲網に気づいていた。

――ただ皇族同士の誇りある戦いを汚すわけにはいかない。

 その意味では両軍の見解は一致していた。

――互いの領主が心ゆくまで戦わせ、決着をつかせるために。

 示し合わせたわけでもなく、一時休戦として迎撃にあたる。

「ゆくぞ! 我らが領主ツァニス様の為に! この決闘を汚させはしない!!」

 ツァニス一の側近テラトが号令をかける。

「我らが領主アルマン様の戦いに横やりを入れさせるわけにはいかない! なんとしてでも守り通すぞ!」

 アルマンの側近達も同じ想いで喝采を上げる。





「包囲網完成しました!」

 【エテフラム】のブリッジのオペレーターが告げ、アルシャールがスクリーンが確認する。

「うむ! それではこれより殲滅を開始する!
第一目標は――火星人を収容した海賊船だ!」

 その命令がオペレーターを通じ、各部隊長に告げられ、大部隊が展開される。





ピピピピピピピピ!!

 ヴァ―ランスの操縦席で警告のアラームが鳴り響く。

「ぬおおおお、耳障りな!」
「それだけ危険が迫ってるってことだろ」
「臆病者のわめきにも聞こえるぞ」
「うぅ……」

 フルートの発言に心のナイフをさされたように痛む。
 今ヴァ―ランスはGFSでダイチと同期している。
 ダイチの手と足は、ヴァ―ランスの手と足となる。
 ダイチが恐怖で震えれば、ヴァ―ランスも同じように震える。
 つまり、この警告のアラームは大軍を前にして「怖い! 逃げろ!」と恐怖に訴えかけているダイチの心の表れを示しているのかもしれない。

「これは、武者震いっていうんだ!」

 それでも、ダイチは精一杯の強がりを見せる。

「うむ! ダイチならそう言うと思ったぞ!!」

 フルートはそんなダイチの強さを信じてやまない。
 その信頼に少しでも応えなければ、と思う。

グイッ!

 拳を握りしめる。
 するとヴァ―ランスの鋼鉄の腕にも力が入ったのを確かに感じる。

「さあ、来たぞ来たぞ!!」

 レーダーに映っていた大量の敵の機影がヴァ―ランスの目から見えてくる。

『片っ端から叩き潰してやるわ!』

 エリスの気合の一声が聞こえてくる。

(そうだよな、エリスだったらこういう時、燃えてくるもんだよな!)

 その声に元気づけられたと確かに感じる。

「いくぜ!」

 ダイチは二挺のハンドガンを構える。

「ダブルファイアだ!!」

 視界を埋め尽くす百以上の敵に対して、銃口から火を噴く。
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