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第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ
第78話 キャプテン・ザイアスの正体
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ババババババン!!
砲弾の轟音が格納庫にまで届く。
「おお、やってるな!」
出撃の準備を整えていたツァニスはニヤリと笑い、その轟音を聞き入っていた。
「これは負けてられない! 我々も出るぞ!」
「「「はは!」」」
そして、対抗心を燃やして親衛隊に号令をかける。
「ですが、ツァニス様? その機体で、でるのですか?」
親衛隊筆頭のテラト・フライマーは不安げに尋ねる。
ツァニスが乗っている機体は黄金の竜を模した【ヴィラージュ・オール】。ただ先程の東軍の領主サレアとの激闘で、半壊して乗り捨てたものを親衛隊が回収し、急ピッチで修繕したものだが領主として出撃する機体に相応しいとはいえない。
「代わりのジェアン・リトスなら用意がありますが」
「俺はこれ以外で出るつもりはない」
「ですが、御身に……」
「いざとなったら、足代わりになればいい」
「まったく無茶を」
テラトはぼやく。
ツァニスとテラトは同年代で、君主とはいえ目の前でぼやいても問題ないくらいの仲であった。
「これは俺のこだわりなんだ。フォロー頼むぞ、テラト」
ただ、ツァニスの無茶な要求は今に始まったことではない。そのフォローに徹することだとテラトは分を弁えていた。
「……承知しました!」
「いくぞ! 海賊とレジスタンスに我等の力をみせつけるぞ!!」
ツァニスは意気揚々と【ヴィラージュ・オール】に乗り込んで格納庫から出撃する。
海賊船から一筋の黄金の光が出る。
「南の領主が……ツァニス・ダイクリアが出たのね」
ユリーシャはそれを見上げて言う。
「ああ、あんな奴と一緒に戦うことになるなんてな」
「それを言ったら、金星人と一緒に戦うなんてこともなるなんてね」
デランとユリーシャは顔を見合わせる。
「そうだな」
「……頼りにさせてもらうわよ」
デランは、海賊船に置かれてあった金星のマシンノイド【クライス】を借りて乗っている。一方のユリーシャはレジスタンスにあった【シュヴァリエ】を使っている。
レジスタンスはこの二機を中心に海賊船を護衛についている。
今、海賊船はブランフェール収容所の防衛網に入った。程無くして防衛軍が大挙して押し寄せてくるだろう。
レジスタンスと南軍の役割は海賊船が撃ち漏らした敵を叩くこと。
防衛軍の規模を考えると激しい戦いになることは想像できるが、この戦力ならば十分に戦える気がすると二人は確信していた。
「あ~こっちも熱いわね」
マイナは【アシガル】で二人のやり取りを聞いてて頬杖をついてぼやく。
『そう言わずに見守りましょ~』
リッセルが心から楽しそうに言ってくる。
「あんたは別にいいんでしょうけどね」
『星と星を超えた二人の男女って、ロマンチックじゃないですか』
リッセルの主張は多少は理解できるものの、それがあの二人にあてはまるものなのかは疑問であった。
「あの二人は……なんていうか、戦友って感じがするんだけど」
『友情はふとした瞬間、恋愛に変わるから素敵なんですよ』
「そういうものなの……?」
『そういうものです!』
リッセルは両手を握りしめて力説する。
「星と星を超えた二人の男女、ね……」
マイナはそんなことを呟き、ダイチとエリスの方が自然に思い浮かんだ。
「どっちかっていうとあっちの方が似合うかも……」
『左舷から機影接近! レジスタンス、対処にあたってください!』
リィータから報告が入ってくる。
「了解! いくぞ、マイナ!!」
デランが号令をかける。
「ええ!」
マイナは反射的に返答して、迎撃にあたる。
千を超えるマシンノイドが一斉に襲い掛かってくる。
さすがに、海賊船ボスランボの砲撃だけでは全機撃ち落とすのは不可能であった。よって、レジスタンスや南軍の支援が必要になってくる。
『ドラゴォォォォォォォォン!!』
ツァニスが乗る【ヴィラージュ・オール】からケラウノスがマシンノイドを撃ち落としていく。
『………………』
キルリッヒは無言で、ジルウェットで近づいてくる敵を狙撃銃で一発一発撃ち抜いていく。
(ザ・仕事人って感じだな……)
その様子に、ダイチは感心する。
『敵機、直上から降下してきます!!』
リィータの警告で上を見上げる。
その通り、三機のソルダが降下してくる。
「叩き落とすぞ!」
フルートは気合を入れて言ってくる。
「おう!」
ダイチはそれに応じて、ハンドガンで撃ち落とす。
その弾幕をかいくぐって、一機のソルダが斬り込んでくる。
「おおっと!」
すかさず、ブレードで応戦する。
バキュン!!
そこへジルウェットの銃撃で、ソルダを撃ち抜く。
「ありがとうございます!」
『………………』
「気にするな、次だ」
フルートが代弁する。
本当にそう言っているのだろうか、少し疑問はあるものの今は気にしていられない。
次から次に海賊船に乗り込んできたマシンノイドやヒトの迎撃にあたる。
「右舷から四機と一人、直上から三機と二人取りつかれました」
「やりやがるな!」
ザイアスはニヤリと笑うが、報告するリィータはてんてこ舞いであった。
「ひえええ、どうしましょう!?」
「落ち着けって! キャプテンに全て任せろ!!」
「ですが、こうも取りつかれては、収容所に辿り着く前に!!」
「敵の規模と戦力を考えれば、こうなることは予想済みだ」
ザイアスはリィータを安心させるために言う。
「敵、さらに北から五百の増援です!」
「おおう、いい感じにきたなあ!」
ザイアスは白い歯を見せ、笑う。
「さらに五機と十人に取りつかれました! 各船員、迎撃にあたってください!」
「しかし、こいつはさすがに多いな。ちょいと早いが切り札をきるか」
「切り札、ですか……?」
リィータは疑問符を浮かべる。
「そうか、お前見るのは初めてだったか」
リピートは言う。
「ですから、なんですか、切り札って?」
「すぐにわかるって」
リピートは愉快そうに言うが、リィータは何のことだかわからない為、疑問は晴れない。
「いくぜえ! ケラウノス!!」
ザイアスの全身から神の雷が放たれ、隔壁を抜けて敵を貫き、砲門を伝って砲撃となる。
「これは!?」
艦首の守衛についていたダイチは迸る電撃の光が見える。
「ケラウノスじゃ!」
フルートがそれが何なのか感じ取る。
「ケラウノス? だけど、ツァニスは出撃してるんじゃないのか?」
「いや、ツァニスではない。これはキャプテンから発せられたものじゃ!」
「はあ!? キャプテンがケラウノスを……!?」
ツァニスは【ヴィラージュ・オール】の操縦席から海賊船ボスランボの砲門からケラウノスが放たれるのを見上げていた。
「おお、あれはまさしく!!
「ケラウノス!? しかし、何故海賊船から!?」
テラトは疑問を口にする。
皇族の直系だけが持つ能力、神の雷――ケラウノスが海賊船から放たれている。あの船に皇族は乗っていないはずなのに、何故。 しかも、砲門から一斉砲撃を撃ち放つほどの強力なものをどうやって。と疑問を浮かべるのは当然なことであった。
「あの方に決まっている!」
ツァニスは確信を持って言う。
「あの方……キャプテン・ザイアスですか? 彼は一体何者なのですか!? ケラウノスを放つということは……」
「そう!」
ツァニスは肯定し、有り余る興奮を抑えることが出来ず、言葉を継ぐ。
「かの御方は皇族だ! それも現ジュピター、アレイディオス・ポスオール様の実弟グレイルオス・ポスオール様なのだ!!」
テラトは驚愕のあまり、言葉を失う。
「ケラウノスが何故、海賊船から?」
ユリーシャは驚き、剣を振るう手が止まる。
「あの領主が撃ったのか? いや、さっき金ピカのやつで出たはずだ……」
とすると、誰が撃ち放ったものなのか。
デランとユリーシャには知る術が無い。
バァァァァン!!
放たれた雷がデランとユリーシャの眼前にいるソルダを撃ち抜く。
「おお!」
その雷が味方からの援護だと疑う余地は無く、この上無く頼もしく感じた。
「ともかく、あれは味方か!」
「そのようね!」
ピカーン! ゴロゴロゴロゴロ!!
雷鳴が轟き、雷光が敵を貫いていく。
『本艦はこのまま前進する! 遅れるんじゃねえぞ!!』
リピートが号令をかける。
「おう、いくぜ!」
「ええ!」
デランとユリーシャは海賊船に随伴する。
「って、ちょっと! 私を置いてかないでよ!!」
マイナは慌てて追いかける。
「久しぶりに力を使うと疲れるぜえ」
ふう、と、ザイアスは一息をつく。
「あ~キャプテン、わりぃけど休んでるヒマはねえぜ」
リピートは釘をさす。
「ああ、わかってるよ。もう一発いくぜえ!」
ザイアスはすぐさま気合を入れる。
「ケラウノス!! へカトン・トライデント!!」
ザイアスは再び気合を入れて、神の雷を放つ。
海賊船から放たれる雷の砲撃が敵を次々と貫いていく。
「何故だぁッ!?」
収容所にある司令部でギムエルは怒声を上げる。
「たった一機の海賊船に何故、ここまで攻め込まれる!! 何故簡単に撃ち落とせん!?」
ギムエルはテーブルを叩く。
「………………」
他の幹部達は無言になっている。
想定外の事態に司令は狼狽しているが、誰も進言できるほどの権限も度胸も無かったのである。
「かくなる上は、全軍を集中させてでも!」
『愚策ですね』
「――!」
ギムエルは絶句する。
いきなり司令部のスクリーンにファウナの顔が映し出されたからだ。
「姫様、何故この場に!?」
『私は領主です! この戦いを指揮する義務があります!』
「ですが!」
『問答無用です! 海賊船にばかり気を取られて、全体を見失っているようでは防衛長官失格です!』
「全体を……?」
ギムエルは戦況が映し出されたスクリーンの方を見る。
一機の海賊船が次々と防衛戦力をなぎ倒していく。
防衛長官からしたら悪夢のような戦況であったが、ファウナの発言で少し冷静さを取り戻して、戦場の盤面を見つめる。
「……敵は海賊船だけではない!」
ギムエルは海賊船の戦いを凝視する。
砲撃し、敵をなぎ倒していく海賊船。他に、南の領主ツァニスが駆る【ヴィラージュ・オール】やレジスタンスの機体が見える。
「何故、南軍とレジスタンスは海賊船とともに戦っているのか?」
『彼らは手を組んだのでしょう』
ファウナにそう言われて、ギムエルは「まさか!」の声を上げそうになった。
ただ、そうだったらあの海賊船の奮闘ぶりもある程度、説明はつく。
あの海賊船に三軍の精鋭が集まっているとするなら、と、一個大隊以上の戦力を注いでも苦戦するのは頷ける。
ただ、それにしては少なすぎる。
レジスタンスと南軍の戦力があれだけのはずがない。
彼等だけで攻め込んできたのか、それにしては無謀すぎる。ならば、他の戦力は潜んでいると考えるのが自然だ。
「あれは我々の目を引き付ける陽動か!!」
『そういうことです』
「そうなると、どこかに機を伺っている部隊が潜んでいるはず! そう言いたいのでしょう?」
ギムエルは確認するように、ファウナへ問う。
『ええ、陽動に戦力を集中させすぎるのは危険です。本隊が収容所目掛けて進軍してくるはずです』
「そうやって、司令部を一気に壊滅させるのが狙いということですか。ならば、防衛網はこのまま維持して、海賊船はこのまま大隊を差し向けましょう。
なあに、如何に精鋭といえどたかが一機の海賊船だ。このまま攻め続ければすぐに墜ちる!」
ピカーン!!
次の瞬間、海賊船を映すスクリーンから雷光が走った。
砲弾の轟音が格納庫にまで届く。
「おお、やってるな!」
出撃の準備を整えていたツァニスはニヤリと笑い、その轟音を聞き入っていた。
「これは負けてられない! 我々も出るぞ!」
「「「はは!」」」
そして、対抗心を燃やして親衛隊に号令をかける。
「ですが、ツァニス様? その機体で、でるのですか?」
親衛隊筆頭のテラト・フライマーは不安げに尋ねる。
ツァニスが乗っている機体は黄金の竜を模した【ヴィラージュ・オール】。ただ先程の東軍の領主サレアとの激闘で、半壊して乗り捨てたものを親衛隊が回収し、急ピッチで修繕したものだが領主として出撃する機体に相応しいとはいえない。
「代わりのジェアン・リトスなら用意がありますが」
「俺はこれ以外で出るつもりはない」
「ですが、御身に……」
「いざとなったら、足代わりになればいい」
「まったく無茶を」
テラトはぼやく。
ツァニスとテラトは同年代で、君主とはいえ目の前でぼやいても問題ないくらいの仲であった。
「これは俺のこだわりなんだ。フォロー頼むぞ、テラト」
ただ、ツァニスの無茶な要求は今に始まったことではない。そのフォローに徹することだとテラトは分を弁えていた。
「……承知しました!」
「いくぞ! 海賊とレジスタンスに我等の力をみせつけるぞ!!」
ツァニスは意気揚々と【ヴィラージュ・オール】に乗り込んで格納庫から出撃する。
海賊船から一筋の黄金の光が出る。
「南の領主が……ツァニス・ダイクリアが出たのね」
ユリーシャはそれを見上げて言う。
「ああ、あんな奴と一緒に戦うことになるなんてな」
「それを言ったら、金星人と一緒に戦うなんてこともなるなんてね」
デランとユリーシャは顔を見合わせる。
「そうだな」
「……頼りにさせてもらうわよ」
デランは、海賊船に置かれてあった金星のマシンノイド【クライス】を借りて乗っている。一方のユリーシャはレジスタンスにあった【シュヴァリエ】を使っている。
レジスタンスはこの二機を中心に海賊船を護衛についている。
今、海賊船はブランフェール収容所の防衛網に入った。程無くして防衛軍が大挙して押し寄せてくるだろう。
レジスタンスと南軍の役割は海賊船が撃ち漏らした敵を叩くこと。
防衛軍の規模を考えると激しい戦いになることは想像できるが、この戦力ならば十分に戦える気がすると二人は確信していた。
「あ~こっちも熱いわね」
マイナは【アシガル】で二人のやり取りを聞いてて頬杖をついてぼやく。
『そう言わずに見守りましょ~』
リッセルが心から楽しそうに言ってくる。
「あんたは別にいいんでしょうけどね」
『星と星を超えた二人の男女って、ロマンチックじゃないですか』
リッセルの主張は多少は理解できるものの、それがあの二人にあてはまるものなのかは疑問であった。
「あの二人は……なんていうか、戦友って感じがするんだけど」
『友情はふとした瞬間、恋愛に変わるから素敵なんですよ』
「そういうものなの……?」
『そういうものです!』
リッセルは両手を握りしめて力説する。
「星と星を超えた二人の男女、ね……」
マイナはそんなことを呟き、ダイチとエリスの方が自然に思い浮かんだ。
「どっちかっていうとあっちの方が似合うかも……」
『左舷から機影接近! レジスタンス、対処にあたってください!』
リィータから報告が入ってくる。
「了解! いくぞ、マイナ!!」
デランが号令をかける。
「ええ!」
マイナは反射的に返答して、迎撃にあたる。
千を超えるマシンノイドが一斉に襲い掛かってくる。
さすがに、海賊船ボスランボの砲撃だけでは全機撃ち落とすのは不可能であった。よって、レジスタンスや南軍の支援が必要になってくる。
『ドラゴォォォォォォォォン!!』
ツァニスが乗る【ヴィラージュ・オール】からケラウノスがマシンノイドを撃ち落としていく。
『………………』
キルリッヒは無言で、ジルウェットで近づいてくる敵を狙撃銃で一発一発撃ち抜いていく。
(ザ・仕事人って感じだな……)
その様子に、ダイチは感心する。
『敵機、直上から降下してきます!!』
リィータの警告で上を見上げる。
その通り、三機のソルダが降下してくる。
「叩き落とすぞ!」
フルートは気合を入れて言ってくる。
「おう!」
ダイチはそれに応じて、ハンドガンで撃ち落とす。
その弾幕をかいくぐって、一機のソルダが斬り込んでくる。
「おおっと!」
すかさず、ブレードで応戦する。
バキュン!!
そこへジルウェットの銃撃で、ソルダを撃ち抜く。
「ありがとうございます!」
『………………』
「気にするな、次だ」
フルートが代弁する。
本当にそう言っているのだろうか、少し疑問はあるものの今は気にしていられない。
次から次に海賊船に乗り込んできたマシンノイドやヒトの迎撃にあたる。
「右舷から四機と一人、直上から三機と二人取りつかれました」
「やりやがるな!」
ザイアスはニヤリと笑うが、報告するリィータはてんてこ舞いであった。
「ひえええ、どうしましょう!?」
「落ち着けって! キャプテンに全て任せろ!!」
「ですが、こうも取りつかれては、収容所に辿り着く前に!!」
「敵の規模と戦力を考えれば、こうなることは予想済みだ」
ザイアスはリィータを安心させるために言う。
「敵、さらに北から五百の増援です!」
「おおう、いい感じにきたなあ!」
ザイアスは白い歯を見せ、笑う。
「さらに五機と十人に取りつかれました! 各船員、迎撃にあたってください!」
「しかし、こいつはさすがに多いな。ちょいと早いが切り札をきるか」
「切り札、ですか……?」
リィータは疑問符を浮かべる。
「そうか、お前見るのは初めてだったか」
リピートは言う。
「ですから、なんですか、切り札って?」
「すぐにわかるって」
リピートは愉快そうに言うが、リィータは何のことだかわからない為、疑問は晴れない。
「いくぜえ! ケラウノス!!」
ザイアスの全身から神の雷が放たれ、隔壁を抜けて敵を貫き、砲門を伝って砲撃となる。
「これは!?」
艦首の守衛についていたダイチは迸る電撃の光が見える。
「ケラウノスじゃ!」
フルートがそれが何なのか感じ取る。
「ケラウノス? だけど、ツァニスは出撃してるんじゃないのか?」
「いや、ツァニスではない。これはキャプテンから発せられたものじゃ!」
「はあ!? キャプテンがケラウノスを……!?」
ツァニスは【ヴィラージュ・オール】の操縦席から海賊船ボスランボの砲門からケラウノスが放たれるのを見上げていた。
「おお、あれはまさしく!!
「ケラウノス!? しかし、何故海賊船から!?」
テラトは疑問を口にする。
皇族の直系だけが持つ能力、神の雷――ケラウノスが海賊船から放たれている。あの船に皇族は乗っていないはずなのに、何故。 しかも、砲門から一斉砲撃を撃ち放つほどの強力なものをどうやって。と疑問を浮かべるのは当然なことであった。
「あの方に決まっている!」
ツァニスは確信を持って言う。
「あの方……キャプテン・ザイアスですか? 彼は一体何者なのですか!? ケラウノスを放つということは……」
「そう!」
ツァニスは肯定し、有り余る興奮を抑えることが出来ず、言葉を継ぐ。
「かの御方は皇族だ! それも現ジュピター、アレイディオス・ポスオール様の実弟グレイルオス・ポスオール様なのだ!!」
テラトは驚愕のあまり、言葉を失う。
「ケラウノスが何故、海賊船から?」
ユリーシャは驚き、剣を振るう手が止まる。
「あの領主が撃ったのか? いや、さっき金ピカのやつで出たはずだ……」
とすると、誰が撃ち放ったものなのか。
デランとユリーシャには知る術が無い。
バァァァァン!!
放たれた雷がデランとユリーシャの眼前にいるソルダを撃ち抜く。
「おお!」
その雷が味方からの援護だと疑う余地は無く、この上無く頼もしく感じた。
「ともかく、あれは味方か!」
「そのようね!」
ピカーン! ゴロゴロゴロゴロ!!
雷鳴が轟き、雷光が敵を貫いていく。
『本艦はこのまま前進する! 遅れるんじゃねえぞ!!』
リピートが号令をかける。
「おう、いくぜ!」
「ええ!」
デランとユリーシャは海賊船に随伴する。
「って、ちょっと! 私を置いてかないでよ!!」
マイナは慌てて追いかける。
「久しぶりに力を使うと疲れるぜえ」
ふう、と、ザイアスは一息をつく。
「あ~キャプテン、わりぃけど休んでるヒマはねえぜ」
リピートは釘をさす。
「ああ、わかってるよ。もう一発いくぜえ!」
ザイアスはすぐさま気合を入れる。
「ケラウノス!! へカトン・トライデント!!」
ザイアスは再び気合を入れて、神の雷を放つ。
海賊船から放たれる雷の砲撃が敵を次々と貫いていく。
「何故だぁッ!?」
収容所にある司令部でギムエルは怒声を上げる。
「たった一機の海賊船に何故、ここまで攻め込まれる!! 何故簡単に撃ち落とせん!?」
ギムエルはテーブルを叩く。
「………………」
他の幹部達は無言になっている。
想定外の事態に司令は狼狽しているが、誰も進言できるほどの権限も度胸も無かったのである。
「かくなる上は、全軍を集中させてでも!」
『愚策ですね』
「――!」
ギムエルは絶句する。
いきなり司令部のスクリーンにファウナの顔が映し出されたからだ。
「姫様、何故この場に!?」
『私は領主です! この戦いを指揮する義務があります!』
「ですが!」
『問答無用です! 海賊船にばかり気を取られて、全体を見失っているようでは防衛長官失格です!』
「全体を……?」
ギムエルは戦況が映し出されたスクリーンの方を見る。
一機の海賊船が次々と防衛戦力をなぎ倒していく。
防衛長官からしたら悪夢のような戦況であったが、ファウナの発言で少し冷静さを取り戻して、戦場の盤面を見つめる。
「……敵は海賊船だけではない!」
ギムエルは海賊船の戦いを凝視する。
砲撃し、敵をなぎ倒していく海賊船。他に、南の領主ツァニスが駆る【ヴィラージュ・オール】やレジスタンスの機体が見える。
「何故、南軍とレジスタンスは海賊船とともに戦っているのか?」
『彼らは手を組んだのでしょう』
ファウナにそう言われて、ギムエルは「まさか!」の声を上げそうになった。
ただ、そうだったらあの海賊船の奮闘ぶりもある程度、説明はつく。
あの海賊船に三軍の精鋭が集まっているとするなら、と、一個大隊以上の戦力を注いでも苦戦するのは頷ける。
ただ、それにしては少なすぎる。
レジスタンスと南軍の戦力があれだけのはずがない。
彼等だけで攻め込んできたのか、それにしては無謀すぎる。ならば、他の戦力は潜んでいると考えるのが自然だ。
「あれは我々の目を引き付ける陽動か!!」
『そういうことです』
「そうなると、どこかに機を伺っている部隊が潜んでいるはず! そう言いたいのでしょう?」
ギムエルは確認するように、ファウナへ問う。
『ええ、陽動に戦力を集中させすぎるのは危険です。本隊が収容所目掛けて進軍してくるはずです』
「そうやって、司令部を一気に壊滅させるのが狙いということですか。ならば、防衛網はこのまま維持して、海賊船はこのまま大隊を差し向けましょう。
なあに、如何に精鋭といえどたかが一機の海賊船だ。このまま攻め続ければすぐに墜ちる!」
ピカーン!!
次の瞬間、海賊船を映すスクリーンから雷光が走った。
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ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。
大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。
はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?
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