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第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ
第69話 ダイチ躍進
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「侵入者は屋上へ逃げた! なんとしてでも捕まえろ!!」
必死の想いでダイチ達を追いかけてきた防衛隊二人は通信で応援を求める。
その想いが届いたのか、偶然その声を聞き届けたシュヴァリエの操者は侵入者のマーカーが目に入る。ダイチ達の姿だ。
奇しくもシュヴァリエはかつてダイチが追い詰めた機体であった。
(またか!)
ダイチは既視感を覚える。
初めて三十メートルを超える巨大な機体を前にして、自分に出来ることは何もないと無力感と恐怖にとらわれていた。
(いや、あの時とは違う!)
恐怖で震える足を言い聞かせて、踏み出す。
するとあの時とは比べ物にならないくらい早く駆け出せた。シュヴァリエの腕から振り切れるほどに。
目指す先はコンテナが集積されている格納庫だ。
――そこにイクミが用意しておいたチカラがあるという。
「イクミ!」
ダイチはイクミに呼びかける。
屋上にまで辿り着いたらそうするようにイクミが指示されている。
『おお、ダイチはん! もうついたかさすがやな!』
イクミは呑気に上機嫌で応える。
「ああ、イクミ! もうすぐ格納庫に着くぞ!!」
『なんや切羽詰まっとるみたいやな』
すぐ後ろにはシュヴァリエが迫ってくる。そのけたたましい足音やそこから発生する暴風が伝わってきているはずなのに、相変わらず呑気であった。
「ああ、切羽詰まってるから、どうすればいいか早く教えろぉッ!!」
『おお、わかっとる。そのまま格納庫に突っ込むんや!』
「おおう!」
ダイチは答えるやいなやシュヴァリエに追いつかれまいと全力疾走する。
時に追いつかれかけるが、エリスの戦い方を模倣して小回りを利かせて逃げ回り、ようやく屋上にある格納庫に辿り着く。
ピコン!
すると、いきなり「ようこそ」と言わんばかりに固く閉ざされていたはずの格納庫の扉が開く。
『ハッキング成功! どんなもんや!』
イクミが上機嫌で言ってくる。
「たいしたもんだよ」
ダイチは感心し、格納庫へ入る。シュヴァリエもさすがにヒトが通るための扉にまで押し入って入ってこれない。
ただ、長くはもたない。あのシュヴァリエはビルをも真っ二つにしてまで追いかけたのだ。操者はおそらく違うものの同じクリュメゾン軍の一員なのだろうからそのぐらいはしてくるに違いない。
「イクミ! どのコンテナだ!?」
格納庫に積まれて並びたてられたコンテナの数々。それは大小様々でビルのようにそびえたつものまである。
『そこの【SZO-9】のコンテナや』
「ちょっと待て!」
そこの、と言われても、右も左も上もコンテナばかりで番号を言われても全然わからない。
「【AMY-2】、【BKL-6】ってどれがどれだかわからねえぞ!?」
ダイチは頭を抱える。時間が無いというのにどこを探していいのかわからない。
「こっちじゃ!」
いつの間にか格納庫に入ってきていたフルートが指を差す。
「フルート、わかるのか!?」
「わかるとも! 妾は冥皇じゃぞ!」
太鼓判を押すように言ってくれる。ただ今までフルートの不思議な力を目の当たりにしてきただけに説得力を感じさせてくれる。
「よし!」
そういうわけでフルートを信じる。
フルートはコンテナを並ばれて、こんがらがりそうな道を一切迷わず走る。ダイチはただそれを追いかけるだけだ。
「ここじゃ!」
フルートはそう言って止まる。
「おお!」
ダイチは二十メートルもあろうかという巨大コンテナを見上げる。側面には確かに【SZO-9】と書かれている。
「本当にこれなのか?」
『おお、それや。早く中に入るんや! パスコードはこれや!』
「あ、ああ……」
ダイチは言われるまま、備え付けの端末に送られてきたパスコードを入力する。
プシューン
などと空気が抜けるような音を立てて、コンテナは開く。
「おおッ!」
その中身が露になって、ダイチは感嘆の声を上げる。
『どや? ウチが万一のために貨物コンテナに積み込んでおいたんや』
「よく持ってきやがったな、こんなもの……!」
ダイチは呆れると同時に感心する。
そこにあったのは、ヴァ―ランス。火星の治安部隊に配備されている汎用戦闘型マシンノイドだ。
以前、天王星の賞金首――デイエス・グラフラーを捕まえた副賞としてマーズから貰ったもので、ダイチは火星に置いてきたつもりだった。
まさか、これを運び込んでいたとは夢にも思わなかった。
だが、この状況ではありがたいことこの上ない。
「使わせてもらうぜ!」
『おお、存分に使いや!』
ダイチは早速乗り込む。
強引に乗った経験もあるからこのあたりはスムーズにできる。
「よいっしょ」
操縦席に座り込む。あとは起動させるだけだ。
「フルート?」
「うむ、やはりここが落ち着くのう」
フルートはダイチの膝に座る。
以前もこのヴァ―ランスに乗った時もそうだったし、シャトルの時もフルートはダイチの膝に乗ってきた。ダイチとしても悪い気はしなかったし、この状況ならすぐ傍にいる安心感がある。
「行くぞ! ダイチ!」
「ああ!」
ダイチはGFSを起動させ、立ち上がらせる。
――Genome Feedback System Start Up!
コンソールに起動の文字が浮かぶと同時に、格納庫の入り口がシュヴァリエによって蹴破られる。
「きやがったな、デカブツ!」
ダイチは背中のブースターを点火させ、突撃する。
「うおぉぉぉぉぉッ!!」
シュヴァリエの操者にとっては予想外だったであろうマシンノイドの突撃をまともに受ける。サイズではヴァ―ランスの倍近くの大きさがあるシュヴァリエは大きく仰け反る。
「いける!」
そう確信したダイチの目の前にバックパックに収納された武器のリストが表示される。
【ソリッドメタルブレード】
【ハンドガン】
【アサルトランチャー】
【バスタービームライフル】
いつの間にこれだけ武器を積んだのだろうか。ともかく今はありがたいかぎりだ。
まずはハンドガン二挺を選択して、パックから取り出す。
「いくぞ!」
即座に発砲する。
キィン!
銃弾が命中し、シュヴァリエの金属板で出来ているであろう装甲がへこむ。しかし、全長三十三メートルを誇るシュヴァリエにはこの銃弾は豆鉄砲でしかない。効果は薄く、牽制になっているかも怪しい。
シュヴァリエの方だって棒立ちで受け続けているわけがない。むしろ、敵にはこの程度の武装しかないと安心したかもしれない。手甲に仕込まれたマシンガンで反撃してくる。
バババババババババァァァン!!
こちらのハンドガンとは比べ物にならない威力であった。まともに受けてられない、と背中のブースターをふかしてその場を逃れる。
「くそ! やっぱりあのデカさは反則だろ!」
などと、ぼやかずにはいられなかった。
とはいえ、この戦力差をなんとかしなければならない。
ソリッドメタルブレード。次にダイチはこの二刀を引き抜く。剣は扱い慣れているし、GFSのおかげで実際に手に持ったかのような感覚がきてしっくりくる。
「ブースターの出力が上がっている! これなら!」
以前乗り込んだ時よりもブースターには余力がある。ウイングも安定していて姿勢制御もしやすい。イクミは武器や装甲、ブースター、他にも色々と改造を施してくれたようだ。
(イクミのやつ、本当にマッドサイエンティストだな!)
それならば改造されたヴァ―ランスを存分に発揮してやろうとニヤリと笑う。
「ブースター点火だ!」
「出力アップじゃな!」
フルートは腕を振り上げて、それに応えてダイチはブースターの出力を上げる。
「うおわッ!?」
想定よりも点火による反動は大きく、シートの背もたれに背中を打つ。そして、スピードも恐ろしく速く、もうシュヴァリエの眼前にまで飛び込んでいた。
「この勢いのまま! いくぞ!!」
ブレードを水平に構え、シュヴァリエの足元へ飛び込み、斬りつける。
「よし!」
まず一撃を与えてやった。
だが、これだけではかすり傷でしかない。
「もう一回だ!」
「旋回じゃ!」
ヴァ―ランスのブースターを急速に方向転換させて斬りつける。
さらにもう一撃、もう一撃と息をもつかさぬ連続攻撃をシュヴァリエに浴びせ続ける。
「見事! じゃが、このままじゃ埒が開かぬぞ!」
「わかってる!」
あの時もそうだった。
ダイチの脳裏にシュヴァリエと戦ったエリスの姿がよぎる。身体一つで巨人ともいえるシュヴァリエと戦った時、エリスはその絶望的なサイズ差に怖けず、スピードを活かして戦った。
あの時は、はじめこそエリスが有利に戦っていたが、たった一度シュヴァリエの攻撃が直撃しただけでボロボロになってしまった。
自分だって同じだ。このヴァ―ランスを使ってようやくシュヴァリエと渡り合っているが、それでも倍以上のサイズ差はどうしようもない。
せいぜい大人と蟻から、大人と子供に変わったぐらいといっていい。
それでも負けるわけにはいかないから、こうしてガムシャラに戦っている。
だけど、恐怖はぬぐいきれない。
エリスと同じようにならないとは限らない。というより、自分はエリスより上手く戦える自信が未だにもてない。
「焦るな、ダイチよ!」
「――!」
膝上に乗っかってるフルートが諫める。
「焦りは身を滅ぼす、自分のペースを守って戦うのじゃ」
「ああ、そうだな!」
ダイチは一呼吸置いて、シュヴァリエを斬る。
バシュン!
シュヴァリエの右腕が落ちる。
ブレードで斬り続けた成果だ。
「次は右腕じゃ!」
「いや、脚だ!」
ダイチは脚目掛けて飛び込む。
ズゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
しかし、シュヴァリエはブースターを点火させて飛び上がる。
「なに!?」
敵もただ黙ってやられていたわけではないということだ。
シュヴァリエは上へ緊急回避して、急降下してサーベルを叩きつける。
「うぉぉぉぉぉぉぉッ!」
急降下の勢いと何万トンに及ぶ重量による衝撃をヴァ―ランスはブレードで受け、ブースターを点火して抑え込む。
(さすがになんてパワーだ! エリスの奴、こんなのを相手にしてたんか!?)
ガタガタと操縦席が揺れ、操縦桿を握る手がおぼつかなくなる。
このサーベルをどうにかして押し返さないとやられるというのに、腕に力が入らない。
今の一撃にもっていかれたか。それともエレベーターと今の戦いでもう限界を迎えてしまったのか。
「いや、まだだ!」
こみ上げてくる弱音を押しとどめて、腕に力を込める。
「ダイチよ、妾はそなたを信じておるからな」
フルートは何の疑いも無くまっすぐに言ってくれる。
「ああ!」
それが後押しになる。
脳裏に少し前に戦ったギルキス団長の斬撃がよぎる。
あれに比べたら、こんなものはなんてことはない。腕を痺れさせる衝撃も段違いでギルキス団長の方が強い。
(このくらいならいけるはずだ!)
心の中で気合を一つ入れる。
「いけぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
渾身の叫びと共に腕の力を込め、サーベルを押し返す。
もう一度やれといわれてもできない、火事場の馬鹿力だ。
ただ、これで勝負は決まったわけじゃない。今のはあくまで攻撃を受け切っただけ。
「今度はこっちの番だ!」
両手に持ったブレードを返す刀で、無防備となった脚を斬りつける。
ザシュ!!
シュヴァリエの両足が同時に斬られ、倒れ伏す。
両足を斬られては立つことすらままならず、さらに駆動用のブースターを斬り捨てる。これでシュヴァリエは無力化された。
「ハァハァ、どうだ!?」
「うむ、よく見事じゃったぞ!」
ダイチは息を切らして、沈黙したシュヴァリエを見下ろす。
かつて自分はこのシュヴァリエに追い詰められ、その巨大さに足がすくんでこれまでかと諦めたことがあった。
その雪辱を今ここで果たすことが出来た。
「俺、強くなれたのかな……?」
誰にともなく問いかけてみたが、それとは別に実感は徐々にこみ上げてくる。
「胸をはってよいことじゃぞ」
「ああ……そうか……」
「じゃが、呆けている場合ではないぞ」
きっちり諫められて、ダイチは我に返る。
「ああ!」
ダイチは続々と集まってくる敵を見据える。
シュヴァリエ一機にばかり気を取られていたが、ここはもう戦場になっている。
汎用機ソルダを始めとして、高速強襲型シュヴァル、砲撃特化型フールナール、小隊長機シュヴァリエ、師団長ジェアン・リトスと機体に取り囲まれてきている。
「なんとかして、ここから脱出しないと!」
囲まれつつある状況から脱出口を探す。
必死の想いでダイチ達を追いかけてきた防衛隊二人は通信で応援を求める。
その想いが届いたのか、偶然その声を聞き届けたシュヴァリエの操者は侵入者のマーカーが目に入る。ダイチ達の姿だ。
奇しくもシュヴァリエはかつてダイチが追い詰めた機体であった。
(またか!)
ダイチは既視感を覚える。
初めて三十メートルを超える巨大な機体を前にして、自分に出来ることは何もないと無力感と恐怖にとらわれていた。
(いや、あの時とは違う!)
恐怖で震える足を言い聞かせて、踏み出す。
するとあの時とは比べ物にならないくらい早く駆け出せた。シュヴァリエの腕から振り切れるほどに。
目指す先はコンテナが集積されている格納庫だ。
――そこにイクミが用意しておいたチカラがあるという。
「イクミ!」
ダイチはイクミに呼びかける。
屋上にまで辿り着いたらそうするようにイクミが指示されている。
『おお、ダイチはん! もうついたかさすがやな!』
イクミは呑気に上機嫌で応える。
「ああ、イクミ! もうすぐ格納庫に着くぞ!!」
『なんや切羽詰まっとるみたいやな』
すぐ後ろにはシュヴァリエが迫ってくる。そのけたたましい足音やそこから発生する暴風が伝わってきているはずなのに、相変わらず呑気であった。
「ああ、切羽詰まってるから、どうすればいいか早く教えろぉッ!!」
『おお、わかっとる。そのまま格納庫に突っ込むんや!』
「おおう!」
ダイチは答えるやいなやシュヴァリエに追いつかれまいと全力疾走する。
時に追いつかれかけるが、エリスの戦い方を模倣して小回りを利かせて逃げ回り、ようやく屋上にある格納庫に辿り着く。
ピコン!
すると、いきなり「ようこそ」と言わんばかりに固く閉ざされていたはずの格納庫の扉が開く。
『ハッキング成功! どんなもんや!』
イクミが上機嫌で言ってくる。
「たいしたもんだよ」
ダイチは感心し、格納庫へ入る。シュヴァリエもさすがにヒトが通るための扉にまで押し入って入ってこれない。
ただ、長くはもたない。あのシュヴァリエはビルをも真っ二つにしてまで追いかけたのだ。操者はおそらく違うものの同じクリュメゾン軍の一員なのだろうからそのぐらいはしてくるに違いない。
「イクミ! どのコンテナだ!?」
格納庫に積まれて並びたてられたコンテナの数々。それは大小様々でビルのようにそびえたつものまである。
『そこの【SZO-9】のコンテナや』
「ちょっと待て!」
そこの、と言われても、右も左も上もコンテナばかりで番号を言われても全然わからない。
「【AMY-2】、【BKL-6】ってどれがどれだかわからねえぞ!?」
ダイチは頭を抱える。時間が無いというのにどこを探していいのかわからない。
「こっちじゃ!」
いつの間にか格納庫に入ってきていたフルートが指を差す。
「フルート、わかるのか!?」
「わかるとも! 妾は冥皇じゃぞ!」
太鼓判を押すように言ってくれる。ただ今までフルートの不思議な力を目の当たりにしてきただけに説得力を感じさせてくれる。
「よし!」
そういうわけでフルートを信じる。
フルートはコンテナを並ばれて、こんがらがりそうな道を一切迷わず走る。ダイチはただそれを追いかけるだけだ。
「ここじゃ!」
フルートはそう言って止まる。
「おお!」
ダイチは二十メートルもあろうかという巨大コンテナを見上げる。側面には確かに【SZO-9】と書かれている。
「本当にこれなのか?」
『おお、それや。早く中に入るんや! パスコードはこれや!』
「あ、ああ……」
ダイチは言われるまま、備え付けの端末に送られてきたパスコードを入力する。
プシューン
などと空気が抜けるような音を立てて、コンテナは開く。
「おおッ!」
その中身が露になって、ダイチは感嘆の声を上げる。
『どや? ウチが万一のために貨物コンテナに積み込んでおいたんや』
「よく持ってきやがったな、こんなもの……!」
ダイチは呆れると同時に感心する。
そこにあったのは、ヴァ―ランス。火星の治安部隊に配備されている汎用戦闘型マシンノイドだ。
以前、天王星の賞金首――デイエス・グラフラーを捕まえた副賞としてマーズから貰ったもので、ダイチは火星に置いてきたつもりだった。
まさか、これを運び込んでいたとは夢にも思わなかった。
だが、この状況ではありがたいことこの上ない。
「使わせてもらうぜ!」
『おお、存分に使いや!』
ダイチは早速乗り込む。
強引に乗った経験もあるからこのあたりはスムーズにできる。
「よいっしょ」
操縦席に座り込む。あとは起動させるだけだ。
「フルート?」
「うむ、やはりここが落ち着くのう」
フルートはダイチの膝に座る。
以前もこのヴァ―ランスに乗った時もそうだったし、シャトルの時もフルートはダイチの膝に乗ってきた。ダイチとしても悪い気はしなかったし、この状況ならすぐ傍にいる安心感がある。
「行くぞ! ダイチ!」
「ああ!」
ダイチはGFSを起動させ、立ち上がらせる。
――Genome Feedback System Start Up!
コンソールに起動の文字が浮かぶと同時に、格納庫の入り口がシュヴァリエによって蹴破られる。
「きやがったな、デカブツ!」
ダイチは背中のブースターを点火させ、突撃する。
「うおぉぉぉぉぉッ!!」
シュヴァリエの操者にとっては予想外だったであろうマシンノイドの突撃をまともに受ける。サイズではヴァ―ランスの倍近くの大きさがあるシュヴァリエは大きく仰け反る。
「いける!」
そう確信したダイチの目の前にバックパックに収納された武器のリストが表示される。
【ソリッドメタルブレード】
【ハンドガン】
【アサルトランチャー】
【バスタービームライフル】
いつの間にこれだけ武器を積んだのだろうか。ともかく今はありがたいかぎりだ。
まずはハンドガン二挺を選択して、パックから取り出す。
「いくぞ!」
即座に発砲する。
キィン!
銃弾が命中し、シュヴァリエの金属板で出来ているであろう装甲がへこむ。しかし、全長三十三メートルを誇るシュヴァリエにはこの銃弾は豆鉄砲でしかない。効果は薄く、牽制になっているかも怪しい。
シュヴァリエの方だって棒立ちで受け続けているわけがない。むしろ、敵にはこの程度の武装しかないと安心したかもしれない。手甲に仕込まれたマシンガンで反撃してくる。
バババババババババァァァン!!
こちらのハンドガンとは比べ物にならない威力であった。まともに受けてられない、と背中のブースターをふかしてその場を逃れる。
「くそ! やっぱりあのデカさは反則だろ!」
などと、ぼやかずにはいられなかった。
とはいえ、この戦力差をなんとかしなければならない。
ソリッドメタルブレード。次にダイチはこの二刀を引き抜く。剣は扱い慣れているし、GFSのおかげで実際に手に持ったかのような感覚がきてしっくりくる。
「ブースターの出力が上がっている! これなら!」
以前乗り込んだ時よりもブースターには余力がある。ウイングも安定していて姿勢制御もしやすい。イクミは武器や装甲、ブースター、他にも色々と改造を施してくれたようだ。
(イクミのやつ、本当にマッドサイエンティストだな!)
それならば改造されたヴァ―ランスを存分に発揮してやろうとニヤリと笑う。
「ブースター点火だ!」
「出力アップじゃな!」
フルートは腕を振り上げて、それに応えてダイチはブースターの出力を上げる。
「うおわッ!?」
想定よりも点火による反動は大きく、シートの背もたれに背中を打つ。そして、スピードも恐ろしく速く、もうシュヴァリエの眼前にまで飛び込んでいた。
「この勢いのまま! いくぞ!!」
ブレードを水平に構え、シュヴァリエの足元へ飛び込み、斬りつける。
「よし!」
まず一撃を与えてやった。
だが、これだけではかすり傷でしかない。
「もう一回だ!」
「旋回じゃ!」
ヴァ―ランスのブースターを急速に方向転換させて斬りつける。
さらにもう一撃、もう一撃と息をもつかさぬ連続攻撃をシュヴァリエに浴びせ続ける。
「見事! じゃが、このままじゃ埒が開かぬぞ!」
「わかってる!」
あの時もそうだった。
ダイチの脳裏にシュヴァリエと戦ったエリスの姿がよぎる。身体一つで巨人ともいえるシュヴァリエと戦った時、エリスはその絶望的なサイズ差に怖けず、スピードを活かして戦った。
あの時は、はじめこそエリスが有利に戦っていたが、たった一度シュヴァリエの攻撃が直撃しただけでボロボロになってしまった。
自分だって同じだ。このヴァ―ランスを使ってようやくシュヴァリエと渡り合っているが、それでも倍以上のサイズ差はどうしようもない。
せいぜい大人と蟻から、大人と子供に変わったぐらいといっていい。
それでも負けるわけにはいかないから、こうしてガムシャラに戦っている。
だけど、恐怖はぬぐいきれない。
エリスと同じようにならないとは限らない。というより、自分はエリスより上手く戦える自信が未だにもてない。
「焦るな、ダイチよ!」
「――!」
膝上に乗っかってるフルートが諫める。
「焦りは身を滅ぼす、自分のペースを守って戦うのじゃ」
「ああ、そうだな!」
ダイチは一呼吸置いて、シュヴァリエを斬る。
バシュン!
シュヴァリエの右腕が落ちる。
ブレードで斬り続けた成果だ。
「次は右腕じゃ!」
「いや、脚だ!」
ダイチは脚目掛けて飛び込む。
ズゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
しかし、シュヴァリエはブースターを点火させて飛び上がる。
「なに!?」
敵もただ黙ってやられていたわけではないということだ。
シュヴァリエは上へ緊急回避して、急降下してサーベルを叩きつける。
「うぉぉぉぉぉぉぉッ!」
急降下の勢いと何万トンに及ぶ重量による衝撃をヴァ―ランスはブレードで受け、ブースターを点火して抑え込む。
(さすがになんてパワーだ! エリスの奴、こんなのを相手にしてたんか!?)
ガタガタと操縦席が揺れ、操縦桿を握る手がおぼつかなくなる。
このサーベルをどうにかして押し返さないとやられるというのに、腕に力が入らない。
今の一撃にもっていかれたか。それともエレベーターと今の戦いでもう限界を迎えてしまったのか。
「いや、まだだ!」
こみ上げてくる弱音を押しとどめて、腕に力を込める。
「ダイチよ、妾はそなたを信じておるからな」
フルートは何の疑いも無くまっすぐに言ってくれる。
「ああ!」
それが後押しになる。
脳裏に少し前に戦ったギルキス団長の斬撃がよぎる。
あれに比べたら、こんなものはなんてことはない。腕を痺れさせる衝撃も段違いでギルキス団長の方が強い。
(このくらいならいけるはずだ!)
心の中で気合を一つ入れる。
「いけぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
渾身の叫びと共に腕の力を込め、サーベルを押し返す。
もう一度やれといわれてもできない、火事場の馬鹿力だ。
ただ、これで勝負は決まったわけじゃない。今のはあくまで攻撃を受け切っただけ。
「今度はこっちの番だ!」
両手に持ったブレードを返す刀で、無防備となった脚を斬りつける。
ザシュ!!
シュヴァリエの両足が同時に斬られ、倒れ伏す。
両足を斬られては立つことすらままならず、さらに駆動用のブースターを斬り捨てる。これでシュヴァリエは無力化された。
「ハァハァ、どうだ!?」
「うむ、よく見事じゃったぞ!」
ダイチは息を切らして、沈黙したシュヴァリエを見下ろす。
かつて自分はこのシュヴァリエに追い詰められ、その巨大さに足がすくんでこれまでかと諦めたことがあった。
その雪辱を今ここで果たすことが出来た。
「俺、強くなれたのかな……?」
誰にともなく問いかけてみたが、それとは別に実感は徐々にこみ上げてくる。
「胸をはってよいことじゃぞ」
「ああ……そうか……」
「じゃが、呆けている場合ではないぞ」
きっちり諫められて、ダイチは我に返る。
「ああ!」
ダイチは続々と集まってくる敵を見据える。
シュヴァリエ一機にばかり気を取られていたが、ここはもう戦場になっている。
汎用機ソルダを始めとして、高速強襲型シュヴァル、砲撃特化型フールナール、小隊長機シュヴァリエ、師団長ジェアン・リトスと機体に取り囲まれてきている。
「なんとかして、ここから脱出しないと!」
囲まれつつある状況から脱出口を探す。
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