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第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ
第63話 エリス対ファウナ
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「「「………………」」」
火星人達は静まり返る。
元とはいえ軍人で巨漢だったカートがあっさり殺された。雷の余波も飛んできて一国の領主の恐ろしさを肌で感じてしまった。
「他にこの者のように異議を申し立てる火星人はいませんか? 」
その挑発的ともいえる問いかけに、答えられる火星人はいなかった。――ただ一人を除いて。
「てぃりゃぁぁぁッ!」
エリスは手錠を打ち破って、跳び上がる。
「エリスならあんなの見せられて我慢できませんよ」
ミリアは微笑ましくその光景を見守る。
「威勢がいいですね。あなたの名前は?」
「火星人の略歴には興味ないんじゃなかったの?」
「ああ、そうでしたね。名前も知らずに殺すのは無礼かと思いましたが」
「言うじゃない」
「ケラウノス!」
ファウナは雷を走らせる。
「やるわね!」
エリスは雷をかわし、ファウナへ接近する。
「先程の狼藉者よりはやるようですね」
ファウナは感心する。
ガツン!
エリスの蹴りを槍の穂で受け止める。
「ですが、無礼者にはかわりませんね」
「そっちこそ!」
ガツン! クイッ! ガツン! クイッ!
エリスは槍をかわしては、拳を見舞い、ファウナがこれをかわす。
傍目にはいい勝負をしているように見える。
「お、おおぉ……!」
「あの娘、やるな!」
火星人達は驚嘆の声を上げる。
「ですが、まだ探り合いの膠着状態ですね」
ミリアは至って冷静に二人の戦いを見て言う。
「わかるの?」
ハンナが不安げに訊く。
「はい。まだまだエリスが全快ではないですもの」
ガツン!
エリスがファウナの槍にあて、その威力を殺しきれずに後退する。
「やりますね!」
「あんたの力はそんなものじゃないでしょ! 本気で来なさいよ!」
「いいでしょう!」
ファウナはより一層強い雷を放つ。
「ぐえッ!?」
「ぎょわッ!?」
その余波が火星人達を受ける。
四百人以上の火星人を収容し、なおも余りある広いホールでさえ、この神の如き威光を示す雷が暴れまわるには手狭のようだ。
「そうでなくちゃ!」
それを目の当たりにして、エリスの戦意は高まる。
「ヒートアップ!」
エリスの体温が炎のように上昇し、熱気で巻き上がる。
ファウナのケラウノスが雷雲だとするなら、エリスのヒートアップは嵐雲であった。
「おおッ!」
これには今まで安心して見守っていた髭の濃い巨漢ガディムは不安に見舞われる。
それだけエリスの発する熱気は力強く、ファウナに拮抗しうるだけのものに見えたからだ。
「いくわよ!」
「きなさい!」
エリスが踏み込む。
ドゴォン!!
その足音は爆撃のような轟音を立て、たった一歩でファウナの懐にまで接近する。
そこから拳を繰り出す。
ガツォォォォォン!!
ファウナは槍の穂で受け、甲高い金属音が鳴り響く。
「「「おおぉぉぉぉッ!!」」」
火星人達の歓声がなる。
エリスの勝敗に、自分達の生死がかかっているとなると必死になる。
しかし、ミリアはその様子を見て冷ややかであった。
(ガード越しとはいえ、エリスの一撃をまともに受けて身体が浮かないとは……彼女、思ったよりやりますね)
ミリアの不安をよそに、エリスはファウナへ畳みかける。
ドォォォォォォォォン!!
熱風と雷がぶつかり合う。
「トネールランス!!」
槍から矢継ぎ早に雷が繰り出される。
「こんのぉぉぉッ!!」
エリスはそれをかわして、拳や蹴りを繰り出す。
「ぎょわッ!?」
「ぐえッ!?」
エリスがかわすたびに、それた雷が火星人に当たり、被害を及ぼす。
「ああぁッ!?」
ハンナがそれをまともに受けて倒れる。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……」
ミリアが抱き起こしてみるものの、自力で起き上がるのは無理そうなダメージであった。
「くそ、なんて姫様だ!」
火星人の男が悪態をつく。
「こうなったら、あの赤髪の嬢ちゃんに何が何でも勝ってもらわないと!」
「俺達は生き残れねえ!」
火星人達は心は一丸になり、壇上で戦っているエリスを見つめる。
「頑張れ! 頑張れぇぇぇぇッ!」
文字通り必死の声援であった。
どうにかエリスに勝ってほしいと声を張り上げ、ホールを雷の轟音のごとく揺らす。
「エアヒートビート!」
エリスは熱風の刃となった蹴りを見舞う。
「ぐッ!?」
これには衝撃を防ぎきれず、ファウナは後退する。
「あの小娘! ファウナ様の顔に傷を!?」
その蹴りがファウナの頬をわずかに切り、取り巻きの衛士達が怒り狂う。
「何たる悪行! 姫様に代わって俺達が!」
衛士の一人が壇上に上がり、他の者も続こうと押し寄せる。
「おやめなさい!!」
ファウナの怒声が雷とともに投げ撃たれる。
「うぅ……!」
衛士達は静まり返る。
「この者の処刑は私の手で行います! あなた方の手出しは許しません!!」
「ははぁッ!!」
衛士は敬礼して、壇上を降りる。
「あんた、いい度胸してるわね!」
エリスは感心する。
「そうでなければ、お兄様の代わりに領主は務まりませんからね! あなたこそやりますね、殺すには少々惜しいです」
「だったら、処刑を取り消せばいいじゃないの? もっとも私はあんたに殺されるつもりなんてまったくないけど!」
エリスが啖呵を切ると、ファウナは怒りの形相を浮かべて答える。
「取り消しは絶対にしません! お兄様を殺した火星人を絶対に許しはしません!!」
「だからって、この国にいる火星人を残らず殺すっていうのはやりすぎよ!」
「それが一番確実だからです! 犠牲をいくら払ってでも必ずこの手で仇をとるまでやめません!!」
バチィィィィィン!!
無茶苦茶な理屈でありながら力強い決意に雷が呼応し、さらに迸る。
「「「ぐええええッ!!?」」」
それは火星人達にも及び、既に何人かの生命が落ちた。
「上等よ! これぐらいでやめられたら興ざめもいいとこよ!」
「では、遠慮なく!」
仕切り直しとなって、エリスは拳を構え、ファウナは槍を構える。
「ヒートアップ!!」
「ケラウノス!!」
炎と雷の二つがぶつかりあう。
エリスの体温が高まり、火の玉となって突っ込む
「トネールランス!!」
「でぃぃぃやぁぁぁぁッ!!」
槍から放たれた雷をエリスは気合で弾き飛ばして突き進む。
ズドォォォォォン!!
「ぐッ!」
そこから放たれた拳がホールを揺らし、ファウナを顔を歪ませる。
「「「いけぇぇぇぇぇぇッ!!」」」
火星人達の怒りと期待の声援に後押しされ、エリスはさらに畳みかける。
「トネールランス・デュオ!!」
さらに強い雷の槍の一撃を放つ。
「エアヒートビート!」
熱風の刃となった蹴りでそれを切り裂く。
「「――!」」
歓声も轟音でかき消され、静寂に包まれた一瞬。エリスとファウナは互いに見合わせ、互いの実力を見極める。
「ヒートアップ!!!」
「ケラウノス!!!」
そして、さらに力を高め、互いに引き上げる。
(まるで、デランさんとアングレスの戦いを見ているようです。いえ、あの時よりも力強く激しいかもしれません!!)
ワルキューレ・グラールの離れた観客席よりもさらに近いこの場所だとなおさらそれを感じる。
「エリスさんは、勝てる……?」
ハンナは弱弱しくミリアに訊く。雷をまともに浴びて、戦いをみるために顔を上げる力も残っていないようだ。
「少し、わかりませんね……」
ミリアは言いづらそうに答える。
ズドォォォォォン!!
雷雲のように雷が次から次へと飛び込んでくる。
エリスはそれを巧みにかわし、ファウナの懐へ飛ぶ。
「ええい、すばしっこいですね!!」
「あんただってしぶといわね!」
槍と拳が再び激突する。
「この感触! あなたのそれは本物ではないですね!」
「だから、どうしたっていうのよ!?」
エリスはさらに拳を繰り出す。
ドォォォォォン!!
拳を繰り出す。
「重く固く響くような打撃ですが、鋼鉄製であるがゆえですか! ならば!!」
ファウナは雷を放つ。
それがエリスの腕へ命中する。
「ぐッ!」
「あなたの腕は雷を良く通すそうですね。これでもうかわしきれませんよ」
ファウナは追撃に雷をさらに撃ち込んでくる。
「がああああッ!?」
一発受ける度に、全身が痺れ、焼かれる感覚に襲われる。
「その腕でなければ、もっといい勝負が出来たでしょうに。少々惜しいです」
「同情だったらいらないわよ! がぁぁぁぁぁぁッ!!」
エリスは雷に痛みに耐え忍び、一気に踏み込む。
「なッ!?」
ファウナは驚愕する。
これだけの雷撃を受けて、まともに立つことすらできないはずなのに。
「何故、前進できるのですか!?」
「できるからに決まってるでしょぉぉッ!!」
エリスは渾身の蹴りをファウナへ見舞う。
「がぁッ!?」
ファウナの横腹をえぐり、壇上から落ちかける。
「う、く……!」
だが、雷により痺れがひどく、それ以上踏み込めない。
「トネール・デュオ!!!」
ファウナが反撃に雷を纏った槍の一撃を送る。
「があああああッ!!」
エリスは弾き飛ばされて壁際に叩きつけられる。
「ぐ……よくもやってくれましたね……!」
ファウナはほうほうの体でエリスへと近づく。
「………………」
エリスは倒れたまま、起き上がらない。
「おいおい、どうしたんだよ!?」
「死んじまったか!?」
「バカやろう、縁起でもねえこというな!」
「どっちにしてもあの子はもうダメだ!」
「くそ、なんてこった!」
エリスに期待を寄せていた火星人達は大いに落胆する。
「フフッ、この勝負、私の勝ちですね。これで火星人達は大人しくなるでしょう」
それだけ言うとファウナはエリスに対して感謝の念さえこみ上げてきた。
諦めに満ちた火星人達は大人しく処刑されてくれることだろう。
「せめてもの感謝として、私自らの手で葬って差し上げます」
ケラウノスを纏わせた雷の槍をエリスへ目掛けて投擲する。
この槍でエリスへ一刺しする。それがファウナを始めとする皇族が決闘相手に対する最も格式ある手向けであった。
グシャリ!
しかし、その槍がエリスへ届くことが無かった。
「ぐッ! エリスはやらせません……!」
ミリアがエリスの前に立ち、槍を代わりに受け止めたからだ。
「あなたも邪魔をするのですか?」
「邪魔ではありません。ただ彼女を守りたいだけです」
槍を腕で止めて、雷をその身に受けて、ミリアは片膝をつく。それでも、目だけはファウナをとらえて、しっかり睨みつけている。
「……そんな目をしても処刑を取り下げることはありませんよ」
「わかっています。あなたは一度言ったことを取り下げるような真似をしない、そういう方だと今の戦いぶりを見てわかりました」
「知ったような口を……!」
ファウナは身構える。そのまま雷を撃ち込む体制に入る。
「どかなければあなたもまとめて処刑しますよ?」
最後の警告だと言わんばかりに発する。
「かまいません」
ただ、それでもミリアは一歩も退かない。
「ただ、この生命に代えても彼女だけは守り通します!」
「………………」
聞き届けたファウナは振り上げた腕を下ろす。
「あなたの信念は敬意に値します。それに免じて処刑の刻まで生かしておくことにします」
ファウナはそう言って壇上から去っていく。
「……助かりました。恐ろしい方でした」
ミリアは安堵の息をつく。
ピタピタ
腕から血が滴り落ちる。
「お、おい、大丈夫か!?」
たまらず火星人の男性が壇上に上がって容体を診る。
「……はい」
「俺は医者だ。待ってな、今止血を……くそ、包帯がねえ! 誰か、包帯を! このままだと血が止まらねえ!!」
「私よりもエリスを」
「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ!」
火星人達はそわそわする。
なんとか助けたい。が、着の身着のまま連行されてきたせいで包帯どころか一切の持ち物すらない。
「誰か、包帯を! 包帯をこの子に!」
医者が周囲を見渡して叫ぶ。
「俺が用意してやるよ」
突然、壇上に白衣を着こんだ初老の男性が言ってくれる。
「俺も医者だ。包帯なら俺が巻いてやるぜ」
ニコリと白歯を見せて、ミリアへ包帯を巻く。
「嬢ちゃん、いい度胸してるぜ。気に入ったぜ」
「はあ、どうもありがとうございます。ですが、私よりエリスの治療をお願いしたいのですが?」
「なあに、そっちの嬢ちゃんもちゃんと手当してやるさ」
「それはよかった……です……」
バタリとミリアは意識を失って倒れた。
火星人達は静まり返る。
元とはいえ軍人で巨漢だったカートがあっさり殺された。雷の余波も飛んできて一国の領主の恐ろしさを肌で感じてしまった。
「他にこの者のように異議を申し立てる火星人はいませんか? 」
その挑発的ともいえる問いかけに、答えられる火星人はいなかった。――ただ一人を除いて。
「てぃりゃぁぁぁッ!」
エリスは手錠を打ち破って、跳び上がる。
「エリスならあんなの見せられて我慢できませんよ」
ミリアは微笑ましくその光景を見守る。
「威勢がいいですね。あなたの名前は?」
「火星人の略歴には興味ないんじゃなかったの?」
「ああ、そうでしたね。名前も知らずに殺すのは無礼かと思いましたが」
「言うじゃない」
「ケラウノス!」
ファウナは雷を走らせる。
「やるわね!」
エリスは雷をかわし、ファウナへ接近する。
「先程の狼藉者よりはやるようですね」
ファウナは感心する。
ガツン!
エリスの蹴りを槍の穂で受け止める。
「ですが、無礼者にはかわりませんね」
「そっちこそ!」
ガツン! クイッ! ガツン! クイッ!
エリスは槍をかわしては、拳を見舞い、ファウナがこれをかわす。
傍目にはいい勝負をしているように見える。
「お、おおぉ……!」
「あの娘、やるな!」
火星人達は驚嘆の声を上げる。
「ですが、まだ探り合いの膠着状態ですね」
ミリアは至って冷静に二人の戦いを見て言う。
「わかるの?」
ハンナが不安げに訊く。
「はい。まだまだエリスが全快ではないですもの」
ガツン!
エリスがファウナの槍にあて、その威力を殺しきれずに後退する。
「やりますね!」
「あんたの力はそんなものじゃないでしょ! 本気で来なさいよ!」
「いいでしょう!」
ファウナはより一層強い雷を放つ。
「ぐえッ!?」
「ぎょわッ!?」
その余波が火星人達を受ける。
四百人以上の火星人を収容し、なおも余りある広いホールでさえ、この神の如き威光を示す雷が暴れまわるには手狭のようだ。
「そうでなくちゃ!」
それを目の当たりにして、エリスの戦意は高まる。
「ヒートアップ!」
エリスの体温が炎のように上昇し、熱気で巻き上がる。
ファウナのケラウノスが雷雲だとするなら、エリスのヒートアップは嵐雲であった。
「おおッ!」
これには今まで安心して見守っていた髭の濃い巨漢ガディムは不安に見舞われる。
それだけエリスの発する熱気は力強く、ファウナに拮抗しうるだけのものに見えたからだ。
「いくわよ!」
「きなさい!」
エリスが踏み込む。
ドゴォン!!
その足音は爆撃のような轟音を立て、たった一歩でファウナの懐にまで接近する。
そこから拳を繰り出す。
ガツォォォォォン!!
ファウナは槍の穂で受け、甲高い金属音が鳴り響く。
「「「おおぉぉぉぉッ!!」」」
火星人達の歓声がなる。
エリスの勝敗に、自分達の生死がかかっているとなると必死になる。
しかし、ミリアはその様子を見て冷ややかであった。
(ガード越しとはいえ、エリスの一撃をまともに受けて身体が浮かないとは……彼女、思ったよりやりますね)
ミリアの不安をよそに、エリスはファウナへ畳みかける。
ドォォォォォォォォン!!
熱風と雷がぶつかり合う。
「トネールランス!!」
槍から矢継ぎ早に雷が繰り出される。
「こんのぉぉぉッ!!」
エリスはそれをかわして、拳や蹴りを繰り出す。
「ぎょわッ!?」
「ぐえッ!?」
エリスがかわすたびに、それた雷が火星人に当たり、被害を及ぼす。
「ああぁッ!?」
ハンナがそれをまともに受けて倒れる。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……」
ミリアが抱き起こしてみるものの、自力で起き上がるのは無理そうなダメージであった。
「くそ、なんて姫様だ!」
火星人の男が悪態をつく。
「こうなったら、あの赤髪の嬢ちゃんに何が何でも勝ってもらわないと!」
「俺達は生き残れねえ!」
火星人達は心は一丸になり、壇上で戦っているエリスを見つめる。
「頑張れ! 頑張れぇぇぇぇッ!」
文字通り必死の声援であった。
どうにかエリスに勝ってほしいと声を張り上げ、ホールを雷の轟音のごとく揺らす。
「エアヒートビート!」
エリスは熱風の刃となった蹴りを見舞う。
「ぐッ!?」
これには衝撃を防ぎきれず、ファウナは後退する。
「あの小娘! ファウナ様の顔に傷を!?」
その蹴りがファウナの頬をわずかに切り、取り巻きの衛士達が怒り狂う。
「何たる悪行! 姫様に代わって俺達が!」
衛士の一人が壇上に上がり、他の者も続こうと押し寄せる。
「おやめなさい!!」
ファウナの怒声が雷とともに投げ撃たれる。
「うぅ……!」
衛士達は静まり返る。
「この者の処刑は私の手で行います! あなた方の手出しは許しません!!」
「ははぁッ!!」
衛士は敬礼して、壇上を降りる。
「あんた、いい度胸してるわね!」
エリスは感心する。
「そうでなければ、お兄様の代わりに領主は務まりませんからね! あなたこそやりますね、殺すには少々惜しいです」
「だったら、処刑を取り消せばいいじゃないの? もっとも私はあんたに殺されるつもりなんてまったくないけど!」
エリスが啖呵を切ると、ファウナは怒りの形相を浮かべて答える。
「取り消しは絶対にしません! お兄様を殺した火星人を絶対に許しはしません!!」
「だからって、この国にいる火星人を残らず殺すっていうのはやりすぎよ!」
「それが一番確実だからです! 犠牲をいくら払ってでも必ずこの手で仇をとるまでやめません!!」
バチィィィィィン!!
無茶苦茶な理屈でありながら力強い決意に雷が呼応し、さらに迸る。
「「「ぐええええッ!!?」」」
それは火星人達にも及び、既に何人かの生命が落ちた。
「上等よ! これぐらいでやめられたら興ざめもいいとこよ!」
「では、遠慮なく!」
仕切り直しとなって、エリスは拳を構え、ファウナは槍を構える。
「ヒートアップ!!」
「ケラウノス!!」
炎と雷の二つがぶつかりあう。
エリスの体温が高まり、火の玉となって突っ込む
「トネールランス!!」
「でぃぃぃやぁぁぁぁッ!!」
槍から放たれた雷をエリスは気合で弾き飛ばして突き進む。
ズドォォォォォン!!
「ぐッ!」
そこから放たれた拳がホールを揺らし、ファウナを顔を歪ませる。
「「「いけぇぇぇぇぇぇッ!!」」」
火星人達の怒りと期待の声援に後押しされ、エリスはさらに畳みかける。
「トネールランス・デュオ!!」
さらに強い雷の槍の一撃を放つ。
「エアヒートビート!」
熱風の刃となった蹴りでそれを切り裂く。
「「――!」」
歓声も轟音でかき消され、静寂に包まれた一瞬。エリスとファウナは互いに見合わせ、互いの実力を見極める。
「ヒートアップ!!!」
「ケラウノス!!!」
そして、さらに力を高め、互いに引き上げる。
(まるで、デランさんとアングレスの戦いを見ているようです。いえ、あの時よりも力強く激しいかもしれません!!)
ワルキューレ・グラールの離れた観客席よりもさらに近いこの場所だとなおさらそれを感じる。
「エリスさんは、勝てる……?」
ハンナは弱弱しくミリアに訊く。雷をまともに浴びて、戦いをみるために顔を上げる力も残っていないようだ。
「少し、わかりませんね……」
ミリアは言いづらそうに答える。
ズドォォォォォン!!
雷雲のように雷が次から次へと飛び込んでくる。
エリスはそれを巧みにかわし、ファウナの懐へ飛ぶ。
「ええい、すばしっこいですね!!」
「あんただってしぶといわね!」
槍と拳が再び激突する。
「この感触! あなたのそれは本物ではないですね!」
「だから、どうしたっていうのよ!?」
エリスはさらに拳を繰り出す。
ドォォォォォン!!
拳を繰り出す。
「重く固く響くような打撃ですが、鋼鉄製であるがゆえですか! ならば!!」
ファウナは雷を放つ。
それがエリスの腕へ命中する。
「ぐッ!」
「あなたの腕は雷を良く通すそうですね。これでもうかわしきれませんよ」
ファウナは追撃に雷をさらに撃ち込んでくる。
「がああああッ!?」
一発受ける度に、全身が痺れ、焼かれる感覚に襲われる。
「その腕でなければ、もっといい勝負が出来たでしょうに。少々惜しいです」
「同情だったらいらないわよ! がぁぁぁぁぁぁッ!!」
エリスは雷に痛みに耐え忍び、一気に踏み込む。
「なッ!?」
ファウナは驚愕する。
これだけの雷撃を受けて、まともに立つことすらできないはずなのに。
「何故、前進できるのですか!?」
「できるからに決まってるでしょぉぉッ!!」
エリスは渾身の蹴りをファウナへ見舞う。
「がぁッ!?」
ファウナの横腹をえぐり、壇上から落ちかける。
「う、く……!」
だが、雷により痺れがひどく、それ以上踏み込めない。
「トネール・デュオ!!!」
ファウナが反撃に雷を纏った槍の一撃を送る。
「があああああッ!!」
エリスは弾き飛ばされて壁際に叩きつけられる。
「ぐ……よくもやってくれましたね……!」
ファウナはほうほうの体でエリスへと近づく。
「………………」
エリスは倒れたまま、起き上がらない。
「おいおい、どうしたんだよ!?」
「死んじまったか!?」
「バカやろう、縁起でもねえこというな!」
「どっちにしてもあの子はもうダメだ!」
「くそ、なんてこった!」
エリスに期待を寄せていた火星人達は大いに落胆する。
「フフッ、この勝負、私の勝ちですね。これで火星人達は大人しくなるでしょう」
それだけ言うとファウナはエリスに対して感謝の念さえこみ上げてきた。
諦めに満ちた火星人達は大人しく処刑されてくれることだろう。
「せめてもの感謝として、私自らの手で葬って差し上げます」
ケラウノスを纏わせた雷の槍をエリスへ目掛けて投擲する。
この槍でエリスへ一刺しする。それがファウナを始めとする皇族が決闘相手に対する最も格式ある手向けであった。
グシャリ!
しかし、その槍がエリスへ届くことが無かった。
「ぐッ! エリスはやらせません……!」
ミリアがエリスの前に立ち、槍を代わりに受け止めたからだ。
「あなたも邪魔をするのですか?」
「邪魔ではありません。ただ彼女を守りたいだけです」
槍を腕で止めて、雷をその身に受けて、ミリアは片膝をつく。それでも、目だけはファウナをとらえて、しっかり睨みつけている。
「……そんな目をしても処刑を取り下げることはありませんよ」
「わかっています。あなたは一度言ったことを取り下げるような真似をしない、そういう方だと今の戦いぶりを見てわかりました」
「知ったような口を……!」
ファウナは身構える。そのまま雷を撃ち込む体制に入る。
「どかなければあなたもまとめて処刑しますよ?」
最後の警告だと言わんばかりに発する。
「かまいません」
ただ、それでもミリアは一歩も退かない。
「ただ、この生命に代えても彼女だけは守り通します!」
「………………」
聞き届けたファウナは振り上げた腕を下ろす。
「あなたの信念は敬意に値します。それに免じて処刑の刻まで生かしておくことにします」
ファウナはそう言って壇上から去っていく。
「……助かりました。恐ろしい方でした」
ミリアは安堵の息をつく。
ピタピタ
腕から血が滴り落ちる。
「お、おい、大丈夫か!?」
たまらず火星人の男性が壇上に上がって容体を診る。
「……はい」
「俺は医者だ。待ってな、今止血を……くそ、包帯がねえ! 誰か、包帯を! このままだと血が止まらねえ!!」
「私よりもエリスを」
「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ!」
火星人達はそわそわする。
なんとか助けたい。が、着の身着のまま連行されてきたせいで包帯どころか一切の持ち物すらない。
「誰か、包帯を! 包帯をこの子に!」
医者が周囲を見渡して叫ぶ。
「俺が用意してやるよ」
突然、壇上に白衣を着こんだ初老の男性が言ってくれる。
「俺も医者だ。包帯なら俺が巻いてやるぜ」
ニコリと白歯を見せて、ミリアへ包帯を巻く。
「嬢ちゃん、いい度胸してるぜ。気に入ったぜ」
「はあ、どうもありがとうございます。ですが、私よりエリスの治療をお願いしたいのですが?」
「なあに、そっちの嬢ちゃんもちゃんと手当してやるさ」
「それはよかった……です……」
バタリとミリアは意識を失って倒れた。
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サカキ カリイ
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ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
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