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第3章 リッター・デア・ヴェーヌス
第52話 ワルキューレ・グラール閉幕
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「……ハッ!」
デランが目が覚めた時、天井が見えた。
そして、自分がベッドに横たわっていることに気づく。
「目が覚めたね」
エドラが声をかけてくる。よく見ると、ダイチとミリア、それにフルートもいる。
「エドラ、ここは?」
「病室だよ」
エドラはあっさりと答える。
「んなもん、みりゃわかる。試合は? グラールはどうなったんだ?」
「落ち着いて、順番に答えるから」
エドラは手でまったのポーズをとる。
「試合はお前が勝った。凄かったよ」
ダイチが答える。
「ああ、勝ったのか……」
左手を握りしめ、デランは勝利の感触を確認する。
ああ、確かに勝った。夢じゃなくて現実だった。
「ただ、グラールの方は……」
ミリアは残念そうに言いながら、立体テレビをつける。
――勝者、ニラリス・ルラン!
激闘を制したニラリスが斧を掲げる。
『これにて本大会の優勝者はニラリス・ルランと致します』
『『『オオォォォォォォォォォッ!』』』
ヴィーナスの宣言とともに歓声が上がる。
「…………………」
デランはただ黙ってその様子を見ている。
「……そうか」
一言そういうだけで精一杯だった。
「その身体じゃ、準決勝は無理だって判断されてな」
「……ああ」
「妾はゆすったんじゃぞ! 起きよ、と! じゃが、お主は起きなかった!」
「フルート!」
フルートの訴えをダイチは止める。
「……ああ、わかってる。寝坊した、俺が悪いんだ」
不思議と悔しくなかった。
あの試合で全て出し尽くしたからかもしれない。
ただ心残りは確かにあった。
残っているワルキューレ・リッターの座はたった一つ。
それがこの大会で埋まるのだとしたら、自分はこれから何を目標にやっていけばいいのだろうか。
――平民のお前はずっと平民が相応しい運命だと思わないのか?
試合中のアングレスの問いかけがよぎる。
ああ、そうなのかもしれない。今なら肯定してしまいそうだ。
金星人の男として生まれた自分が、女でしかなれないワルキューレ・リッターになろうとしていたことは間違っていたのか。
「優勝おめでとうございます。ニラリス・ルラン卿」
天覧席にまで上がったニラリスにヴィーナスは祝辞を述べる。
「本大会ワルキューレ・グラールは私を守護する近衛騎士団ワルキューレ・リッターの団員を選定する為の大会です。皇騎士のあなたはそれに相応しい心・技・体を示してくれました」
「お言葉ですが、ヴィーナス様。それは違います」
礼の体勢のまま伏せていたニラリスは顔を上げ、ヴィーナスを見上げる。
「どう違うというのでしょうか?」
「私よりもワルキューレ・リッターの団員に相応しいものがいるということです」
ザワザワザワザワ……
ニラリスの一言に観客達がざわめき出す。
「ニラリス・ルラン卿、その団員に相応しい者とは一体?」
「それはみなもわかっていることでしょう?」
ニラリスはヴィーナス、ワルキューレ・リッターの面々、観客に向かって問いかける。
「その者の名はデラン・フーリスです!」
「「「…………………」」」
ニラリスが名前を告げると、観客は沈黙する。
しかし、異を唱える者はいなかった。
「トーナメントの組み合わせによって私はこうして優勝することができました。それもまた運命でしょう!
ですが、この大会はただ単に武を競うものでありません! ヴィーナス様がワルキューレ・リッターに相応しい騎士を選定するとともに、我等が金星の騎士の誇りと魂を、ヴィーナス様に、金星中のヒトビトに示すことが本来の目的です!
彼、デラン・フーリスはその誇りと魂を存分に見せてくれました。彼こそワルキューレ・リッターに相応しいと私は思います!!」
ニラリスの魂の訴えをヴィーナスはただ黙って聞き入った。そして、それは観客も同じだった。
「……ニラリス卿」
「ヴィーナス様、無礼を働き申し訳ありません。この処罰はいかようにも甘んじて受け……」
「――私も同じことを言おうと思っていました」
ニラリスの声を遮り、ヴィーナスは言う。
「みな、どうか聞いてください。ニラリス卿が言ったようにこのワルキューレ・グラールは金星の騎士の誇りと魂を示すことこそ真の目的です。その目的を最も果たしてくれたのはデラン・フーリスです。
本来であれば、彼こそワルキューレ・リッターに相応しいと私は思います。
――ですが、彼は優勝し、この場に立つことはなかった。
それは誇りと魂を示すには未だ不十分であった、と判断せざるをえません。この大会で最も相応しい者がそうであるのなら、残念ながら今回のワルキューレ・グラールでは不選出ということになります。
残り一つのワルキューレ・リッターの空席を埋める騎士の選出は次回のワルキューレ・グラールに持ち越し、と選定させていただきます」
『『『オオォォォォォォォォォッ!!』』』
歓声が聞こえてくる。
ヴィーナス、ニラリス、ワルキューレ・リッターの面々、そしてデランを称える声が聞こえてくる。
「………………」
デランはただただ黙ってそれを見入っていた。
「よかったな」
ダイチはようやく声をかけた。
「……ああ」
デランはただそれだけ応えた。
――デラン・フーリスはその誇りと魂を存分に見せてくれました
ニラリスがそう言ってくれて、ヴィーナスも認めてくれた。
得も言われぬ感動が込み上げてくる。
悔しさで涙を流したことは何度もあったが、嬉しさでこれほどの涙を流したことはない。
間違っていなかった。
俺が目指す道は間違っていなかったんだ。
金星中がそれを認め、称賛してくれたみたいだった。
暗い部屋の中で、アングレスは外套の男と会談していた。
「負けたか、あなたなら優勝できるとさえ思っていたんだけど」
「甘く見すぎた……俺の奢りが敗因だ」
「よくわかっているじゃない。私としてもデランの底力は計算外」
「君でもわからないことがあるんだ」
「私も全て知っているわけじゃない。全知というのは神の御業よ」
「たしかに……まあ、そんなことを話にきたんじゃないんだろ?」
「ええ、これであなたとの契約を打ち切ると伝えにきたんだ」
「なるほど」
アングレスは納得する。
「グラールに敗退した俺はもう用済みというわけか」
「そのとおりよ」
「はっきりというんだ」
「そうでも言わないと納得しないでしょ」
「確かにそうだが、それでも君の情報網を失うのは痛手だ」
「ごねてもダメよ。これは決定事項だから」
「残念だ。だったら最後くらい君の顔を見せてくれないか?」
外套は首を振る。
アングレスは即座に刀を振るう。
競技用の大剣ではなく、小ぶりの片手剣だ。威力は数段落ちるが、速度はグラールの大剣のそれよりも遥かに速い。
「――!」
それを外套はあっさりとかわして、後退する。
「それでは、ごきげんよう。
アングレス・バウハート・ポスオール皇子、あなたとの取引、嫌いじゃなかったわ」
外套はそう言い残して、部屋を去る。
「………………」
アングレスは立ち尽くす。
負傷していたとはいえ、並の騎士を凌駕する速度で放った剣閃をあっさりとかわした。
「グラールに参加していた騎士よりも速い……おそらくそのチカラも……ハハ、まいったな、とんでもない謎を残していったな……」
「今回のグラールもフェストも波乱続きでしたね」
ヴィーナスは椅子に腰掛けて一息つく。
「はい、ヴィーナス様はよくお働きになりました」
「ありがとうございます。あなたにねぎらいの言葉をいただくと嬉しいものです」
ヴィーナスはアグライアに礼を言う。
今この部屋の中には二人しかいない。もし周囲にヒトがいたら、皇が一介の騎士にそんな言葉をかけるとは軽率じゃないかと非難するヒトもいるかもしれない。
しかし、ヴィーナスはそんな非難もそよ風のごとく流して、アグライアに詰め寄るだろう。
「ですが、ごめんなさい」
「……え?」
「あなたが目をかけていた少年をワルキューレ・リッターに引き入れてあげられなくて……」
「いえ、あれが最適な判断でした。ワルキューレ・リッター加入は実力で勝ち取るものです、慈悲で与えられるようなものでは決してありませんから」
「そうですね。あなたも実力で勝ち取りましたからね。トリアに手ほどきを受けていた頃が懐かしいです」
「お恥ずかしい話です」
「私には誇らしいことです」
「……彼は立派な騎士になれるでしょうか?」
アグライアはヴィーナスに訊く。
「それは、あなたの方がよくわかっているでしょう」
と、ずるい返事をもらった。
デランはいずれワルキューレ・リッターになれる。それは確信に近いものを感じているが、時々揺らぐことがある。
「わかっています、不安なのでしょ?」
「……はい」
ヴィーナスはフフッと笑う。本当にヒトが悪い皇だ、とアグライアは思った。
「今のあなたはまるで、あのときの私みたいですよ」
「私がヴィーナス様みたいに?」
「そうです。騎士になるために突然孤児院を飛び出して、次に会った時は宮殿でトリアの紹介でしたんですよ」
「……それは」
「私がどれほど心配したかも気もしらないで」
「……すみません」
「ですが、その後ちゃんと夢を叶えてワルキューレ・リッターとして私の前に現れてくれたことがどれほど嬉しかったことか」
ヴィーナスはアグライアを抱きしめる。
「ヴィーナス様……」
「デランのことも心配いりませんよ。昔のあなたのように見事期待に応えてくれるでしょう」
「そうですね……ありがとうございます、ヴィーナス様」
ピーピーピー
呼び出し音が鳴る。
「どなたでしょうか?」
ヴィーナスはさっとアグライアを離して、モニターで来訪者を確認する。
「レダですか。どうかお入りください」
「失礼します」
レダは一礼して入ってくる。
「何かわかったことがありますか?」
「はい。木星大使の一子アングレス・バウハートに関しまして集まった情報の報告へ参りました」
「仕事が速いですね」
頼もしさを感じつつ、ヴィーナスは報告を聞く。
「アングレス・バウハートは木星大使ディバゼル・バウハートの実子ではありません。現在の木星皇ジュピター・アレイディオス・ポスオールの三四人の子の一人です」
「なるほど、やはりそうでしたか。ケラウノスを見たときにそうではないかと思いましたが」
「アングレス氏は子に恵まれなかった大使の養子として送り出されたそうです。木星の皇位を継ぐつもりだった彼が金星にやってこさせられたのはさぞ不本意だったでしょうね」
「そうですね。私からしても母から突然木星に行けと言われたら黙ってはいませんからね」
「同情してるんですか?」
「……どうでしょうか」
ヴィーナスは微笑むだけであった。
「ですが、彼は相当な野心家だったのでしょうね。ワルキューレ・リッターの一員になることを踏み台程度にしか思っていないようでしたから」
「許し難い話です」
レダは怒りをにじませた声で言う。
「彼は私達騎士の誇りと魂を踏みにじった。どうか相応しい制裁を下すべきです」
「……それは……」
「彼を出場したアルヴヘイムも同様に処罰を」
「レダ、申し訳ございません」
「何故謝るのですか?」
「あなたが、いえ金星の民が望むような制裁を下すことが出来ないからです」
「何故です!?」
レダはテーブルを叩いて抗議する。
「レダ卿、落ち着いてください」
「アグライア、これが落ち着いていられるものですか!」
「レダ、私とて今回の件を木星政府に制裁を下すべきだとは思いますが」
「でしたら、どうして?」
「今木星と事を構えるわけにはいかないのです。下手に刺激すればまた一戦交えることになります」
「それでも構わないと思いますが」
「……レダ、冷静なあなたらしくありませんね
「……そうでしょうか?」」
「ええ、鏡を見てください。今の目が血走っています。美しくありませんよ」
ヴィーナスは手鏡でレダの顔を映す。
「………………」
レダは無言で手鏡に映った自分の顔を見る。
「おっしゃるとおりです。少々平静を欠きました。
……ですが、やはり納得はいきません」
「ええ、そうでしょうね」
「おそらく、民衆も納得しませんよ」
「ですが、これが私は最良かと思います」
「それでは、いつまで経っても木星領を返還することなんてできませんよ」
レダの一言がヴィーナスの胸を容赦なく突き刺しているようにアグライアは感じた。
「私が言いたいのはそれだけです。失礼します」
レダは一礼して、王室を去る。
「……フフ、手厳しい言葉をいただきました」
ヴィーナスは笑って言うが、どこか明るさが欠けていた。
「あなたも同じ意見ですか?」
「……はい」
アグライアは心苦しさを覚えつつも、正直に答えた。
「両親を殺した木星人が憎いのですか?」
「いえ、顔も知らない両親です。本当にいるかもわからない両親を殺した相手を憎んでも仕方がないでしょう」
「そう……そうですか」
「それに、私にとって家族は……――先代ヴィーナス様とあなた様と孤児院の皆です」
「ありがとうございます。そう言っていただければ孤児院を建てた母上も喜ぶことでしょう。……ですが」
ヴィーナスは立ち上がり、再びアグライアを抱きしめる。
「ヴィーナス様?」
「フフ、こうしていると落ち着きます」
「……私もです」
「明日からまた忙しくなるでしょうね。ですから今夜だけはこうしてゆっくりとしていいですか?」
「構いませんよ。ヴィーナス様の皇の重責は一人で背負うにはあまりにも重すぎます。せめてこうして支えになるのであれば光栄です」
「ありがとうございます」
フェストもグラールも終わり、祭は終焉を迎える。
エリス達はラウゼンの工房に、ダイチ達はエインヘリアルにそれぞれ戻った。
帰ったきた明るい晩、すぐに通信を入れる。
「こっちは優勝したわ!」
とエリスは自慢げにトロフィーを見せてくれた。
そこからイクミの大会の模様を熱を込めて懇切丁寧に解説してくれた。
「金星と木星の技術を併せ持った新しいマシンノイドか……」
『凄い機体やったで。なにせ二つの星の機体のいいとこどりやからな』
「ああ、話を聞くだけでもすごそうだな。エリスはよく勝ったな」
『かなり無茶しはったで。何しろブーストにブーストを重ねてようやく勝利やからな』
「はは、エリスらしいな」
『あんたんとこはどうだったのよ?』
エリスが覗き込んで聞いてくる。
「ああ、俺達の方はデランが頑張ったよ。木星人をぶっ倒してな」
『木星人ね……なんかそっちもそっちで凄いこと起きてたみたいね』
「ああ、凄いなんてものじゃなかったぜ」
『その話は、木星行きの便の中で詳しく聞かせて貰おうかしら』
「木星行き?」
『ああ、もうこっちの目的は果たしたからな。エリスもいい義手を作ってもらったし、いよいよ天王星に行こうかって話や』
「そういうことか」
ダイチは納得する。
元々、金星には腕のいいマイスターにエリスの義手を見繕ってもらうのが目的だった。色々あって随分遠回りしたような気がするが、これで目的を果たしたのだから当初の目的通り、木星を経由して天王星に向かい、エリスの腕やミリアの足の手がかりを探しにいく。
「そうと決まったら、グズグズしてはいられませんね」
『ねえ?』
エリスは真剣な眼差しで問いかけてくる。
『あんた達は別についてこなくていいのよ』
「はあ、何言ってるんだ?」
『そのまま、そっちで楽しく学生やっててもいいんじゃないのってことよ』
「……いや、何言ってるんだ?」
『同じ事言わせないで!』
エリスは怒る。
「いや、悪かった。なんでそういうことになるのかってことなんだけど」
「気遣ってくれてるんですよ、エリスは」
『………………』
ミリアに言われて、エリスは黙る。
「らしくないですよ。ダイチさんはエリスについていく気満々なのに」
『いいわけ? 私に付き合うよりそっちで学生やってた方がいいんじゃないの?』
エリスに訊かれて、ダイチは呆れた。
ミリアの言うとおり、本当にらしくない。と、そう思った。
「なんでそうなるんだよ。俺の行く道は俺が決める。留学だって力をつけてお前の手助けできるようになるために決めたんだぞ」
『別に私は手助けなんて必要ないけどね』
「そうか? まあ、俺が勝手に助けたいって思ったんだ。その目的ぐらい果たさせろよ」
『……ああ、そう。勝手にすれば』
「なんかエリス。怒ってないか?」
「あれは照れてるんですよ」
『ちょっとそこ! 誰が照れてるですって!』
ダイチはギョッとする。ああ、これはとばっちりにニ、三発は殴られるな、と、ダイチは覚悟した。
『まあまあエリス。落ち着きなって。
そんなわけで、木星行きの便はとっておいたから宇宙港で会おうか』
「ああ、教官達には話を済ませておくよ」
『頼むで~遅刻は厳禁やからな!』
「わかってるって!」
ダイチがそう答えて、通話を切る。
「ふむ、そうなるとこの学園ともお別れじゃな」
「ああ、そうなるな。
善は急げだ、早くパプリア教官を見つけて話を……」
ダイチは立ち上がると、デランが目に入る。
「話は聞いたぜ」
「デラン?」
「お前ら、学園を出ていくのか?」
「ああ、元々短期の留学予定だったしな。エリス達の目的も果たしたみたいだし、次は木星に行くんだ」
「そ、そうか……」
デランは落ち着かない様子で生返事する。
「何か言いたいことがあるんですか?」
ミリアに問いかけられて、デランは一瞬驚くが、すぐに意を決して話を切り出す。
「……実はお前等に頼みたいことがあるんだ」
デランが目が覚めた時、天井が見えた。
そして、自分がベッドに横たわっていることに気づく。
「目が覚めたね」
エドラが声をかけてくる。よく見ると、ダイチとミリア、それにフルートもいる。
「エドラ、ここは?」
「病室だよ」
エドラはあっさりと答える。
「んなもん、みりゃわかる。試合は? グラールはどうなったんだ?」
「落ち着いて、順番に答えるから」
エドラは手でまったのポーズをとる。
「試合はお前が勝った。凄かったよ」
ダイチが答える。
「ああ、勝ったのか……」
左手を握りしめ、デランは勝利の感触を確認する。
ああ、確かに勝った。夢じゃなくて現実だった。
「ただ、グラールの方は……」
ミリアは残念そうに言いながら、立体テレビをつける。
――勝者、ニラリス・ルラン!
激闘を制したニラリスが斧を掲げる。
『これにて本大会の優勝者はニラリス・ルランと致します』
『『『オオォォォォォォォォォッ!』』』
ヴィーナスの宣言とともに歓声が上がる。
「…………………」
デランはただ黙ってその様子を見ている。
「……そうか」
一言そういうだけで精一杯だった。
「その身体じゃ、準決勝は無理だって判断されてな」
「……ああ」
「妾はゆすったんじゃぞ! 起きよ、と! じゃが、お主は起きなかった!」
「フルート!」
フルートの訴えをダイチは止める。
「……ああ、わかってる。寝坊した、俺が悪いんだ」
不思議と悔しくなかった。
あの試合で全て出し尽くしたからかもしれない。
ただ心残りは確かにあった。
残っているワルキューレ・リッターの座はたった一つ。
それがこの大会で埋まるのだとしたら、自分はこれから何を目標にやっていけばいいのだろうか。
――平民のお前はずっと平民が相応しい運命だと思わないのか?
試合中のアングレスの問いかけがよぎる。
ああ、そうなのかもしれない。今なら肯定してしまいそうだ。
金星人の男として生まれた自分が、女でしかなれないワルキューレ・リッターになろうとしていたことは間違っていたのか。
「優勝おめでとうございます。ニラリス・ルラン卿」
天覧席にまで上がったニラリスにヴィーナスは祝辞を述べる。
「本大会ワルキューレ・グラールは私を守護する近衛騎士団ワルキューレ・リッターの団員を選定する為の大会です。皇騎士のあなたはそれに相応しい心・技・体を示してくれました」
「お言葉ですが、ヴィーナス様。それは違います」
礼の体勢のまま伏せていたニラリスは顔を上げ、ヴィーナスを見上げる。
「どう違うというのでしょうか?」
「私よりもワルキューレ・リッターの団員に相応しいものがいるということです」
ザワザワザワザワ……
ニラリスの一言に観客達がざわめき出す。
「ニラリス・ルラン卿、その団員に相応しい者とは一体?」
「それはみなもわかっていることでしょう?」
ニラリスはヴィーナス、ワルキューレ・リッターの面々、観客に向かって問いかける。
「その者の名はデラン・フーリスです!」
「「「…………………」」」
ニラリスが名前を告げると、観客は沈黙する。
しかし、異を唱える者はいなかった。
「トーナメントの組み合わせによって私はこうして優勝することができました。それもまた運命でしょう!
ですが、この大会はただ単に武を競うものでありません! ヴィーナス様がワルキューレ・リッターに相応しい騎士を選定するとともに、我等が金星の騎士の誇りと魂を、ヴィーナス様に、金星中のヒトビトに示すことが本来の目的です!
彼、デラン・フーリスはその誇りと魂を存分に見せてくれました。彼こそワルキューレ・リッターに相応しいと私は思います!!」
ニラリスの魂の訴えをヴィーナスはただ黙って聞き入った。そして、それは観客も同じだった。
「……ニラリス卿」
「ヴィーナス様、無礼を働き申し訳ありません。この処罰はいかようにも甘んじて受け……」
「――私も同じことを言おうと思っていました」
ニラリスの声を遮り、ヴィーナスは言う。
「みな、どうか聞いてください。ニラリス卿が言ったようにこのワルキューレ・グラールは金星の騎士の誇りと魂を示すことこそ真の目的です。その目的を最も果たしてくれたのはデラン・フーリスです。
本来であれば、彼こそワルキューレ・リッターに相応しいと私は思います。
――ですが、彼は優勝し、この場に立つことはなかった。
それは誇りと魂を示すには未だ不十分であった、と判断せざるをえません。この大会で最も相応しい者がそうであるのなら、残念ながら今回のワルキューレ・グラールでは不選出ということになります。
残り一つのワルキューレ・リッターの空席を埋める騎士の選出は次回のワルキューレ・グラールに持ち越し、と選定させていただきます」
『『『オオォォォォォォォォォッ!!』』』
歓声が聞こえてくる。
ヴィーナス、ニラリス、ワルキューレ・リッターの面々、そしてデランを称える声が聞こえてくる。
「………………」
デランはただただ黙ってそれを見入っていた。
「よかったな」
ダイチはようやく声をかけた。
「……ああ」
デランはただそれだけ応えた。
――デラン・フーリスはその誇りと魂を存分に見せてくれました
ニラリスがそう言ってくれて、ヴィーナスも認めてくれた。
得も言われぬ感動が込み上げてくる。
悔しさで涙を流したことは何度もあったが、嬉しさでこれほどの涙を流したことはない。
間違っていなかった。
俺が目指す道は間違っていなかったんだ。
金星中がそれを認め、称賛してくれたみたいだった。
暗い部屋の中で、アングレスは外套の男と会談していた。
「負けたか、あなたなら優勝できるとさえ思っていたんだけど」
「甘く見すぎた……俺の奢りが敗因だ」
「よくわかっているじゃない。私としてもデランの底力は計算外」
「君でもわからないことがあるんだ」
「私も全て知っているわけじゃない。全知というのは神の御業よ」
「たしかに……まあ、そんなことを話にきたんじゃないんだろ?」
「ええ、これであなたとの契約を打ち切ると伝えにきたんだ」
「なるほど」
アングレスは納得する。
「グラールに敗退した俺はもう用済みというわけか」
「そのとおりよ」
「はっきりというんだ」
「そうでも言わないと納得しないでしょ」
「確かにそうだが、それでも君の情報網を失うのは痛手だ」
「ごねてもダメよ。これは決定事項だから」
「残念だ。だったら最後くらい君の顔を見せてくれないか?」
外套は首を振る。
アングレスは即座に刀を振るう。
競技用の大剣ではなく、小ぶりの片手剣だ。威力は数段落ちるが、速度はグラールの大剣のそれよりも遥かに速い。
「――!」
それを外套はあっさりとかわして、後退する。
「それでは、ごきげんよう。
アングレス・バウハート・ポスオール皇子、あなたとの取引、嫌いじゃなかったわ」
外套はそう言い残して、部屋を去る。
「………………」
アングレスは立ち尽くす。
負傷していたとはいえ、並の騎士を凌駕する速度で放った剣閃をあっさりとかわした。
「グラールに参加していた騎士よりも速い……おそらくそのチカラも……ハハ、まいったな、とんでもない謎を残していったな……」
「今回のグラールもフェストも波乱続きでしたね」
ヴィーナスは椅子に腰掛けて一息つく。
「はい、ヴィーナス様はよくお働きになりました」
「ありがとうございます。あなたにねぎらいの言葉をいただくと嬉しいものです」
ヴィーナスはアグライアに礼を言う。
今この部屋の中には二人しかいない。もし周囲にヒトがいたら、皇が一介の騎士にそんな言葉をかけるとは軽率じゃないかと非難するヒトもいるかもしれない。
しかし、ヴィーナスはそんな非難もそよ風のごとく流して、アグライアに詰め寄るだろう。
「ですが、ごめんなさい」
「……え?」
「あなたが目をかけていた少年をワルキューレ・リッターに引き入れてあげられなくて……」
「いえ、あれが最適な判断でした。ワルキューレ・リッター加入は実力で勝ち取るものです、慈悲で与えられるようなものでは決してありませんから」
「そうですね。あなたも実力で勝ち取りましたからね。トリアに手ほどきを受けていた頃が懐かしいです」
「お恥ずかしい話です」
「私には誇らしいことです」
「……彼は立派な騎士になれるでしょうか?」
アグライアはヴィーナスに訊く。
「それは、あなたの方がよくわかっているでしょう」
と、ずるい返事をもらった。
デランはいずれワルキューレ・リッターになれる。それは確信に近いものを感じているが、時々揺らぐことがある。
「わかっています、不安なのでしょ?」
「……はい」
ヴィーナスはフフッと笑う。本当にヒトが悪い皇だ、とアグライアは思った。
「今のあなたはまるで、あのときの私みたいですよ」
「私がヴィーナス様みたいに?」
「そうです。騎士になるために突然孤児院を飛び出して、次に会った時は宮殿でトリアの紹介でしたんですよ」
「……それは」
「私がどれほど心配したかも気もしらないで」
「……すみません」
「ですが、その後ちゃんと夢を叶えてワルキューレ・リッターとして私の前に現れてくれたことがどれほど嬉しかったことか」
ヴィーナスはアグライアを抱きしめる。
「ヴィーナス様……」
「デランのことも心配いりませんよ。昔のあなたのように見事期待に応えてくれるでしょう」
「そうですね……ありがとうございます、ヴィーナス様」
ピーピーピー
呼び出し音が鳴る。
「どなたでしょうか?」
ヴィーナスはさっとアグライアを離して、モニターで来訪者を確認する。
「レダですか。どうかお入りください」
「失礼します」
レダは一礼して入ってくる。
「何かわかったことがありますか?」
「はい。木星大使の一子アングレス・バウハートに関しまして集まった情報の報告へ参りました」
「仕事が速いですね」
頼もしさを感じつつ、ヴィーナスは報告を聞く。
「アングレス・バウハートは木星大使ディバゼル・バウハートの実子ではありません。現在の木星皇ジュピター・アレイディオス・ポスオールの三四人の子の一人です」
「なるほど、やはりそうでしたか。ケラウノスを見たときにそうではないかと思いましたが」
「アングレス氏は子に恵まれなかった大使の養子として送り出されたそうです。木星の皇位を継ぐつもりだった彼が金星にやってこさせられたのはさぞ不本意だったでしょうね」
「そうですね。私からしても母から突然木星に行けと言われたら黙ってはいませんからね」
「同情してるんですか?」
「……どうでしょうか」
ヴィーナスは微笑むだけであった。
「ですが、彼は相当な野心家だったのでしょうね。ワルキューレ・リッターの一員になることを踏み台程度にしか思っていないようでしたから」
「許し難い話です」
レダは怒りをにじませた声で言う。
「彼は私達騎士の誇りと魂を踏みにじった。どうか相応しい制裁を下すべきです」
「……それは……」
「彼を出場したアルヴヘイムも同様に処罰を」
「レダ、申し訳ございません」
「何故謝るのですか?」
「あなたが、いえ金星の民が望むような制裁を下すことが出来ないからです」
「何故です!?」
レダはテーブルを叩いて抗議する。
「レダ卿、落ち着いてください」
「アグライア、これが落ち着いていられるものですか!」
「レダ、私とて今回の件を木星政府に制裁を下すべきだとは思いますが」
「でしたら、どうして?」
「今木星と事を構えるわけにはいかないのです。下手に刺激すればまた一戦交えることになります」
「それでも構わないと思いますが」
「……レダ、冷静なあなたらしくありませんね
「……そうでしょうか?」」
「ええ、鏡を見てください。今の目が血走っています。美しくありませんよ」
ヴィーナスは手鏡でレダの顔を映す。
「………………」
レダは無言で手鏡に映った自分の顔を見る。
「おっしゃるとおりです。少々平静を欠きました。
……ですが、やはり納得はいきません」
「ええ、そうでしょうね」
「おそらく、民衆も納得しませんよ」
「ですが、これが私は最良かと思います」
「それでは、いつまで経っても木星領を返還することなんてできませんよ」
レダの一言がヴィーナスの胸を容赦なく突き刺しているようにアグライアは感じた。
「私が言いたいのはそれだけです。失礼します」
レダは一礼して、王室を去る。
「……フフ、手厳しい言葉をいただきました」
ヴィーナスは笑って言うが、どこか明るさが欠けていた。
「あなたも同じ意見ですか?」
「……はい」
アグライアは心苦しさを覚えつつも、正直に答えた。
「両親を殺した木星人が憎いのですか?」
「いえ、顔も知らない両親です。本当にいるかもわからない両親を殺した相手を憎んでも仕方がないでしょう」
「そう……そうですか」
「それに、私にとって家族は……――先代ヴィーナス様とあなた様と孤児院の皆です」
「ありがとうございます。そう言っていただければ孤児院を建てた母上も喜ぶことでしょう。……ですが」
ヴィーナスは立ち上がり、再びアグライアを抱きしめる。
「ヴィーナス様?」
「フフ、こうしていると落ち着きます」
「……私もです」
「明日からまた忙しくなるでしょうね。ですから今夜だけはこうしてゆっくりとしていいですか?」
「構いませんよ。ヴィーナス様の皇の重責は一人で背負うにはあまりにも重すぎます。せめてこうして支えになるのであれば光栄です」
「ありがとうございます」
フェストもグラールも終わり、祭は終焉を迎える。
エリス達はラウゼンの工房に、ダイチ達はエインヘリアルにそれぞれ戻った。
帰ったきた明るい晩、すぐに通信を入れる。
「こっちは優勝したわ!」
とエリスは自慢げにトロフィーを見せてくれた。
そこからイクミの大会の模様を熱を込めて懇切丁寧に解説してくれた。
「金星と木星の技術を併せ持った新しいマシンノイドか……」
『凄い機体やったで。なにせ二つの星の機体のいいとこどりやからな』
「ああ、話を聞くだけでもすごそうだな。エリスはよく勝ったな」
『かなり無茶しはったで。何しろブーストにブーストを重ねてようやく勝利やからな』
「はは、エリスらしいな」
『あんたんとこはどうだったのよ?』
エリスが覗き込んで聞いてくる。
「ああ、俺達の方はデランが頑張ったよ。木星人をぶっ倒してな」
『木星人ね……なんかそっちもそっちで凄いこと起きてたみたいね』
「ああ、凄いなんてものじゃなかったぜ」
『その話は、木星行きの便の中で詳しく聞かせて貰おうかしら』
「木星行き?」
『ああ、もうこっちの目的は果たしたからな。エリスもいい義手を作ってもらったし、いよいよ天王星に行こうかって話や』
「そういうことか」
ダイチは納得する。
元々、金星には腕のいいマイスターにエリスの義手を見繕ってもらうのが目的だった。色々あって随分遠回りしたような気がするが、これで目的を果たしたのだから当初の目的通り、木星を経由して天王星に向かい、エリスの腕やミリアの足の手がかりを探しにいく。
「そうと決まったら、グズグズしてはいられませんね」
『ねえ?』
エリスは真剣な眼差しで問いかけてくる。
『あんた達は別についてこなくていいのよ』
「はあ、何言ってるんだ?」
『そのまま、そっちで楽しく学生やっててもいいんじゃないのってことよ』
「……いや、何言ってるんだ?」
『同じ事言わせないで!』
エリスは怒る。
「いや、悪かった。なんでそういうことになるのかってことなんだけど」
「気遣ってくれてるんですよ、エリスは」
『………………』
ミリアに言われて、エリスは黙る。
「らしくないですよ。ダイチさんはエリスについていく気満々なのに」
『いいわけ? 私に付き合うよりそっちで学生やってた方がいいんじゃないの?』
エリスに訊かれて、ダイチは呆れた。
ミリアの言うとおり、本当にらしくない。と、そう思った。
「なんでそうなるんだよ。俺の行く道は俺が決める。留学だって力をつけてお前の手助けできるようになるために決めたんだぞ」
『別に私は手助けなんて必要ないけどね』
「そうか? まあ、俺が勝手に助けたいって思ったんだ。その目的ぐらい果たさせろよ」
『……ああ、そう。勝手にすれば』
「なんかエリス。怒ってないか?」
「あれは照れてるんですよ」
『ちょっとそこ! 誰が照れてるですって!』
ダイチはギョッとする。ああ、これはとばっちりにニ、三発は殴られるな、と、ダイチは覚悟した。
『まあまあエリス。落ち着きなって。
そんなわけで、木星行きの便はとっておいたから宇宙港で会おうか』
「ああ、教官達には話を済ませておくよ」
『頼むで~遅刻は厳禁やからな!』
「わかってるって!」
ダイチがそう答えて、通話を切る。
「ふむ、そうなるとこの学園ともお別れじゃな」
「ああ、そうなるな。
善は急げだ、早くパプリア教官を見つけて話を……」
ダイチは立ち上がると、デランが目に入る。
「話は聞いたぜ」
「デラン?」
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「ああ、元々短期の留学予定だったしな。エリス達の目的も果たしたみたいだし、次は木星に行くんだ」
「そ、そうか……」
デランは落ち着かない様子で生返事する。
「何か言いたいことがあるんですか?」
ミリアに問いかけられて、デランは一瞬驚くが、すぐに意を決して話を切り出す。
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