オービタルエリス

jukaito

文字の大きさ
上 下
51 / 104
第3章 リッター・デア・ヴェーヌス

第46話 ワルキューレ・グラール開会

しおりを挟む
 時間はテクニティスフェストが始まる前に遡る。
 エリス達と別れた後、ダイチ、ミリア、フルートはコロッセウムに入場する。ワルキューレを決める為の選定の闘技大会――ワルキューレ・グラールを観戦するために。
 金星最強の騎士団の一員を決める選定の大会の会場だけあって、質実剛健という言葉が似合う闘技場の外観であり、壁の大理石がやや色あせているが逆にそれが歴史の重みを感じさせる。
 そして、これからこのコロッセウムでその騎士の選定をするための激しい戦いが行われるのかと思うと、自分が戦うわけでもないのに身が引き締まる想いがしてくる。

「ほれ、さっさといくぞ!」

 フルートに後押しされたことで、気後れが少し和らいだ。

「ダイチさんが出場するわけじゃありませんから」

 ミリアは遠慮なく言ってくる。

「あ、ああ、そうだな」

 いくら本当のことだからって他にも言い様があるんじゃないかとも思うが、仕方ないと思った。
 コロッセウムは見た目から大きいせいか、外周にも様々な施設が揃っている。その為、迷いやすい。

「ちゃんと使いこなせるようにしてください」
「ああ、すまねえ」

 会場マップのデータを端末に入れて、目的地まで案内してもらう。ここまでの手順がどうにも要領が掴めなかった。

「こっちだ」
「うむ! では、デランの激励にゆくぞ!」
「なるべく静かにしてろよ。緊張しているんだから刺激しないようにな」
「わかっておるわ!」

 フルートは胸をドンと叩く。本当にわかっているのかとダイチは不安になった。
 出場選手の控室まで案内してくれる。途中、セキュリティチェックが入ったが、ダイチ達は一応選手関係者ということで、パスを通れた。
 チェックを通った先に、控室の扉が立ち並んでいる。
 その中から『デラン・フリース』という札を見つける。

「デラン、俺だ」
『ああ、入れ』

 扉越しからスピーカーでデランの声が答えてくれ、扉が開く。

「よう、祭りはどうだった?」

 デランは緊張しているわけでもなく、陽気に訊いてくる。

「楽しかったぜ。ミリアなんか、屋台のメシ両手に抱えまくってな」
「ああ、目に浮かぶわ」
「とてもおいしかったです」

 ミリアはその時食べた料理の味を思い出してうっとりとする。

「そんなに美味かったんなら俺にも土産によこせよ」
「そりゃすまんかった……こいつが全部食っちまった」
「マジかよ……腹ごしらえにちょっとぐらい欲しかったんだが……」
「申し訳ありません。試合が始まる前までに差し入れを持ってきます」
 ミリアは部屋を出ようとする。
「いや待て。お前運んでいる最中にまた食うだろ」
 ダイチはそれを止める。
「あ、バレましたか」
「バレるわ! っていうか、やっぱり食うつもりだったんか!」
「そりゃ……屋台のお料理はおいしいですから」
「いや、そういうことじゃなくてな……」
 ダイチとミリアのやり取りを見て、デランは笑う。
「ああ、なんかお前らのバカな会話聞いてたら、なんかリラックスできたぜ」
「そ、そうか……こいつが好き放題やってるだけなのに……?」
「いいぜ。おかげで俺も好き放題やれそうだからな」
 デランは満足げに言って、剣を一振りする。
「へへ!」
「絶好調か」
「ああ、今なら本物のワルキューレ・リッターが出てきても勝てるぜ!」
「それじゃ、安心だ。優勝してワルキューレ・リッターに入れよ」
「ああ!」
 デランとダイチは微笑みを交わす。

――まもなくワルキューレ・グラール第一回戦を開始します。選手の皆様は入場門に集合ください!

 そんな時、アナウンスが流れる。
「そんじゃ、行くか!」
「頑張ってこいよ」
「ああ!」
 デランはそれだけ答えて入場門へ向かっていく。
「さて、私達も急ぎませんと」
「開会式に遅れてしまうからな!」
 ダイチ達は観客席へと向かう。



 コロッセウムの観客席は広く、何万という観客が埋め尽くし、熱狂に包まれている。
「すげえな!」
「金星中が注目する大会でありますからね」
「しかし、祭りの最中も思ったが、ヒトの数が凄いのう! 見る端からヒト! ヒト! ヒト! じゃな!」
「ああ、まるでオリンピックみたいだ」
「おりんぴっく?」
 ミリアとフルートは揃って、首を傾げる。
「地球のことだ。また話すよ」
 そう言って、ダイチはコロッセウムの中心に設置され*た武舞台を眼下に見下ろす。
(いや、実際俺は見たこと無いんだよな……ここまですげえのは初めてだ)
 そう思うとダイチは何か心の内から湧き上がってくるものがあった。それは周囲のヒト達が当たり前のように持つもの、興奮だ。
 こんなに大勢の観客の前で、しかも金星最強の騎士団を選抜する大会で、あんなにも歴史ある立派な武舞台で、友達――デランが戦う。
 とても素晴らしく、とても誇らしいことじゃないか。

――選手入場!

 そして、友達は武舞台に立つ。
 同じように、この大会に優勝し、ワルキューレリッターに選抜されるために集まった養成学園の選抜生徒達、各地の騎士達の中で、彼は一際輝いていた。
「デランとエドラ以外は女か……」
 ダイチが言うように燦然と武舞台に並ぶ騎士達は、二人を除いて全て女性であった。
 能力に秀でた金星人はみな女という言葉を改めて思い知らされる。ただ、その中で男でありながら、いや男だからこそ強くなろうとするデランは尊敬に値する。
 勝って欲しい、優勝して欲しい。応援したいし、しないといけない。その為に自分はここにいるのだから。

――それでは、これより金星皇ヴィーナス・リブル・レイド様の開会の宣言を行います

 アナウンスが流れ、コロッセウム中の観客が天覧席を注目する。
 そこにヴィーナスはいた。神々しく眩い輝きと、両翼を彩るワルキューレ・リッターの騎士達が並び立ち、ヒトビトはその荘厳な雰囲気にただただ圧倒される。

「ワルキューレ・グラール――それは私、金星皇・ヴィーナスを守護する騎士を選定する大会です。
創世の時代から伝わる七つの武具をそれぞれに担う最も栄誉有る騎士団です。
不幸にも先の大戦でその半数が生命を落とし、長らくその座に着く者は現れず空席でした。
ですが、聖剣【ノートゥング】の担い手アグライア・エストールを筆頭に未来ある若者達の出現し、金星は黎明を迎え、栄華を極めるでありましょう。
此度のワルキューレ・グラールもその一つでありましょう。
皆の戦いによる輝きが、我が金星の未来を明るく照らしましょう。
そして、未だ空席である聖盾【スヴェル】に相応しい担い手・七人目のワルキューレ・リッターが現れるでしょう!」

「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」

「騎士達よ! 【エヴォリシオン】を呼び起こし、力の限り戦い、その輝きを私に見せてください!」

「「「オオオオオオオオオオオオッ!!!」」」

 ヴィーナスの綺羅びやかな声に寄って発せられる言葉は、コロッセウムの観客達の熱狂の渦を生んだ。そして、武舞台に立つ騎士達も静かに戦意を高め、熱気の一部となっていた。



 そして、選手達は散り、控室に戻る。試合に呼ばれるまでそこで待機となる。
「毎回緊張いたしますね」
 ヴィーナスは天藍席に座り、小さく一息つく。
「陛下、何故恐れながら一言物申したいのですが」
 アグライアは顔にわずかに不満の色を浮かべる。
「なんでしょうか? 貴方と私の仲ではないですか、遠慮などいりませんよ」
「それでは……――何故私の名前を出したのですか?」
 それを聞いて、デメトリアは密かにクスリと笑う。
「いけませんでしたか?」
「いえ、そういうわけではありませんが、わざわざ私を筆頭にすると他の者に示しがつかなくなります」
「私はそうは思いませんが」
 と、ミーファが口を挟む。
「別にアグライアが筆頭でも構わない」
 さらに、リノスが加わったことで、アグライアは頭を抱えることになった。
「と、他の騎士達の同意も得られましたよ」
 ヴィーナスもどことなく得意顔で、それがまた観客達の注目を集める。
「私は認めてなどおりませんが」
 ステファーがぼやく。
「アグライア、そうやって皆に認められているのだから誇らしくいればいい。そう不満を漏らすようでは逆にヴィーナス様へ示しがつかないぞ」
「デメトリア卿まで……わかりました。これも一つの誉れとして受け止めます」
 騎士の目標であり、尊敬するデメトリアからそう諭されてはアグライアももう反論できなかった。

――これより一回戦を開始致します!

 そこへアナウンスが流れる。
「いよいよ、始まりますか」
 ヴィーナスは期待の眼差しを武舞台へ向ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

そんなの知らない。自分で考えれば?

ファンタジー
逆ハーレムエンドの先は? ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

因果応報以上の罰を

下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。 どこを取っても救いのない話。 ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...