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第1章 開幕篇
第11話 冥皇の願い
しおりを挟む「うぐぅッ!?」
ダイチはソルダに蹴り飛ばされた。
「ダイチ!」
フルートは慌てて駆け寄る。その走りを遮るソルダはいなかった。
「いてて、生身におもいきりやりやがって……」
「大丈夫か?」
フルートは心配そうに見つめる。
「大丈夫だ、これぐらい!」
ダイチは立ち上がって、大丈夫なことをアピールする。
ただ状況は全然大丈夫ではなかった。四方からソルダが迫ってきている。地下街から地上に出たところを完全に待ち伏せされていたようで、逃げ道は無い。
どうするかと思案する最中、フルートは耳を手で覆った。その仕草は、耳を疑う、と表現するべきものだった。
「――「殺す」とな!」
フルートは何かを聞き取ったようだ。その必死な表情から、今の言葉の真実味を受けた。
「戯けた事を!」
フルートはそう吐き捨てるように言い放ち、目を黒く輝かせる。
その輝きは眩く、ソルダは瞬く間に包み込んだ。
「――ッ!?」
ソルダの躯体はフルートの発した黒い光によって砕かれていく。レーザー光線でも、爆弾でもなくただの光で何故ソルダが砕かれているのか理解しがたい光景だ。
だが、これは行なっているのは間違いなくフルートだということはわかった。ソルダを砕く黒い光を発せられる源はフルートにあるのだから。
「フルート!」
ダイチは思わず光を放ちながら前へと進む彼女の名を呼んだ。だが、彼女の耳に届いていないのかそこから微動だにしない。
フルートの背中姿が嫌が応にも見える。小さく吹けば飛んでしまいそうな弱々しい幼い身体を必死で立たせて、光を発するその姿はあまりにも痛々しかった。止められるものなら止めるべきだ。彼女はこんなことしていいヒトではないのだ。
「フルートォォォッ!!」
力の限り叫んだ。喉よ潰れてくれても構わないという想いを込めて。
だが、効果は無かった。無力だったのだ。そんな声で彼女は止まらなかった。
「く……」
「そぉ」と続けようとした言葉は身体と共に宙を舞った。
「グボォッ!?」
次の瞬間に地面を叩きつけられた。あまりに痛みと衝撃に吐血した。
「ダイチ!」
それでフルートは光を発するのをやめた。
皮肉なことに、最も出したくなかった悲鳴のおかげで届かなった声が彼女に届いたのだ。
――こいつがいればおとなしくなりそうだ
フルートの耳にはソルダ同士のみの通信を傍受する能力があった。だから、機密であろうと、暗号であろうと彼女には筒抜けなのであった。
だが、今回は逆に利用された。ダイチが聞こえず、フルートだけが聞こえていることをいいことに取引を持ちかけたのだ。
――プルート、この男の生命が惜しいか?
ソルダの操縦者の容赦無い言葉がくる。
「く……!」
フルートは立ちすくむしかなかった。
このまま戦えば、負けることはない。自分の能力に絶対の自負があるからこそ思えるし、相手もそう思っていることだろう。だから、ダイチを人質にした。
――このまま戦い続けたらこの男は死ぬ。
ダイチを守りながら戦うなんて芸当はさすがに無理だとフルートは悟っているからだ。
「妾が大人しくすればすむ、そういうことじゃな?」
――物分りがいい、では大人しくしてもらおう
フルートは拳を握り、肩を震わせ、目から溢れんばかりの涙を溜めている。
それがこぼれないように必死にこらえているのがダイチの目からでもよくわかった。
ダイチにはソルダの操縦者とフルートのやり取りは聞き取れなかった。故に何が起こったのかはわからない。ただ、少女がそこで立ちすくみ、全てを諦めたかのように、それでも抗うべき意志を持って、涙をこらえる。そんな姿だけ目に焼きついた。
目隠しされて、連行されたため、ここがどこなのかわからない。ただ体感した限りでは、少なくとも近い距離を移動したわけではなさそうだ。
ようやく目隠しが解かれて、ダイチが見えた光景は開かない扉と何の飾り気もない部屋だった。
「あいてて……好き放題やりやがって……!」
いなくなった敵に悪態をついた。ここに連れてこられるまでに殴るなり蹴るなりやられたので、身体の節々が痛んだ。
『そなた、頑丈よのう』
「フルート? そこにいるのか?」
『いいや、妾の能力じゃ』
そういえば、自分を味方するヒトしか聞き取れない声を発する能力があると言っていたが、それを使って声を自分の今いる場所に届かせているのか。
「便利な能力だな、ほんとに」
『なあに、ほんの通信機代わりじゃ』
フルートは自嘲気味に答える。
『すまんな、ダイチ。そなたをこんなことに巻き込んでしまって……』
「急に何言ってんだよ?」
『妾がそなたを頼りさえしなければ、こんな酷い目にあうことなどなかったということじゃ』
「これはお前のせいだっていうのか?」
『……そうじゃ』
吐き捨てるようにフルートは言った。だけど、ダイチはその返事を言葉通りには受け取れなかった。
「フルートのせいなんかじゃない。誰かに頼って、何が悪いっていうんだよ?」
『そなた、本気でそう思っておるのか?』
「冗談でこんなことが言えるか」
堂々とした返答がきて、フルートは黙り込む。
「むしろ、悪いのは俺の方だ」
あの時、フルートと連中でどういうやり取りがされていたのか、想像はつく。大方、このまま抵抗すれば自分を殺すと脅されたのだろう。あれだけの抵抗を見せたフルートが急におとなしくなる理由がそれだけしか考えつかない。
「悪かったな、足をひっぱちまって」
自分が無力だということを実感させられ、悔しさをにじませる。
『……そなた、いいやつじゃな。そなたになら話してもかまわぬかもしれない』
「話すって何をだ?」
フルートは少し躊躇う吐息を流してから答える。
『妾は本当の名前はプルートじゃ』
「プルート。その名前をどこかで……」
プルート……その名前を聞いた瞬間に、ある星の名前が浮かびかけたが、喉まで出かかって、そこで止まった。
『わからないのも無理はない……太陽系第9番目の惑星……いや、準惑星じゃったな』
フルートは自嘲気味に言う。ダイチは第9番目、準惑星という言葉を聞いて、喉まで出かかったその名を口にする。
「……冥王星」
『そう、冥王星じゃ』
『そう、冥王星じゃ』
フルートはフフッと笑みをつけて答える。
その口調には、か弱い印象は消え、凛々しいものになっていた。それはその名を持つべき者に相応しい堂々たる雰囲気であった。
『プルート……冥王星のトップに立つべき者に与えられる名前じゃ』
発せられたのは言葉、それまでのフルートの口調そのものであり、なおかつ重々しいものだった。それが事実であるのをダイチにわからせるための態度であった。
「そんな、馬鹿な……だってフルートは、まだ子供じゃないか!」
『子供とは失礼ぞな。それにそなたよりも遥かに年上じゃぞ』
ダイチは思い出す。進化し、惑星の環境に適応したヒトにとってその星の公転周期こそ一年になるのだと、わずか三ヶ月が水星人の一年に相当するってコロニーで聞いたばかりの話ではないか。
『妾は冥王星では四歳じゃが、冥王星でいう一年は地球基準でいうなら二四七年じゃ。そして、妾は生まれてから数えて千年になる』
「せ、千年……!?」
途方もない数字だ。その十分の一も生きれるかも定かではないダイチにとって、その歳月は想像もできない。それだけの時を小さな少女は生きてきたのだ、とするとなんだか恐れ多い気もしてきた。
『無論、妾がプルートの名を冠する理由はそれだけではない。冥王星人は子供が産めない……そう長らく言われてきた。地球人が冥王星に降り立ち、冥王星人になったとき、その血は次代へと受け継がれることなく絶えてしまう、と嘆いてきた……じゃから、じゃから妾が産まれた時、どれほど歓喜が星に沸き起こったことか……』
その一言にダイチは何も言えなかった。まるでその光景を全て目にしたかのような感慨を感じたからだ。
『そして、先代のプルートは告げたのじゃ。この子は冥王星人の血を継ぐ力を持った新しい冥王星人なのだと。故に皇であるプルートの名を与えるべき子なのだ、と』
聞こえてくるのは他ならないプルートの言葉であった。だが、それは先ほどまで聞いたフルートのそれではなく、今話に出たプルートそのものの威厳にあふれた声に聞こえた。
まるでその先代プルートがフルートの声を借りて話しているようだ。
『こうして妾は生まれながらにして冥皇プルートの名を与えられたのじゃ』
それだけ言い終えるとフルートは一息ついた。
『……どうじゃダイチ?』
フルートは問いかける。その口調は最初に聞いたフルートの、幼いながらも気が強く、しかし儚げなものであった。
『プルートである妾のことをどう思う?』
「……フルートのことか?」
『うむ。こんな子供がプルートなのじゃぞ、おかしかろう?』
フルートは自嘲している。一緒に笑って罵って欲しい、とそういう笑い方だった。
「別に……スケールが大きくて俺にはよくわからない……」
だけど、ダイチはそんな気にはなれなくて、そう答えるだけだった。地球を出たばかりの自分にとってあまりにも衝撃的なことばかりでどう受け止めていいか本当にわからないのだ。
『そうか……そうよのう……』
乾いた笑いが届く。期待通りの反応をしなかったことへの落胆かはわからない。でも言ってやりたいことはあった。
「ただ俺がわかることは……
――フルートが地球に行きたいってことだけだ」
思いもよらなかったものだったのだろう。フルートの驚く声が届いた。
「地球に行きたいんだろ? 味方が必要なぐらい行きたいところなんだろ?」
フルートは押し黙る。さっきまでの話を聞いてると、彼女はプルートという立場を嫌っている。だからこそ、権威に物言わせて味方を作るなんてことはしない。だから彼女には味方がいない。
今自分達を捕らえているのは彼女の身柄を確保することでその立場を利用しようとしている連中で、冥王星から出ればそういった勢力から狙われる立場であり、無事では済まない。彼女自身もそれをよく承知している。
でも、どうしても地球には行きたかった。一人の力ではどうしようもないとわかっていてもその想いは止められなかった。味方になりうるヒトがいれば、見知らぬヒトでもそれにしがみつかなければならないほど、その想いは強かった。
『……そうじゃ、地球をこの目で見たいのじゃ……』
搾り出したような声が聞こえる。
『父と母は何度も言っておった……もう一度地球をこの目で見たいと、妾にも見せたいと……そう、何度も……』
声に嗚咽が紛れていた。言うだけでもかなり辛そうな状態なのが聞き取れた。
『その二人が……もう二度と目にすることの出来なくなってしまった地球を……せめて、妾だけでも、見なくては……ならんのじゃ』
ダイチは理解する。フルートがどうして地球へ行きたいのか、その想いは確実に伝わってきた。拳を打ちつけ、全身を震わせる程に。行きたかったのだ。父と母の分まで。見たかったのだ。両親が夢焦がれた地球を。
たとえ、自分にとってそうまでする価値が見出せずとも、彼女にとってはそれだけの価値があるものなのだ。
そして、自分はその願いの妨げとなってしまった。フルートとソルダの操縦者達がどんなやり取りをしたのか、わからなかった。だが、あれだけの……プルートを与えられるに相応しいあの能力をもってすればあの場はやり過ごせたはずだ。それが出来なかったのは、自分がいたから。あの戦いに巻き込まれていたら無事じゃすまなかったし、今彼女が逃げ出さないのは間違いなくここに自分がいるからだ。他人を見捨てておけない、そういう優しさがあり、純粋だから連中に利用された。
許せなかった。そんな心情を利用する連中を。それよりも、それに利用された自分自身が彼女の足枷になってしまったことを。
だから、叶えてあげたい。そう一途に思った。他に願うこともなかったのだから、それだけを願ってもいいはずだとダイチは自分に言い聞かせた。
「……見ようぜ、地球を」
『……ダイチ?』
フルートは今言った言葉が信じられない。そんな心境で聞き間違いではなかったか、そう確かめるように呼びかけた。
「そなた、今なんと言ったのかわかっておるのか?」
「他の奴とも地球を見る約束はしているんだ。一緒に行こうってだけのことさ」
ダイチは立ち上がる。そうと決まればいつまでもこんなところでグズグズしていられない。
(何か……ここを脱出できるものが、あれば……!)
ダイチは自分の持ち物を探った。
(お守り……)
首周りに手を当てるとイクミがもらった首飾りの数珠があった。
こんなものが何の役に立つのかと思ったその時、ある会話が脳裏をよぎった。あれは今着ている服をミリアが仕立ててくれて、イクミに首飾りを手渡された時だった。
――これはウチからのプレゼントや
こんなもの、なんでくれるんだ? と返した。
――こんなものとは失礼やで。これはお守りなんや。その珠を一つとって、てっぺんの出っ張りを押してみ?
何が起きるんだ?
――爆発する
イクミは笑顔で即答する。その時は冗談だと思った。何をやってもおかしくなさそうな破天荒な性格をしているイクミであったが、さすがに首飾りに模した爆弾を持たせるなんてことはさすがにありえないだろうと考えた。
だが、今ならそんなありえないことでもすがらなければならないほど切羽詰っていた。首飾りの数珠をはずす。そして言われたとおり、珠を崩して、よくわからない出っ張りを押す。
これで爆発するんだなと思い、入口の方へ放り投げる。投げてから無意識にカウントダウンした。
その時、珠が光を放ち次の瞬間に爆音と爆風へと変貌する。
ダイチは呆然とその場に立ちすくんだ。まさか本当に爆弾を仕込んでいたなんて信じられないといった面持ちだ。
「あいつ……! こんなもん、プレゼントしてきやがって……! でも……!」
イクミに言いたいことは山ほどできて、今も口にしたい想いがこみ上げてきた。だがそれらの想いをぐっとこらえ、まず一番に言いたいことを切り開かれた出口に向かって言う。
「……助かった!」
その漏れ出る光へとダイチは走り出した。
どこの施設だかわからない廊下を走る。宇宙港で歩いた廊下を彩る電飾も装飾は一切無い。星のトップを連れ去るような連中なのだからそんな洒落っ気なんてないのだろう。とにかく、今はフルートがどこに監禁されているのか知ることだ。
「フルート、どこにいるんだ!?」
『そなた、脱出したのか!?』
驚くフルートの声が頭に響く。
「なんとかな、それでどこにいるんだ? 今からそこに行くから!」
『待つのじゃ、脱出できたのならそなた一人でここを出るのじゃ!』
「何言ってるんだ!? 俺一人脱出しても意味ねえだろ!」
『意味じゃと!?』
フルートがそう言うと、廊下の角から人影が見えた。ダイチはすかさず数珠のスイッチを押し、放り投げる。
心の中で数えてきっかり数珠は爆発する。威力は抜群で、これさえあればなんとかなると思えてきた。
「居場所を教えてくれ! 教えてくれないとしらみつぶしで探し回るぞ!」
『いかん、それはいかん!』
そう言わせることがダイチの目的だった。しらみつぶしを実行すれば、時間をかけすぎて確実に捕まるから普通はすぐに逃げる。だけどこの男ならやりかねないとフルートは思っていた。フルートを助けるためにどんなことでもしそうな勢いだからだ。そうなるとダイチはまたフルートのせいで捕まることになる。それはフルートの良心が許さなかった。
「だったら、場所を教えてくれ! 一直線でそこに向かうからよ!」
ダイチがそう言うとフルートは迷いを振り払う。いっそのこと居場所を教えてそこに一直線に向かわせた方がいい。そうすれば結果的にダイチは速く脱出する。フルートと一緒に、という最高の展開で。
何故か悔しそうに子供っぽい口調で言われた。フルートがそういう行動を必ずとるとわかった上でやっている。ヒトの心情を利用している点ではここの連中とさほど変わらない。だけど、それが不思議と心地良かった、フルートはどうしてこんな気持ちが沸き起こってくるのかわからなかったが、ダイチの言動に付き合おうと思った。
『妾が誘導するからちゃんときくのじゃぞ』
フルートはその後、ダイチに指示を出した。
右へ左へ入り組んだ廊下を走り続けた。途中で、ヒトがやってくるものの、不意打ちで珠を投げ込んでやれば倒せた。
ただ向こうの連中も本気になったのか、こちらにやってくるヒトの数が増えてきた。数珠にも制限があってもう残り少ない。
顔にバイザーをつけ、と鎧を思わせる制服を着た連中についに取り囲まれた。彼らはダイチを殺すつもりなどなく、捕まえることを目的しているのか、銃器を持っているにもかかわらず接近してくる。
『これまでのようじゃな……』
「いや、まだだ! まだ諦めるには早い!」
ダイチが叫ぶと、取り囲んだ連中の一角が倒れ伏した。何かに叩き付けられたように勢いよく。
「往生際の悪い殿方ですね」
そう言って、一角から見知ったウエイトレス風の少女が降り立った。
「……ミリア!?」
「捜す手間が省けましたわ。この騒ぎの中心にいると思いましたから」
ミリアが微笑む。ダイチを見つけたことによる喜びなのだろう。包囲され、銃口をミリアに向けられているのにそれすらも忘れさせるほどの喜びを得たようだった。
バァン!!
銃声が一斉に鳴り響く。しかし、ミリアは倒れることなくその場から消えた。
標的が消え、戸惑う連中の前にミリアは再び現れた。それも一人ではなく全員の前に。
撃ち殺したはずの敵が数十人になって、目の前に現れたのだから連中は驚愕した。その隙を目の前にいるミリア達は突いた。一人一殺、そんな言葉がしっくりくるように全てのミリアは連中を殴る、蹴る、投げる、突き飛ばす。ついでに銃まで奪い取ってバカバカと撃ちまくる。
「………………」
そのあまりに無茶苦茶な暴れっぷりにダイチは呆気にとられて見ることしかできなかった。
そうこうしているうちに瞬く間に取り囲んだ連中は倒された。
「これ、疲れるのですよね」
一人残ったミリアが涼しい顔をして呟く。と同時に、数十人のミリアが姿を消す。その消え方は蒸発と言っても差し支えなかった。残った一人、つまり本物のミリアがゆっくりとダイチに歩み寄った。
「面倒事に巻き込まれたようですけど、無事でよかったですわ」
「あ、ああ……」
「ダイチさんにはパフェをご馳走してもらわないといけませんからね」
「はあ?」
ダイチは驚いた。それは今、一瞬でこの数十人もの武装集団を倒した武闘派の少女とは思えない言動で、いわゆる普通の可愛い少女のそれだったからだ。しかしダイチはミリアがそういう少女だということをわかっていたから即対応ができた。
「わかった。無事に脱出できたらジュピターパフェ奢ってやる!」
「まあ、楽しみですわ」
両手を頬に乗せて、満面の笑顔を向ける。
「そうと決まったら、早くフルートを助けに行くぞ!」
「フルート?」
ミリアにとって初めて聞く名前だった。それをいきなり言われたのだから首も傾げた。
た。
「ここに一緒に連れて来られた女の子だよ」
『ダイチよ、その女は誰じゃ?』
「仲間だよ、助けに来てくれたんだ」
『そ、そうか……』
フルートは今の状況に困惑気味のようだ。
「詳しい話はあとだ! それよりもこのまままっすぐ行けばいいんだよな、フルート?」
『うむ。じゃが警護の者がおる……』
「そのくらい大丈夫だ! すぐに行くからな!」
ダイチはミリアに目を向ける。ミリアは「わかっていますわ」と視線を返した。二人は同時に走り出す。このまま、まっすぐ走ればフルートの部屋に辿り着けるはずだ。
走りながらミリアは語りだした。
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「なんて無茶を」と言いかけたが、正直ありがたかった。こんな自分を命懸けで助けに来るなんてどれくらい感謝しても足りないほどだ。
「……ありがとうな、ミリア」
そんな言葉が自然に口から漏れた。
「……感謝するのは無事に脱出してからです」
ミリアはそっぽ向いて答える。その顔をダイチに見られないようにするために。
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