上 下
39 / 67
新しい年に

第39話 福屋にて。

しおりを挟む
元旦をゆっくりと過ごし今日は福屋さんへご挨拶に行く予定になっています。

『昼飯は食って来るな』という松ちゃんの指示で昼前に貴史の部屋を出ました。
「あらためてとなるとどうしても緊張するな」と珍しく貴史が気弱になっている。
 福屋では松ちゃんを頭に女将の春子、長男の幹也、そして大阪に転勤になっている結婚している次男の達也が今回は単身で帰省し、香織が貴史を連れて来るのを今かと待ち構えているのですから。

「大丈夫よ、みんな明るくて気兼ねない人達だから」
「そりゃ、君は実家だからそういうけれど、松ちゃん以外初対面ですからね。息子さん達も僕と年が変わらないんでしょう?」
「うん、幹也兄さんが貴史さんより2つ上で42、あっ、厄年?それと達也兄さんが3つ違いだったから貴史さんの1つ下ね。あら、今思い出したけど、あたしってブラコンだったのかもしれない。初恋は幹兄だったから」
 香織は懐かしそうに笑っている。
「えっ、そうなの?長男の幹也さんですか。。。初恋」
 顔色が少し変わった貴史を見て
「あ、あ、でも小1の頃の話だから」
 香織は貴史の独占欲の強さを思い出し慌てて言い訳をしたのでした。

「あけましておめでとうございます」
 玄関に迎えに出た松ちゃんに新年の挨拶をすると
「挨拶なんか座ってからでいい。早く上がれ」と急かされる。
「おーい、みんな香が来たぞ」とどかどかと廊下を客間へと向かっていった。
 台所から出て来た女将さんに「春子ママ~」と抱き付く香織。

「初めまして須藤です」
「まぁ、素敵なイケメン、どうぞ入ってお座りになって下さいな」
 春子は香織に抱き付かれたまま、ヨシヨシと背中を摩っている。

「お邪魔します」客間に通され座る。

「香ちゃん近いのに顔を見せに来ないんだから。よっちゃんばかり会っていてずるいわ。でも元気そうで良かった」
「ごめんなさい」
 叔母の前では香織も子供の様になるなと貴史は微笑ましく見ていた。
(因みによっちゃんとは松ちゃんの事である)

 そこへ2階から降りてきた兄弟を松ちゃんが長男の幹也と次男の達也だと紹介して全員が席に座った。

「初めまして、須藤貴史です。香織さんと結婚を前提にお付き合いさせて頂いております」

 と頭を下げた。

「貴ちゃん、家族には俺から話してある。みんな喜んでいるよ」

「松山さん」

「がはは、照れるじゃねえか。いつもみたいに松ちゃんで良いよ」

 大声で笑う旦那に春子がこらっと膝を叩き、まずは新年を祝いをしましょうと促すと全員グラスを持った。

「明けましておめでとう。今年も『福』を授かる様みんな精進して1年を過ごそう。乾杯」

 テーブルの上には豪華なお節などがずらっと並んでいた。
「さあ、食べて食べて。今年は香ちゃんが居なかったから幹也に手伝わせたの。だから味の保証はしないけど」

「手伝わせておいてそりゃないよ、母さん」笑いながら幹也が言うのを聞いて

「これ全部手作りなんですか?」

 お節料理を眺めながら貴史が春子に聞いた。

「そうよ。当り前じゃない。香織も小さい頃から手伝わせたから全部ひとりで出来るわよ」

 貴史は香織の顔を見て凄いなと感心する。

「須藤家のお正月はどういう風なの?」

 春子の質問に少し戸惑いながら

「子供の頃は殆ど年末から海外で過ごしてました。中学からはホテルでのパーティーでしたから家でこうして食べることが無かったのですごく新鮮な感じがします」

 香織を含め松山家全員が驚いている。

「ほら少し話しただろう、貴ちゃんの亡くなったご両親は社長さんだったって」

「ああ、そんな事を聞いたような気がする」

 松ちゃんの言葉に幹也が考えるしぐさをしていると能天気な達也が

「香、お前セレブじゃん」
 と前に松ちゃんが言ったのと同じことを言う。
『ああ、達兄はやっぱりおじさんに似なんだわ』と苦笑する香織でした。
 香織は話を元に戻し春子に向かって


「春子ママ今回はお節作りを手伝いに来れなくてごめんなさい」と謝る。

「何言ってるのよ、こんな素敵な彼氏が出来たんだからそっち優先でいいのよ。香ちゃんより、うちの長男よ。全く結婚のけの字も出て来やしない。幹也早くお嫁さん貰ってあたしをよっちゃんみたいに隠居させて」

「こっちにとばっちりが来たな」
 幹也がバツ悪そうにしている横で達也は全く気にせず黒豆をつまみながら

「あー、やっぱりうちの黒豆は美味いな・福屋のが一番だ」
 やっぱり能天気です。

「当たり前だ、うちのはどこにも負けないからな。それにおれは隠居はしてねえぞ」

「何言ってるの、毎日ふらふらして夜は香ちゃんところでしょうよ」

 そんな夫婦の会話をよそに幹也が愛おしそうに香織にいった。

「香織良かったな、結婚する気になってくれて俺は本当に嬉しいよ」
 
「ありがとう幹兄」

 半分涙目で言う幹也を見て香織も涙ぐむ。

「兄貴の香織に対する可愛がり方は普通じゃなかったからな、親父じゃないけど娘を嫁に出すくらいの気持ちか、それとも恋人を取られたってとこか?」

 貴史の眉がピクリと動く。

「あはは。達兄だってあたしが可哀相って友達と遊ぶの時もいつも一緒に連れて行ってくれたじゃない」

「香はめっちゃ可愛くて友達に人気があったからな。俺の妹だって自慢してたわ」

「えへへ。」

「須藤さん」

 昔話しで和やかな中、幹也が貴史に向き直り

「香は両親にとって大事な娘であり俺たちにとっても大切な妹です。悲しい事も辛い事も経験しています。その度に家族で支えて来たつもりです。これからは須藤さんにその役をお譲りします。香織を幸せにしてやってください、お願いします」

 幹也の香織を思う気持ちがひしひしと伝わり貴史も崩していた足を直し

「こちらにお邪魔して家族という言葉の意味を実感しました。私は兄妹もなく両親は多忙で大人ばかりという中で育ち家族の温かみを知りません。今ではその両親さえ居りません。香織さんと皆さんを見ていて羨ましく思いました。家族の絆がこれほど強く優しいものだと思い知りました。こんな私ですが。皆さんの愛情を超えるつもりで香織さんを支えていきたいと思っています」

 貴史の言葉を聞いて松山家全員が涙した。

 幹兄は貴史の手を握りありがとうと何回も頭を下げた。

「貴ちゃん、籍を入れるのはまだ先と言っていたけどよ、今日からおまえさんもうちの家族だ。仲良くやろうや」
 松ちゃんの言葉に高史は「ありがとうございます」と震える声で答えたのでした。

「義明おじさん、春子おばさん、幹也兄さん、達也兄さん、こんなあたしをいつも暖かく見舞ってくれてありがとうござます。 母が死んで一人ぼっちになって。。。この家に呼んでくれた時、本当に嬉しかった。養女にと言ってくれたのに生意気な中学生のあたしは変な拘りがあって断ってしまいました。それでも優しく本当の娘として接しくれて感謝しています。これからは家族を知らない貴史さんにその温かさを教えてあげられたらと思います」

 うんうん、みんなが頷く。

 こうして貴史も松山家の一員と認められた日となりました。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ハイスペ男からの猛烈な求愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペ男からの猛烈な求愛

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

処理中です...