20 / 67
進展
第20話 香織の過去②
しおりを挟む
「私は真中に捨てられたんです。」
香織の言葉はそこから始まった。
「私は真中の下で短大を卒業し見習い期間を含めると約5年秘書を努めました。21から26才迄です。
当時の真中は上り調子で投資界のプリンスとまで言われていた時期です。」
「それは私達でも知っているところの話ですね。」
遠野が口を挟むと貴史も頷いた。
「はい、私はそんな真中に憧れ一緒に働ける事を喜びとしていました。
秘書という仕事に生きがいを感じ、真中に必要とされる部下に成るべく努力も惜しみませんでした。
仕事はもちろんですが、彼は魅力的な男性でもありました。
23の時に自然と恋仲になって関係は2年続き、私が30になる前に結婚しようと云う約束をして・・・
ある時、静岡へ日帰り出張があり当然同行をした訳ですが、いつもは新幹線を使う真中が今回は車で行くと申しましてお抱えの運転手と共に静岡へ向かいました。そして仕事を終えての帰り急に遊園地に寄ると言い出しまして、従った訳です。」
「何故に遊園地?」貴史が首を傾げる。
香織は高史の言葉に答えることなくそのまま話を続けた。
「駐車場に着くと1時間ほど出てくるので君は車で待っている様にと告げられ真中は入り口のゲートに消えていきました。30分殆ど経った頃、運転手である佐藤さんがポツリと話し始めたのです。
『香織さん、私の独り言と思って聞いてください。
出来れば社長はやめた方が良い。貴方が例え社長と結婚しても本当の意味での正妻にはなれないです。今ならまだ傷口も浅くて済む。貴方には社長の下でなく別の場所で幸せになって欲しいと老いぼれは思っています。』
私には何を言われているのか全く分かりませんでした。
しかし、もう直ぐ真中が戻る時間だと腕時計を確認し、トイレを済ませておこうとゲート近くのトイレに向かう途中で見てしまったのです。
社長よりも少し年上と思われる綺麗な女性と手をつなぐ社長そして社長に肩車されている男の子を。
私が血相を変えて車に戻ったのを見て佐藤さんが、
『ご覧になったのですね、あの方とはもう17年、社長が19歳の時からのお付き合いになります。上にお坊っちゃんも居られ今年16才の高校生です。お相手の方は年上の人妻ですが、あちらの旦那様がご高齢の為公認の仲となって続いておるのです。』
今思うとその高校生が譲さんですね。」
とため息をついてから続ける。
「頭の中が真っ白になって数分後。真中が戻って来たので話はそこで断ち切れました。東京までの帰路真中はスマホを見ながら始終ご機嫌で。きっと次男との思い出写真でも見ていたのでしょう。私は途方に暮れながら真中から甥っ子にプレゼントをしたいから一緒に選んで欲しいと頼まれ二人であれやこれやと楽しくデパートで選んだのもあの子の物だったのかも知れないと思うと・・・」
そこまで一気に話をし言葉を詰まらせた香織は出されていたお茶を「失礼します。」と一口飲んだ。
目の前の藤堂は悲しげな表情をしていて遠野と貴史は俯いている。
「自分は遊ばれていたのか、愛人として付き合っていたのか。もうやめよう、私が身を引けば済む事だと。でものこの事があった直後私は自分が妊娠していることを知りました。」
両脇の二人は同時に顔を上げ香織の顔を見た。
「黙って自分だけで終わらせようかとも思いましたが、最後の望みを賭けて真中に妊娠を告げました。すると、自分はそんなヘマをしないお前が浮気をしたんだろうと罵られて」
今度は藤堂がため息をついた。
「真中の言葉に絶望のどん底に置かれ何故黙って彼の元を去らなかったのかと後悔しても仕切れないほど悔やんで。。。
その数日後、帰宅途中に目眩を起こし事故にあって1週間程意識不明に。
勿論赤ちゃんは流れてしまったのですが、授かった子供より自分の事しか考えられなかった代償として、もう子供を授かる事が出来ない身体になってしまい。私は真中と決別をしました。
以上が私が会社を辞めた理由です」
香織の話を聞いて遠野は涙を浮かべ、貴史は眉間にシワを寄せ拳を震わせていた。
沈黙の後
「辛い話をよくしてくれたね香織君。
元々評判良い方ではなかったが、やはり真中は最低の男と云うのが良く判った。
実は今回の息子のついでに真中丈一郎も調べさせた。香織君の話に出た女性とは女性のご主人が亡くなって待っていたかのように結婚したようだ。君は辛い思いをしたが真中のもとを離れて正解だった。
それに加えまだ一般的には知られていないが海外の投資に失敗し多額の損失を出している。陰で汚い金の流れもある様で今回の縁談も私のグループからの資金調達が目的だったのかもしれんな。」
今更ながらそんな男を愛していた自分に反吐が出る。
遠野と貴史にも自分の過去を背負わせてしまったかも知れないと思うと心苦しく思ったが、一部始終を吐き出す事でやっと今まで装っていた鎧を脱ぐことが出来た気がし、機会を与えてくれた藤堂会長に感謝した。
その後譲の素行の悪さを理由に日奈との縁談は破談となった。
香織の言葉はそこから始まった。
「私は真中の下で短大を卒業し見習い期間を含めると約5年秘書を努めました。21から26才迄です。
当時の真中は上り調子で投資界のプリンスとまで言われていた時期です。」
「それは私達でも知っているところの話ですね。」
遠野が口を挟むと貴史も頷いた。
「はい、私はそんな真中に憧れ一緒に働ける事を喜びとしていました。
秘書という仕事に生きがいを感じ、真中に必要とされる部下に成るべく努力も惜しみませんでした。
仕事はもちろんですが、彼は魅力的な男性でもありました。
23の時に自然と恋仲になって関係は2年続き、私が30になる前に結婚しようと云う約束をして・・・
ある時、静岡へ日帰り出張があり当然同行をした訳ですが、いつもは新幹線を使う真中が今回は車で行くと申しましてお抱えの運転手と共に静岡へ向かいました。そして仕事を終えての帰り急に遊園地に寄ると言い出しまして、従った訳です。」
「何故に遊園地?」貴史が首を傾げる。
香織は高史の言葉に答えることなくそのまま話を続けた。
「駐車場に着くと1時間ほど出てくるので君は車で待っている様にと告げられ真中は入り口のゲートに消えていきました。30分殆ど経った頃、運転手である佐藤さんがポツリと話し始めたのです。
『香織さん、私の独り言と思って聞いてください。
出来れば社長はやめた方が良い。貴方が例え社長と結婚しても本当の意味での正妻にはなれないです。今ならまだ傷口も浅くて済む。貴方には社長の下でなく別の場所で幸せになって欲しいと老いぼれは思っています。』
私には何を言われているのか全く分かりませんでした。
しかし、もう直ぐ真中が戻る時間だと腕時計を確認し、トイレを済ませておこうとゲート近くのトイレに向かう途中で見てしまったのです。
社長よりも少し年上と思われる綺麗な女性と手をつなぐ社長そして社長に肩車されている男の子を。
私が血相を変えて車に戻ったのを見て佐藤さんが、
『ご覧になったのですね、あの方とはもう17年、社長が19歳の時からのお付き合いになります。上にお坊っちゃんも居られ今年16才の高校生です。お相手の方は年上の人妻ですが、あちらの旦那様がご高齢の為公認の仲となって続いておるのです。』
今思うとその高校生が譲さんですね。」
とため息をついてから続ける。
「頭の中が真っ白になって数分後。真中が戻って来たので話はそこで断ち切れました。東京までの帰路真中はスマホを見ながら始終ご機嫌で。きっと次男との思い出写真でも見ていたのでしょう。私は途方に暮れながら真中から甥っ子にプレゼントをしたいから一緒に選んで欲しいと頼まれ二人であれやこれやと楽しくデパートで選んだのもあの子の物だったのかも知れないと思うと・・・」
そこまで一気に話をし言葉を詰まらせた香織は出されていたお茶を「失礼します。」と一口飲んだ。
目の前の藤堂は悲しげな表情をしていて遠野と貴史は俯いている。
「自分は遊ばれていたのか、愛人として付き合っていたのか。もうやめよう、私が身を引けば済む事だと。でものこの事があった直後私は自分が妊娠していることを知りました。」
両脇の二人は同時に顔を上げ香織の顔を見た。
「黙って自分だけで終わらせようかとも思いましたが、最後の望みを賭けて真中に妊娠を告げました。すると、自分はそんなヘマをしないお前が浮気をしたんだろうと罵られて」
今度は藤堂がため息をついた。
「真中の言葉に絶望のどん底に置かれ何故黙って彼の元を去らなかったのかと後悔しても仕切れないほど悔やんで。。。
その数日後、帰宅途中に目眩を起こし事故にあって1週間程意識不明に。
勿論赤ちゃんは流れてしまったのですが、授かった子供より自分の事しか考えられなかった代償として、もう子供を授かる事が出来ない身体になってしまい。私は真中と決別をしました。
以上が私が会社を辞めた理由です」
香織の話を聞いて遠野は涙を浮かべ、貴史は眉間にシワを寄せ拳を震わせていた。
沈黙の後
「辛い話をよくしてくれたね香織君。
元々評判良い方ではなかったが、やはり真中は最低の男と云うのが良く判った。
実は今回の息子のついでに真中丈一郎も調べさせた。香織君の話に出た女性とは女性のご主人が亡くなって待っていたかのように結婚したようだ。君は辛い思いをしたが真中のもとを離れて正解だった。
それに加えまだ一般的には知られていないが海外の投資に失敗し多額の損失を出している。陰で汚い金の流れもある様で今回の縁談も私のグループからの資金調達が目的だったのかもしれんな。」
今更ながらそんな男を愛していた自分に反吐が出る。
遠野と貴史にも自分の過去を背負わせてしまったかも知れないと思うと心苦しく思ったが、一部始終を吐き出す事でやっと今まで装っていた鎧を脱ぐことが出来た気がし、機会を与えてくれた藤堂会長に感謝した。
その後譲の素行の悪さを理由に日奈との縁談は破談となった。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。
どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。
婚約破棄ならぬ許嫁解消。
外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。
※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。
R18はマーク付きのみ。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる