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愛すべき人達
第1話 開店です。
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午後8時 いつものようにSARAの看板に明かりが灯ります。
土曜日は夕方の女子高生の為の営業はお休みなのでゆったりと夜の営業を迎える事が出来る。
香織は鏡で身なりを確認してお客様の来店を待った。
◆ ◆ ◆
カランと入り口の扉が開き入って来たのは開店と同時に毎日のようにやってくる常連の松ちゃんこと 松山 義明(67才)
駅前にある商店街の老舗和菓子店福屋の旦那である。
「おう!」と言いながら7席しかない席の中央に座る。
和菓子屋の旦那だが一見そう見えない。
話し方や仕草がどう見ても下町のおっさんである。
「いらっしゃいませ」と迎えておしぼりを出す。
今日あった出来事を聴きながら熱燗をカウンター越しに1杯目だけはお酌をするのが松ちゃんとの決まりごと。
そうしているうちに二人目のお客が入っきて
「こんばんわ、香織ちゃん今日も綺麗だねー」
お約束通りの挨拶をして席についたのは近所のマンションオーナーである遠野聡(61才)
「相変わらずだな」
と松ちゃんは呆れた顔する。
「良いではないですか、綺麗な香織ちゃんを毎日拝められるんだから幸せでしょう?当然の賛辞ですよ、ねっ、香織ちゃん?」
「うふふ、遠野ちゃんいつもありがとうね」32才とは思えない屈託のない笑顔でおしぼりを渡す香織を目を細めて嬉しそうにみている松ちゃんと遠野はまるで彼女の保護者の様である。
「ビールね」
遠野は生ビールではなく瓶ビール党。
手酌で1杯目を煽ると2杯目を継いでまっちゃんと町会の話しを始めた。
二人の好みを考慮し何も言われなくてもそれぞれの口に合うツマミを1品ずつお出しする。
1時間ほど過ぎた頃ドアが開き二人連れの男性が入って来た。
ひと月に2回ほど来店している営業マンだが目的は当然香織だ。
香織と同世代と思われる高村と大人しめの連れは後輩の高梨という。
半年くらい前からここへ顔を出すようになったふたりは二人共名字に『高』が付くので『高々コンビ』と呼ばれている。
名付け親は松ちゃんである。
高村が注文したハイボールを一口飲むと何らやら背広の内ポケットから白い封筒を取り出し差し出した。
「ねえママ、会社でディナー券貰ったんだけど今度こいつと3人で行かない?」
こいつと呼ばれた高梨も「イタリアンですよ!」と気合を入れて言ってくる。
『イタリアンくらいで何でそんなに力入れてんのかしら?』
そんな事を香織が考えいると
「おい、高々コンビ 香織ちゃんを誘うなんて100年早いわ!」
松ちゃんが茶化すようにカツを入れる。
「えー、食事くらいいいじゃないですか」
「香織ちゃんは嫁入り前だからな。保護者同伴なら許す。言うまでもないが保護者は俺なっ。」
「嫁入り前って!・・・確かに独身だけどそこはあまり強調して貰いたくはないわ」
香織は頬を少し膨らませふて腐れた顔をすると
「ママのそういう顔も可愛いんだよなー。でも松山さん保護者って、ママと二人という訳じゃないし、こいつも一緒ですよ。」
高村は後輩君を指さすと当人がコクンコクンと頷く。
「そんなへなちょこどうにでも誤魔化せるだろ?」
「そ、そんな事ないです。それに僕へなちょこでは。。。」
「こいつがへなちょこかどうかはどうでもいいんですけど」
「えっ、センパーイ」崩れる後輩君。
「でも松山さんが同伴じゃディナーも楽しくないですよ」
高村も香織を真似てふて腐れ気味に言う。
「ごめんなさい、高村さん。あたし好き嫌いが多いし少しアレルギーもあって食事は色々と面倒くさいんですよ」
と申し訳なそうに香織が高村の顔を覗き込む。
それは食事に誘われた際の香織の断り文句なのです。
あっ、でも丸っきり嘘ではありません。ただ『食物アレルギー』では無く、『アレルギー性鼻炎と皮膚疾患』な訳ですが。
「分かりましたっ。会社の女子を誘って行きますから。」
高村はディナー券の入った白い封筒を渋々と背広の内ポケットに戻す。
隣で困った顔をしている高梨をよそ目に残りのハイボールをぐっと飲み干し
「おかわりとミックスピザお願いします!」とグラスを突き出した。
松ちゃんと遠野が満足げに顔を見合わせて笑ったと同時に扉が開きブランド物のスーツをさりげなく着こなした常連が入ってきた。
◆ ◆ ◆
須藤貴史 (40才)化粧品会社の営業企画部部長で忙しい立場だと思うのに最低でも週2回はSARAに顔を出す。
身長も180センチ以上ある上に甘いマスクのイケメンです。
「なんか楽しそうですね」
貴史が笑っている松ちゃん達を見ながらカウンターの壁際、いつもの席に腰を降ろす。
「おかえりなさい」と香織が笑顔迎える。
「ただいまです、香織さん」貴史もまた少し照れたような笑顔を返す。
「おっ、今日もいい男全開ですね」
遠野がニコニコしながら須藤を褒めている。決して嫌味とかではなく本心だ。
「貴ちゃんくらい信用出来てイケメンなら同伴無しでも送り出してやるぞ」
松ちゃん が高々コンビを横目でみて次に香織の方に目を向けて言った。
「もう、松ちゃんたら」
香織は須藤に出す生ビールを注ぐ為にサーバーに向かい背を向けた。
香織から受け取った中ジョッキ―の三分の一ほどを喉に流し込んだ貴史が
「さっきから何の話ですか?」と首をかしげる。
「そりゃ須藤さんがイケメンなのは認めますけどね、なんか須藤さんと僕たち、待遇というか・・・違い過ぎません?
松山さんと遠野さんはママの事『香織ちゃん』で須藤さんは『香織さん』と呼ぶでしょ。僕らは『ママ』で『香織さん』と呼ぶと松山さんに怒られるし・・・」
高村が愚痴っているのをみて遠野が貴史の方を見てにやりと笑うと
「高村君それは当然よ。須藤君と私たちはSARAに通う年季が違うからね」
遠野の返答に松ちゃんも満足げに頷いている。
「あとどのっくらい通ったら香織さんと呼べるんですか?」
今までチビチビとハイボールを啜っていた後輩君が半ば諦めた様に呟くと
「私と松ちゃんは開店当初からで須藤君はその半年くらい経ってからだっけか。かれこれ5年近くなるな。半年くらいの新参物の君たちはまだまだお客その1その2だろう」
遠野の言葉に松ちゃんはまたうんうんと頷く。
「ママ―、俺ってその1なのー?」嘘泣き顔で香織に訴える高村。
どう見ても同世代の男性とは思えないその言い方に香織は宥めるように
「みんな大事なSARAのお客様ですよ」と微笑んだ。
『ああ、こんな大人が甘えたの様に云うとホロッと来てしまう女性もいるのかも知れないわね』
心の中で呟くと自分はないなと香織は一人で納得していた。
奥の席から眺めていた貴史は今までのやり取りでこれまでの内容を何となく把握し、軽く握った手を口元に充てふっと笑った。
土曜日は夕方の女子高生の為の営業はお休みなのでゆったりと夜の営業を迎える事が出来る。
香織は鏡で身なりを確認してお客様の来店を待った。
◆ ◆ ◆
カランと入り口の扉が開き入って来たのは開店と同時に毎日のようにやってくる常連の松ちゃんこと 松山 義明(67才)
駅前にある商店街の老舗和菓子店福屋の旦那である。
「おう!」と言いながら7席しかない席の中央に座る。
和菓子屋の旦那だが一見そう見えない。
話し方や仕草がどう見ても下町のおっさんである。
「いらっしゃいませ」と迎えておしぼりを出す。
今日あった出来事を聴きながら熱燗をカウンター越しに1杯目だけはお酌をするのが松ちゃんとの決まりごと。
そうしているうちに二人目のお客が入っきて
「こんばんわ、香織ちゃん今日も綺麗だねー」
お約束通りの挨拶をして席についたのは近所のマンションオーナーである遠野聡(61才)
「相変わらずだな」
と松ちゃんは呆れた顔する。
「良いではないですか、綺麗な香織ちゃんを毎日拝められるんだから幸せでしょう?当然の賛辞ですよ、ねっ、香織ちゃん?」
「うふふ、遠野ちゃんいつもありがとうね」32才とは思えない屈託のない笑顔でおしぼりを渡す香織を目を細めて嬉しそうにみている松ちゃんと遠野はまるで彼女の保護者の様である。
「ビールね」
遠野は生ビールではなく瓶ビール党。
手酌で1杯目を煽ると2杯目を継いでまっちゃんと町会の話しを始めた。
二人の好みを考慮し何も言われなくてもそれぞれの口に合うツマミを1品ずつお出しする。
1時間ほど過ぎた頃ドアが開き二人連れの男性が入って来た。
ひと月に2回ほど来店している営業マンだが目的は当然香織だ。
香織と同世代と思われる高村と大人しめの連れは後輩の高梨という。
半年くらい前からここへ顔を出すようになったふたりは二人共名字に『高』が付くので『高々コンビ』と呼ばれている。
名付け親は松ちゃんである。
高村が注文したハイボールを一口飲むと何らやら背広の内ポケットから白い封筒を取り出し差し出した。
「ねえママ、会社でディナー券貰ったんだけど今度こいつと3人で行かない?」
こいつと呼ばれた高梨も「イタリアンですよ!」と気合を入れて言ってくる。
『イタリアンくらいで何でそんなに力入れてんのかしら?』
そんな事を香織が考えいると
「おい、高々コンビ 香織ちゃんを誘うなんて100年早いわ!」
松ちゃんが茶化すようにカツを入れる。
「えー、食事くらいいいじゃないですか」
「香織ちゃんは嫁入り前だからな。保護者同伴なら許す。言うまでもないが保護者は俺なっ。」
「嫁入り前って!・・・確かに独身だけどそこはあまり強調して貰いたくはないわ」
香織は頬を少し膨らませふて腐れた顔をすると
「ママのそういう顔も可愛いんだよなー。でも松山さん保護者って、ママと二人という訳じゃないし、こいつも一緒ですよ。」
高村は後輩君を指さすと当人がコクンコクンと頷く。
「そんなへなちょこどうにでも誤魔化せるだろ?」
「そ、そんな事ないです。それに僕へなちょこでは。。。」
「こいつがへなちょこかどうかはどうでもいいんですけど」
「えっ、センパーイ」崩れる後輩君。
「でも松山さんが同伴じゃディナーも楽しくないですよ」
高村も香織を真似てふて腐れ気味に言う。
「ごめんなさい、高村さん。あたし好き嫌いが多いし少しアレルギーもあって食事は色々と面倒くさいんですよ」
と申し訳なそうに香織が高村の顔を覗き込む。
それは食事に誘われた際の香織の断り文句なのです。
あっ、でも丸っきり嘘ではありません。ただ『食物アレルギー』では無く、『アレルギー性鼻炎と皮膚疾患』な訳ですが。
「分かりましたっ。会社の女子を誘って行きますから。」
高村はディナー券の入った白い封筒を渋々と背広の内ポケットに戻す。
隣で困った顔をしている高梨をよそ目に残りのハイボールをぐっと飲み干し
「おかわりとミックスピザお願いします!」とグラスを突き出した。
松ちゃんと遠野が満足げに顔を見合わせて笑ったと同時に扉が開きブランド物のスーツをさりげなく着こなした常連が入ってきた。
◆ ◆ ◆
須藤貴史 (40才)化粧品会社の営業企画部部長で忙しい立場だと思うのに最低でも週2回はSARAに顔を出す。
身長も180センチ以上ある上に甘いマスクのイケメンです。
「なんか楽しそうですね」
貴史が笑っている松ちゃん達を見ながらカウンターの壁際、いつもの席に腰を降ろす。
「おかえりなさい」と香織が笑顔迎える。
「ただいまです、香織さん」貴史もまた少し照れたような笑顔を返す。
「おっ、今日もいい男全開ですね」
遠野がニコニコしながら須藤を褒めている。決して嫌味とかではなく本心だ。
「貴ちゃんくらい信用出来てイケメンなら同伴無しでも送り出してやるぞ」
松ちゃん が高々コンビを横目でみて次に香織の方に目を向けて言った。
「もう、松ちゃんたら」
香織は須藤に出す生ビールを注ぐ為にサーバーに向かい背を向けた。
香織から受け取った中ジョッキ―の三分の一ほどを喉に流し込んだ貴史が
「さっきから何の話ですか?」と首をかしげる。
「そりゃ須藤さんがイケメンなのは認めますけどね、なんか須藤さんと僕たち、待遇というか・・・違い過ぎません?
松山さんと遠野さんはママの事『香織ちゃん』で須藤さんは『香織さん』と呼ぶでしょ。僕らは『ママ』で『香織さん』と呼ぶと松山さんに怒られるし・・・」
高村が愚痴っているのをみて遠野が貴史の方を見てにやりと笑うと
「高村君それは当然よ。須藤君と私たちはSARAに通う年季が違うからね」
遠野の返答に松ちゃんも満足げに頷いている。
「あとどのっくらい通ったら香織さんと呼べるんですか?」
今までチビチビとハイボールを啜っていた後輩君が半ば諦めた様に呟くと
「私と松ちゃんは開店当初からで須藤君はその半年くらい経ってからだっけか。かれこれ5年近くなるな。半年くらいの新参物の君たちはまだまだお客その1その2だろう」
遠野の言葉に松ちゃんはまたうんうんと頷く。
「ママ―、俺ってその1なのー?」嘘泣き顔で香織に訴える高村。
どう見ても同世代の男性とは思えないその言い方に香織は宥めるように
「みんな大事なSARAのお客様ですよ」と微笑んだ。
『ああ、こんな大人が甘えたの様に云うとホロッと来てしまう女性もいるのかも知れないわね』
心の中で呟くと自分はないなと香織は一人で納得していた。
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