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最終章

6/ 少女の幸せ

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【リディア様、お時間が出来ましたらわたくしの部屋までお出で下さい】

 レオナルドとリディアたちがオーレアから帰国し、数日たったある日。
 リディアが執務の休憩時間にお茶を飲んでいるとオディーヌからのこんな使いが届いた。
 手紙にはそれだけしか書いていない。

「レニー、オディーヌ様からこんな手紙を戴いたんだけど」

「どれ……ん?リディに何用だ?」

「分からないけど、午後のお茶の時間に行ってみて良いかしら?」

「ああ、私も一緒に行こう」

「えっ、一人で大丈夫よ」

「いや、一緒に行く」

 リディアとひと時も離れたくないレオナルド。
 竜の番とはそういうものです。諦めて下さいとファビアンに言われてしまいリディアは大きくため息を吐き、呆れながら従者に返事を持たせた。

 その後、昼食を取り執務を片付けた二人はオディーヌのいる離れに向かう。
 二人の王子にはそれぞれの宮が与えられており、リデアの住まいは東宮の離れで今は妖精宮と呼ばれている。
 オディーヌがいるのはサミュエルの宮で西宮である。
 少し距離があるので二人とリールー、そしてドラフトの四人は王城内を馬車で移動していった。

「オディーヌ様、王太子殿下と妖精妃様がお見えにございます」
「入っていただいて」

 オディーヌの声が聞こえ、扉が開かれる。

「ようこそ、リディア様。ふふ、殿下もご一緒だと思っておりましたわ」
「ごきげんよう、オディーヌ様」

 顔を上げてオディーヌを見ると何か悪戯っ子のような笑みを浮かべている。

「さ、どうぞお入りになって」
「邪魔をする」
 レオナルドに背中を押されて部屋に入ると、

「えっ?アーリちゃん……」

 オディーヌの後ろから恥ずかしそうに顔を出したのは、孤児院にいた耳を切られた猫族の少女アーリだった。

「竜の殿下、妖精妃様、こんにちは」

 恥かしそうに挨拶をするアーリの頭には、リディアがオディーヌからブラッシングの際に抜けた毛で作った耳付きカチューシャが乗っている。

「お耳を作ってくれてありがとうございました」

 リディアは王妃の次の孤児院訪問が自分の里帰りと重なると分かり、出来上がっていたカチューシャを渡して欲しいとお願いしていたのだった。

「良く似合っているな」
 レオナルドがアーリのつけ耳に触り、優しく頭を撫でる。

「ええ、良く似合ってます。良かったわ。でもどうしてオディーヌ様のお部屋に?」

 可愛らしいワンピースを着せてもらい嬉しそうに耳を触っているアーリだが、お礼を言う為に態々王城まで来たというのだろうか。

「実はね。王妃様お義母様が慰問に行かれるとお聞きし、自分の毛で作られたカチューシャがどんな子に手渡されるか気になって、一緒に行かせていただいたの」

「まぁ、そうだったんですか!」

「ええ、そこでアーリちゃんと出会って、いろいろお話をしたの」

「はい」

「孤児院に来るまでの経緯、境遇も院長から詳しく聞いたわ」

「はい」

「それでね、同じシャム系猫族としては放って置けなくなってしまったの」

「オディーヌ様……」

「たくさんアーリちゃんともお話をしたの。それで、私は彼女を引き取りたいと思ったの。もちろん、お義母様にも相談してお義父様にもお許しを頂戴しているわ」

 リディアとレオナルドはオディーヌの言葉に驚きを隠せなかった。

「サミー様とも話し合って、私達の婚儀が終わったら養女に迎える事にしたのよ」

「よ、養子縁組をするのか」

 レオナルドが思わず声を上げる。

「ええ、殿下。私達に子供が出来たらこの子はきっといいお姉さんになりますもの」

 アーリの肩を抱き寄せ期待しているわと微笑むオディーヌを見て、リディアは嬉しく思った。

――ああ、この子は幸せになれる。

 リディアはアーリーの前に膝をつき彼女の両手を取る。

「良かったわね、アーリちゃん。こんな素敵なお養母様おかあさまが出来るのよ」
 こくりと頷き、隣にいるオディーヌの顔を見上げるアーリ。

「妖精妃様がお耳を作ってくれたから……」

 見る見るうちに大きな瞳から涙が溢れだし、べそをかくアーリをオディーヌが優しく抱きしめる姿を見て、リディアとレナルドは心に温かいものを感じた。


 翌年、番と言われ六年の時を経て第二王子のサミュエルとシャム系猫族の姫オディーヌの婚儀が行われた。
 二人はすぐにアーリを養子として迎える。アーリはアンジェと改名し二人の長女となった。
 そして二年後、オディーヌは男児を出産。生まれた子は猫耳を持ち、足首に黒竜の鱗を持つ赤子だった。
 十二歳になっていたアンジェは、弟アレフを可愛がり乳母が必要ないと言われるほどアレフの世話を焼き面倒を見た。

◇◆◇

 後日談として。
 アンジェが十九になった時、トラ族の公爵に見初められる。 猫族は耳から番の匂いを発するが、耳がほんの少ししか無いアンジュはそれが弱かった。公爵も一目惚れはしたものの彼女が番だとは当初気付かず、暫らくお付き合いをして初めてお互いが番であった事を知った。

 あのまま孤児院に保護される事も無く他国で性奴隷とされていたら……
 耳を切られた少女は孤児院での一つの出会いをきっかけに、幸せを掴むことが出来たのであった。

◇◆◇


 あっという間に時は過ぎ、リディアがこの国に嫁いできて四年の月日が経っていた。
 レオナルドは二十九歳となり、リディアも二十歳になった。
 主治医であるトラフィスには思ったよりもよりも早く器が出来たと言われ、今はその器にレオナルドの魔力が溜まりつつあると言われている。
 これ程早くとは誰もが想像しなかった事であるが、それだけレオナルドがリディアのことを愛した証なのである。


**********

※肘脱字報告ありがとうございます。
 あと二話で本編完結となりますのでお付き合いくださいませ。


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