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最終章

4/ 一年

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 オーレア王国第三王女であったリディアが竜王国サザーランドに嫁いできて、そろそろ一年を迎える。
 婚姻と友好の条件とされた年に一度の里帰り。
 そしてアダマンタイト鉱石を譲り受ける為に。

 竜王国から十数台の馬車が、王太子殿下の大事な番の国へと献上の品を乗せて出立していった。
 
 六日後国境に着きオーレア王国に入国した。
 しかし、入国を済ませた王家専用の馬車の中にはレオナルドとリディの姿はなかった。
 二人は国境を超える馬車を見送る町民たちに混ざって一行を見送っていた。
 何故かというとそれは、リディアの希望でレオナルドの背に乗って帰省する事が許されたからであった。
 その為二人はそれらの馬車より遅れてここを出立する事になっていた。

 祖国の人たちは竜人や獣人がいることは知っており、商人たちは商いで交流も持っている。
 しかし、当然の事ながら誰も竜の姿は見た事も無い。
 リディアは自分が嫁いだ黒竜王太子の美しい姿を皆に見てもらいたいと思っていたのだった。
 

 レオナルドは国の式典以外で公の場において竜の姿を見せることは滅多に無いと言っていた。
 リディアはダメ元でダグラス陛下にお願いしてみると、驚く事にその事に関しあっさりと了承してくれたのだった。
 しかし、いきなり竜が現れたら国中が大騒ぎになることを懸念し、前もってその旨を知らせておく置く事を条件とした。
 リディアとしては両親や姉兄たちを驚かせたいと密かに思っていたのだけれど、考えてみれば陛下の言う通りだと思い、直ぐに祖国へと手紙を送った。

――突然あの大きな竜がオーレアの空に現れたら……
 そうよね、みんな恐怖に思うわ。陛下の言う通り先触れにて知らせましょう。



 一方、リディアからの手紙を受け取った父オーレア王は、腰を抜かすほど驚き慌てて議会を招集する。

「我が第三王女が、伴侶である王太子レオナルド殿の背に乗り帰省する事となった」
「陛下、背に乗りとは?馬車の間違いでは?」
「否、背なのだ。言っていなかったがレオナルド殿下は竜王国で唯一、竜に変化できる『神竜の化身』なのだ」
「なっ、なんと!一年前に来られたあの美しい王太子殿下が、神竜の化身であったのでございますか!」
「ああ、その通りだ、宰相」
「リディア様が神竜の化身の花嫁様になっておられたとは……」
「リディアは伴侶の背に乗って王城入りしたいと言っておる。我々は竜の姿は絵でしか見た事はない。ましてや国民にとっては伝説のいや、おとぎ話の中での存在だ。
 先に国中に知らせパニックが起こらないように対策を頼みたい」
「分かりました。国中に通達致しましょう。
 それにしても、本当に神竜の化身とういう存在が……。王女様がその方の番になられたとは誠に素晴らしいことでございます」
「宰相も知っての通り、リディアはあのようなことがあった娘であるからな。皆も絵姿を見た通り今は十六の姿になっておるが、あのまま幼児の姿だったとしたら……
 リディアが望んで嫁いだ訳だが、最初は竜人の妃など務まらぬと懸念もした。しかし、リディアに掛かっていた魔法を解いてくれたのがレナルド殿下なのだ。今では殿下と竜王国には感謝してもしきれぬほどだ」
「そうでございますね。一部の口さがない者たちからは野蛮と噂されております竜人族や獣人族に、大切にされておられるリディア様のお姿を国民にも見てもらえば、これから竜王国と交流を深め持つ良い機会になりましょう」
「ああ、そうなって欲しいものだ」

 そのような訳で、元王女が王太子である竜に乗り帰省する事が国中に知らされた。

 約十日を掛けて竜王国の馬車が王城へと到着した。
 城下で馬車の一行を出迎えていた人々は皆驚く。
 一年前レオナルドとサミュエルたちが訪れた時は、獣人に馴染みのないオーレア国民を怖がらせないために獣人騎士は同行していなかった。使節団のメンバーは皆竜人で鱗が目立たない者が選ばれていたのだった。
 今回は馬車の護衛として獣人の騎士たちが馬に跨り馬車と共に歩んでいる。
 貿易関係の商人以外獣人を見るのが初めての民たちだ。
 御触れで知ってはいたものの、やはり怯える者、反対に歓喜する者とに二分された。
 当事者である獣人の騎士人たちは他の人族の国にも訪れているのでそういった反応には慣れている。
 彼らはただ耳と尾が付いているというだけで見た目人族と変わりはない。
 獣人である事に誇りを持ち、堂々と馬を進めていった。

 王城ではリディアより先に到着した竜王国一行を国王と王妃自ら出迎えた。

 中ほどの馬車から真っ先に降りて来た代表のファビアンとリールーは両陛下の御前に跪く。

「この度は王太子殿下ご夫妻の前に到着いたしました我らを両陛下自ら出迎えて下さり恐悦至極に存じます」
「長旅ご苦労であった。リディアたちが来るまでゆっくりと休まれるが良い」
「有難きお言葉。お心遣い痛み入ります」
「お気になさらず」
 王妃が微笑む。
「陛下、王妃様お久しゅうございます」
「リールー、貴女も元気そうで何よりです。いつもリディアを支えてくれてありがとう。あとでゆっくり話を聞かせていただきたいわ」
「はい」

 国王とファビアンの後に続き、王妃に手を取られリールーが城の中へと入っていく。
 それを合図にそれぞれが自分たちの仕事を始めるのだった。


 リールーたちを見送ったレオナルドとリディア。
 現在二人はまだ国境の町にいる。
 国内で竜の姿になる事は出来ないので、ここまでは護衛と共に馬車でやって来ていたのであった。
 この町で一晩過ごし、翌日護衛達と別れ、オーレア国に入り竜に変化する事になっていた。
 竜の姿なら馬車で三日掛かるところをのんびり飛んでも一日足らずで行けるらしい。

 夜が明けると護衛達と別れを告げ、二人は王都へ向け飛び立っていった。
 知らせを受けていた民が竜の姿を一目見ようと上空を見上げている。
 待ちわびる人たちが見えた時には少し高度を下げ、その姿をしっかりと披露しながら飛んだ。
 レニー竜の背から元王女で王太子妃となったリディアが手を振る。
 初めて見た竜の大きさと威厳のある姿に人々は息をのんだ。
 だが、不思議と恐ろしいと思う者はいなかった。
 そして神々しいまでの竜の背に乗るリディアの姿に見惚れていたのだった。

「いやー、初めて竜を見たけど、デカくて迫力があったな」
「うんうん、凄かった!」
「もっと恐ろしいものかと思っていたけど怖くはなかったわ」
「でもあの口、王女様なんて一口で飲み込まれそうだぞ」
「馬鹿だね、あんた。竜の王子様も普段は人の姿なんだよ」
「あはは、そうか!」
「元王女様は絵姿しか見た事が無かったが、美しいお人だったなぁ」
「ほんと、竜王国の殿下も人の姿は信じられないくらい美男子だって言うよ」
「お二人が並んだところを見てみてみたいものだ」

 竜とそれの背に乗る妃の姿を見送った民たちからは、何処の村や町からもそんな声が聞こえたのだった。
 
 
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