末っ子第三王女は竜王殿下に溺愛される【本編完結】

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最終章

1/ 竜のお山へ(前)

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 二人が本当の意味で番として一つになって数か月、定期健診でトラフィスから器の種が出来たと報告を受けた。
 魔力を満たすための大きさになる迄どのくらいかかるのかは分からないが、子を授かるための第一歩を踏み出したことになり、二人は手を取り合って喜んだ。

「そろそろ竜の山へ行こうと思う」
 ベッドの中で腕枕をしながらレオナルドが言う。

「レニー竜に乗る練習をしに行けるのね!」
 リディアは上半身を起こし、レオナルドの胸に手をついてキラキラした目で彼を見下ろした。
「ああ、そうだ。練習と言っても君をのせて私が落とすなんて事はない。
 乗っている間も魔力で守るから風に煽られる事もない。練習とは口実で、野生の竜たちを君に会わせたいと思っているのだ」
「素敵だわ、レニー。竜たちは私を受け入れてくれるかしら?」
「心配ない。神竜の化身の番なのだからな」
「ふふ、楽しみだわ。お爺様たちにもお会いできると良いけど」
「ああ、あの人たちは自由に飛び回っているからな。でも、多分会えると思う」
「だといいなぁー」


 それから五日後、レオナルドとリディアは竜の山へと旅立っていく。
 二人について行くのはリディアの護衛騎士ドラフト一人と侍女のリールーそしてロロとララのみだった。
 山の手前にある砦までは十数名の騎士たちも同行して来ていたが、竜の山には限られた人数しか入ることが許されない。その為騎士たちは三日間その砦で過ごし、レオナルド達の帰りを待つことになる。
 この村は竜の山を護るための砦なので、竜人たちの兵が駐留しており、レオナルド達がいない間は残った騎士たちと王都の話で酒を酌み交わして過ごす事だろう。

「では、殿下、妖精妃殿お気をつけて」
 居残りへ騎士に見送られてレオナルド達は馬車一台で竜の山へと向かった。

「いよいよ野生竜を見ることが出来るのですね」
 ドラフトは期待に胸を膨らませている。
「私も楽しみよ」
「でも私たちが近づいても大丈夫なのでしょうか?」
 リールーはレオナルドの変化している姿を見てはいるが、やはり不安は隠せない。

「私がいるのだから心配はない。ただ、向こうから寄ってくるまでむやみに近づかない事だ」

「「「はい」」」『はーい』

 一日かけて深い森を抜け竜の山の中腹に広がる草原に出た。
 広い草原の向こうは崖となっていて、谷の向こうには岩山がそびえ立っている。

「竜たちはこの草原に食事をしに来る。我々が来ている事はもうとうに知っているだろうから、もうじき姿を現すと思う」
 草原には色とりどりの花が咲いていた。
 リディアはレオナルドから聞いて初めて竜は草食なのだと知った。
 現在ここには野生竜は百頭ほどで暮らしているという。
 竜人になる事を選ばず、竜本来の暮らしを選んだ先祖たちだ。
 一番長く生きている竜は五百歳を超えるという。
 竜は元々繁殖力が弱い。番を見つけ卵を産むが、その卵も孵る迄には数年かかる事もあるのだそうだ。

 そんな話をレオナルドから聞いていると草原の端、谷底からふわりと黒い物体が浮いて出て来た。

「おっ、来たようだ」

 レオナルドがリディアたちから数歩前に出て行く。

 黒い物体が近づくにつれその姿が黒竜とハッキリ目視できるようになってきた。

「凄い、本物だわ」
 近づくにつれその大きさに圧倒される三人。
『おっきいねー』
『すごいね~』

――レニーが竜になってくれた時、本当の大きさではないと言っていたけど。
 実際これ程とは思っていなかったわ……

 谷から湧くように出て来たのは十頭の竜、その中で先頭にいた竜がレオナルドの前に舞い降りて来た。

『神竜の化身よ、よくぞ来られた』

「まぁ、野生竜も話が出来るのね!」

 黒竜の声を聞き、リディアが感嘆の声を上げた。

「「えっ?」」

 リールーとドラフトはリディアの言っている意味が分からなかった。

『ほう、娘は我らの声が聞こえるのか』
「はい、聞こえます」
「彼女は私の番だ」
『成る程そういう事ですか。無礼な事を言って申し訳ない』
「お前たちに会わせるために連れて来たのだ」
『神竜の化身に番が見つかった。何と素晴らしいことか』

 黒竜はリディアの事を暫し見つめ、突然天を仰ぎ喉を震わせた。
 そして遠吠えのような声を出す。

――ピリュルル~~~~~~

 それは優しくまるで歌を唄っているかのような音色だった。
 すると、空に浮いていた竜たちも地に降り、黒竜の声に合わせるように喉を震わせた。

 リールーとドラフトは感動の余り涙ぐみ気付けば二人手を握り合っていた。

 竜たちの歌は岩山へと響き、姿が見えていない竜たちもそれに応え歌を繋ぐ。

 レオナルドはリディアを抱き寄せ「竜たちの祝福の歌だ」と言った。

「なんて素敵なの……」
 涙が知らずの内に零れ落ちてくる。

『神竜の化身の番を我々は歓迎する』

「あ、ありがとうございます」

 リディアは祝福の歌をくれた竜たちに向かい、感謝の気持ち込めてカーテシーをとった。

「リディア様は竜の事が聞こえているのですね」
「ええ、リールー。頭の中に聞こえてくるの」

「ああ、リールー、リディは私の番となった事により野生竜の声が念話として聞こえるようになったのだよ」

「なんて素晴らしい……」

 神竜の化身の番を祝うために続々竜たちが草原へと下りて来た。
 青竜、赤竜、緑竜といるが、やはり黒竜は少ない。
 そして、その竜たちが道を空けるように左右に広がっていく。その先にはひときわ大きな黒竜の姿があった。

「爺様」

 レオナルドが爺様と呼んだ黒竜の背には美しい女性があった。

「息災であったか、レニー」

――レニーのお爺様とお婆様……セルジオ様とレニアーテル様だわ

 黒竜は一瞬光に包まれ人に変化した。
 その腕には番であるレニアーテルを抱いている。

「ええ、お二人ともお元気そうで。婆様は相変わらず爺様の腕の中ですね」

「当たり前じゃ、大事な番だからの。お前も番を見つけることが出来たのだな」

「はい、精霊の国で見つけることが出来たリディアです」

「まあ、精霊の国で!リディアちゃんこんな格好でごめんなさい。祖母のレニアーテルよ、よろしくね」

――レニーのお義母様も綺麗な方だけど、レニアーテル様のお年を考えたらアメリア様以上に美しいオーラを纏られているわ。

「リディアでございます。お会い出来て嬉しいです」

「おお、番は人族なのか」

――先王セルジオ様もレニーと同じく背が高く、素敵な方だわ。

「はい、私は人族でオーレア王国から嫁いで参りました」

「オーレア、精霊に守られし国の愛し子であったか!素晴らしい番が見つかったのう、レニーよ」

「ええ、その通りです」

「良かったわね、セルジオ。これで私たちも心残りが無くなったわ」

「そうじゃな。レニーよお前に言っておくことがある」

 先王セルジオはレニアーテルをそっと下におろすと、少し年を重ねた手を差し出しレオナルドの手を握った。

「なんでしょう?」

「うむ、我々の命をあと数年としようと思っている」




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