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第三章
9/ お詫びの品
しおりを挟む精霊のお陰で命拾いをして一月が経った。
◆
『もう大丈夫なの?』
「ええ、すっかり元気よ」
『よかったねーリディ』
「ロロもララも心配かけてごめんね」
目の前をパタパタと飛び回る妖精たちは嬉しそうに光を放っている。
『水の精霊が来てくれて良かったね』
『よかったの~』
「うん、あんなに遠くにいるのに助けに来てくれるなんて、思ってもみなかったわ」
『だって、リディアは精霊の愛し子だもん』
『いとしごなの』
「ありがと。精霊の国オーレアに産まれて良かった」
リディアは心からそう思っていた。
「リディ」
政務でいない筈のレオナルドの声がした。
「あら、どうしたの?」
『わーい、レニーだ』
『レニーきた』
振り向くとレオナルドとドラフトの姿がそこにあった。
レニーの後ろにいるドラフトは何か大きなものを抱えている。
「リディにプレゼントを持って来たぞ」
レオナルドが眩しいくらいの笑顔でリディアに向けて両手を広げている。
「なに?」
広げられた腕の中に飛び込み尋ねる。
「ドラフト」
「はい、殿下」
レオナルドに呼ばれドラフトが抱えていた木箱をリディアの足元に下ろし蓋を開けた。
妖精たちも興味津々でリディアにくっ付いてきている。
何が入っているのかと思い覗き込んで見ると、どうやら革製の鞍のようだ。
「遠乗りにでも行くの?」
「まっ、似たようなもんだが」
「?」
「これは竜用の鞍だ」
「えっ、竜の?」
「そうだ。特別に作らせた。リディ用にな。リディを危ない目に遭わせてしまった詫びでもある」
申し訳なさそうに言いながらもうっとりするような笑みを浮かべるレオナルドに、夫だというのにドギドキしてしまうリディア。
だが、今はそれどころではない。
「……!」
木箱から出された鞍は真っ白で宝石の装飾がされてある。
「これを付ければレニー竜の背に乗れるの?」
「そうだよ、乗りたかったんだろう?」
「え、ええ、そうだけど……」
あまり突然のことでリディアは喜びと戸惑いが一度に押し寄せ、それ以上の言葉が出て来ない。
「なんだ、嬉しくないのか?」
「嬉しんだけど、何か信じられなくて」
「アハハ、そうか」
「でも急には乗れないわよね?」
「私の背中なら心配はいらないが、多少の訓練は必要だ」
「ホントに?」
レオナルドが頷く。
「ありがとう、レニー。夢が叶うのね!」
リディアがうれしさの余りレオナルドにぎゅっと抱き付く。
レオナルドはリディアの頭をポンポンと叩くと、脇の下に両手を差し込み横に置かれた鞍の上にヒョイと乗せた。
「横乗りも出来るように作らせたが、座り心地はどうだ?」
「うん、いい感じよ」
そう言いながらリディアは鞍のあちこちをペタペタ触りまくる。
「ここに掴まるのね」
前に付いている金具を握り楽しそうに燥ぐリディアを見て、レオナルドとドラフトが微笑む。
「馬みたいな手綱はないんだ」
「当たり前だ。私の意志で飛ぶのだからそんなものは必要ないだろう?」
「そっか、そうよね(笑)」
「それでな、ここで練習をするわけにはいかないから竜の山の麓にある草原に行こうと思う」
「竜の山?」
「ああ、野生の竜たちがいる山だ」
「え、え、えっ!」
「運が良ければ、爺様と婆様に会えるかもしれないぞ」
「ほ、ホントに?いきたい、行きたいです!」
『僕も行きたい』
『ララもいくー』
「ふふ、そうか妖精たちもか。ハハハ、お前たちは怖いもの知らずだな。では、ファビアンに言って日程を組ませよう」
「はい、お願いします」
『『わーい!』』
――野生の竜を見ることが出来るなんて信じられないわ。あー、どうしよう。嬉し過ぎて死にそうよ。
それに、竜の化身である先代の竜王と王妃にもお会いできるかもしれないなんて!
リディアの表情がころころと変わるのを見て、レオナルドは楽しそうに笑う。
「凄いですね!妖精妃殿。竜の山へ行けるなんて。野生の竜なんて、殆ど見る機会はありませんからね」
「えっ、そうなの?ドラフトも見た事が無いの?」
「式典の際に前王と殿下が竜に変化されたお姿は拝見しておりますが、野生竜は未だ見た事はありせん。
あっ、……一度だけございます。殿下が成人され前竜王が竜の山へ向かわれる時に、野生竜が二頭王城の上空に現れました。それも天の高いところで旋回していて豆粒の様でしたけれど」
「そうなんだ」
「リディ、野生竜は爺様が竜の山へ行くと知り迎えに来たのだ」
「凄い!」
「感動いたしました。その場にいた全員がそうだったと思います。竜が迎えに来たのを知ると前王は黒竜に変化し、番殿を背に乗せあっという間に竜たちと飛んでいってしまわれたのです」
「まあ、お婆様も黒竜の背に乗られたのね!」
「はい、凛々しいお姿は今でも目に焼き付いております。出来ることなら野生竜ももう一度見てみたいです」
「私も早くレニーの背に乗り、大空を飛んでみたいわ。ドラフトも一緒に竜のお山に行くでしょう?当然よね、私の専属護衛ですもの」
「えっ、宜しいのですか?」
「大丈夫よね、レニー?」
「ああ、勿論ドラフトも同行させるぞ」
「あ、ありがとうございます!殿下、妖精妃殿」
頭を下げるドラフトは銀色の毛を逆立て、耳をピンと立て尾をブンブンと振っている。
その姿が屈強な騎士とは真逆で可愛く見えてしまうリディア。
思わず頭を下げ手の届く位置になった耳を両手掴んでモミモミしてしまう。
「気持ちいい~」
「うひゃ!妖精妃殿……」
「これ、リディ!」
「だって、ドラフトのことをモフモフするのって久しぶりなんだもの。もうちょっとだけ」
ドラフトの頭からリディアの手を離そうとするが、甘えるように上目使いで言われてしまえばレオナルドも諦めるしかない。
「仕方ない……ドラフトそこに座れ。リディの気の済むまで撫でられていろ」
「で、殿下~」
レオナルドはその場に腰を下ろすと胡坐をかいた。リディアに向けてここに座れと指で示せば笑顔のリディアがちょこんとそこに収まる。
困り顔のドラフトも二人の目の前に腰を落とし頭をリディアに差し出した。
幸せそうに耳や髪を撫でるリディアを見てレナルドは、自分で許したものの少し嫉妬してしまい後悔をする。
ドラフトは情けない顔をしながらも、尾は嬉しそうにパタパタと地面を叩いていたのであった。
「ドラフト、良かったわね。野生竜を一緒に見に行けるのよ」
「はぁ。ウレシイであります」
「ねぇ、レニー。いつ頃行けるのかしら?」
「そうだな、二月……無理に予定をねじ込んでも一月先になるな」
「そうよね。レニーも忙しいから仕方ないわ。ファビを困らせちゃうもんね」
残念そうに言うリディアに、レオナルドの眉がぴくりと上がる。
「ん、いつからリディはファビアンの事をファビと呼ぶようになったのかな?」
「えっ?いつからって……。ファビアンが殿下と同じようにファビと呼んで欲しいって」
「くっ、ファビの癖に」
その瞬間、嫉妬の矛先が目の前で撫でられ、だらしない顔をしているドラフトから、側近補佐である幼なじみのファビアンへと移った。
その頃ファビアンは押し付けられた仕事をしながら背中に冷たい何かを感じ、ぶるりと身体を震わせていたのだった。
リディアはワクワクしていた。
レオナルドが竜になった姿の背に乗ること。
野生竜に会える上に、もしかしたら先王夫婦にも会えるかもしれないこと。
そして精霊の秘薬を飲み始めたこと。
愛するレオナルドの子供が産めるようになるのだ。
楽しみがてんこ盛りだけど、それには彼とカラダを合わせることも必須になってくる。
不安はいっぱいだけれど、それ以上に未来は明るいと感じていたのだった。
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