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第三章
7/ リディア生死を彷徨う(後)
しおりを挟む『竜の血を飲ませたのであろう』
「……はい」
力なく答えるレオナルド。
『愛し子の体が年相応になったと聞き、であれば其方の血を飲ませるだろうと思った。あれは人には強すぎて無理なのだ。拒絶反応を起こし死に至る』
「私の血の所為でリディが……何という事だ」
『我はな、急ぎ其方の血の替わりになる物を光の精霊と供に作った。それが出来上がるのには半年掛かったのだ。やっと今日それが完成し明日にも届けてやろうとした矢先に。
愛し子が危険な状態にあると我の心に知らせが来た。急ぎ来てみればこの有様。一月前から飲ませていたとは気づきもしなかったぞ。我にそれが分からぬとは、愛し子はよほど我慢しておったのだろう』
「そ、そんな……」
『竜の血は獣人たちにとって万能薬であるが、人には合わぬのだ。いや、何か方法があるのかも知れぬが、我には分からない』
「精霊殿が私の血に替わる物を作られたというが、それは……」
『我と光の精霊の血を混ぜ、作った薬だ。先祖返りの神竜の血と同じ力を持つ。我々の血はあってないようなものだが、人にも受け入れることが出来る』
「それを私のために?」
『おまえの為ではない、愛し子のためだ』
精霊の言葉にレオナルドは自分のためにと言ってしまった事を恥じた。
リディが愛し子だと聞いたばかりだとういうのにだ。
「申し訳ありませんでした。私は自分の気持ちばかり優先してリディアに……」
『まぁそれも仕方あるまい。最初に水の妖精たちに告げて置けばよかった。我もこんなに早く愛し子が戻るとは思っていなかったしな。数年は掛ると思っていたのがこれ程早く解けたのも神竜の番に対する思いが強かったのであろう』
「そのように言って頂けて嬉しく思います。
それで、リディは本当にもう大丈夫なのですね」
『ああ、安心して良い』
「ありがとうございます!」
レオナルドは跪いたまま頭を垂れ肩を震わせる。
床にはポタポタと涙がこぼれて落ちていた。
そこへリールーが三人の着替えとシーツを抱えて戻って来た。
新しいシーツに替えている間に、レオナルドとトラフィスが着替えを終える。
リールーはソファに横たわるリディアの肌に着いた血を蒸しタオルできれいに落とし、レオナルドに手伝って貰いながら彼女の着替えも済ませた。
最後にソファに横たわるリディアをレオナルドは抱き上げると、きれいに整え直されたベッドへと戻した。
『エルフの娘よ。おまえは我との約束を守り、愛し子に尽くしてくれた。良くやってくれている』
「精霊様……リディア様をお助け下さりありがとうございました。最初は精霊様との約束を、王女様を返して欲しいと願った自分の責務と思い、リディア様にお仕えして参りました。でも今は、リディア様の事が大好きでいつまでもお傍にいたいと思っているのです」
『そうか、そうか』
精霊は長く真っ白な髪を手でかき上げ慈悲に満ちた微笑みをリールーに向ける。
そして次にレオナルドに目を向けた。
『神竜の生まれ変わりよ。そなたの番に向ける愛情はちゃんと我にも届いておる。長い人生となるだろうが、我が愛し子を大事にしておくれ』
「はい」
レオナルドは深々と頭を下げる。
『其方医者であるな』
精霊はトラフィスに問いかけた。
「はっ、そうでございます」
精霊に話し掛けられ直立不動のまま答えるトラフィス。
『これを月に一度、月のものが終わった日に愛し子に飲ませるのだ。飲ませるのは匙に一杯で良い』
「はい」
手渡された瓶は、あの時光の精霊と水の精霊がお互いの血を垂らした瓶だ。
半年寝かせ血は完全に混ざり合い、今では水のように透明で朝露のようにきらめいている。
『これを飲みながら魔力と精を注いでゆけば器は出来る。器が出来たかどうかはおぬしなら判断出来よう』
「はい、魔力の流れで分かります」
『器が出来たら一旦飲むのを止めて、子が来たと分かったら毎日欠かさず無くなるまで飲ませるのだ。無事に子が生まれれば愛し子の寿命も番と同じになる』
「分かりました。必ずその様にいたします」
『頼んだぞ。あと数時間で愛し子が目を覚ます。我はもう行くとしよう』
「リディア様に会っていかれないのですか?」
リールーは妖精の国から連れ戻してくれた水の精霊に、リディアを会わせたいとずっと思っていた。
『竜の国に来たのは先王が化身として生まれる前だから約二百年ぶりになるか?オーレアから出たのも一緒だが、久しぶりの遠出は疲れる。我は早く泉に戻って休みたいのだ』
そう言って精霊が笑う。
『愛し子が子を産んだら祝福しに参る。それまで愛し子を頼むぞ。神竜』
「はい、必ず」
精霊は光の粒とともに消えて行った。
残された三人は、リディアの眠るベッドの傍に寄り、静かに眠るリディアの顔を眺め、安堵のため息を吐く。
「顔色も良くなってまいりましたな」
「ああ、熱も下がっている」
額に手を当て優しく髪を流してあげるレオナルド。
「水の精霊様のお陰ですね」
リールーが安心したのかまた涙を零す。
「愛し子か」
「愛し子なのですな」
三人はベッドの傍らに椅子を並べて座り、いつまでもリディアの顔を眺めていた。
が、三日の間殆ど睡眠を取っていなかった為に、いつの間にか眠りに落ちていった。
**********
※お詫び:
第二章【3/姫たちに言えない理】の文中でとても肝心な部分が抜け落ちている事に気付きました(汗)
抜けていたのは◆から◆の部分です。また説明的でちょっと面倒臭い部分ですが・・・。
お時間がありましたら一度戻ってお読み頂ければと思います_(._.)_
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