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第一章末っ子王女の婚姻
8/給餌行動は鉄板です!
しおりを挟む翌日の昼食の席にはレオナルドが、リディアの目の前に座っていた。
それも、バルコニーでリディアと二人だけのランチだ。
「昨夜はよく眠れたかい?」
「はい。私の体は幼児ですので、頭は眠くなくても体は勝手に寝てしまいますから」
「ふっ」
突然両手で顔を覆い、笑い出したレオナルドにリディアは上目つかいに睨みつけた。
「何が可笑しいのですか?」
「くくっ、そのギャップがね。身体は子供なのに、口調は令嬢ぽいし、クククッ」
「失礼ですね」
リディアはいつもの癖で頬を膨らませてしまう。あっ、と気付き、慌てて手の平で両頬を押さえた。子どもっぽい仕草をしてしまい恥ずかしくなってしまったのだ。
「レニー様、見た通り私はお子ちゃまですわ。やはりサザーランド王国の王太子殿下には相応しくないと思います」
「私は気にしてないよ。リディの仕草はどんなときだって可愛いと思ってる。君が頬を膨らますのは、子どもだからではなく、十五の君もやってると思うしね。そういえば最初みたいにレニーって呼んでくれないのか?」
「人、人がいる時は……様つきです」
耳まで赤く染めている小さなリディア。
「ほんと、私の番は可愛いな。では、二人の時はレニーでね、はい」
ーパクっー
話しながら差し出されたパンケーキにかぶり付いてしまった!
不意を突かれてしまったわ。と焦るリディア。
「美味しいね、このパンケーキ」
――レニーがニコニコしながら私の口に入れたフォークで、自分もパンケーキを食べている……
うっ、何でこんなことになっているのだろう?――
そんな事を考えていると、
「はい、ベリーとクリームも」
ーパクっー
――あっ、またやってしまった。
妖精の国では彼らが面白がって、いつも交代で食べさせてくれたから、目の前に出されるとつい――
恐ろしい習慣だ。
その後も何度となく差し出されるフォークに口を開けてしまうリディアであった。
『リディア様、餌付けされてますね』
『ああ、竜族は番に食事を与える事から始まるからね。でもまだ、膝に乗せてないだけマシかな』
『すっかりレオナルド様の手の内に』
『兄上のあんなに優しい顔を見たのは初めてだ』
『このまま竜王国へ連れていかれそうですね』
『兄上のためにも、そうなってくれたらいいと思ってる』
『ご帰国は、六日後でございましたよね?リディア様のご準備をして置かなければなりませんわ』
『君は賛成かい?』
『わたしは……リディア様のお気持ちに従うだけです』
『王女が来てくれる時は君も一緒に?』
『もちろんでございます。わたしにはリディア様を連れ戻した責任がございますから』
『ああ、そうか。うん。君なら兄上も大丈夫だな』
侍女のリールーとサミュエルが、バルコニーが見える部屋の片隅で、のぞき見をしながらこんな会話をしている事を、二人は知る由もなかった。
◆◇◆
その頃、王の私室では家族会議が行われていた。
オーレア王とアリスティア王妃は深いため息を吐いていた。
「父上も母上もしっかりしてください」
「レオナルド殿下が、あそこまで仰るのですもの。リディは幸せになりますわ」
「本当だったらわたくしが嫁ぎたいくらい、レオナルド殿下は素敵ですもの」
「あら、それはわたくしも同じですわ。クリスティお姉さま」
二人の姉妹は自分たちが選ばれなかったことを、悔しいと思いながらも、心では可愛い末っ子の幸せを祈っている。
「しかし、なぁ。あの体じゃぞ」
「陛下、わたくしは心配でなりません」
「でも母上、ここにいてもいつ実年齢の体に戻れるかは分からない訳ですし」
「そうですよ、アゼル兄上の言う通りです。人の中で暮らすより、私はサザーランド王国で暮らす方が良いのではないかと思うのです。いえ、本当は可愛いリディを手放したくはありません。でも、事情を城内の者達が知っているとはいえ、何時までも成長しない王女と言う目で見られ続けるリディも可哀相だと思いませんか?」
「確かにラスカルのいう事も一理あるな」
「あちらの国は竜人の他に獣人もいます。リディアのような姿でも受け入れられると思うのです」
「そうかもしれん。人はうわさ話が好きだからのう。今までリディアを公にする事も無く、人目に晒さないようにしてきた。しかし、守るために隔離された生活が彼女にとって最善だったとは言い切れん。妖精の世界から戻ったリディアには、偏見のないあちらの国の方が住みやすいかもしれんな」
「そうだとしても。でもまだ、あの子が戻って一年しか経っていないのです。もう少し傍に置いておきたかったと……」
王妃がさめざめと泣きだすと、リディアの二人の姉もまたハンカチで目を押さえた。
「どちらにしても、リディア次第という事か。あの子がレオナルド殿下を選んだのなら、笑顔で送り出してやろうではないか。彼なら『番』のリディアを必ず幸せにしてくれると信じてな」
「そうですね、あなた」
「「はい、お父上」」
「「はい、お父様」」
そんなこんなで、末っ子王女リディアの幸せを願う王家の家族会議は終了したのでした。
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