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第二章リディア
13/ 願いが叶う
しおりを挟む昨夜よく眠れずにいたリディアだが、寝不足の素振りも見せずに朝から元気だ。
それは、昨日の約束を叶えるべく、二人は朝食を済ませ庭に出て来ていたからだった。
「本当の大きさではまずいから、小さめにするぞ。良いな?」
「はい!」
リディアは金色の髪をそよ風になびかせながら笑顔で答える。
「では、少し下がっていなさい」
繋いでいた手を離され、リディアは後ろに下がった。
別にレオナルドは何か唱える訳でもなく、ただ瞳を閉じているだけだ。
彼の体の周りが白く炎のように揺らめき、突然眩しい光に包まれる。
思わず目を閉じてしまうリディア。
そして、再び目を開けるとそこには……
神々しい黒竜の姿があった。
黒く光る鱗は朝の光を受け銀色にも見える。
凛々しくも美しい姿だった。
もちろん、翼もある。
「きれい……」
うっとりと見惚れるリディアに黒竜が話し掛ける。
「リディ、近づいても良いぞ」
「竜の姿になってもお話が出来るのね!」
「もちろんだ」
リディアは黒竜に変化したレオナルドに駆け寄り、胸のあたりを触ってみる。
鱗は固いが滑らかで、撫でてみると全くざらつき感はなかった。
「すごいわ、レニー竜!これでも小さいの?」
「ああ。もう少し小さくもなれるが、大型犬より少し大きい位の竜では様にならぬだろう?」
レニー竜が頭を少し下げたので、手を伸ばしてみるとようやく顎の下に届いた。
「大型犬くらいのレニー竜も良いな」
顎の下を撫でながら呟く。
顎から喉に掛けて撫でられ気持ち良かったのか、竜のレオナルドがギュルルと喉を鳴らした。
「そうか?」
「ええ、ずっと見上げていると疲れちゃうし」
「ならこうしよう」
レニー竜は前足を折り、腹を芝生に付けた。
「まぁ!」
リディアが体に抱き付く。
ひんやりとして気持ちが良い。
「おいおい」
レオナルドは長い首を曲げて、リディアの顔をペロリと舐めた。
「きゃぁっ!レニー舌ザラザラー!」
「あはは、そうか。猫のようか?」
「うん」
「今は空を飛んでやれないが、背に乗ってみても良いぞ」
リディアの目が輝く。
「うれしい!」
腹ばいであっても、そう簡単には背に上がれない。スカートで四苦八苦していると、首を回し鼻先で尻を押してくれた。
それと同時にレニー竜の鼻息が掛かりスカートが捲れあがる。
「もう、レニーったら!」
「ぷっ、悪かった」
翼に掴まりながらようやく背に乗ったリディアは夢が叶い満足そうだ。
「ねえ、レニー。妖精宮にいる時は、こうして時々竜の姿になって欲しいわ」
首の後ろを撫でながら強請るように言う。
「気に入ったのか?」
「うん」
「空を飛ばなくて良いならな。私もたまに竜の姿にならないと、ストレスがたまるから丁度よい」
「ホント?嬉しい、ありがとうレニー」
首を後ろに回していたレニー竜の上顎辺りにチュッとキスをする。
するとまた鼻息を吹き出し、今度はリディアの髪が後ろへと流れた。
「竜の時の鼻息すごっ!」
リディはケラケラと笑い出す。
レニー竜はしゅんとなり、首を前に伸ばすと地面にぺたりと顎を付けてしまった。
暫く竜の姿のレオナルドの背に乗ったまま、歩いて貰ったり戯れたりしていたリディアだったが、寝不足からか前足の間に入り寝てしまった。
「参ったな」
レオナルドは苦笑するが、竜の姿ではその表情は読み取れない。
ただ少しだけ、切れ長の目を細めただけだった。
レニー竜は遠隔魔法で、リールーを呼ぶベルを鳴らした。
程なくしてやって来たリールーは、庭を見て驚く。
庭で黒竜の前足に抱かれて眠るリディアは、固くも見える鱗に包まれた腕の中で、赤子のように丸まっていたのだった。
「まあ、リディア様の願いを叶えて下さったのですね」
「願いか?」
「はい、オーレアで初めてレオナルド様とお会いした後、レニー様は黒竜だろうから、そのお姿が見たいと言っておられました」
「そうか、そんな事を。可愛いな」
大きな顎で、リディアに手加減しながら頬ずりをするレニー竜。
「リディは寝不足らしい。もう少しこのままにしておくので、何か掛ける物を頼む」
「はい、畏まりました」
リールーは寝室へと走っていく。
竜の体に変化したのはもう一年近く前だ。
リディが傍にいてくれるようになり、魔力の暴走も抑えられ、突然変化する事は無くなった。
公の場で竜になるのは特別の日だけ。
暴走で変化する合間にも、自分の意志で竜の姿にならないと、ストレスが溜まってしまう。
そのため、人目に付かぬよう自室でこっそりと竜になり、半日から一日をその姿で過ごしていた。
これからはリディアの前なら、好きな時に竜の姿になれるのだと思うと、レオナルドは嬉しくなってきた。
リディアが動く度に毛布がずれる。レニー竜は大きな口でそれを食み、その都度掛け直してあげる。
そんなとても微笑ましい姿を、リールーは部屋の片づけをしながら見ていたのでだった。
◇◆◇
リディアの母国であるオーレア王国では、第三王女だったリディア妃が、年相応の体になったとの知らせが届き、王城内は喜びに包まれていた。
手紙と一緒に絵姿も届けられ、国王を始め家族が美しく成長をした姿のリディアを見て涙する。
この絵姿は竜王国サザーランドでも国中に交付された。初めて目にした自国王太子の番である美しい妖精妃の絵姿に、国中から感嘆の声が上がっていると手紙には書いてあった。
王妃アリスティアは一人その場を離れ、王宮の庭から少し離れたところにある池へと向かう。
そして、池のへりに跪き指を組んだ。
「水の精霊様、ありがとうございます。貴方から頂いた水のお陰でリディに掛けられた魔法が解けました。十六才になった娘は、本当に美しくなっております。これで竜王国の王太子妃殿下としての役目も果たせましょう。本当に……本当にありがとうございました」
王妃の涙が池の中に落ちる。
水の精霊は、エルフの里奥深くの泉にいると、リールーから聞いている。
アリスティアは、この感謝の言葉が届く事を願い祈り続けた。
◇◆◇
その声は遠く離れた泉にアリスティアの涙とともに届いていた。
水の精霊は満足気に微笑んだ。
『おまえ、妖精に早く魔法が溶ける方法を教えたな』
『えっ!私は。な、なんの事やら……』
いつも精霊の傍についているドジョウが目を泳がせる。
『よい、よい。放って置けばあと数年は掛かったであろうからな』
『へへへ』
ドジョウは照れ臭そうに尾で頭を掻いた。
『体が相応になったという事は。
暫くすれば番である妃に、アレを飲ませる事になるだろう。しかし……人族には強すぎる。
我は光の所へ行って参るので、留守を頼む』
『はい、仰せの通りに』
水の精霊はキラキラと光りながらどこかへと飛んでいった。
水の精霊が向かったのは、光の精霊の元だった。
『と、言う訳で光の血を分けてもらえぬだろうか。あの子は我ら精霊の加護の国、オーレアの愛し子なのだから』
『確かに竜のアレは強すぎる。我らの愛し子を苦しめる訳にはいかぬな。分かった協力しよう』
光の精霊が人差し指に自分の爪を当てると、傷をつけた訳でもないのにポタポタと輝く液体が落ちて来た。そして、その液体を水の精霊が差し出した瓶の中に落としていく。
十センチほどの高さがある瓶の半分まで溜まると水の精霊に瓶を渡した。
瓶の中では液体が煌めいている。
受け取った水の精霊もまた光の精霊と同じように、自分の指から血を瓶の中に落とし口まで一杯にする。
混ざり合った液体は七色に光り輝いた。
『我らの血、と言えるかどうかは分からぬが、竜の血よりは人に優しかろう。加護も付いておるしな』
『我もそう思う、協力感謝するぞ、光の』
『なに、愛し子のためなら容易いことよ、水の』
『あとは暫く寝かせて置けば、我と光の血が完全に混ざり合う。これを飲めば愛し子も、苦しい思いをしなくて済むであろう』
水の精霊は二人の精霊の血を入れた瓶を懐にしまうと、また光とともに消えて行ったのだった。
**********
※これにて第二章終了です。
十六才のカラダに戻れたリディア。
いよいよですかね?(*^-^*)
※三章に入る前に閑話が一話入ります。
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