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第二章リディア

2/ ララ褒められる・十才のリディア

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 翌朝、レオナルドの腕の中で普通に目覚めたリディアは、まだ自分の変化に気付いていない。

「おはよ。レニー」
「おはよう、リディ。気分はどう?」
「ん?悪くないけど。そう言えば私、池で急に眠くなっちゃたんだ。もしかしてあれからずっと寝てたの?」
「そうだよ。よく眠ってた」
 レオナルドが笑う。
「どうせ子供は良く寝るとか思っているんでしょう?」
 いつもの様に頬膨らませてプイっと顔を背けるリディア。
「もう、幼児だなんて思っていないよ。しいて言えば少女かな」
 微笑みながら言うレオナルドを不思議そうに見るリディア。
「お腹が空いているだろう?リールーに服と食事を届けてもらっているから、支度して食べよう」
「はい」
 確かにお腹がペコペコだった。
 考えてみれば、昼食前に池に行き、そのままなのだから昼と夜を抜いたら空腹にもなる筈だ。

 レニーに起こされた自分の身体に何か違和感を感じる。
「えっ、なに?」
 起きた上半身はどう見ても昨日までの自分とは違う。慌てて自分の手を見ると、指も長くなり、全体に大きくなっていた。
「レニー、レニー……私、どうなっちゃったの?」
 半泣きでレオナルドに縋った。
「泣かないでリディ。君は十歳の少女に成長したんだよ」
「えっ、うそ……なんで?」
 驚きで涙は止まってしまったようだ。
 彼から体を離し、まじまじと自分の身体を見る。
「どうして大きくなったの?」
 リディアの疑問に、昨日起こったの出来事を優しく説明するレオナルド。
 気が付くといつの間にかロロとララも二人の寝室に来ていた。

『リディ大きくなったね』
『リディおねえさんになった~』

「うん、どうしてか分からないけど。大きくなったみたい」

『池に入れた精霊の魔法の水が、僕たち妖精の魔法を少しずつとかしてるんだ』
『おみずがとかしてるのよー』

「えっ?アナタたちが魔法で私を小さくしたんなら、精霊様に頼まなくても魔法が解けるんじゃない?」
 妖精たちは、リディアが気に入り自分たちと遊びやすいようにみんなで魔法掛けて、幼児の姿にした。ならば、解くことだって可能はずだ。なんで今まで気がが付かなった?

『ううん、出来ない。基本僕たちいたずらで魔法をかけるから、解き方なんて知らない』
『しらないのよ―』
「そんな事って……」
『僕たち一人の使える魔法ってとっても小さいの』
『ちいさいのよー』
『だから沢山の仲間と協力して掛けたんだ』
『みんなでしたの』

「なんて事をしているんだ、妖精たちは」
 今まで黙って聞いていたレオナルドが呆れるように言葉を挟んだが、その顔は少し怒っているかのようにも見えた。

『ごめんなさい、レニー』
『レニーごめんなさい』
 しょんぼりとしたロロとララを少し大きくなった手の平に載せてリディアは慰める。

「あの池に毎日入ったらリディは早く戻るのか?」
 妖精たちを覗き込み、レオナルドが聞いて来た。

『分かんないけど、急には無理』
『むりなのー』

「残念だ」
「そうなのね」
 リディアも少し残念そうに呟く。

『いっぱいの妖精で魔法かけたから、その人数分池の水に溶けるのに時間が掛かるって精霊言ってた』
『いってた。でも、ララしってる~』

「何をだ、ララ?」

『ララしってる。いけのなかできすするとすこしだけはやくなるのー』
『ララ、僕が知らないことをどうして知ってるの?』
『せいれいについてるどじょうさんにきいたのよー』
『あっ、僕が精霊にお願いしてる時かー』
『うん、そのとき』
『ララ、偉いぞ』
『ロロにほめられた―』
 ララは嬉しそうに手の平から飛び上がるとくるくると回った。

「ああ、偉いぞララ。ドジョウから聞いて置いてくれてよかった!」

『レニーにもほめられたの~』

「池の中でキス……」
「だからあの時、魔法が少しだけ解けたんだな」
 二人で顔を見合わせて頷く。

 どうやら、ララのお陰でほんの少し早く魔法が解けることが判った。
 難しい事ではない、レオナルドにとっては、口づけをして魔法を解くのが早まるなら大歓迎だ。
 どのくらいのペースでそれが発動するのかは分からないらしいが、取敢えず、日に一回池に入ることを決めた二人。

 リディアは改めて自分体を見てみる。
 ベッドから降りて寝着をたくし上げ、足を見ると長くスラッと伸びていた。
 以前は彼と並ぶと腰位だったのに、今はウエストより上、わき腹の中ほどまで伸びている。
 胸も……ぽわんと膨らみを帯び始めていてそれに触ると過去の記憶にあるそれと重なり、急に恥ずかしさに襲われ赤面してしまった。
 そんなリディアを前と同じく抱き上げ、食堂へと向かうレオナルド。
「レニー、私、重くなったから……」
「こんなの重い内に入るか!たとえ大人になってもこうして歩くぞ」
「うそっ!」
「嘘なものか、祖父、爺様は九十を過ぎても婆様の事を抱き上げて歩いていたぞ。それが竜の番なんだ」
「し、信じられない」
 あっと言う間に食堂に付き、いつものように膝に乗せられ、給仕が始まった。
 少し背が伸びたことにより、以前よりレオナルドの顔までの距離が近くなった。美しく端正な顔が間近に見え胸の鼓動が早くなった。

「ん、どうした。もう食べないのか?」
「えっ、ああ食べる」
 頬を染めているだろう自分を想像し、居たたまれなくなりながらも、差し出されたソーセージを齧った。
 フォークに残った半分のソーセージを、彼が自分の口に持って行く。
 今まで何でもなかったことが急に恥ずかしく感じてしまったり、ときめいてしまう。
 元々中身は十五才なのだからと思われるかもしれないが、体が幼児だったために子ども扱いされていると思えば、恥ずかしくもなかったのだ。
 
――これからどうしよう――

 中途半端に体が成長するなら小さいままで良かった。
 そんな風にも思うリディアであった。

 一方レオナルドはと言うと、
 リディアが幼児だろうが少女だろうが全く問題にはしていなかった。
 番が愛しいのはどんな姿でも変わらない。
 ただリディアは人族だ。人族は自分たちよりも奥ゆかしく、羞恥心も多く持っていると聞く。自分の当たり前の行為が、リディアにどう受け取られているのかが気になって仕方ないのだった。
 



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