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第一章末っ子王女の婚姻
22/リディア狙われる(後)
しおりを挟むリールー、ドラフト、そしてミルミルが悲惨な顔色で立っていた。
「申し訳ありません。護衛として付いておきながら、弁明のしようもありません」
「謝罪は後で良い。何故リディが毒に侵されたのだ」
リールーと妖精たちから事のあらましを聞く。
―――グォォォーーーーー!!!!!―――
彼らから話を聞いたレオナルドは、拳を震わせながら突然竜の唸り声を上げた。
それは王宮を揺らし、地を這うように響いた。
唸り声を上げたことにより魔力の放出は免れた。
「何処のどいつだ!私の番を害しようとしたのは。見つけ次第八つ裂きにしてくれる!」
いつも穏やかなで怒りを表す時も静かに冷気を纏い周囲を威嚇するレオナルドが竜に変化してしまうのではないかという程、怒りを露わにした。
報告を受け駆け付けた竜将軍ベネディクトゥスが、唸り声を聞き部屋に飛び込んで来て怒りに震える彼の肩に手を置く。
「レオ殿、落ち着きなされ、妖精妃殿が目を覚まされてしまいますぞ」
「……ベネディクトゥス……」
「妖精妃殿は大丈夫そうですな。しかし、誰が仕掛けて来たか」
ベネディクトゥスのお陰で、ようやく落ち着きを取り戻したレオナルドが肩で息を整えながら言う。
「リディに恨みをとなれば離宮しか浮かばないが、あれらにこんなことが出来ると思うか?」
「我も思いませんな」
「あっ、あのう」
その時、一番後ろに控えて、真っ青な顔をしていたミルミルが、前に進み出て来た。
「どうしたミルミル言うてみよ」
「こ、これなんです」
恐る恐る手に掴んでいる物を竜将軍に差し出すミルミル。
「「?」」
見ると彼女の手の中には、すでに息絶えた黄色い鳥が握られていた。
「そ、それは?」
「リディア様を刺した、こ、小鳥にございます。慌てて捕まえたので、私の爪が出てしまい殺してしまいました……」
ミルミルから小鳥を受け取ろうとハンカチを広げた将軍だが、彼女は一向に小鳥をハンカチの上に置こうとしない。
見ればミルミルのその手はぶるぶると力を入れたまま震えている。
ベネディクトゥスはその指を一本ずつ剥がし、小鳥をハンカチにのせた。
「良くやったな。証拠を取り逃がさなかったとは、偉いぞミルミル」
自分の孫であるソフィアよりも少し下のミルミルの頭をヨシヨシと撫で、緊張し固くなった体から力を抜かせてあげる竜将軍。
そして、彼は小鳥を乗せたハンカチをテーブルの上に置いた。
「魔鳥か……この周辺で捕まえる事は出来ない鳥だぞ」
「ええ、そうですね」
「捕まえて来た者を見つけるのも厄介だな」
「殿下、魔鳥が住む奥地の周辺は誰も住んでおりません。誰が踏み入れても見られることもありませんからな」
「くっ……」
「ちょっとお待ちを」
横から割り込んできたのは侍医のトラフィスだった。
「レオ坊ちゃん、妖精妃の毒は無事に中和されましたので、もう大丈夫です。直に目を覚まされますよ」
リディアの診察を終えたトラフィスが報告をする。
「そうか、ありがとう。トラフィス」
「ええ、それで毒なのですが、この爪に?」
「はい、リディア様はその鳥を指に乗せ、爪で刺されたのでございます」
リールーがハンカチの上で息絶え、固くなっていく小鳥を恨めしく睨みつけながら言った。
そして、小鳥を握り締めていたミルミルの手をきれいに拭ってあげる。
トラフィスがピンセットで鳥の爪から残った毒を採取し、ガラスの皿にそれを乗せ、魔力を流し成分を探った。
「これは……この国にある毒ではございませんな。人族の国の物です」
「なっ、何?オーレア国がリディアをと言うのか?」
「レオ坊ちゃん、先走らないで下さい。オーレア王国には精霊がいる為にこの毒は作れません」
「では他の人族の国の物なのか?」
「ええ、でもそれらの国ではどこでも作れる毒なので、国の特定は難しいかと……それに魔鳥に幾つも魔法が重ね付けされているので、掛けた者も分かりませぬな」
「何という事だ……」
「仕方ありませんな。探りは入れますが、妖精妃殿の警護の強化をする他、今は手立てがございませんな」
彼らは犯人に繋がる糸が切れ、落胆するしかなかった。
◇◆◇侍女たち
「駄目でございましたね」
「わたくしたちは大丈夫なのでしょうか?もし足が着けば姫様たちも・・・」
「それは、大丈夫です。魔法を重ね掛けしたのも、鳥を捕まえたのもこの国の者ではありません」
「そうですか。ここまでしたのに失敗するとは残念です」
「やはりあの小娘は精霊の加護を受けているということでしょうか」
「いくら姫様の事を思っても、私たちには何もできないということなのかもしれません」
「毎日、姫様のお顔を見ているのが辛いですわ」
「わたくしも同じです」
二人はこれ以上自分たちに出来ることは無いと諦め肩を落とし、それぞれが仕える姫の元へと帰って行った。
青龍姫と赤竜姫は、まさか侍女が自分たちの事を思い、そんな大それたことを計画し失敗に終わったとは知る由もなかった。
◇◆◇
その後も捜査は続けられたが、犯人像は浮かんでも来なかった。
竜姫たちが怪しいと思っているが魔鳥からは毒以外の証拠は何も出ず、再度襲われる可能性を考えてレオナルドと離れている時のリディアの周りは護衛の数が増やすしかなかった。ドラフトが責任を取らされる事もなく、そのまま護衛隊長として指揮を任される事を知ったリディアはホッとした。
精霊の加護のある水で大事を免れたリディア。
いち早く気付いて対処を促した妖精たちは得意顔だ。何も出来なかったリールーは、妖精たちの事を見直し彼らに対し優しくなった。
魔鳥を捕まえたミルミルには特別手当が支給された。
犯人には結びつかなったが、あの状況で証拠となる鳥を捕まえたという事に対する物だった。見た事も無い金額の報奨金を見て、ミルミルはその場で卒倒し、ベネディクトゥス竜将軍に抱かれ医務室に運ばれる。
その事を後から聞いたミルミルは、また倒れそうになるのを、隣にいたドラフトの騎士服に爪を引っ掻けて耐えたのだった。
「もうすっかり体調の方は良くなったか?」
「はい」
「そうか、ララから知らせを受けた時には私の心臓が止まるかと思ったぞ」
「私も鳥の爪が、グッと指に食い込んだ時は、心臓が止まると思ったの。レニーと一緒ね」
「いや、それは違うと思うぞ、リディ」
そう?と首を傾げるリディアに自分の想いは伝わっていないのかと気落ちするレオナルドだった。
どんな憂いからもリディアを護ると誓って、オーレア王国から連れて来た番。
それにも関わらず、こんな小さな体に毒を入れてしまうなんて……
血の気がなく紫色に変色した唇を見た時、犯人に対する怒りと、守れなかった自分に対する怒りで魔力が爆発しそうになった。
吠える事で魔力を竜の血で抑え込んだつもりだが、ベネディクトゥスが止めてくれていなかったら、竜に変化し王宮を崩壊していたかもしれない。
人族は毒にも耐性が無く、弱い生きものなのだ。
我々は毒にも耐性を持っているので、弱い毒は見逃し易い。これからは毒見ももっと、細かく厳しくしなくてはダメだ。
レオナルドはリディアを腕に抱えなら考えていた。
そんな彼を不思議そうに見上げてくるリディア。
その無垢で透き通るような青い瞳を見てレオナルドは思う。
――もしリディアが命を落としていたら、私はそのままリディアの亡骸を抱いて神竜の山の火口に飛び込んでしまったことだろう――
と。
思わず力を入れて抱きしめてしまう。
「レニー、痛いってば!」
「あっ、悪か……」
苦しそうな声を上げるリディアに慌てて力を緩め、背中を摩る。
「ん、もう。レニーの力で絞められたら死んじゃうわ!」
「悪かった、ごめんリディ」
何度も謝りながら、リディアの顔中に口づけを落とす。
「分かったからもうやめて―」
リディアの可愛い声が部屋に響いた。
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