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第一章末っ子王女の婚姻

12/竜王国サザーランド(前)

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 休憩から馬車に揺られること三時間。 

 竜王国サザーランドの王城が見えて来た。
 岩山を削った上に建つ威風堂堂とした佇まいは、城までの道がまるで龍が天に昇っていくように見えた。

「オーレア城の三倍。ううん、五倍ぐらいあるわ。凄い!」

 岩盤を削って作られた城壁に囲まれた大きな門扉が開けられる。本城の正面入り口までは石畳になっており、その両脇に兵士と騎士たちがずらりと並んでいる。皆、右手の拳を左胸に置き目の前を馬車が通り過ぎるのを見守っている。
 人数は・・・千人近くいるのではないだろうか。
 竜族の騎士に混じり獣人の騎士と兵士も大勢いた。

「あっ、レニー様!お耳があります!尻尾も!可愛い」
「こら、あやつらに可愛い何て言ったら、骨抜きになって使い物にならなくなるからやめなさい」
「ふふふ、分かりました♪でもさわりたいな~」
 初めて見るケモ耳と尾に、リディアのテンションは上がる一方だ。
「そういえば、レニー様はどんな時に竜になるの?」
 思い出したようにリディアが尋ねて来た。
「ん?ああ。なろうと思えばいつでも変われるが。ここのところ魔力も安定しているから突然変化する事は無かったな」

「あっ、それ、それ!侍医のトラフィスが言ってたじゃないか。番が見つかり傍にいれば、魔力も安定して暴走する事も無くなるって。リディア妃のお陰だよ」

 リディアはきょとんとしてサミュエルの話を聞いていた。
「そういう事なのか。番の力は大きいな」
「意味が分かんないんだけど」
 満足そうに頷き合う兄弟にリディアは首を傾げていた。


 四人を乗せた馬車を先頭に、連なる数台の馬車が正面入り口に到着した。
 エントランスの奥には、一目でこの男が王であろうと分かる大きな体の竜王ダグラス・ドラゴ・サザーランド。そしてその隣には、黒髪を床に付くほど伸ばした女性が。とても若く見えるが、王妃アメリア陛下に違いない。
 御者が扉を開けると、真っ先にサミュエルが飛び降りて来た。

「父上、母上、只今戻りました」と跪く。
「ん。ご苦労であった。良い土産があったようだな」
 地に響くような声で竜王ダグラスが答える。
 すると、サミュエルが満面の笑みで「はい」と応えた。
 次にリールーが降り、両陛下に無言で頭を下げると脇に寄り、主役の二人が降りて来るのを待った。

「早く降りて来んか!レオナルド。勿体ぶりおって!」
 待ちきれない竜王の横で、王妃が「ふふふ」と笑う。

 いよいよ主役の登場だ。
 レオナルドが先に降りて両親に一礼をしてから、馬車の中に手を伸ばし番を抱き上げる。

「おお、其方がレニーの番か!」
「まぁ、何て可愛らしい姫でしょう。早くこちらに来てお顔を見せて頂戴な」
 レオナルドがリディアを抱いたまま両陛下の前へと出る。
 強面の竜王陛下の顔には右目の周りから頬に掛けて竜の鱗があり、眼光も鋭い。その顔がリディアを見るなりデレっと崩れた。

――わっ、竜王陛下のお顔が……でも笑うとお優しそう。あっ、レニー様のお顔は王妃様似なのね、綺麗な人だなぁ。それにしてもこの国の人は皆大きいのね――

「よく来た。待ちわびておったぞ!」
 大きな声がお腹の中まで響いて来た。
「父上、母上。こちらが私の番である、リディアにございます」

――えっと、喋り方もみんなの前では少し「子供っぽく」って言ってたわよね。
 よし、頑張る!――

「お初にお目にかかります。わたしはオーレア王国第三王女リディアです。両陛下にお会いできることを楽しみにしてまいりました。ふつつかものですが、どうぞよろしくおねがいいたします」
 レオナルドの腕の中で、ドレスの端を摘み頭を下げる六才児に、周辺の兵士から「お――――!!!」という声とともに、ため息が漏れて来た。

「どうしましょう、あなた。あたくし、レニーの番ちゃんが可愛すぎて眩暈がしそうですわ。あっ、ごめんない。お義母様になる王妃アメリアよ。我が息子と一緒に来てくれてありがとう」
 王妃にいきなり手を握られて面食らっていると、
「何と愛らしい王女なのだ。でかしたぞ、レオナルド! ん?、それは……!」
 竜王の視線がリディアの肩にいる妖精たちに向けられた。
「竜王陛下様におねがいがあります。この妖精たちがわたしといっしょにお城にすまうことをお許しねがいたいのです」
「よ、妖精が我が城に……」
「まぁ、なんてこと!妖精を連れての嫁入りなんて、前代未聞ですわ!」
 竜王は驚き、王妃の目が輝く。
「許すも何も、大歓迎であるが、我々と一緒でも妖精たちは平気なのか?」

『僕たち平気!』
『へいきなの~』

 ロロとララが口を開くと、竜王と王妃がいきなり膝から砕け落ちた。
「くっ、可愛らしすぎるではないか!」
「あなた、あたくしもうダメ……」

 その様子を半ば呆れ顔で見ているレオナルド。
「父上も母上もリディと妖精たちが可愛いのは分かりますが、皆の前ですよ」
 息子の言葉に、何とか竜王は王妃の腰を支え立ち上る。
 周りを見渡すと、迎え出ていた厳つい騎士と兵士たちも破顔し、悶えている。
 竜王は息子からリディアを奪い取ると、その小さな身体を高く天へと掲げた。

「皆の者よく聞け!我が竜王国サザーランドの王太子レオナルドが、念願の番を見つけ帰国した。その番リディアは妖精も連れて嫁入りしてくれたのだ!なんと喜ばしい事か!この時より、リディア王女は『妖精妃』となった」

「「「「お―――――!!!妖精妃殿万歳!」」」」

 陛下の声を聞き、出迎えた人々が雄叫びを上げる。
 妖精たちは驚いて、サミュエルの肩へと逃げて来た。

「ひぇ~~~~!」

 三メートル近くの高さでリディアが悲鳴をあげた。
「私の番に何て事をなさるのですか!父上といえども許せません!」
 父親からリディアを奪い返し、胸に抱き締めたレオナルドの瞳は赤く光り殺気に満ちている。
 一瞬にして、その場が凍り付くように空気が冷える。
 彼の体からは魔力が滲み出て、バチバチと音を立てていた。

「わ、悪かった。儂はそんなつもりでは(汗)」
 必死に謝る竜王。

「番ちゃんにそんな手荒なことをしたら、レニーが怒るのも無理ありませんわ。妖精妃リディアちゃんにもお謝りなさいませ」

「あ、ああ、そうだな。妖精妃リディア、乱暴な事をして申し訳なかった。この通りだ」
 竜王が深々と頭を下げて謝罪した。
 
 リディアはレオナルドの腕の中で、半泣きになりながら竜王の謝罪を受け入れたのだった。
 そしてリディアはお竜王の宣言により『妖精妃』と呼ばれる事となった。





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