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第一章末っ子王女の婚姻

7/リディアの不安

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――ばふっ――

 部屋に戻ったリディアは、そのままベッドに突っ伏す。

「リディア様お着替えを……」

「リールー、わたしはどうしたらいい?」

「それはご自身でお決めになることでございますので」

「分かってる、分かっているんだけど……この姿なのよ。戻れるか分からないのよ?このままでも良いと言われても、ずっと子どものままなんて、おかしいと思われるでしょう?」

「リディア様、私は半分エルフの血が混ざっております」

「うん、知ってるわ」

「エルフも竜族とまではいきませんが、通じるものがございます。私の両親がそうでした。小さい頃、私はエルフである父に聞いたことがあるのです。「どうしてパパは人族のママと結婚したの?」と」

「エルフのパパはなんて答えたの?」

「『パパは人の里でママに恋をしたんだ。ママは人族だったけど、パパの番って直ぐに分かったんだ』と答えてくれたのです」

「エルフにも番っているのね」

「エルフはあまり番とかは気にしません。ですが、父はそう言いました。そして、番という概念がないのは人族だけだとも申しておりました」

「そうなの?人だけが持っていない物。
 でも人も『運命の出会い』とか、『運命の人』なんて言ったりするわ」

「はい、そうですね。でも、その運命の人と結ばれなくても、人は新しい恋をすることが出来ます」

「……そう言われれば、そうかも。自分が運命の人だと思っていた人に、フラれて落ち込んでしまっても、時が経てば新しい恋が出来るって本に書いてあったわ」

「そんな本、何処でお読みなったのですか?」
「妖精の国。あそこは何でもあるのよ。妖精たちは私がここへ戻る日のために、ちゃんとお勉強もさせてくれたし」

「さようでございますか。取敢えず、どんなこと学ばれたのかは後程お伺いするとして。
 一つの恋に破れても、人は新しい恋へと進むことが出来ます。獣人たちも番を求めますが、浮気もしますし、再婚も致します。竜族も同じですが、運命の番に関しては違います。一度番に巡り逢えば、番だけしか目に入らず、浮気など絶対にしないと聞いております。そして、サミュエル様は仰いました。レオナルド様は特別なのだと。血の濃さゆえ、番に拒絶される、または番の寿命が終わっても、次の伴侶を娶る事なく人生を終えると」

 リディアの顔が見る見るうちに青ざめていく。

「じゃあ、番の私がもしお断りしたら……
 仰っていた通り本当に、レニーは二度と恋が出来ないの?ほかの竜族の方とも一緒にならず、ずっとお一人で過ごすの?」

「そうなりますね」

「そんな……」

「リディア様はレオナルド様がお嫌いですか?」
「嫌いだなんて……そんなこと」

「でしたら宜しいではないですか」
「でも、この体だし」 
「お小さいままでもよろしいと仰っておられましたよね?一生愛でて、リディア様だけのために尽くしてくださると」
「そのような事を言ってましたね……」
 王女はポッと頬を赤らめう膝の上でスカートを握り締める。

 リールーが溜息を吐いてから、リディアに微笑む。
「今日はもうおやすみなさいませ。はい、お着替えを致しましょう」
 リディアの体をヒョイと持ち上げ、ベッドの横に立たせると、手早く着替えさせる。

「ねぇ、リールー?」

「何でございましょう」

「もし私がレニーの竜王国へ嫁いだら、リールーも一緒に来てくれる?」

「はい、もちろんでございます」

「そう、ありがとう」

「では、また明日。おやすみなさいませ」

「おやすみ。リールー」

◆◆◆

「しかし、オーレア王国が隠していた第三王女が、兄上の番とは驚きましたね」

「ああ、自分でも驚いている」

「可愛らしかったですねー、リディ。アレで中身は十五なんて信じられません」
「おい、リディと愛称で呼ぶな。リディアと呼べ。やっと見つけた私の番だ!」
「へっ?」
 はにかみながら拗ねる兄を見て、サミュエルは思わず笑ってしまう。

「ははは、兄上が拗ねるなんて、ははは……」
 レオナルドは「うるさい!」とサミュエルの頭をぽかりと叩いた。

「いたたた、もう!何で叩くんですか。
でも、番を見つけたらそうなる気持ちは良く分かります。
 しかし、人族と言うのは、やはり見た目に拘るのでしょうかね。我々は番と分かれば幼かろうが、年上だろうが関係ありませんからね。今まで一人身を通していた兄上が、こんな可愛い番を連れて帰ったら、それはもう国中大喜びですよ!父上と母上の喜ぶ顔が早く見たいですね!」

「そうだな。でも、誰にも見せたくないかもしれない……」

「うっわぁーそれって、お爺様と一緒じゃないですか!あんな風に囲われたら、王女は窒息死しちゃいますよ!」

「分かっている。婆様は竜族だったから、爺様の番としての溺愛も理解できたのだろう。けれど、リディは人族だ。軟禁されてるとしか思えないだろうな」
 クククと、口元を押さえて笑うレオナルド。

「ええ、そうですよ。個人の自由も必要です。私の番のオディーヌは猫族だからか、元々気まぐれで束縛を嫌います。番と分かって籠った蜜月は、一月のつもりでしたが、たった一週間で……ふふふ、いい加減にしろと殴られ引っ掻かれましたからね」

「思い出して笑うな!気色の悪い」

「兄上の場合、相手があの体ではそのような蜜月は無いでしょうけれど、束縛が過ぎると嫌われるって話ですよ」
「はぁーーー」
 弟の話に兄は大きく息を吐いた。

「確かに抱く事は出来ないな。いいんだ、それでも。リディがいつも私の横にいて、笑っていてくれればな」
 僅かに微笑み優しい眼差しをする兄の姿に弟も溜息を吐く。

「リディア王女は紛れもない、兄上の番なんですね」

 サミュエルは自分より大きく体格のいい兄の肩に手を置いた。

「兄上、運命の番を見つけられて、本当におめでとうございます」





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