末っ子第三王女は竜王殿下に溺愛される【本編完結】

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第一章末っ子王女の婚姻

4/リディアの事情(前)

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※数話説明的な話が続きますが、お付き合いくださいませ。
――――――――――――――――――――――――――――――――


 「暁の間」には、何故かリディアの侍女リール―も呼ばれており、オーレア王は二人に彼女を紹介した。

  リールーは口元をきりりと結んだままゆっくりと頭を下げる。

 池で面識のあったレオナルドは、確かハーフエルフと言っていたが、何故彼女がこの場にと不思議に思っていた。


 オーレアはため息を一つ吐いてから、城内にいるものは皆知っておる事だがと、リディアの抱える事情を語った。


「リディアは今は幼い姿だが、実際は十五の王女なのだ」

 最初の言葉でレオナルドとサミュエルは「えっ」と声を出したまま固まってしまう。


「リディは十三の時に王妃と池の近くを散歩している時に、突然現れた妖精に導かれるように池に沈んだのだ。あっという間の出来事で、お付きの者も成す術がなかったという。すぐに護衛の騎士が池に飛び込んだが、リディアを見つける事は出来なかった。

 その後何度も池を攫ったが、リディアの亡骸さえ出て来なかったのだ。

 目の前で愛娘を失ったアリスティアは、遺体も見つからない状態で、リディアの死を認めることが出来ずに病に伏せてしまった。

 私たちも同じだった。気持ちの整理が付くまで王女は病にかかり、眠ったままだと云う事にした。 

 そのような状態が一年ほど続いたある日、一人の娘が幼子を抱えて儂の前に現れた。

 その娘が抱えていたのは、一年前に水底に消えたリディアの幼い頃の姿そのままだった。私は妻から聞いた夢の話を思い出し、その幼子を抱くとすぐに妻の元へ走った。

 アリスティアは信じられないと喜び、リディアを抱き締め乍ら水の精霊に感謝の言葉を言い続けていた。

 なぜ、このような姿で戻って来たのかは分からなかったが、そんな事はどうでも良かった。死んだと思っていた娘が家族の元に帰って来たのだからな」


「信じられない……」

 サミュエルが呟く横で、レオナルドは黙ったままだ。


「リディアを連れ戻してくれた娘は、エルフの子でリールーと名乗った。この先は彼女の話を聞いて欲しい」

 侍女の名前が出て、二人は思わずリールーを見る。
 侍女は伏せていた目を開き頷いた。


「私はエルフの父親の住むエルフの森と、人族の母親の住む城下を行き来しながら育ちました。

 一年ほど前のことです。十才から貴族の家にメイドとして働き、十八になり奉公を終えて家に戻って来ました。そして、母と父に会いにエルフの森に行ったのでございます。その時エルフたちから、池の妖精たちが人の子を水の中に引き入れ遊んでいるという話を聞きました。

 妖精たちは気まぐれで、悪戯好きです。

 王女を見つけ気に入ってしまった妖精は、一緒に遊ぼうと母親の目の前で池の中に連れ去った。しかも、それが一年も続いている。飽きっぽいと思われている妖精たちは、よほど王女の事が気に入ったのだろうと仲間のエルフは話してくれました。

 人族である母親はその話を聞いて、大そう悲しみました。

「王妃様は目の前で我が子を攫われて、どれ程悲しまれておられるのか……
 一年経った今でもとてもお辛い思いをされているに違いない」と、涙を流しました。

 母の悲しむ姿を見た私は、そのエルフにその子はまだ生きてるのかと聞きました。エルフは笑いながら、生きていて池の中の妖精の国で遊んでいるよと教えてくれたのです。

 王女をこちらに戻すことが出来るのは、水の精霊しかいないということでした。

 私は全く知らない王女のために、どうして自分は動こうと思ったのかも分からないままに、水の精霊に会うため、森の奥深くにある泉に向いました。

 精霊が自分の頼みを聞いてくれるとは限らないけれど、やれるだけやってみようと思ったのです。

 丸一日かけて泉に着き、二日間祈り続けた三日目の朝、泉から精霊が姿を現してくれました。私は王女を妖精の国から戻して貰えるように必死に願いました。

 精霊は妖精たちの悪戯にも程があるといい、私の願いを聞き入れると言ってくれたのです。ただ一つ問題があるとも言いました。

『妖精の世界で暮らしていた王女は、妖精と遊ぶために幼児の姿になっているのだ。体は五才児の姿なのだぞ。そんな体で戻って本当に喜ばれるのか?』

 精霊の問いに私は戸惑いましたが、でも生きているなら会いたいはずだと思ったのです。
 精霊はこう言いました。

『なら我が確かめて来よう。エルフの娘こよ、もう一日ここでお前は待てるか?』

「はい、何日でも」『分かった』

 そして精霊は水の中に消えて行きました。

 一気にここまで話したリールーが一息ついた。
 すると今度は王妃アリスティアが、言葉を繋いだ。


「多分その時、水の精霊様はわたくしのところへ来ていたのです。
 私は夢の中で精霊様に声を掛けられました。

『王妃アリスティアよ』
 わたくしが目を開けると、そこに透き通るような人が立っていました。
 あなたは?と聞くと、
『我は水の精霊だ。其方に聞きたい。一年前に失った娘に会いたいか?』
 と、聞かれたのです。
 もうこの世にはいないと思っていた娘です。でも、会わせて下さるのならこの胸に抱き締めたい。それが夢の中だったとしても、もう一度この腕に抱きたいとお答えしました。

『我は娘をここへ戻すことが出来る』
 私は半信半疑で尋ねました。リディはまだ生きているというのですか?と。
『ああ、妖精とともに水の中で生きておる』
 涙があふれ、言葉を失っている私に、
『お前の元に戻すことは出来るが、娘は妖精の世界で五才児の姿になっておる。徐々に成長はするだろうが、すぐには元の姿には戻れないだろう。いや、戻る事は出来ないかも知れぬ。それでも戻ったら嬉しいか?』
 私の気持ちを試す様に聞かれ、五才の姿でも構いません。リディが私達の元へ戻ってくれるのならと、涙ながらに答えると

『分かった』
 そう一言い残して精霊様は姿を消されたのです。
 目が覚めた時、私は夢の中の出来事だと思っていました。けれど、何故、一年経ってこのような夢を見たのか。
 不思議に思いながら夢の話を夫に話しました。
 オーレアは私を抱き締めながら、夢の中でもリディに会えたら良いなと優しく言ってくれました。
 その数日後、夢が現実となりました。リールーのお陰で、リディアが私の元へと帰って来てくれたのです」

 泣き出した王妃の手を王が握り締め、リールーが話を続ける。

 泉で待っていた私の前に、水の精霊がまた姿を現してこう告げました。

『エルフの娘こよ、おまえの願いを叶えてやることにしたぞ。ただし条件がある。王女は今の姿から実年齢の姿にいつ戻れるのかも分からない。突然戻るのか、そのまま戻れないのか我にも分からない。しかし、妖精の国にいても元の世界の事は妖精の鏡を見て知っており、十四才の心を持っているのだ。人の世界に戻ったら、さぞ暮らし難かろう。我を呼びだしたお前が、王女のそばで世話をするというのが、我の出す条件だがどうする?』

 問われた私は、自分が勝手に願い出た事で、その責任は取らなくてならない。王女が元の体に戻る迄、自分が責任を持ってお世話をするしかないと思ったのです。そして、王女様のお傍に居る事をお約束いたしますと答えたのです。

『分かった。我も王女が元の姿になれるよう、何かしらの手伝いはする。では、王城へ行き、池の淵で待て』

 と言われ、精霊は泉の中へと消えて行きました。
 私は急ぎエルフの里にいる両親の元へと戻ると、この六日間の事を話しました。
 エルフである父も人である母も、私の行動に驚きはしましたが、叱る事はありませんでした。 
 そして私の意志が固い事を知り、二人で見送ってくれたのです。

 私は見張りの目を盗み、王城内に潜り込むと目的の池に向かいました。城の中など入った事もなかったのに、不思議と池の場所は分かったのです。
 やっとの思いで池に着くと、既に精霊が女の子を抱いて待っていました。

『確かに連れ戻したぞ。約束を忘れるな』
 精霊の言葉に力強く頷いて、王女を受け取ると直ぐに王の元へと向かったのです。

 私の話を聞いた陛下は、愛娘リディを戻してくれたお礼に褒美を与えてくだると言ってくださいました。ならばと私は水の精霊との約束を守り、リディア様の侍女になる事を願い出たのです。
 そうして今、リディア様のお傍に仕えさせて頂いている次第でございます」




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