大聖女と言われ転生しましたが、大きな仕事もせずに第二王子に愛されています。

文字の大きさ
上 下
110 / 111
番外編/陰の聖女はまったりを所望中ですが。

◇「外からの人」

しおりを挟む
※前話一部内容を変えました。

**************************


 城に戻り早々にデオドールの執務室に乗り込む。

「なんだ?いきなり二人して、バージルは今日休みだろう?」
「ええ、まぁ」
「突然スイマセン、お義兄様、ユリア様のお話を・・・」

「ああ、その話ね」

 デオドールは部屋にいた者をすべて下がらせ応接用のソファーの方へやって来た。

「座れば」

 促されてバージルと二人でオドールの対面に腰を下ろす。

「ユリア王女は本当に変わっていて面白いんだ」
 ユリアの事を思い浮かべたのかデオドールの口元が緩んだように見えた。
「はい、わたしもバージルから聞いて」
「うん、この間あちらを訪問した時に君の発案の「換気扇」の事を話したんだ。彼女めちゃくちゃ驚いていたよ。それとオレガノ商会で特許を取っている万年筆もプレゼントしたんだけどね」

「あわわわ・・・」
 
 それはそうだろう、「換気扇」などという語は今までこの世界に無い言葉だ。万年筆も同じだ。それを同時に出されたら考えるよね、異世界転移してきた人なら。

「まずは先にガルーダ国について話して置くよ」

 デオドールはガルーダ国と転移者について話し始めた。

 ガルーダ国は海に囲まれた島国でアデライトと同じく聖女信仰の国でもある。遠い昔ユリアのようにある日突然ガルーダに落ちて来た者がいた。落ちてきた男はかなりの年配だったが、神から使わされた聖女ではないかと言われた。だが彼には何の力もなく聖女の認められなかった。王城で保護されていた彼は「外から来た者」と呼ばれしばらくの間王城で暮らしていた。しかし自分はこの生活に馴染めないので田舎で畑仕事をして暮らしたいと言い、王は王城にいても何の役にも立たないのなら構わぬと「外から来た者」の願いを聞き田舎に土地を与えた。
 男は持っていた袋に入っていた種を蒔き米と酒、醤油と味噌を作り、それは徐々にガルーダ内に広まって行く。島国で漁業が主で土から採れるのもは葉モノと芋しか無かったこの国に米と大豆という新しい食文化を築いた。と伝えられている。
 「外から来た者」は後にガルーダに貢献したとして聖女と共に大切に扱われたという。

「なるほど、以前にもガルーダには転移者が来ていたという事は事実なんですね」
「そういうことだね、あの国が国交を開いたのは今の王になってからだから他の国はそのことを知らない。我がアデライトが初めての相手なんだ。それでね、ユリア王女なんだけど、彼女は今から十年前の十五才の時に突然城の噴水池に現れたそうだ」
「へっ、噴水!?」

 転移ってとんでもないところに飛ばされちゃうんだ・・・
 びしょ濡れでびっくりしただろうな。せめてもう少しまともな場所なら良かったのに。

「『外から来た者』の話はずっと昔の事だからみんな忘れていて最初は間者ではないかと疑われて捉えられ色々調べたけれど、それらしい証拠は何も見つからなった。言葉は通じるが会話の内容はかみ合わない。どこから来たのか尋ねれば聞いた事もない国の名前しか彼女の口からは出て来なかった。そこで言い伝えにあった「外から来る者」ではないかという事になり、城で保護する事になったそうだ。
 最初は自分の置かれた状況にパニックを起こし「帰りたい」と泣きじゃくっていたといたらしい」

 当然よね、女子高生が突然異世界へ飛ばされて来ちゃったんだから。

 ユリアは自分が帰る方法が無いと聞かされると諦めがついたのか、少しずつ前向きに考えるようになりこの国文化やしきたりを学び始めた。ガルーダには聖女がいるが「外から来た者」のユリアにはいやはり聖女の力は無かったが、その代わりに摩訶不思議な事を言い出して二輪の乗り物を作らせ城内を乗り回していたという。

 なにそれ、私もやりたい!
 自分がアデライト城内を自転車で走り回る姿を想像して思わず笑ってしまった。隣のバージルは自転車を知らないので「?」と不思議そうに笑っているアンナを見ている。

 そんな突拍子もないこと考えるユリアを王妃が特に気に入り可愛がった。その養女に迎えガルーダの第三王女となった訳だ。

「でさ、彼女にその換気扇と万年筆の事を聞かれアンナの事を話したら君に会わせて欲しいとお願いされたよ」

 そうでしょうね、そうなりますよ。私だって同じことを思っているんですから。

「勿論私もお逢いしたいです」

「だから、その前にアンナちゃん?君の事も聞かせてもらおうかな?」

 デオドールが探るような目をしてニヤリと笑った。
 アンナは横にいるバージルの顔を伺うと「うん」と無言で頷き微笑まれてしまう。
 
 アンナは自分が事故死し、この世界に転生してしてきたことを話す。もちろん大聖女の魂を持っているとは言わない。ただ転生する際に神様の加護で光の精霊ビオラと聖獣フォルガァに守って貰えていると伝えた。ついでに神様から膨大な魔力も貰ったと付け足した。

「やっぱりね、ドルチェ国へ行った時・・・変だと思っていたんだよ。魔力大会であんな凄いのを見せられちゃったし、召喚獣まで呼んじゃっただろう?」

「あれは・・・召喚獣では無くて精霊のドロップが化けていたんです」
「えっ、猫のドロップ?も精霊なの?」
「はい、水の精霊ですね」
「うわっ、なにそれ!アンナちゃんは二人の精霊と契約してるって事?」
「あ、いえ。ドロップは契約していません。ビオラの精霊仲間だしなんか気に入られちゃって勝手に傍に居るだけです」
「っ・・・それも凄いな」
 デオドールはキツネに包まれたかのように呆然としていた。

「バージルは知ってたの?」
「ええ、途中から。でも私だって驚きましたよ。精霊に聖獣持ちなんて知らないで好きになりましたからね」

「だよねー」

「すいません」
 思わず誤ってしまった。

「まぁ、アンナちゃんの事情は分かった。ユリア王女がその「外から来た者」で転移者だという事は知られているからいずれ私が彼女を妃に迎えこちらに来たら、同じ考えを持つアンナちゃんも異世界人ではないかと疑われるよね?」
「そうですね、その可能性は大ですね」
「勿論、ユリア王女には話すけど、こっちは両陛下どまりにしておいた方が良さそうだな」
「できればそうお願いしたいです。オレガノの両親はジュリアンナが昏睡している間に私の魂が入ったなんて知らないのですから。純粋に自分の娘が目覚めて喜び育てくれてくれましたので」
「だよね、外見は自分の娘で中身は別人と分かったら卒倒しちゃう」
「兄上、くれぐれもアンナの秘密は・・・」
「うん、分かった両陛下にもその事は伝える。ユリア王女にも他言しないようにと言って置くよ」
「ありがとうございます」

「デオドールお義兄様、それでユリア王女ですが多分元いた世界は私と同じ世界で同じ国だと思います」
「それホント?」
「はい」
「だったら余計に喜ぶと思うよ。何とか早く会えるように調整しよう!」
「はい、お願いします」
「良かったなアンナ」

 バージルがアンナの肩を抱き寄せこめかみに口づけた。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...