大聖女と言われ転生しましたが、大きな仕事もせずに第二王子に愛されています。

文字の大きさ
上 下
74 / 111
第6章*聖女の派遣と新婚旅行

59*アンナ策略

しおりを挟む
「実は先ほど明日の為に調べたところ悪意の魔術と感じたのです」
「悪意?」
「皇帝陛下とナリス殿を貶める為というか・・・」
「何という事だ」
 サミュエルはガックリと肩を落とします。

「それは解けるのでしょうか?」
 ナリスが縋るようにアンナの手を握り締めてきました。
「時間は掛かると思いますが必ず解いてみせます」
 アンナは力強く頷きました。
「術を掛けた相手が分かればこの複雑な術を本人に解かせるのが一番手っ取り早いのですが・・・」
「ごめんなさい。名前も聞かないで、わたし」
「いいえ、きっと相手も意図的に名乗らなかったのだと思います。悪意の魔術を仕掛けるんですもの。名乗る筈なんかありませんわ」
「ジュリアンナ妃の云う通りだ。君が気に病むことは無い」
「あなた・・・」
「分からない以上は私達で何とか解術します」
 バージルも拳を握り締めて奮起します。
「ありがとうございます。分かりました」


 部屋に戻ったアンナ達はベッドの上で溜息を吐いた。
「まさかこんな展開になるとは思わなかったな」
「そうですね、悪意の術なんて酷いことを」
「かなり複雑な術式を用いているので解読にも時間が掛かりそうなんだ」
「大変だけど頑張りましょう。はい、今日のご褒美」
 アンナはバージルにそっと口づけます。
「ありがとうアンナ」

 隣でバージルの寝息を聞きながらアンナはなかなか寝付けないでいました。
 帝国は五つの領からなっている。占領された国と傘下に入った国。皇帝を恨んでいる人もいるわよね。それと皇帝を引きずり降ろして自分が変わろうとする者も。五国の王になっても気が休まることは無いか。。。

 ふと、気になる事が浮かびビオラに念話を送る。

『ビオラ起きてる?』
『アンナどうしたの?』
『この国って魔術師の数は多いのかしら?』
『ビスチェ自体は少ないと思うわ。他の領もまちまちね。まぁ魔術は多少魔力があれば訓練次第で自分の術式を作れるようになるけどね。でも最後の悪意の術はある程度の力を持っていないと無理だと思う』
『そっか。あっ、でもバージルが術式にはそれぞれの癖があるって言ってたわよね?』
『ええ。あると思うわ』
『うん、ありがとう。これで眠れそうだわ』
『ん。もういいの?』
『うん、おやすみなさい』
『ふふ、おやすみアンナ』

 翌日アンナはバージルを伴いサミュエルの執務室を訪ねた。

「陛下、お伺いも立てず急にお尋ねして申し訳ありません」
「いや、構わぬがどうされましたか、ジュリアンナ妃」
「はい、唐突ですが魔術大会を開いて欲しいのです」
 いきなりの提案にサミュエルは困惑する。
「それも高位な魔術師を集めて欲しいのです」
「どう云った意図でかね?」
 バージルはアンナの言わんとしている事が段々と分かって来た。
「術のお披露目か」
「ええバージル様」
 にっこりと笑うアンナ。
 アンナの話はこうであった。
 バージルの話から術にはそれぞれ術師の癖はある事を知った。その中でも悪意のある魔術を掛けたのはかなり力のある高位な魔術師だとビオラが言った。
 ならばその者たちを集めて術を披露させ、その中にナリスの掛けた術と同じ癖を持つ術師がいれば犯人だと特定できるとういものだった。

「もしその中に犯人がいなくてもナリス様の方は殿下とビオラが解いてくれますからご心配には及びませんが」
「なら何故特定し見つけるする必要があるのか?」

「皇帝ともあろうお方がそんな事もお分かりになりませんか?」

 アンナは皇帝に向けて不敬とも言える言葉を放ったのでした。
「えっ?」
 唖然とするサミュエル。

「皇帝陛下に無礼ではないか!」

 執務室に残っていた護衛の騎士が声を荒げ腰の剣に手を掛けました。
 バージルがすっとアンナと護衛の間に身体を入れます。
「ダグラスよい。下がるのだ」
「しかし陛下!」
「良いと申した。聞こえなかったか?」
「申し訳ありません」
「部屋の外に出ておれ」
 ダクラスは手を納め一礼すると執務室から退出していきました。

「陛下はナリス様のお身体の事で頭がいっぱいで大事なところを見逃しております。治ればそれが一番ですが、それで終わりではありません」
 アンナが一息つきサミュエルの顔を見ます。
「続けてくれ」
「はい、最後の二つの術は悪意の術だとバージル様が言っていたのを覚えておられますよね。悪意というのは皇帝と皇妃を狙っているという事です。最愛のナリス様を不治の病ににしサミュエル様を悲しみのどん底に陥れ精神を弱らせ皇帝の地位を奪う。これが目的だと思われます」
 アンナの言われサミュエルは膝の上に置いた拳をぎゅっと握った。

「・・・ああ、何という事だ。私は自分を見失っていた云う事なのだな。ジュリアンナ妃」
「ナリス様を思うばかりと云えば仕方のないことではありますが。。。」
「いや、自分の半分にも満たない年の妃に諭され身が縮む思いだ」
「そんな、生意気なことを申し上げてしまいました」
 ペコリと頭を下げるアンナ。
「バージル殿下は素晴らしい奥方を伴侶に持たれましたな」
「ありがとうございます。アンナはやっと巡り逢えた私の唯一であります」
 アンナを褒められ嬉しさを隠さず素直な気持ちを答えるバージルに皇帝も「唯一か、大事にされよ」と微笑みを返したのでした。

「それで、反逆と不敬を企む者に仕える術師をその大会であぶり出そうというのか」
「はいその通りです」
「うむ」
「それでですね、ただ魔術大会と云ってもそういう輩は表に出て来ないかも知れませんのでエサを蒔きます」
「餌を蒔くとは」
 ピンクの瞳をキラキラと輝かせるアンナを見てサミュエルも年を忘れワクワクしてしまう。
 バージルは私のアンナはどれだけ人たらしなんだと呆れてみています。

「餌は帝国魔術師と云う名声と役職です」

「成る程帝国魔術師という役職で私の傍に付けば貶める確率も増すという事か」
「そうです、こんなチャンスを見逃す訳がありません」
「うむ」
「アンナの発想には驚かされるな」
「うちの参謀に欲しい」
 腕組みをしながら真面目な顔で言う皇帝にバージルがこれまたマジメに答えます。
「やめて下さいサミュエル殿、アンナが調子に乗ります」
「わはは!いや、実に面白い。早々に準備を始めよう」

 すぐさま閣議を始めるよう使いを出しその日の内に魔術大会について話し合われた。

「でも当事者が参加しなかったらそれまでだけどな」
 廊下を歩きながら残念なことを言うバージルに
「大丈夫です、絶対に出て来ますって!」
 自信満々に言うアンナを見て彼はクスリと笑い突然抱き締めて来た。
「なんですか、いきなり!」
「私の奥さんは賢くて可愛いなと思って」
 耳元で囁くように言われプシューと音が出たのではないかと思う程赤面し耳まで熱を持って俯くアンナに再度「可愛い」と言い口づけるバージル。

 二人の会話が聞こえない距離を保ち護衛している騎士たちはそんな二人の姿を見て俯き顔を赤めていたのでした。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

オネエが聖女として召喚されても問題ありません!

カトリーヌ・ドゥ・ウェルウッド
ファンタジー
「こんな聖女もうやだあ!!」 「殿下、呼んだのはあんたでしょ我慢なさい!」 三十路のイケイケオネエの円山和也は ある日魔法の光に包まれて異世界へ!! でもそれは聖女としてだった!! オネエ聖女が巻き起こすタイフーンで 異世界はどうなるのか?

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

処理中です...