大聖女と言われ転生しましたが、大きな仕事もせずに第二王子に愛されています。

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第6章*聖女の派遣と新婚旅行

57*厄介な術式②

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 ビオラを伴い皇妃ナリスの部屋へ向かいます。
 予め皇帝より三人が尋ねたら人払いをし、侍女たちも立ち入らぬように言われていた執事が最後に部屋の外に出ると静かに扉を閉めました。

「ナリス様、お加減は如何でしょうか」
 アンナの呼びかけに「先ほど眠ったせいか少しいように感じます」と答えたナリス。
 アンナは妃の手を優しく握りながら微笑みました。
「これからまた魔力を流しナリス様に掛けられている術を一つ一つ見て参ります。もし具合が悪くなりましたら遠慮なくお申し付け下さい」
「分かりました。宜しくお願い致します」
「私たちを信頼してください」
 バージルが枕元から声を掛けるとナリスは瞳を閉じ頷きました。

 ナリスには魔力と云いましたが本当は癒しの力をアンナは両手でナリスの手を握り送り始めました。
 少しずつナリスの頬に赤みがさしてきます。

 アンナがビオラを見て頷くと彼女はナリスに向けて両手を広げその指先から出た光の粒がナリス全体を包み込んでいきます。すると次第に色々な術式が浮かび上がって来ました。
「これはかなり複雑に絡み合っているな。まずは一番解れ易そうなところから」
 バージルが空中で何かを操るように術式の一つを解いていきますが絡まった結び目がなかなか解けず苦戦している様子を見たビオラが光のジェルの様なものを結び目に振りかけます。
 結び目が少しずつ解れていき、やっと一つの術を剥がすことが出来ました。
 バージルはその術式を読み取りそれを解く呪文を唱える。
 そして最後に「汝の術は我が開放し解き放つ」と唱えると宙に浮き彷徨っていた術式はパンと乾いた音と共に砕け散った。
「この古いものはもう一つくらいいけそうね」
 ビオラの言葉にバージルが頷いた。
 アンナも小さな手ごたえを感じていました。
 癒しの力がナリスの身体を巡っている訳ですが、血栓の一部が無くなったかように流れが僅かに良くなったと感じていたのです。

「バージル少し休む?」
 ビオラは続けてと言ったものの、バージルの身体にはかなりの負担がかかっていると思い声を掛けますが、バージルは首を横に振って次の術式の絡みに取り掛かっていました。
 そして先ほどと同じように時間をかけゆっくりと術を解いた。

「ふぅ。」
 バージルが息を吐き座り込んでしまう。
「大丈夫?」
 アンナが心配そうに見ています。
「ナリス様の流れも良くなっています。やりましたね。私はもう少し癒しを送りますのでそちらで休んでいて下さい。ナリス様が終わりましたらバージルにも回復の癒しを送りますから」
 バージルは床から立ち上りソファに座り直すと
「大丈夫。今夜アンナが抱きしめて口づけをくれたら直ぐに回復できるから」
 すました顔で言う彼にアンナは
「集中しているときに変なこと言わないで下さい」
 と言いながらもナリスに集中し時間を見て癒しを送るのを終了する。

「ご褒美は大事よね」
 ビオラの言葉にバージルも当然だと頷きます。
 全くこの二人は・・・と思いながら憎めないのよねとアンナは小さく笑いました。
 
 暫くしてナリスが目を覚ましました。
 執事に呼ばれサミュエルとデオドールも駆けつけ付けます。

「ナリス、具合は?」
「サミュエル、わたし・・・」
 彼女は自らの力で上半身を起こし愛しい夫に抱き付きました。
「ああ、ナリス・・・」
 抱き合う二人を見てアンナの心の中に小さな明かりが灯ります。

「皆さんのお陰で身体少し動くようになりましたの。なんと感謝したら良いか言葉が見つかりません」
「うん、うん。私もだ。こうしてまた君に抱きしめて貰えるなんて」

 サミュエルは立ち上がりアンナ達の方へ向き直ると深々と頭を下げます。
「陛下どうか」
 バージルがサミュエルの肩を起こします。
「陛下、まだまだこれからですから。お礼を言って下さるのは最後の術が解けた時にお願いします」
 アンナの言葉にまだ先がある事を思い、最愛の妻が歩き微笑む姿を思い願ってきたことが現実として叶うかも知れないとまた涙するサミュエルでした。

「良かったですね陛下。明日また聖女に癒しを貰えば少しずつナリス殿も元気になっていかれますよ」
 デオドールもサミュエルの肩を抱きます。

「ナリス様もお疲れになったでしょう。本当は睡眠魔法を掛けたいところですが陛下の嬉しそうなお顔を見たら。
 今夜はゆっくりと陛下とお話をされてお休みください」
「ありがとうございます。ジュリアンナ妃」
 ナリスも嬉しそうにベッドの上から頭を下げました。

「さー、お邪魔虫はさっさと部屋に帰りましょう」
 ビオラが先頭を切って退出していきます。
「おやすみなさい。サミュエル皇帝陛下。ナリスティア皇妃陛下」
 最後にデオドールが退出すると二人と一緒に来ていた執事が
「旦那様、奥様本当に良かったです。どうぞごゆるりとお休みください」
 と出てゆき扉を閉めました。
 部屋の外で執事が涙ながらにバージル達にお礼を述べます。
「まだ第一歩ですから」とバージルは執事の肩を叩きその場を去って行きました。

「疲れたであろう?私の部屋で一杯飲むか?」
「いえ、兄上は晩餐の後のパーティーでも飲まれたのでしょう。私はアンナに労わって貰うので大丈夫です」
 キッパリと断られ気落ちするデオドール。
「お前は拠り所があって良いな・・・アンナちゃん悪いが甘ったれの弟をよろしくね」
「デオドール様ったら」
「ほらまたーお義兄様だって言ったでしょうが!」
 十も上のデオドールが甘えた様にいう姿が可愛く思え

「おやすみなさいデオドールお義兄様」
 そう言い思わず彼の頬に触れるか触れないかギリギリのお休みのキスをしてしまう。デオドールがそれに応えお返しをしようとアンナに顔を近づけた途端、アンナの身体は宙に浮いていました。
 荷物の様にバージルに抱えられ廊下を運ばれていくアンナ。

「あーあ。アンナやっちまったわね」
 ビオラが憐れむように言う。

「わ、私の所為では無いよな?」
 唖然としながらデオドールが二人の後ろ姿を見送っている。

「殿下の所為でもありますよ」
 冷たくビオラに言われ落ち込むデオドールに彼女はクスリと笑った。

「ワインならお付き合いしますよ」
「そうか、では頼む」
 デオドールはビオラをエスコートし借り物の自室に入って行きました。

 でも王太子が侍女を部屋に連れ込んで良いのでしょうか?
 誰しもが思う所ですが、それは・・・ねっ。

 あのビオラですから。

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