大聖女と言われ転生しましたが、大きな仕事もせずに第二王子に愛されています。

文字の大きさ
上 下
61 / 111
第5章*成人と婚姻

46/誕生日

しおりを挟む
 バージルと出会ったデビュタントから約一年、アンナの誕生日と成人を祝う為にオレガノ邸では朝から使用人たちがせわしなく動き回っています。

「アンナちゃん、おめでとう。成人に相応しいドレスだわ」
 母マリアンヌは末娘のドレス姿に目を潤ませていました。
「でも来年早々お嫁に行っちゃうのよね」
 姉マリエッタも可愛いい妹の晴れ姿とあっという間にこの家を出て行ってしまう寂しさでハンカチを目頭に充てていました。
「母さま、姉さま」
 アンナも思わず貰い泣きしてしまいそうになるとマリアンヌがあーダメダメせっかくのお化粧が崩れちゃうわと笑顔でおしろいを直してくれました。
「私とマリエッタは先に広間に行っているわね。殿下がいらしたらエスコートして頂いて来るのよ」
「はい、分かりました」
 母と姉が部屋を出て行くとビオラもバージルが来たら案内してくるからと扉を閉めました。

 ひとりになった部屋で鏡に映る自分の姿を見ながらアンナは前世の事を思い出していました。
 成人式の時にはもう死んでしまっていて式に出る事は出来なかったけど、前撮りで写真は撮ったんだよね。
 あの写真を見て父さんも母さんも涙ぐんでいたっけ。弟は姉ちゃん馬子にも衣裳ってこの事をと云うんだろうなんて馬鹿にしてたけど。
 あんなに早く逝ってしまった娘をあの後家族はどう思っていただろうな。
 ポロリと涙が一筋零れ落ちた。

「お嬢様殿下がお見えになりました」
 ビオラの声に慌てて涙を拭きます。
「どうぞ」
 扉が開きバージルが部屋に入って来ました。お時間になりましたらお声を掛けさせて頂きますとバージルの背越しにビオラがお辞儀をして扉を閉めて行きました。

「アンナ誕生日おめでとう」
 大きな花束を差し出し笑顔でバージルが祝ってくれます。
「ありがとうございます。バージル様」
「今日は一段と綺麗だ。これは僕からのプレゼントだよ、身に着けて欲しい」
 渡された箱を開けると輝くばかりのピンクダイヤのネックレスとピアスが入っていました。
「綺麗…」
「君の瞳に合わせて作って貰ったんだ。今日はこれを付けて欲しい」
 ああ、それでこんなに着飾らせられたのにアクサリーは一つも用意されていなかったのね。
 事前に母さまは殿下か聞いていたんだわ。
「こんな素敵なもの良いのでしょうか」
「もちろんだよ。成人も兼ねているんだから当然の宝飾品だよ。ほら後ろを向いて、ネックレスは私が付けてあげよう」
 アンナは姿見の方を向き鏡に映る自分とバージルを見つめていました。
 中心の大粒の石からグラデーションの様に小さくなっていくダイヤの美しさを見惚れながらピアスを自分で付けていきます。
 後ろから鏡を見ながらバージルが「綺麗だ、似合っている」と耳元で囁きうなじに口づけを落としました。
 ひやっ、思わず首を竦めるアンナ。
「せっかくお化粧しているのに口にしたら紅が落ちてしまうからね」
 バージルは鏡の向こうでウィンクして見せました。

「殿下、お嬢さま広間の御支度が整いました」
 扉の向こうから聞こえたビオラの声にバージルが扉を開けアンナをエスコートしてパーティーへ向かいます。

 広間に婚約者である王子にエスコートされ入って来た乙女に待っていた来賓からため息がもれます。
「なんて美しい」賛辞の言葉を無意識に口にする来賓達。
 バージルはアンナの父であるアドルフの横迄アンナをエスコートすると自分は一歩下がり礼をしました。
「皆様本日はオレガノ家次女ジュリアンナの誕生と成人の祝いにお越し下さり感謝申し上げます。ジュリアンナも今日で十六歳を迎え、婚約者であります第二王子殿下のとの婚姻も来年、新年の祝いと同時に挙式を挙げる事となっております。可愛い娘を嫁がせるには少々早いと思っておりますが、殿下の熱望と聞き親としては致し方なく・・・」
 結婚式でもないのに涙ぐむ父に母がハンカチを差し出し「しっかりしなさい」と激を飛ばしました。
 兄さまと姉さまはクスクスと笑っています。
「とにかく、アンナ。誕生日、そして成人おめでとう」
 「ありがとうございます。父さま」
 アンナは父ルドルフと抱擁しお互いに左右の頬を合わせると会場から大きな拍手が沸き上がりました。

「ジュリアンナは本当に綺麗になったな。殿下に見初められるのも当然だよ」
「デビューの後我が家にお宅の親戚のジュリアンナ嬢を紹介して欲しいとあちらこちら問い合わせが来ていましたのよ」
「しかし、その日にはもう決まっていたのだというから殿下には誰も太刀打ちできなかっただろう」
「当然ですわね」
「ジュリアンナは眠りについてしまう前の子供の頃しか見てないものな。目覚めてからはいつも家に閉じこもって本を読んでいたり何か作ったりしていて僕たちの前にも出て来なかっただろう?その頃会っていれば僕だって求婚していたかもしれない」
 従兄のアルバートが愚痴りますが、
「だとしてもわたくしの可愛いジュリアンナはアルバートなんかに差し上げませんわよ」
 アルバートと幼馴染の姉のマリエッタに軽くあしらわれてしまいます。
「そうだ、そうだお前には無理だ」
 アルバートの父、アンナの伯父カーティスにまで笑われ場は和んでいきました。

 ダンスの音楽が始まるとそれぞれが手を取り踊り始めました。
「私たちも踊ろう」とバージルがアンナの手を取り輪の中に入って行きます。
 自然と二人の周りから人影が引いていきます。
 美しい二人が踊る姿はまるで絵に描いたようで、離れて踊る親類たちも見惚れてしまう程。

「アンナ、次は結婚式だな」
「はい、バージル様」
「花嫁衣裳もだいぶ形になってきていると聞いたよ」
「そうですか、楽しみですわ」
「うん、でも今日のドレスも素敵だよ。先ほどネックレスを付けている時、大胆に開いた背中がセクシーでドキッとした」
「バージル様ったら」
 頬を染めるアンナの背中を踊りながらすぅーと指を滑らせると今度は耳まで赤く染めるアンナを見てバージルは満足そうに笑います。

「もう成人したのだから明日からは遠慮はしないからね」

「そ、そんな事今宣言しないで下さい!」

 そう言いながらアンナがバージルを見上げると金色に戻りつつある瞳が悪い目をして見つめ返してきて思わず目を逸らしてしまいました。

 親し人々に誕生日と成人を祝われながら新たな不安を抱えながら宴の夜は更けていきました。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

処理中です...