大聖女と言われ転生しましたが、大きな仕事もせずに第二王子に愛されています。

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第4章*隣国の王女

30滞在四日目・手がかり

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『割とコンパクトで使いやすそうね』

 アンナは調理器具などの足りない道具のリストアップをしていきます。
 こういう時はいつも、日本語の文字列が並びます。
「いつ拝見しても不思議な暗号ですね」
 護衛の騎士が不思議そうに首を傾げ覗き込んできました。
「うふふ、私だけの秘密の文字ですもの」
 アンナが楽しそうに笑うのを見て騎士もつられて笑います。
 勿論メニューも違うページに日本語で書き記されています。

〇生ハムのサラダ
〇マリーリクエスト エビフライ
〇鯛(白身魚)のアクアパッツァ
〇若鳥のから揚げ
〇ポトフ
〇ピラフ

 限られた材料で簡単に出来る料理をチョイスしてみた。
 お米は料理長が市場で偶然見つけて来た輸入物だ。タイ米と白米のちょうど中間みたいな大きさかしら。
 玄米の状態で売られていたので魔道具で精米し炊いてみたら水分量もそこそこあり結構いける。でもこれもアデライトでは貴重な食材で高価なものだわ。
 最初はおにぎりと思っていたけど、王妃様や王女様は素手で持って食べる事に抵抗もあるだろうと思ってピラフというか鮭の炊き込みご飯に変更したのだ。
 川で鱒が取れるので塩を振って焼きほぐしたものを保管してあるものを使おう。
 とりあえず、厨房の準備は済み、後は食材が届いたら下ごしらえをすればいいわね。
 うん、と頷いてアンナは護衛と共に離宮をあとにしました。

 自室に戻る途中サロンで数人の令嬢に囲まれ談笑するフェリーシアを見掛ける。
 とても楽しそうにお茶をしながら会話をしています。
 徐々に王城内でもフェリーシアの人気が高まってきており令嬢方や周囲にいる人達は王女から聞くエスメラルダ王国の話にも夢中になっているようです。

『楽しく過ごされているのなら何よりだわ』
 アンナは声を掛けて座を白けさせるのも申し訳ないと思いそのまま部屋へと戻ったのでした。

 部屋に戻ると侍女からバージルの使いがきて昼食は彼の執務室で一緒にとの伝言を伝えられます。
 アンナがレシピの確認を済ませ護衛と共に執務室へと向かっている途中で令嬢たちの井戸端会議が耳に入ってました。

「先ほどサロンに王女様を迎えに来られたデオドール殿下のお顔をご覧になりました?」
「ええ、何だか愛おしそうに王女様をご覧になっておられたような気がしますわ」
「わたくしもそう思いましたわ」
「お噂では毎日王女様のお部屋に自ら足を運ばれてお花を届けていらっしゃるとか」
「まぁ、本当ですか!」
「とても素晴らしい王女様ですものね」
「殿下もそろそろ身をお固めになるのかしら?」
「悔しいですけれどあんな素敵な王女様では仕方ありませんわね」

 立ち止まって耳を傾けていたアンナは不思議に思っていた。

 フェリーシアの人気が出て来たのは分かる。でも今話をしている彼女たちは殿下の一番強烈な取り巻きであり、隣国の王女がデオドール殿下を追い掛けて来訪すると聞いた時に口を揃えて「はしたない」とか、本人を見た時には「あんな小娘は殿下と釣り合わない」などと陰口を叩いていたというのに。
 たった数日でこうも変わるものなのだろうか?
 首を傾げなら護衛と目を見合わせ苦笑してしまう。

 バージルの執務室にはデオドールの姿もあり、噂話を聞いたばかりのアンナは思わず彼の顔をまじまじと見つめてしまう。そしてまたあのハーブの香りがデオドールから漂って来てそれも気になり挨拶をするのも忘れてしまった。

「アンナちゃん、我の顔に何かついているのかい?」
 デオドールの言葉にはっと我に返る。

「あっ、いえ何でもありません。殿下は今日も素敵だなと思って見とれてしまいました」
 にっこりと笑顔を作り答えると

「兄上なんかに見とれなくてもよい。アンナはこっちへ」
 とバージルに引き寄せられ横に座らせられてしまう。

「ああ、バージルのヤキモチも相当だね」
「ほっといてください」
 デオドールの言葉にバージルは無表情で答えている。

「でもさ、何となくその気持ち分かるよ」

「「えっ?」」

 思わずバージルと声が重なる。
「兄上がですか?」
「なんだい、そんなに驚く事かな?我にだって愛おしくてたまらなく思う気持ちがあってもおかしくないだろう?」
 
 デオドール殿下からそんな言葉が出て来るとは思いもしなかった。
「それは誰に対してのお気持ちでしょうか?」
「だ。誰って・・・アンナちゃんもそうだし、マリーもだし、それに・・・」
「それに?」
 デオドールはふぅ。と息を吐いてバージルの正面に座り背もたれに寄り掛かると長い脚を組んだ。

「エスメラルダの姫ですか?」
 バージルが間を少し置いてきいて来た。
「そ、そうだな、彼女も含まれるかな」

 明らかに動揺しながら目を逸らしとぼけた口調でいうデオドールを見てバージルはため息をつきサンドイッチに手を伸ばす。

「ここへ来る途中、令嬢方のお話が聞こえて来たのですが、デオドール様は毎日フェリーシア様の元にお花を届けに通われているそうですね」
 十歳も年下のジュリアンナの言葉に赤面するデオドール。

「そうなのですか?随分とご執心ですね」
 冷めた表情のままバージルに言われデオドールは少しムッとしながら
「隣国の姫を持て成すのは我の役目だろう」
 と彼もサンドイッチを口に入れた。
「いえ、良いんですよ。お可愛いらしい方ですからね。ただ、あれ程嫌悪していた王女に対して何故急に態度を変えられたのか気になっていたものですから」
 目を見ながら聞かれお茶を一口飲み彼は弱々しい声で答える。

「自分でも分からないのだ。エスメラルダにいた時よりこちらでは自由奔放ではないにしろ、全く我のタイプでは無かった筈の彼女が急に愛しく感じるようになってしまった」

「突然恋に落ちたって事でしょうか?」

 デオドールの変化が気になっていたアンナも彼の表情を見るべく目を見つめる。
「恋と言われればそうなのかも知れないが、何かもう少し違う感情も入り混じっているんだ。何故、急にその訳の分からぬ感情が沸き出て来たのか・・・」
 言い終わるとカップのお茶を飲み干し、自分の執事に
「ピエールあれを」と指示を出した。
 ピエールは直ぐに次のお茶を用意する。

 デオドールに出されたのはハーブティーでした。
「これは?」
 アンナが失礼と思いながらカップの中を覗き込みます。
「あっ、君たちも飲むかい?」
 そう言ってから慌てて
「あっ、これは我の体調に合わせてブレンドされたお茶だから君たちに合うとは限らないか」
 音を立てずに静かにお茶を啜りほうっと息を吐くデオドール。

「あのう、このハーブティーってもしかしてフェリーシア様の侍女リンダさんがブレンドしたものですか?」

「アンナちゃん、よく知ってるね。姫が侍女に頼んで作ってくれたものだよ」
 嬉しそうに話す彼を見てアンナの頭の中は迷走する。

 ユリの香り
 ハーブのニオイ
 令嬢たちの話
 恋心にも似た想い
 個人用ブレンド

 もしかしたら・・・否な予感がした。

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