大聖女と言われ転生しましたが、大きな仕事もせずに第二王子に愛されています。

文字の大きさ
上 下
9 / 111
第2章*王子とアンナ

2オレガノ家の家訓

しおりを挟む
 十五才の私ジュリアンナは今年社交界にデビューします。
 ドレスやら何やらの準備をする母さまと姉さまの気合の入れようといったらそれはもう、半端ない(汗)

 そんなある日、私のお世話をしてくれていたクレアが病気の母親の世話をするために実家へ帰ってしまいました。代わりのメイドが来たからと父に呼ばれ執事長のクレメントと父の執務室に向っているところです。

「失礼します。ジュリアンナお嬢様をお連れ致しました」
 部屋には母さまも同席しています。
 そして母の隣には姉さまと同じくらいの女性が微笑みながら立っていました。

「アンナ、クレアの代わりに来て貰ったビオラだよ。彼女はマリエッタと同じ十八才だが、スーパーメイドと呼ばれていてとっても優秀なメイドなんだ。変わり者のアンナにピッタリだと思うから仲良くしておくれ」

「初めましてジュリアンナ様。ビオラでございます。どうぞ宜しくお願い致します」
 メイドのビオラは深々と頭を下げました。

 あの薄紫の髪と瞳。どう見ても精霊ビオラだよね・・・
『何してるのよ』
 私は念話でビオラに話し掛けます。
『だって、クレアの代わりを探してるって小耳に挟んだから』
『それ絶対に盗み聞きしたでしょう?』
『えへへ、バレたか』
 私は呆れながらメイドのビオラに挨拶をしました。

「よろしく、ビオラ。私の事はアンナと呼んでくださいね」

「それにしても父さまったら私の事を変わり者なんて失礼しちゃうわ」
「仕方ないわ、この年で大学院の課程まで修得してるし、前世の記憶のお陰で便利な魔道具の発明迄しちゃってるんだもの」
 この世界は理数系に関してかなり水準が低い。コンピューターや電卓が無くても魔法が使えると云うのもあるのだと思う。
 でも、元々便利なものを知るよしもないからそれで満足してしまい以降の向上心がないのよね。
 医療もそうだ。治癒魔法があるから手術なんて必要ない。ある意味高度な技術だけど、治癒魔法師士も少ないから平民がそれを受けられる機会は殆どない訳で。
 町医者といっても薬草を煎じて処方するぐらいなだもの。前世で救命講習を受けて認定証を持っている私の方が知識があるわ。一般でも出来る事を普及したいわよね。
 
「ビオラだってスーパーメイドってなんなのよ」
「だって普通のメイドじゃつまらないでしょう?」
「そんな余計な演出必要?」
 執務室から自室へビオラと歩きながら話をする。

「それよりアンナお嬢様、お部屋で待ってるものがいますから楽しみにしていて下さいね」
「ビオラにお嬢様なんて呼ばれると調子が狂うわ」

 ビオラに急かされて自室に戻ると開け放たれた窓から心地よい風が吹き抜けました。
 私は椅子に腰かけ誰もいないじゃないと辺りを見回す。
「ほらっ」とビオラが向けた視線を追って窓見ると、ひょいと黒猫が部屋の中に入ってきました。そしてその猫は迷うことなく私の膝の上に乗ってきたのです。

「ひゃっ!」

「なんて声を出すのじゃ」
 猫に話し掛けられ驚きましたが、その声には聞き覚えがあります。

「フォルヴァなの?アナタ猫にもなれるのね」

「我は何にでもなれる」

「そうなんだ。でも狼なんだから可愛い子犬の方が良かったんじゃないの?色だって何で白ではなく黒なのよ」

「犬だと繋がれてしまうだろう?猫ならいつでも主の傍に居れるからな。それに白だと汚れが目立つ」

「ふーん、黒猫でも可愛いから許すけど、ビオラもフォルヴァも急に姿を変えて出て来るなんてどうしたのよ」

「ふふ、妖精より人型の方がアンナを守り易いかなって思ってメイドになってみたの。良い感じでしょう?」
 ビオラはメイドのお仕着せエプロンを摘んでくるっと回ってみせた。

「ハイ、ハイ。カワイイデス」
「なによ、その棒読み!」

 私たち二人のくだらない遣り取りを聞いていたフォルヴァが静かな声で

「主よ、我らが姿を変えて人前に出て来たのには訳があるのだ。主はこれから社交界へのデビューを控えておる。その為に王城へ行く訳だが、人と関わることで色々な事が起きるであろう。これから先、主を守る為に傍に居ても気に留められることのない姿になった云う訳だ」

 ビオラもうんうんと頷いていています。

「そうなのね。そろそろ神様の言う出会いがあり使命を果たす場面も出てくると言う訳かしら?」

「面白くなりそうね」
 アンナは目を輝かせてこれから起きる何かを期待してるみたいだけど、本当に私で役に立つのでしょうか。


 そうこうしているうちにデビューへの準備は着々と進んでいきます。
 王宮で両陛下の御前にてデビューすると云う事は貴族令嬢として公式に認められると云う事だ。
 女子は十六才で成人となるので結婚も出来る。生まれた時からお家同士で許婚が決められることもある訳でデビューの時に婚約者がいる事もざらなのよね。
 まだお相手がいない娘たちはこの機会になるべく良いとこの子息に見初められようと親たちも必死になる。

 ところがうちの両親は世間の親とは違っている。
 結婚は本人たちの意思でというのがモットーで恋愛も自由だと常日頃から言われているのです。
 姉さまがデビューしたのが三年前。
 その美しさでデビューと同時にあらゆる方面から交際の申し込みを受けた。
 でも姉さまは未だ嫁いでいない。ゆえに三年経ち社交界の花と言われる姉さまに是非ともの声は後を絶たない訳だけど、例え我が家より身分の高い家柄からの申し込みであっても姉さまがうんと言わない限り両親は取り次ぐこともしないのだ。
 姉さまも姉さまで、それなりに浮いた話もあり気には掛けるがそれ以上は上手くあしらってしまう。
 やはり母さまの血筋だわ。

「アンナもこんなに可愛いですものデビューしたらきっと大変よ」
 母さまが扇子を口に充て笑っています。

「当然だよ我が家の娘だらね。マリエッタと同じくそう簡単には嫁がせる気はないぞ」

「お父様。私は自分の意志で一人でいるのです。将来の旦那様も自分で見つけますので今まで同様ご心配には及びませんわ」
 姉さまが念を押すように言うと

「そうよ、貴女達は男爵家の娘とは言え元は商家。貴族の規則に縛れらることは無いわ。自由にお生きなさいな。早々と良い殿方をみつけ結婚するのもよし、何なら生涯独身だってかまわないのよ。私はアドルフと早くに結婚して幸せですけどもね」
 母さまはそう言うと父さまにしだれ掛かりそれを受け止める父さまが「私も同じだよ」と母さまの肩を抱き何度もキスを交わす。

「仲がお宜しいのは良く判りますが年頃の娘二人の前だと云う事を忘れないで下さいませね」
 お姉さまが呆れた物言いで両親を窘める。
 と云っても我が家ではいつもの光景なので姉さまも私も別に恥ずかしいとかはしたないとか思わない。
 母さまにデレデレしている父さまは可愛いとか思ってしまうくらいなのだ。

 それこそ我が家の家訓は『自由』なのですから。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...