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第2章*王子とアンナ
2オレガノ家の家訓
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十五才の私ジュリアンナは今年社交界にデビューします。
ドレスやら何やらの準備をする母さまと姉さまの気合の入れようといったらそれはもう、半端ない(汗)
そんなある日、私のお世話をしてくれていたクレアが病気の母親の世話をするために実家へ帰ってしまいました。代わりのメイドが来たからと父に呼ばれ執事長のクレメントと父の執務室に向っているところです。
「失礼します。ジュリアンナお嬢様をお連れ致しました」
部屋には母さまも同席しています。
そして母の隣には姉さまと同じくらいの女性が微笑みながら立っていました。
「アンナ、クレアの代わりに来て貰ったビオラだよ。彼女はマリエッタと同じ十八才だが、スーパーメイドと呼ばれていてとっても優秀なメイドなんだ。変わり者のアンナにピッタリだと思うから仲良くしておくれ」
「初めましてジュリアンナ様。ビオラでございます。どうぞ宜しくお願い致します」
メイドのビオラは深々と頭を下げました。
あの薄紫の髪と瞳。どう見ても精霊ビオラだよね・・・
『何してるのよ』
私は念話でビオラに話し掛けます。
『だって、クレアの代わりを探してるって小耳に挟んだから』
『それ絶対に盗み聞きしたでしょう?』
『えへへ、バレたか』
私は呆れながらメイドのビオラに挨拶をしました。
「よろしく、ビオラ。私の事はアンナと呼んでくださいね」
「それにしても父さまったら私の事を変わり者なんて失礼しちゃうわ」
「仕方ないわ、この年で大学院の課程まで修得してるし、前世の記憶のお陰で便利な魔道具の発明迄しちゃってるんだもの」
この世界は理数系に関してかなり水準が低い。コンピューターや電卓が無くても魔法が使えると云うのもあるのだと思う。
でも、元々便利なものを知るよしもないからそれで満足してしまい以降の向上心がないのよね。
医療もそうだ。治癒魔法があるから手術なんて必要ない。ある意味高度な技術だけど、治癒魔法師士も少ないから平民がそれを受けられる機会は殆どない訳で。
町医者といっても薬草を煎じて処方するぐらいなだもの。前世で救命講習を受けて認定証を持っている私の方が知識があるわ。一般でも出来る事を普及したいわよね。
「ビオラだってスーパーメイドってなんなのよ」
「だって普通のメイドじゃつまらないでしょう?」
「そんな余計な演出必要?」
執務室から自室へビオラと歩きながら話をする。
「それよりアンナお嬢様、お部屋で待ってるものがいますから楽しみにしていて下さいね」
「ビオラにお嬢様なんて呼ばれると調子が狂うわ」
ビオラに急かされて自室に戻ると開け放たれた窓から心地よい風が吹き抜けました。
私は椅子に腰かけ誰もいないじゃないと辺りを見回す。
「ほらっ」とビオラが向けた視線を追って窓見ると、ひょいと黒猫が部屋の中に入ってきました。そしてその猫は迷うことなく私の膝の上に乗ってきたのです。
「ひゃっ!」
「なんて声を出すのじゃ」
猫に話し掛けられ驚きましたが、その声には聞き覚えがあります。
「フォルヴァなの?アナタ猫にもなれるのね」
「我は何にでもなれる」
「そうなんだ。でも狼なんだから可愛い子犬の方が良かったんじゃないの?色だって何で白ではなく黒なのよ」
「犬だと繋がれてしまうだろう?猫ならいつでも主の傍に居れるからな。それに白だと汚れが目立つ」
「ふーん、黒猫でも可愛いから許すけど、ビオラもフォルヴァも急に姿を変えて出て来るなんてどうしたのよ」
「ふふ、妖精より人型の方がアンナを守り易いかなって思ってメイドになってみたの。良い感じでしょう?」
ビオラはメイドのお仕着せエプロンを摘んでくるっと回ってみせた。
「ハイ、ハイ。カワイイデス」
「なによ、その棒読み!」
私たち二人のくだらない遣り取りを聞いていたフォルヴァが静かな声で
「主よ、我らが姿を変えて人前に出て来たのには訳があるのだ。主はこれから社交界へのデビューを控えておる。その為に王城へ行く訳だが、人と関わることで色々な事が起きるであろう。これから先、主を守る為に傍に居ても気に留められることのない姿になった云う訳だ」
ビオラもうんうんと頷いていています。
「そうなのね。そろそろ神様の言う出会いがあり使命を果たす場面も出てくると言う訳かしら?」
「面白くなりそうね」
アンナは目を輝かせてこれから起きる何かを期待してるみたいだけど、本当に私で役に立つのでしょうか。
そうこうしているうちにデビューへの準備は着々と進んでいきます。
王宮で両陛下の御前にてデビューすると云う事は貴族令嬢として公式に認められると云う事だ。
女子は十六才で成人となるので結婚も出来る。生まれた時からお家同士で許婚が決められることもある訳でデビューの時に婚約者がいる事もざらなのよね。
まだお相手がいない娘たちはこの機会になるべく良いとこの子息に見初められようと親たちも必死になる。
ところがうちの両親は世間の親とは違っている。
結婚は本人たちの意思でというのがモットーで恋愛も自由だと常日頃から言われているのです。
姉さまがデビューしたのが三年前。
その美しさでデビューと同時にあらゆる方面から交際の申し込みを受けた。
でも姉さまは未だ嫁いでいない。ゆえに三年経ち社交界の花と言われる姉さまに是非ともの声は後を絶たない訳だけど、例え我が家より身分の高い家柄からの申し込みであっても姉さまがうんと言わない限り両親は取り次ぐこともしないのだ。
姉さまも姉さまで、それなりに浮いた話もあり気には掛けるがそれ以上は上手くあしらってしまう。
やはり母さまの血筋だわ。
「アンナもこんなに可愛いですものデビューしたらきっと大変よ」
母さまが扇子を口に充て笑っています。
「当然だよ我が家の娘だらね。マリエッタと同じくそう簡単には嫁がせる気はないぞ」
「お父様。私は自分の意志で一人でいるのです。将来の旦那様も自分で見つけますので今まで同様ご心配には及びませんわ」
姉さまが念を押すように言うと
「そうよ、貴女達は男爵家の娘とは言え元は商家。貴族の規則に縛れらることは無いわ。自由にお生きなさいな。早々と良い殿方をみつけ結婚するのもよし、何なら生涯独身だってかまわないのよ。私はアドルフと早くに結婚して幸せですけどもね」
母さまはそう言うと父さまにしだれ掛かりそれを受け止める父さまが「私も同じだよ」と母さまの肩を抱き何度もキスを交わす。
「仲がお宜しいのは良く判りますが年頃の娘二人の前だと云う事を忘れないで下さいませね」
お姉さまが呆れた物言いで両親を窘める。
と云っても我が家ではいつもの光景なので姉さまも私も別に恥ずかしいとかはしたないとか思わない。
母さまにデレデレしている父さまは可愛いとか思ってしまうくらいなのだ。
それこそ我が家の家訓は『自由』なのですから。
ドレスやら何やらの準備をする母さまと姉さまの気合の入れようといったらそれはもう、半端ない(汗)
そんなある日、私のお世話をしてくれていたクレアが病気の母親の世話をするために実家へ帰ってしまいました。代わりのメイドが来たからと父に呼ばれ執事長のクレメントと父の執務室に向っているところです。
「失礼します。ジュリアンナお嬢様をお連れ致しました」
部屋には母さまも同席しています。
そして母の隣には姉さまと同じくらいの女性が微笑みながら立っていました。
「アンナ、クレアの代わりに来て貰ったビオラだよ。彼女はマリエッタと同じ十八才だが、スーパーメイドと呼ばれていてとっても優秀なメイドなんだ。変わり者のアンナにピッタリだと思うから仲良くしておくれ」
「初めましてジュリアンナ様。ビオラでございます。どうぞ宜しくお願い致します」
メイドのビオラは深々と頭を下げました。
あの薄紫の髪と瞳。どう見ても精霊ビオラだよね・・・
『何してるのよ』
私は念話でビオラに話し掛けます。
『だって、クレアの代わりを探してるって小耳に挟んだから』
『それ絶対に盗み聞きしたでしょう?』
『えへへ、バレたか』
私は呆れながらメイドのビオラに挨拶をしました。
「よろしく、ビオラ。私の事はアンナと呼んでくださいね」
「それにしても父さまったら私の事を変わり者なんて失礼しちゃうわ」
「仕方ないわ、この年で大学院の課程まで修得してるし、前世の記憶のお陰で便利な魔道具の発明迄しちゃってるんだもの」
この世界は理数系に関してかなり水準が低い。コンピューターや電卓が無くても魔法が使えると云うのもあるのだと思う。
でも、元々便利なものを知るよしもないからそれで満足してしまい以降の向上心がないのよね。
医療もそうだ。治癒魔法があるから手術なんて必要ない。ある意味高度な技術だけど、治癒魔法師士も少ないから平民がそれを受けられる機会は殆どない訳で。
町医者といっても薬草を煎じて処方するぐらいなだもの。前世で救命講習を受けて認定証を持っている私の方が知識があるわ。一般でも出来る事を普及したいわよね。
「ビオラだってスーパーメイドってなんなのよ」
「だって普通のメイドじゃつまらないでしょう?」
「そんな余計な演出必要?」
執務室から自室へビオラと歩きながら話をする。
「それよりアンナお嬢様、お部屋で待ってるものがいますから楽しみにしていて下さいね」
「ビオラにお嬢様なんて呼ばれると調子が狂うわ」
ビオラに急かされて自室に戻ると開け放たれた窓から心地よい風が吹き抜けました。
私は椅子に腰かけ誰もいないじゃないと辺りを見回す。
「ほらっ」とビオラが向けた視線を追って窓見ると、ひょいと黒猫が部屋の中に入ってきました。そしてその猫は迷うことなく私の膝の上に乗ってきたのです。
「ひゃっ!」
「なんて声を出すのじゃ」
猫に話し掛けられ驚きましたが、その声には聞き覚えがあります。
「フォルヴァなの?アナタ猫にもなれるのね」
「我は何にでもなれる」
「そうなんだ。でも狼なんだから可愛い子犬の方が良かったんじゃないの?色だって何で白ではなく黒なのよ」
「犬だと繋がれてしまうだろう?猫ならいつでも主の傍に居れるからな。それに白だと汚れが目立つ」
「ふーん、黒猫でも可愛いから許すけど、ビオラもフォルヴァも急に姿を変えて出て来るなんてどうしたのよ」
「ふふ、妖精より人型の方がアンナを守り易いかなって思ってメイドになってみたの。良い感じでしょう?」
ビオラはメイドのお仕着せエプロンを摘んでくるっと回ってみせた。
「ハイ、ハイ。カワイイデス」
「なによ、その棒読み!」
私たち二人のくだらない遣り取りを聞いていたフォルヴァが静かな声で
「主よ、我らが姿を変えて人前に出て来たのには訳があるのだ。主はこれから社交界へのデビューを控えておる。その為に王城へ行く訳だが、人と関わることで色々な事が起きるであろう。これから先、主を守る為に傍に居ても気に留められることのない姿になった云う訳だ」
ビオラもうんうんと頷いていています。
「そうなのね。そろそろ神様の言う出会いがあり使命を果たす場面も出てくると言う訳かしら?」
「面白くなりそうね」
アンナは目を輝かせてこれから起きる何かを期待してるみたいだけど、本当に私で役に立つのでしょうか。
そうこうしているうちにデビューへの準備は着々と進んでいきます。
王宮で両陛下の御前にてデビューすると云う事は貴族令嬢として公式に認められると云う事だ。
女子は十六才で成人となるので結婚も出来る。生まれた時からお家同士で許婚が決められることもある訳でデビューの時に婚約者がいる事もざらなのよね。
まだお相手がいない娘たちはこの機会になるべく良いとこの子息に見初められようと親たちも必死になる。
ところがうちの両親は世間の親とは違っている。
結婚は本人たちの意思でというのがモットーで恋愛も自由だと常日頃から言われているのです。
姉さまがデビューしたのが三年前。
その美しさでデビューと同時にあらゆる方面から交際の申し込みを受けた。
でも姉さまは未だ嫁いでいない。ゆえに三年経ち社交界の花と言われる姉さまに是非ともの声は後を絶たない訳だけど、例え我が家より身分の高い家柄からの申し込みであっても姉さまがうんと言わない限り両親は取り次ぐこともしないのだ。
姉さまも姉さまで、それなりに浮いた話もあり気には掛けるがそれ以上は上手くあしらってしまう。
やはり母さまの血筋だわ。
「アンナもこんなに可愛いですものデビューしたらきっと大変よ」
母さまが扇子を口に充て笑っています。
「当然だよ我が家の娘だらね。マリエッタと同じくそう簡単には嫁がせる気はないぞ」
「お父様。私は自分の意志で一人でいるのです。将来の旦那様も自分で見つけますので今まで同様ご心配には及びませんわ」
姉さまが念を押すように言うと
「そうよ、貴女達は男爵家の娘とは言え元は商家。貴族の規則に縛れらることは無いわ。自由にお生きなさいな。早々と良い殿方をみつけ結婚するのもよし、何なら生涯独身だってかまわないのよ。私はアドルフと早くに結婚して幸せですけどもね」
母さまはそう言うと父さまにしだれ掛かりそれを受け止める父さまが「私も同じだよ」と母さまの肩を抱き何度もキスを交わす。
「仲がお宜しいのは良く判りますが年頃の娘二人の前だと云う事を忘れないで下さいませね」
お姉さまが呆れた物言いで両親を窘める。
と云っても我が家ではいつもの光景なので姉さまも私も別に恥ずかしいとかはしたないとか思わない。
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