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※陛下と側近

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◆キャステル・レイノルド レイノルド侯爵家次男・独身三十一歳シリウス陛下の側近で護衛を兼ねる。
 シリウスより半年ほど早く生まれ、彼の乳母となった母の乳を分け合った乳兄弟でもある。
 侯爵家の妻が乳母になるなど異例の事であったが、王女となったシリウスの母アンネリーゼとはともに王妃候補として幼い頃から一緒に学んで来た親友同士だった。
 陛下がアンネリーゼを王妃にと思っているのを察し、自ら候補を降りレイノルド侯爵と結婚をする。
 
 二人の親交は結婚後も続いた。二人は予てから子育ては自分たちの手でと考えており、ロゼッタが二人目の子キャステルを身籠ったすぐ後にシリウスを産んだアンネリーゼのお乳の出が悪いのを知り乳母になりたいと申し出て、親友同士の二人はお互いに寄り添いながら子育てをしたのだった。

 ある日突然、王城内の片隅に現れた荷車の様な箱と女。
 見た目は十五、六の少女だった。
 その奇抜な服装に我々は唖然とした。
 それは王であるシリウスも同じだった。

 シリウスは国王であるが、私と同じ年で幼い頃から兄弟のように過ごしてきた弟のような存在ゆえ、此処では敬称無しで呼ばせてもらう。
 素足を出した異国人。

 一体警備が厳しい城壁内にどうやってこんなに大きな箱と一緒に入って来たというのか。
 異様な箱に見えた乗り物は摩訶不思議な音を出し、馬に引かれる事も無く自力で走り出した。
 魔法で動かしているのか?
 彼女は異世界人だと自ら名乗ったが、もしかしたら他国の魔女なのかもしれないと俺は思っていた。

 不思議な事にあまり人に【特に女には】興味を持たないシリウスが、異世界から来たという少女に興味を持った。
 王であるシリウスに対する横柄な態度と言葉使い。
 それは臣下として許せることではなかったが、シリウスは彼女を怖がらせるなという。
 過去に召喚を行っていたという事実もあり、文献も残っている。それを読んでいたシリウスが、突然現れた異世界人に興味を持つのは当然だと言われればそれまでなのだが。

 そんなに簡単に城に入れても良いのか?

 何か、何か違うような気がしてならない。



◆シリウス・ロゼルト・グラノーヴァ(三十一歳)。
 千二百年続くグランティア王国の若き国王である。
 国内および諸国から冷血王と呼ばれ、自分にも厳しく完璧王とも言われている。

 この日、偶々私は騎士たちのたまり場に側近のキャステルと供に来ていた。
 そこへ不法侵入の知らせが入った。
 普段なら兵士たちに任せるところだが、自分も同行する事にした。
 私は後方で彼らの事を見守っていた。
 前方にあるのは見た事も無い形をした大きな箱。
 窓はあるので大型の馬車なのであろうか。
 騎士の一人が中に女がいると声を上げた。キャステルが前に出て中にいる者に何か告げると、突然不思議な音がして、先頭にいた馬が驚き後ずさりしているのが見えた。
 キャステルと女の会話はどうやら成り立っていないように見える。
 言葉が通じないのか?この国の者ではないか?
 
 キャステルでは埒が明かないと見て私は前に出る事にした。
 最初は何を言っているの変わらなかった言葉が、お互いに通じるようになってきた。なんだろう、不思議な感覚だ。
 クルマから出て来たのは女と云うより少女だった。
 その少女はなんと膝から下を出していた。
 淑女にあるまじき姿だ。少女とはいえ白い足を見せつけられ騎士たちも動揺している。かく言う私もその一人ではあったが、そこは王である私だ。すぐに自分の上物を少女に差し出し羽織るように命じた。
 渋々上着を羽織った彼女は思ったよりも小さく、コートの裾は足首の辺りまできていた。その姿に一瞬笑いそうになるがそこは冷静を装い我慢した。

 彼女の口から「召喚」という言葉が出て来て驚く。それはもうとうの昔に禁忌とされた言葉だった。異世界から来たという少女。
 瞳は黒茶だが文献に残っている聖女は黒髪と言うのには当て嵌まらないから聖女ではなさそうだ。
 不思議な事に言葉が通じるようになった彼女との話に私はどんどん惹かれていく。
 物怖じをしない口調。少女、いや、大人の女性でも私にこのような口の利き方はしない。
 勿論、周りが許さない。それにも増して私の瞳の色はどうやら冷たく見えるようで、女たちは怖気づいてしまい出来ないのだ。
 キャステルはそんな少女の所作を不機嫌そうな顔をで見ている。

 本当に異世界から来たというなら丁寧に持て成さなくてはならない。
 否、それよりも私はこの少女自身が面白いと思ってしまったのだ。
 早々城に戻りもっと話を聞きたい。
 誰かの馬に乗せ王城まで……と思っていたら。

 私達は彼女の言うキャンなんちゃらというものに再度驚かされる。
 馬も無く腹に響くような音をたてながら私の後を追って来る物体。
 彼女の言う自力でとはこういう事だったのか。
 どうして動いているのか見当もつかず、大抵の事では動じない私でさえ少し恐怖に思えた。

 本当に彼女は異世界から来たというのか。
 その昔、聖女と呼ばれる者を召喚した事もあったのだけれど。
 それとも……魔界から来たのか。

 何故か分からぬが得体の知れない少女を手放してはいけない、傍の置いておきたいと思ってしまったのは……


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