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避けては通れない難問

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 廊下で待っていてくれた旦那様と一階に降りると、クンツがふよふよ飛んできた。

「さっきはありがとうね、クンツ。公爵はどうしたの?」
『あの後もずーっとツルツルくるくる回ってたから、目を回して寝ちゃったー! 多分しばらく起きないよ!』

 フム、ならばお義兄様とクリスティーナの邪魔をする事も無いだろう。

「では旦那様、帰りましょうか?」
「ああ、その……もういいのか?」

 結局大した情報は得られなかったけど、公爵家以外にも私の両親について嗅ぎ回っていた人間がいたと分かったのは収穫だ。

 公爵は『勝手に死んでくれて清々した』と言っていた。
 あの人は、あの状況で嘘が付けるほど頭が働く人間ではないから、恐らくあれは本音だろう。
 という事は、少なくとも公爵も私の両親の死を疑ってはいない。つまり、今の両親の居場所については何の情報も無い、という事だ。

「はい、ここにはもう用はありません」

 時間にすればそれ程長い時間ではなかったが、長年の因縁に自分なりにケジメを付けたからだろうか?
 何だか途方もなく長い時間公爵家にいた様な気がする。

「早く、伯爵邸おうちに帰りたいです」
「そうだな、帰ろう。伯爵邸うちに」



 カタコトと揺れる馬車の中。
 今日もお言葉に甘えて旦那様の肩を借りていると、旦那様がポツリとこう尋ねてきた。

「アナは、自分の髪色が嫌いだったのか?」

 ああ、さっきの廊下での話か。

「そんな、クリスティーナの様に深刻に自分の髪を嫌っている訳では無いのです。ただ、この色は様々な嫌な思い出とセットになってしまってまして……」
「そうか……」
「あ、でも、ミシェルはこの髪色は社交界では武器になると言っていたので、有効活用はしようと思ってますよ。折角なので、使える物は使います!」

 旦那様は私の言葉を聞くと、ちょっと考えてから、私を見つめてこう言った。

「自分が嫌いな物をこんな風に言われても嬉しくないかもしれないが……私は好きだぞ。アナのその、金色の髪」

 急に真顔でそんな事言われると、ちょっとドキッとする。旦那様は無駄にお顔が良いんだから気を付けて欲しい。

「アナを探している時、その金色の髪はよく目立つのだ。遠くからでも金色の髪がふわふわ動いているのを見ると、『ああ、あそこにアナがいるのだな』と思って心が温かくなる」

 ぼっ! と私の顔が熱くなった。

 旦那様は、ニューボーンしてからというもの、たまにこういう恥ずかしい事を平気で言うから困る。

 『まあ、茶髪のアナも可愛いけどな!』なんて言っている旦那様の言葉を聞きながら、馬車の窓に映る自分の顔を見た。

 マリーもいつも『奥様の髪はとても綺麗ですよ』と言いながら、私の髪を大切に大切に梳かしてくれる。
 そういえばダリアも、私の髪が凄く綺麗だからそれが映えるドレスにしようって言ってくれてた。

 沢山のどうでもいい人間の視線や言葉より。
 こびりついてしまった嫌な思い出より。
 自分にとって大切な人達が言う事を、信じてみても良いのかもしれない。

 そう思って見ると、自分の金色が少し好きになれた気がした。



 無事にドレスを持ち帰った私達を、使用人のみんなはとても喜んで迎えてくれた。
 ドレスが見つかった事の報告や事後処理はセバスチャンに任せて、その日は早めに休む事にする。

 最近色々な事件が立て続けに起きて流石にお疲れなのだ。しっかり寝て、しっかり食べねば!


 翌日の聞き取り調査は、とてもあっさりと終わった。
 昨日の一件も既に把握済みだった係官は、あくまで情報の確認の為本人の証言が欲しかった様だ。

 私は、公爵家で受けた仕打ちを過不足なくありのままに話した。重い罰を受けて欲しいとも思わないし、罪を軽くしてあげたいとも思わない。

 公爵の事は投げ飛ばしたし、クリスティーナの髪は切ってやったので(ここだけ聞くと凄い人聞き悪いな!)、私個人の溜飲は少し下がった。

 後は、司法の下でしっかり罰を受けて……その後の人生が少しでも平穏なものであればいいかな、とは思う。
 まぁ、もちろん私とは関係ない所で、の話だけれど。
 
 あ、お義兄様は私の事を助けようとしてくれていた事はきちんと伝えた。これ大事。
 
 公爵やクリスティーナの処分が正式に決まるまでは少し時間がかかるらしい。
 私達がその間王都に留まっていないといけない等の制限は無いそうなので、当初の予定通りさっさと領地へ戻る事にした。

 聞き取り調査の翌日は1日ゆっくり過ごして、その次の日にはもう領地に向かって出発する。



 そこで私は、この1日を使って、とある難問を解決すべく行動に移す事を決心した。


 そう……

『実はもう私は旦那様が好きなんじゃないか問題』

 だ!!

 
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