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懐かしき友からの手紙(Side:アレクサンダー)

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(Side:アレクサンダー)

「アレクサンダー様、お手紙です」

 早いもので、私がアウストブルクに留学してもう5年が過ぎた。

 最初は1年間だけの交換留学の予定が随分とこちらの生活が水に合い、色々と理由を付けては長引かせていたのも流石に潮時だ。

 私がフェアランブルに帰らなければならない日はすぐそこに迫っていた。

「ああ、ありがとう」

 いつもの様に侍従から何通かの手紙を受け取り、差出人を確認していく。

「ユージーン・ハミルトン……。ジーン?」

 それは懐かしい幼馴染で、最近私の義弟になった男からの手紙だった。

 幼馴染で義弟と言っても、個人的な交流は途絶えて久しい。別に不仲になった訳ではないが、お互いの環境が変わるに連れて幼い頃の友人と距離が離れていくのは自然な事だ。

 一応学園は同じだったので学友とも言えるのだが、学年も違う上、私がジーンが入学してさほど経たない内に留学してしまったので接点はほぼ無かった。

 随分と久しぶりだな。義兄弟になった挨拶か何かか?

 と、考えながら封を開ける。

 中身を読んで愕然とした。

「王太子殿下がアナスタシアにドレスを用意する!? そもそも、何故アナスタシアはドレスを持っていない? 公爵家から持たされなかったのか……?」


 アナスタシアは、2年程前にフェアファンビル公爵家に引き取られた私の義妹だ。

 当時既に留学していた私は、アナスタシアが公爵家に引き取られた過程もハミルトン伯爵家に嫁ぐ事になった過程も何も知らされていなかった。全て事後報告だ。

 公爵家の嫡男といっても、所詮はこの程度の扱いだ。貴族家では当主の力は絶対で、しかも私はその父に気に入られていない。
 普段はあまり表には出さないが、小さな頃からクリスティーナとの扱いの差は歴然であったし、一度ハッキリと言われた事があるのだ。

『お前の笑った顔はエドアルドに似て気持ちが悪い。私の前で2度と笑うな』

 と。
 本人は酔っていて覚えてもいない様だが、あれ以来私が父上の前で笑わなくなっても、それに気付いてさえいない。

 それ程までにエドアルド殿を憎んでいた父だ。その父がエドアルド殿の娘であるアナスタシアを引き取るなんて、心配しか無い。

 とはいえ、私は遠く離れた地で暮らす身だ。
 出来る事は少なく、アナスタシアに直接会う事が出来たのはたったの3回。何かあれば助けを求められる様にと連絡先も渡したが、私の元に手紙が届く事はなかった。

 アナスタシアは大人しく気弱な少女で、誰に対しても心を開いていない様に感じた。
 私に対しては少しだけ笑顔を見せてくれていたので、いつか心を開いてくれればと考えていたのだが、まさかこんな事になっていたとは……。

 手紙には、『急な夜会で衣装が間に合わない妻を純粋に心配してくれているのだろうが、少し不安だから気にかけて欲しい』という角の立たない表現で書かれているが、これはもう完全にクロだと思っていいだろう。

 自身の配下にいる者や、明らかに身分の劣る者の妻に、権力者がドレスを贈る。
 これはつまり『このドレスを着て閨へ来い』という意味合いで、我が王国に古くあった悪習だ。
 今でこそ表向きはこんな乱行許されないが、それはあくまで表向き。地方の領地に行けばまだこんな悪習が罷り通っている所もあると聞いた事がある。

 だからこそ、王族という国の象徴が率先してそこを変えていかなければならないというのに、その王太子が何という真似を……!!

 フェアランブル王国には、いまだにこういった前時代的なおかしな風習や考えが残っている。
 かつては強い権勢を誇った我が国が、今となっては様々な面で他国に遅れを取る弱小国に成り下がったのも、こういった所に問題があるのだろう。

 アウストブルクで5年も暮らせば、如何にフェアランブル王国が遅れているのか良く分かった。
 私がもし公爵家の嫡男という責任ある立場でなければ、もう帰国せずに一生をこの国で過ごしたい位だ。

 ……とはいえ。

 少なくとも、今逃げている場合では無い。

 何も助けてやれなかった義妹いもうとと、私を信じて手紙を送って来た幼馴染おとうとを、ここで助けられなかったら、私はもう二度と2人の兄とは名乗れない。

 私は侍従に大至急情報を集めて手紙の内容を精査する様に指示すると、自分は自身の留学先でもあった研究院に向かった。
 この時間帯なら、おそらく『あの方』は研究院にある温室にいるはずだ。

 ガラス張りの温室は、近づけば中の様子がよく見えるのだが、今日も彼女は1人楽しそうに話しながらお茶を飲んでいる。いつ見ても不思議な光景だ。

 彼女の方も、私に気が付くとヒラヒラと手を振って手招きをしてくれた。
 私は一礼して温室に入る。


「少しお時間宜しいでしょうか? カーミラ王女殿下」

 
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