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その企み、叩き潰して差し上げましょう

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「ありがとうございます、おじ様、ナジェンダ様。私は急いで王城へ戻って、今教えて頂いた情報をカーミラ王女殿下と共有致しますわ!」

 私は机の上に広げてあった資料をガサガサと手早くまとめる。

 数時間に渡って聞かせて貰った情報は、辺境伯領に関する物はもちろんの事、フェアランブル国内で最近起こっている権力争いに関する物も多かった。

 他所からの干渉を嫌い閉鎖的ともいえる辺境伯領が中央の権力争いに関わってくるのは異常事態と言えるのだが、それもどうやら辺境伯家の後継者争いに端を発しているらしい。
 現当主とその後継者に異を唱える反領主派の背後にいるのは、旧精霊教の過激派一派だというから相当にキナ臭い。

 それにしても、よくここまでの情報を集めたものだと感心する。
 何故おじ様があんなに情報通だったのか昔から不思議だったのだが、ようやく答えが分かった。
 ナジェンダ様が精霊を通して情報を集めていたのだ。

 ナジェンダ様は、特定の精霊と契約を結んでいない代わりに、他の数多くの精霊達をうまく扱う事ができるらしい。
 巫女は個としての精霊との結びつきを強めるのではなく、精霊全体を統べなければならないからだそうだ。

 
 荷物を纏め、挨拶をして部屋を出ようとした時、遠慮がちにナジェンダ様に声をかけられる。

「あの、アナスタシア様……。今度ユージーンと一緒に会いに来て下さる時には、ユージーンの祖母としてお会いしても宜しいでしょうか?」
「もちろんです! その時は私も、ナジェンダ様の事をお祖母様と呼ばせて下さい」

「すると、私はお祖父様か。やはり急に歳をとった様で複雑だが……。おじいさま……悪くないな」

 嬉しそうに微笑むナジェンダ様と、何やらブツブツ言いながらも少し口角が上がっているおじ様を見て、クスリと笑みがこぼれた。

 待ってて下さい、お祖父様、お祖母様。
 必ず旦那様を助け出して、一緒に会いに来ますからね!




 急いで王城へ戻ると、カーミラ王女殿下も資料を用意して私の到着を待ってくれていた。

 本来であればもう晩餐の時間だが、ゆっくり食事を楽しんでいる暇はない。お城の料理人が用意してくれたサンドイッチを摘みながらお互いの情報を交換し、対策を検討していく。

「……やはり、ハミルトン伯爵を拐かしたのは辺境伯領の関係者で間違いないわね。恐らく反領主派が、ハミルトン伯爵が辺境伯家の血を引く事と精霊との親和性が高い事に目を付けたのだと思うわ」
「辺境伯領で後継者争いが起こっているらしいという噂話は耳にしていたのです。……もっと慎重に行動するべきでした」

 悔しくて、歯をギリッと噛み締める。

「こうなってくると、イングス伯爵家も怪しいわよね。調べてみたら、イングス伯爵家は最近ウェスティン侯爵家に近付いていたみたいなの。ひょっとするとそっちが黒幕なのかも知れないわ」

 そう言うと、カーミラ王女殿下は不愉快そうに顔を歪めた。夜会の時のウェスティン侯爵親子の無礼な振る舞いを思い出したのだろう。

「イングス伯爵家が旦那様を拐かすのに力を貸していたとして、その背後にはウェスティン侯爵家がいるかもしれないという事ですか? サミュエル様とナジェンダ様からの情報によると、反領主派の後ろには旧精霊教の過激派がいる様なのです。……想像以上に大きな話になるかもしれないですね」

 旦那様、とんでもない事に巻き込まれてません?

「フェアランブル国内の権力争いに勝ちたいウェスティン侯爵家と辺境伯領の反領主派で、何か利害が一致したのかしら……?」

 資料をめくりながら、王女殿下が険しい顔になる。

「しかも、旧精霊教が絡んでくるとなると厄介ね。アウストブルク国内に過激派はいないと思いたいけれど、精霊教の信者自体は数が多いし、旧精霊教派もいるわ。私達も身の回りにはますます注意を払っていきましょう」

 私は黙って頷いた。

 権力争いだか後継者争いだか知らないけど、うちの旦那様に手を出したのが運の尽きです。
 その企み、叩き潰して差し上げましょう!!


『アナ、もうジーンのとこ、いける?』

 イルノが早く旦那様の所へ行きたくてしょうがないといった感じで、私の周りをふよふよ飛び始める。

「もう日も暮れているし、さすがにこれから出発する訳にはいかないわ。騎士団と魔導師団の手配をしたから、明朝『魔の森』へ向かいましょう」

 おおっさすがカーミラ王女殿下、仕事が早い!

「ありがとうございます、王女殿下。騎士団と魔導師団が一緒なら心強いですね」
「ええ。ただ、アウストブルク側の森には入れるけれど、ハミルトン伯爵がフェアランブル国内にいる間はこちらから手は出せないわ」

 それはそうだ。武装した騎士団が無断で国境を越えたりしたら、それはもはや侵略行為と受け取られても仕方ない。

「最悪、ほんとにフェアランブルを制圧しちゃってアウストブルクの属国にしてもいいけど、国際社会からは非難を浴びるわよねぇ」

 それは困るわ、とカーミラ王女殿下が頬に手を当てて首を傾げているけれど、恐ろしく物騒な事言うな……。

 でも、もしも旦那様の命が危険にさらされる様な局面になったら、いっそお願いしよう。うん。

「フェアランブル国王の裁可があれば騎士団が国境を越える事も出来るから、今取り急ぎ使者を送っているわ」
「……間に合うでしょうか?」
「大丈夫、こっちは念の為よ。私が一番信用している人に救援は求めておいたから、きっとすぐに動いてくれるわ」


 カーミラ王女殿下が一番信用している人?

 それって……。
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