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夜会に向かう馬車の中

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「今日の夜会には、カーミラ王女殿下も来られるのだろう?」
「はい! お会いするのは久しぶりなので、とても楽しみです」

 夜会に向かう馬車の中、隣に座る旦那様がそう尋ねてきた。

 半年前、パレードを見に伯爵領へ来て下さったカーミラ王女殿下とは、それ以来仲良く交流させて頂いている。

 パレードの後、アレクサンダーお義兄様の告白は見事成功し、ついに二人は婚約の運びとなった。

 国王自らが懇願していた婚約なのだ。
 カーミラ王女殿下さえ首を縦に振って下されば、すぐにでも正式な婚約になるかと思っていたが、実はこれが中々に大変だった。
 国内の貴族、とりわけ高位貴族の猛反発にあったのだ。

 要はみんな、自分達こそがカーミラ王女殿下と、ひいては大国アウストブルクと縁を結びたかったのだろう。

 気持ちは分かるが図々し過ぎる。

 自国の王太子のやらかしで、一度は国家間の婚約が白紙になっているのだ。それでも我が国に嫁いで下さるなんて、それだけでもありがたい。
 にも関わらず、まとまりかけた婚約に反発し、自家を売り込むとは呆れた話だ。

「アレクサンダー殿との婚約を発表してから初の公の場だからな。おかしな貴族が余計な事を言わなければ良いのだが……」

 国内の高位貴族の中には、若くして当主になったアレクサンダーお義兄様を下に見る様な輩も少なくない。

 旦那様自身、若くして伯爵家を継いだ身だ。きっと色々な苦労をしたからこそ、アレクサンダーお義兄様の立場が分かるのだろう。

「まぁ恐らく、変な絡み方をする貴族がいたとしても、カーミラ王女殿下が返り討ちにするとは思いますけどね……」
「ふ、そうだな。となると、心配なのは我が国か」

 それに関しては、全くもって否定出来ない。

 フェアランブルの高位貴族には毛髪の乏しい方が多いなど不名誉な噂が広がらない様に、おのれの言動には気を付けて頂きたい物である。

 ちなみに、実は私も何人かお仕置きしちゃったりなんかしたご令嬢やらご夫人やらがいるのだが、反省した人に関してはきちんと元に戻してあげているので安心して欲しい。

 ……反省してない人? 知らね。


 私と旦那様は互いに顔を見合わせると苦笑いをして、どちらともなく手を握り合った。

 今日の夜会も荒れるかもしれないな。

 最早わたしにとっての夜会は、完全なる戦いの場という認識だ。


「それはそうと、夜会が無事終われば今度はアウストブルク行きか。私も国外に出るのは初めてだから、少し緊張するな」

 そう、今日の夜会が無事に終われば、一ヶ月程の準備期間を経て私と旦那様はアウストブルクへ渡る予定になっている。
 帰国するカーミラ王女殿下に同行させて頂く形なので、諸々の審査は拍子抜けする程あっさり通った。

「サミュエルお祖父様とナジェンダお祖母様には手紙を出しておいたから、向こうに行けばすぐに会えると思う」

 恐らく私のお母さんと何らかの関係があるであろうフェイラー辺境伯家から嫁いで来られたという、旦那様のお祖母様のナジェンダ様。
 カーミラ王女殿下から以前聞いた話によれば、フェイラー辺境伯領は精霊と深い関係のある土地だ。

 ナジェンダお祖母様とお会いして直接お話が聞ければ、きっと沢山の謎が明らかになるだろう。

 私は自分の事を、両親の事を、もっと知りたい。

 恐らく私が深刻な顔でもしていたのだろう。少し考え込んでいると、旦那様と繋いでいた手がキュッと握られた。

「アナのご両親を見つける手がかりがあるといいな」
「はい! きっと見つけてみせます!」

 
 今から約三年程前。
 私はフェアファンビル公爵家に半ば無理矢理引き取られる形で貴族社会へと足を踏み入れた。

 失踪した両親の手がかりを得るために理不尽な扱いにも耐え、一人で戦ってきたつもりだったけど、今は隣に旦那様がいてくれる。


『僕たちももちろん付いてくからねー!』
『他の国に行った事はまだないから楽しみだな』
『美味しいお菓子、あるかなー?』


 ふよふよ飛びながら楽しそうに精霊トリオが言う。
 
 そう、今はこの頼もしい精霊達もいる。


 だからきっと—— ううん、絶対。

 今度こそお父さんとお母さんを見つけてみせる!!
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