【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ

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本編 第6章

第3話

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「……テレジアって、本当に可愛い」

 彼がまるでかみしめるみたいに、そう呟かれる。

 照れくさくて、視線は下げた。彼がどういう表情をしているかは、わからない。

 ただ、多分だけど。彼は悪い表情をしているんじゃないだろうかなぁって。

「テレジアが可愛いし、今日はこのまま執務は終わろうかな」
「……なんですか、それ」

 どういう意味なのかわからない。

 そう思って顔を上げれば、彼が身を乗り出してきて――私の唇に口づけを落とす。

 テーブルの上の陶器のぶつかる音がして、止めなきゃって思うのに。

(……気持ちいい)

 そんな風に思ってしまうから、拒否できない。

 ゆっくりと離れていく彼の唇。目で追えば、彼が笑っていた。

「……本当、そういう目が最高に可愛い。……なぁ、この後時間あるか?」

 彼にそう問いかけられて、静かに頷く。今日はこの後、お休みの予定だ。

「そっか。……じゃあ、部屋に戻ったら存分に愛でられるな」
「そ、そういうの、やめてくださいっ……!」

 なんだろうか。彼はすぐに私に触れたがる。

 まだ婚前だから……とか、そう言ってのらりくらりと逃れてはいるのだ。ただ、私自身も彼を求めているような気がして。

 いつか、あっさりと陥落してしまうのではないか。

 そういう恐れを抱いている。

「だ、だって、私たちまだ婚前で――」

 顔を手で覆ってそう告げれば、ラインヴァルトさまは喉を鳴らして笑われていた。

 ……からかわれていたのだと、悟る。

「テレジアってなに想像したの? 俺は愛でるって言っただけなのに」
「う、う」

 だって、そうじゃないか。それもこれも、ラインヴァルトさまが悪い。

 私がこういう思考回路になってしまったのも、全部全部このお人の所為だ。

「ら、ラインヴァルトさまが、私にいっぱい教えてくださるから……」

 愛されるということも、愛するということも。恋をするということも。

 全部全部彼が教えてくれた。そして、その所為で私がこういう思考回路になってしまっているのだと、理解してほしい。

「だから、全部ラインヴァルトさまの所為、です……」

 けど、さすがに八つ当たりが過ぎるかなって思って、最後のほうの言葉は小さくなってしまった。

 ラインヴァルトさまは、なにもおっしゃらない。

(さすがに、言い過ぎた、かしら……?)

 指の隙間から彼を見つめると、彼が何処か嬉しそうな表情をしているのがわかった。

「そう、俺の所為。……今後も、俺がテレジアにいっぱい教える」
「ら、ラインヴァルト、さま?」
「むしろ、俺以外からは教えられるな。……俺は嫉妬深いんだぞ」

 さも当然のようにそうおっしゃった彼は立ち上がって――私の側に移動される。かと思えば、あっという間に横抱きにされた。

「というわけで、今日はもっとたくさん、いろいろ教えてやる」
「あのっ!」
「俺がどれだけテレジアが好きか。……言葉にするし、行動にも示す。……だから、俺だけ見てろよ」

 ……そんなこと、わざわざ言われなくてもいい。

 だって、今の私の目には彼しか映っていないのだから。

 そう思いつつ、私は部屋にある書き物用の机の上に載っている、両親からの手紙を思い出す。

 帰ったら、破り捨ててしまおう。これが、最後の過去との決別だから。

「ラインヴァルトさまも、浮気しないでください」
「……あぁ」

 聞こえるか聞こえないか。そんなレベルの声量で呟いた声は、彼にしっかりと届いていたらしい。

 彼が力強く頷いていた。

 愛されることも、愛することも知らなかった私は――今日も執着心の強すぎる王太子殿下に、愛されています。

 ここから先は――私たちだけの、秘密。

【END】
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