56 / 58
本編 第6章
第1話
しおりを挟む
あれから三週間。私はまだ王城に滞在している。けれど、大きく変わったこともある。
まず、私は正式にラインヴァルトさまと婚約した。そもそも、私がラインヴァルトさまと婚約することに反対していた一番の人物が、元王妃殿下で。彼女が失墜したことにより、私とラインヴァルトさまの婚約を反対していた勢力が勢いを失った……というのが、大きい。
元王妃殿下は、行っていた悪事が露見したことにより、王室を追い出されることになった。とはいっても、大々的に処罰することはできなかったので、王家が所有する辺境の別邸にしばし軟禁することに。また、しばらくしたら正式な処罰を決めると言うことだ。
表向きには、体調を崩して療養ということにはなっているけれど、貴族の人たちはみな薄々真実を察しているのだと思う。
それから、ゲオルグさまについて。彼は元々危うい立場ではあったものの、今回のことで完全に公爵家から見限られた。公爵家がゲオルグさまを除籍する、援助は一切しないということで、処罰を逃れたためだ。
現在、私の評判は可もなく不可もなくだと思う。確かに私には瑕疵もあるし、生まれだって問題があるかもしれない。それでも、ラインヴァルトさまに相応しくなろうと頑張っているうちに、徐々に味方が増えていた。
コルネリアさまとだって、今では穏やかにお茶が飲めるくらいだから。
「……なんだろう。なんか、変な気分」
中庭でお茶を飲んで、小さくそう呟く。
あれだけ前向きになれなかった私なのに、今ではすっかり前を向くことが出来ている。
……それもこれも、全部ラインヴァルトさまのおかげだ。
でも、ふとあることを思い出す。……そういえば、聞こうと思って聞けていないことがある、と。
そう思っていれば、後ろから「テレジア」と名前を呼ばれた。ゆっくりとそちらに視線を向ければ、そこにはほかでもないラインヴァルトさまがいらっしゃる。
彼は私から見て対面の席に腰を下ろすと、近くにいたミーナにお茶を要求されていた。
「なんていうか、テレジアはここが好きだな」
テーブルに頬杖を突かれた彼が、そうぼやかれる。だから、私は頷いた。
「はい。とても、穏やかな気持ちになれますから」
そう言って、彼の手を見る。そこには、出逢ったときからずっとルビーの指輪がある。
「……なに?」
私の視線を感じてか、彼がきょとんとされて問いかけてこられる。
私は曖昧に笑った。
「いえ、ラインヴァルトさまはルビーがお好きだという、噂でしたから……」
煌びやかな宝石を好まない彼が唯一好きな宝石。それが、ルビーだということだった。
「あぁ、そうだな。俺は宝石は好まないけど、これだけは好きだよ」
彼が小さくそう呟かれて、ルビーの指輪を抜かれる。見るからに高価なその指輪。彼は私の手の上にそれを置いてくださった。
「……あの」
「見たいんだろ?」
別に、そういう意味ではないのだけれど。
心の中でそう思いつつも、私はルビーの指輪を撫でてみる。すると、台座になにかが彫られているのがわかった。
それを指でなぞって、少し驚いた。確認とばかりに、私はそこに彫られている『文字』を見つめた。
……やっぱり、間違いない。
「あの、これ、見間違いでは無ければ……」
「あぁ、そうだよ。ここにはテレジアって彫ってある」
なんてことない風に、彼がそう教えてくださる。しかも、この感じからして、つい最近彫られたものじゃない。
ずっと、ずっと前から彫られているものだ。
「ど、うして……」
口から零れ出た言葉に、ラインヴァルトさまはにたりと笑われていた。
「テレジアが、好きだから」
「……え」
「ずっとずーっと、テレジアが好きだったから。俺は、ここにテレジアって彫ってもらったんだ。――留学する前に」
まず、私は正式にラインヴァルトさまと婚約した。そもそも、私がラインヴァルトさまと婚約することに反対していた一番の人物が、元王妃殿下で。彼女が失墜したことにより、私とラインヴァルトさまの婚約を反対していた勢力が勢いを失った……というのが、大きい。
元王妃殿下は、行っていた悪事が露見したことにより、王室を追い出されることになった。とはいっても、大々的に処罰することはできなかったので、王家が所有する辺境の別邸にしばし軟禁することに。また、しばらくしたら正式な処罰を決めると言うことだ。
表向きには、体調を崩して療養ということにはなっているけれど、貴族の人たちはみな薄々真実を察しているのだと思う。
それから、ゲオルグさまについて。彼は元々危うい立場ではあったものの、今回のことで完全に公爵家から見限られた。公爵家がゲオルグさまを除籍する、援助は一切しないということで、処罰を逃れたためだ。
現在、私の評判は可もなく不可もなくだと思う。確かに私には瑕疵もあるし、生まれだって問題があるかもしれない。それでも、ラインヴァルトさまに相応しくなろうと頑張っているうちに、徐々に味方が増えていた。
コルネリアさまとだって、今では穏やかにお茶が飲めるくらいだから。
「……なんだろう。なんか、変な気分」
中庭でお茶を飲んで、小さくそう呟く。
あれだけ前向きになれなかった私なのに、今ではすっかり前を向くことが出来ている。
……それもこれも、全部ラインヴァルトさまのおかげだ。
でも、ふとあることを思い出す。……そういえば、聞こうと思って聞けていないことがある、と。
そう思っていれば、後ろから「テレジア」と名前を呼ばれた。ゆっくりとそちらに視線を向ければ、そこにはほかでもないラインヴァルトさまがいらっしゃる。
彼は私から見て対面の席に腰を下ろすと、近くにいたミーナにお茶を要求されていた。
「なんていうか、テレジアはここが好きだな」
テーブルに頬杖を突かれた彼が、そうぼやかれる。だから、私は頷いた。
「はい。とても、穏やかな気持ちになれますから」
そう言って、彼の手を見る。そこには、出逢ったときからずっとルビーの指輪がある。
「……なに?」
私の視線を感じてか、彼がきょとんとされて問いかけてこられる。
私は曖昧に笑った。
「いえ、ラインヴァルトさまはルビーがお好きだという、噂でしたから……」
煌びやかな宝石を好まない彼が唯一好きな宝石。それが、ルビーだということだった。
「あぁ、そうだな。俺は宝石は好まないけど、これだけは好きだよ」
彼が小さくそう呟かれて、ルビーの指輪を抜かれる。見るからに高価なその指輪。彼は私の手の上にそれを置いてくださった。
「……あの」
「見たいんだろ?」
別に、そういう意味ではないのだけれど。
心の中でそう思いつつも、私はルビーの指輪を撫でてみる。すると、台座になにかが彫られているのがわかった。
それを指でなぞって、少し驚いた。確認とばかりに、私はそこに彫られている『文字』を見つめた。
……やっぱり、間違いない。
「あの、これ、見間違いでは無ければ……」
「あぁ、そうだよ。ここにはテレジアって彫ってある」
なんてことない風に、彼がそう教えてくださる。しかも、この感じからして、つい最近彫られたものじゃない。
ずっと、ずっと前から彫られているものだ。
「ど、うして……」
口から零れ出た言葉に、ラインヴァルトさまはにたりと笑われていた。
「テレジアが、好きだから」
「……え」
「ずっとずーっと、テレジアが好きだったから。俺は、ここにテレジアって彫ってもらったんだ。――留学する前に」
26
お気に入りに追加
476
あなたにおすすめの小説
【完結】フェリシアの誤算
伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。
正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。
※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。
元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。
破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。
だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。
初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――?
「私は彼女の代わりなの――? それとも――」
昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。
※全13話(1話を2〜4分割して投稿)
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
扇 レンナ
恋愛
一途な隠れ美形の竜騎士さま×捨てられた令嬢――とろけるほどに甘い、共同生活
小さな頃から《女》というだけで家族に疎まれてきた子爵令嬢メリーナは、ある日婚約者の浮気現場を目撃する。
挙句、彼はメリーナよりも浮気相手を選ぶと言い、婚約破棄を宣言。
家族からも見放され、行き場を失ったメリーナを助けたのは、野暮ったい竜騎士ヴィリバルトだった。
一時的に彼と共同生活を送ることになったメリーナは、彼に底なしの愛情を与えられるように……。
隠れ美形の竜騎士さまと極上の生活始めます!
*hotランキング 最高44位ありがとうございます♡
◇掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス
◇ほかサイトさまにてコンテストに応募するために執筆している作品です。
◇ベリーズカフェさん先行公開です。こちらには文字数が溜まり次第転載しております。
【完結】転生モブ令嬢は転生侯爵様(攻略対象)と偽装婚約することになりましたーなのに、あれ?溺愛されてます?―
イトカワジンカイ
恋愛
「「もしかして転生者?!」」
リディと男性の声がハモり、目の前の男性ルシアン・バークレーが驚きの表情を浮かべた。
リディは乙女ゲーム「セレントキス」の世界に転生した…モブキャラとして。
ヒロインは義妹で義母と共にリディを虐待してくるのだが、中身21世紀女子高生のリディはそれにめげず、自立して家を出ようと密かに仕事をして金を稼いでいた。
転生者であるリディは前世で得意だったタロット占いを仕事にしていたのだが、そこに客として攻略対象のルシアンが現れる。だが、ルシアンも転生者であった!
ルシアンの依頼はヒロインのシャルロッテから逃げてルシアンルートを回避する事だった。そこでリディは占いと前世でのゲームプレイ経験を駆使してルシアンルート回避の協力をするのだが、何故か偽装婚約をする展開になってしまい…?
「私はモブキャラですよ?!攻略対象の貴方とは住む世界が違うんです!」
※ファンタジーでゆるゆる設定ですのでご都合主義は大目に見てください
※ノベルバ・エブリスタでも掲載
【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜
まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。
【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。
三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。
目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。
私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
運命の番なのに、炎帝陛下に全力で避けられています
四馬㋟
恋愛
美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる