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本編 第6章
第1話
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あれから三週間。私はまだ王城に滞在している。けれど、大きく変わったこともある。
まず、私は正式にラインヴァルトさまと婚約した。そもそも、私がラインヴァルトさまと婚約することに反対していた一番の人物が、元王妃殿下で。彼女が失墜したことにより、私とラインヴァルトさまの婚約を反対していた勢力が勢いを失った……というのが、大きい。
元王妃殿下は、行っていた悪事が露見したことにより、王室を追い出されることになった。とはいっても、大々的に処罰することはできなかったので、王家が所有する辺境の別邸にしばし軟禁することに。また、しばらくしたら正式な処罰を決めると言うことだ。
表向きには、体調を崩して療養ということにはなっているけれど、貴族の人たちはみな薄々真実を察しているのだと思う。
それから、ゲオルグさまについて。彼は元々危うい立場ではあったものの、今回のことで完全に公爵家から見限られた。公爵家がゲオルグさまを除籍する、援助は一切しないということで、処罰を逃れたためだ。
現在、私の評判は可もなく不可もなくだと思う。確かに私には瑕疵もあるし、生まれだって問題があるかもしれない。それでも、ラインヴァルトさまに相応しくなろうと頑張っているうちに、徐々に味方が増えていた。
コルネリアさまとだって、今では穏やかにお茶が飲めるくらいだから。
「……なんだろう。なんか、変な気分」
中庭でお茶を飲んで、小さくそう呟く。
あれだけ前向きになれなかった私なのに、今ではすっかり前を向くことが出来ている。
……それもこれも、全部ラインヴァルトさまのおかげだ。
でも、ふとあることを思い出す。……そういえば、聞こうと思って聞けていないことがある、と。
そう思っていれば、後ろから「テレジア」と名前を呼ばれた。ゆっくりとそちらに視線を向ければ、そこにはほかでもないラインヴァルトさまがいらっしゃる。
彼は私から見て対面の席に腰を下ろすと、近くにいたミーナにお茶を要求されていた。
「なんていうか、テレジアはここが好きだな」
テーブルに頬杖を突かれた彼が、そうぼやかれる。だから、私は頷いた。
「はい。とても、穏やかな気持ちになれますから」
そう言って、彼の手を見る。そこには、出逢ったときからずっとルビーの指輪がある。
「……なに?」
私の視線を感じてか、彼がきょとんとされて問いかけてこられる。
私は曖昧に笑った。
「いえ、ラインヴァルトさまはルビーがお好きだという、噂でしたから……」
煌びやかな宝石を好まない彼が唯一好きな宝石。それが、ルビーだということだった。
「あぁ、そうだな。俺は宝石は好まないけど、これだけは好きだよ」
彼が小さくそう呟かれて、ルビーの指輪を抜かれる。見るからに高価なその指輪。彼は私の手の上にそれを置いてくださった。
「……あの」
「見たいんだろ?」
別に、そういう意味ではないのだけれど。
心の中でそう思いつつも、私はルビーの指輪を撫でてみる。すると、台座になにかが彫られているのがわかった。
それを指でなぞって、少し驚いた。確認とばかりに、私はそこに彫られている『文字』を見つめた。
……やっぱり、間違いない。
「あの、これ、見間違いでは無ければ……」
「あぁ、そうだよ。ここにはテレジアって彫ってある」
なんてことない風に、彼がそう教えてくださる。しかも、この感じからして、つい最近彫られたものじゃない。
ずっと、ずっと前から彫られているものだ。
「ど、うして……」
口から零れ出た言葉に、ラインヴァルトさまはにたりと笑われていた。
「テレジアが、好きだから」
「……え」
「ずっとずーっと、テレジアが好きだったから。俺は、ここにテレジアって彫ってもらったんだ。――留学する前に」
まず、私は正式にラインヴァルトさまと婚約した。そもそも、私がラインヴァルトさまと婚約することに反対していた一番の人物が、元王妃殿下で。彼女が失墜したことにより、私とラインヴァルトさまの婚約を反対していた勢力が勢いを失った……というのが、大きい。
元王妃殿下は、行っていた悪事が露見したことにより、王室を追い出されることになった。とはいっても、大々的に処罰することはできなかったので、王家が所有する辺境の別邸にしばし軟禁することに。また、しばらくしたら正式な処罰を決めると言うことだ。
表向きには、体調を崩して療養ということにはなっているけれど、貴族の人たちはみな薄々真実を察しているのだと思う。
それから、ゲオルグさまについて。彼は元々危うい立場ではあったものの、今回のことで完全に公爵家から見限られた。公爵家がゲオルグさまを除籍する、援助は一切しないということで、処罰を逃れたためだ。
現在、私の評判は可もなく不可もなくだと思う。確かに私には瑕疵もあるし、生まれだって問題があるかもしれない。それでも、ラインヴァルトさまに相応しくなろうと頑張っているうちに、徐々に味方が増えていた。
コルネリアさまとだって、今では穏やかにお茶が飲めるくらいだから。
「……なんだろう。なんか、変な気分」
中庭でお茶を飲んで、小さくそう呟く。
あれだけ前向きになれなかった私なのに、今ではすっかり前を向くことが出来ている。
……それもこれも、全部ラインヴァルトさまのおかげだ。
でも、ふとあることを思い出す。……そういえば、聞こうと思って聞けていないことがある、と。
そう思っていれば、後ろから「テレジア」と名前を呼ばれた。ゆっくりとそちらに視線を向ければ、そこにはほかでもないラインヴァルトさまがいらっしゃる。
彼は私から見て対面の席に腰を下ろすと、近くにいたミーナにお茶を要求されていた。
「なんていうか、テレジアはここが好きだな」
テーブルに頬杖を突かれた彼が、そうぼやかれる。だから、私は頷いた。
「はい。とても、穏やかな気持ちになれますから」
そう言って、彼の手を見る。そこには、出逢ったときからずっとルビーの指輪がある。
「……なに?」
私の視線を感じてか、彼がきょとんとされて問いかけてこられる。
私は曖昧に笑った。
「いえ、ラインヴァルトさまはルビーがお好きだという、噂でしたから……」
煌びやかな宝石を好まない彼が唯一好きな宝石。それが、ルビーだということだった。
「あぁ、そうだな。俺は宝石は好まないけど、これだけは好きだよ」
彼が小さくそう呟かれて、ルビーの指輪を抜かれる。見るからに高価なその指輪。彼は私の手の上にそれを置いてくださった。
「……あの」
「見たいんだろ?」
別に、そういう意味ではないのだけれど。
心の中でそう思いつつも、私はルビーの指輪を撫でてみる。すると、台座になにかが彫られているのがわかった。
それを指でなぞって、少し驚いた。確認とばかりに、私はそこに彫られている『文字』を見つめた。
……やっぱり、間違いない。
「あの、これ、見間違いでは無ければ……」
「あぁ、そうだよ。ここにはテレジアって彫ってある」
なんてことない風に、彼がそう教えてくださる。しかも、この感じからして、つい最近彫られたものじゃない。
ずっと、ずっと前から彫られているものだ。
「ど、うして……」
口から零れ出た言葉に、ラインヴァルトさまはにたりと笑われていた。
「テレジアが、好きだから」
「……え」
「ずっとずーっと、テレジアが好きだったから。俺は、ここにテレジアって彫ってもらったんだ。――留学する前に」
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