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本編 第5章
第7話
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彼のその態度には、悪びれた様子なんてない。
さも当然という風にそうおっしゃる彼は、やっぱり私の好きな人なんだって理解する。
「……で、どうする?」
彼が私の手を見つめて、そう問いかけてこられる。ほんの少しの不安を孕んだような声に、私はどうすればいいかわからなくなる。
……本当は、ラインヴァルトさまと一緒にいたい。でも、どうするのが正解なのか。
(正解とか、間違いとか。そういうことでは、ないのよね……)
これは、私がどうしたいかの問題なのだろう。
それを理解して、私はシルバーのリングを撫でてみる。シンプルだけれど、高価なんだろうなと感じさせてくる。
……ラインヴァルトさまは、玩具みたいなものとおっしゃっていた。そんなわけ、ないのに。
「テレジアが嫌だったら、俺はもう止めない。……ただ、俺はテレジアと一緒に居たい」
彼は強引なのに。どうしてか、私の意思を尊重してくださる。
そういうところも好き……なの、かな。
(最後に私にすべてを委ねるところが、本当に彼らしい気がするわ……)
目を伏せて、もう一度シルバーのリングを撫でる。
そして、顔を上げた。彼としっかりと視線が交わる。私は、震える唇を開いた。
「わ、たし。……ラインヴァルトさまのお隣にいても、いいですか?」
瑕疵ばっかりあるような令嬢なのに。図々しくも、私はそう思ってしまう。
彼に縋るような目を向けて、返答を待つ。彼が少し考え込んだような素振りを見せて、にんまりと笑われた。
「別に、いてもいい。……むしろ、いないんだったら……そうだな」
「……はい」
「俺が、テレジアを追いかけるか」
冗談めかしたような言葉だった。……でも、私にはわかる。
彼は割と本気でそう思っていると。
「なにもかも投げ出して、俺はテレジアを追いかける。……テレジアとだったら、辺鄙なところでも楽しそうだしな」
「……なんですか、それ」
そういうの、あんまりよくないと思う。
私がそう言おうとすると、ラインヴァルトさまが私の手を取った。指を絡められて、ぎゅっと握られる。
「だから、テレジアはいわば鎖みたいなものなんだろうな」
「……鎖、ですか?」
「あぁ、俺にすべてを投げ出させないための鎖」
つまり、私がいないとダメということなのか。
……そうじゃないとわかっていても、そういう風にイメージ出来る言葉は嬉しい。
「私、その……あんまり、器用じゃないです」
小さくそう言葉を紡いだ。
「愛想だってよくないし、なにも出来ないし、容姿もあんまりよくないし。……ラインヴァルトさまのお隣にいていい人種じゃない」
「……そうか」
「でも、あなたさまのお側にいたい。それだけは、心の底からの気持ちで――」
私の言葉は、最後まで続かない。彼に身体を引き寄せられて、抱きしめられてしまったから。
目を瞬かせて、私は戸惑う。
「それだけでいい。……それに、自虐の言葉は俺が上塗りしてやる。自虐するよりも、自信を抱けるように」
「……はい」
「好きだよ、テレジア」
彼が私の頬を撫でて、はっきりとそう告げてくださって。
……もう、拒否する気も起きなかった。だから、私は彼の衣服をぎゅっと握る。
「ラインヴァルト、さま……」
「……ん」
私の声を聞いた彼が、私の唇に口づけてこられる。
ふわっとした風が花々と木々を揺らしている。その音を聞きながら、私はラインヴァルトさまに身を委ねる。
彼の体温と香りに、包まれていてこの世で一番幸せだった。
さも当然という風にそうおっしゃる彼は、やっぱり私の好きな人なんだって理解する。
「……で、どうする?」
彼が私の手を見つめて、そう問いかけてこられる。ほんの少しの不安を孕んだような声に、私はどうすればいいかわからなくなる。
……本当は、ラインヴァルトさまと一緒にいたい。でも、どうするのが正解なのか。
(正解とか、間違いとか。そういうことでは、ないのよね……)
これは、私がどうしたいかの問題なのだろう。
それを理解して、私はシルバーのリングを撫でてみる。シンプルだけれど、高価なんだろうなと感じさせてくる。
……ラインヴァルトさまは、玩具みたいなものとおっしゃっていた。そんなわけ、ないのに。
「テレジアが嫌だったら、俺はもう止めない。……ただ、俺はテレジアと一緒に居たい」
彼は強引なのに。どうしてか、私の意思を尊重してくださる。
そういうところも好き……なの、かな。
(最後に私にすべてを委ねるところが、本当に彼らしい気がするわ……)
目を伏せて、もう一度シルバーのリングを撫でる。
そして、顔を上げた。彼としっかりと視線が交わる。私は、震える唇を開いた。
「わ、たし。……ラインヴァルトさまのお隣にいても、いいですか?」
瑕疵ばっかりあるような令嬢なのに。図々しくも、私はそう思ってしまう。
彼に縋るような目を向けて、返答を待つ。彼が少し考え込んだような素振りを見せて、にんまりと笑われた。
「別に、いてもいい。……むしろ、いないんだったら……そうだな」
「……はい」
「俺が、テレジアを追いかけるか」
冗談めかしたような言葉だった。……でも、私にはわかる。
彼は割と本気でそう思っていると。
「なにもかも投げ出して、俺はテレジアを追いかける。……テレジアとだったら、辺鄙なところでも楽しそうだしな」
「……なんですか、それ」
そういうの、あんまりよくないと思う。
私がそう言おうとすると、ラインヴァルトさまが私の手を取った。指を絡められて、ぎゅっと握られる。
「だから、テレジアはいわば鎖みたいなものなんだろうな」
「……鎖、ですか?」
「あぁ、俺にすべてを投げ出させないための鎖」
つまり、私がいないとダメということなのか。
……そうじゃないとわかっていても、そういう風にイメージ出来る言葉は嬉しい。
「私、その……あんまり、器用じゃないです」
小さくそう言葉を紡いだ。
「愛想だってよくないし、なにも出来ないし、容姿もあんまりよくないし。……ラインヴァルトさまのお隣にいていい人種じゃない」
「……そうか」
「でも、あなたさまのお側にいたい。それだけは、心の底からの気持ちで――」
私の言葉は、最後まで続かない。彼に身体を引き寄せられて、抱きしめられてしまったから。
目を瞬かせて、私は戸惑う。
「それだけでいい。……それに、自虐の言葉は俺が上塗りしてやる。自虐するよりも、自信を抱けるように」
「……はい」
「好きだよ、テレジア」
彼が私の頬を撫でて、はっきりとそう告げてくださって。
……もう、拒否する気も起きなかった。だから、私は彼の衣服をぎゅっと握る。
「ラインヴァルト、さま……」
「……ん」
私の声を聞いた彼が、私の唇に口づけてこられる。
ふわっとした風が花々と木々を揺らしている。その音を聞きながら、私はラインヴァルトさまに身を委ねる。
彼の体温と香りに、包まれていてこの世で一番幸せだった。
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