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本編 第5章
第2話
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翌日。私は王妃殿下に呼び出され、彼女の執務室に向かっていた。
私のそばを歩くのは、王妃殿下の専属侍女、それから女官。……彼女たちが付いているのは私が逃げないように、見張っているという意味も含まれているのだろう。
(なんというか、やっぱり罪人扱いだわ……)
心が痛まないといえば、嘘になる。だけど、私は負けたくない。負けないように頑張ると決めている。
だから、不思議と怖くはなかった。もちろん、悲しいことは悲しいのだけれど。
(大丈夫。ラインヴァルトさまも頑張ってくださっているのだもの)
自分自身にそう言い聞かせて、私は王妃殿下の執務室の扉をノックする。しばらくして、室内から返事が聞こえてくる。
震える手でドアを開ける。……室内には、王妃殿下がいらっしゃる。彼女は私の姿を見て、忌々しいとばかりに表情を歪められた。
「全く、厚顔無恥とはこのことだわ。この期間の意味を、考えなかったの?」
この期間の意味。私も、薄々は感じ取っていた。
王妃殿下が私に時間を与えたのは、自ら出ていくと口にさせるためだったのだ。そうすれば、角が立たないから。
「……考えました。ですが、このまま勘違いされたまま終わるのは、嫌なのです」
震える手を握って、私は王妃殿下と向き合う。彼女は手に持っていた扇をパチンと音を鳴らして閉じる。その後、大きくため息をつかれた。
「勘違いもなにも、あなたは元婚約者とつながっていた。それがすべてでしょう」
やはり、彼女は私の言い分など聞くつもりはないようだった。わかる。そりゃそうだ。
――だって、これは彼女が望んだことなのだから。
「王妃殿下は、コルネリアさまがお好きだったのですね」
「……は」
突拍子もない私の言葉に、王妃殿下が目を瞬かせられる。
……彼女はコルネリアさまが好きだ。その後ろにある『権力』が好きだ。
「確かに、私はコルネリアさまに比べれば、家柄は劣ります。婚約を破棄されたという瑕疵もあります」
それは嫌というほどにわかっている。ただ、それくらいであきらめるのは嫌だ。今までの私ならば、簡単にあきらめていた。
これが私の運命なんだって。
けど、ラインヴァルトさまとかかわって、愛を伝えられているうちに。私はあきらめないということを覚えた。
……それもこれも、すべて彼のおかげだ。
だから、私も少しでも彼の力になりたい。……彼に恩を返せるようになりたい。
「ただ、私がラインヴァルトさまを慕っている。そのことだけは、間違いないのです」
声は震えていなかっただろうか。ほんの少しの不安を抱きつつも、私は彼女を見つめる。……納得してくれる、なんて思っちゃいない。
ただ、少しでも。彼女の心に響いたら――と思っていたのに。やっぱり、無駄だった。
「……万が一、そうだったとして、それがなにになるの?」
どこか冷たさをはらんだ声で、王妃殿下はそう吐き捨てられた。
「真実の愛? そんなもの、この世に必要ないわ。愛がお金になるの? 愛が権力になるの? 愛しているから、愛しているから……なんて、夢を見るのもいい加減になさい!」
彼女が声を荒げる。その様子にはそばにいた侍女や女官も、ひるんでいた。
「愛なんてあっても、宝石は買えない。ドレスを仕立てることはできない。お腹も満たせない。……そんなもの、この世に必要ないでしょうに」
王妃殿下の視線が斜め下を向く。あふれんばかりの色気をまとったそのお姿。……同性の私でも、見惚れてしまう。
「いいこと? この世に必要なのは、お金と権力。それさえあれば、なんとでもなるのよ」
「……そう、だったとしたら」
王妃殿下のそのお言葉は、本心なのかがわからない。ただ、本心ではないことを願う。
だって、彼女のその気持ちが正しいのならば。
――彼女にとって、ラインヴァルトさまはなんなのだろうか。そう、思ってしまうから。
私のそばを歩くのは、王妃殿下の専属侍女、それから女官。……彼女たちが付いているのは私が逃げないように、見張っているという意味も含まれているのだろう。
(なんというか、やっぱり罪人扱いだわ……)
心が痛まないといえば、嘘になる。だけど、私は負けたくない。負けないように頑張ると決めている。
だから、不思議と怖くはなかった。もちろん、悲しいことは悲しいのだけれど。
(大丈夫。ラインヴァルトさまも頑張ってくださっているのだもの)
自分自身にそう言い聞かせて、私は王妃殿下の執務室の扉をノックする。しばらくして、室内から返事が聞こえてくる。
震える手でドアを開ける。……室内には、王妃殿下がいらっしゃる。彼女は私の姿を見て、忌々しいとばかりに表情を歪められた。
「全く、厚顔無恥とはこのことだわ。この期間の意味を、考えなかったの?」
この期間の意味。私も、薄々は感じ取っていた。
王妃殿下が私に時間を与えたのは、自ら出ていくと口にさせるためだったのだ。そうすれば、角が立たないから。
「……考えました。ですが、このまま勘違いされたまま終わるのは、嫌なのです」
震える手を握って、私は王妃殿下と向き合う。彼女は手に持っていた扇をパチンと音を鳴らして閉じる。その後、大きくため息をつかれた。
「勘違いもなにも、あなたは元婚約者とつながっていた。それがすべてでしょう」
やはり、彼女は私の言い分など聞くつもりはないようだった。わかる。そりゃそうだ。
――だって、これは彼女が望んだことなのだから。
「王妃殿下は、コルネリアさまがお好きだったのですね」
「……は」
突拍子もない私の言葉に、王妃殿下が目を瞬かせられる。
……彼女はコルネリアさまが好きだ。その後ろにある『権力』が好きだ。
「確かに、私はコルネリアさまに比べれば、家柄は劣ります。婚約を破棄されたという瑕疵もあります」
それは嫌というほどにわかっている。ただ、それくらいであきらめるのは嫌だ。今までの私ならば、簡単にあきらめていた。
これが私の運命なんだって。
けど、ラインヴァルトさまとかかわって、愛を伝えられているうちに。私はあきらめないということを覚えた。
……それもこれも、すべて彼のおかげだ。
だから、私も少しでも彼の力になりたい。……彼に恩を返せるようになりたい。
「ただ、私がラインヴァルトさまを慕っている。そのことだけは、間違いないのです」
声は震えていなかっただろうか。ほんの少しの不安を抱きつつも、私は彼女を見つめる。……納得してくれる、なんて思っちゃいない。
ただ、少しでも。彼女の心に響いたら――と思っていたのに。やっぱり、無駄だった。
「……万が一、そうだったとして、それがなにになるの?」
どこか冷たさをはらんだ声で、王妃殿下はそう吐き捨てられた。
「真実の愛? そんなもの、この世に必要ないわ。愛がお金になるの? 愛が権力になるの? 愛しているから、愛しているから……なんて、夢を見るのもいい加減になさい!」
彼女が声を荒げる。その様子にはそばにいた侍女や女官も、ひるんでいた。
「愛なんてあっても、宝石は買えない。ドレスを仕立てることはできない。お腹も満たせない。……そんなもの、この世に必要ないでしょうに」
王妃殿下の視線が斜め下を向く。あふれんばかりの色気をまとったそのお姿。……同性の私でも、見惚れてしまう。
「いいこと? この世に必要なのは、お金と権力。それさえあれば、なんとでもなるのよ」
「……そう、だったとしたら」
王妃殿下のそのお言葉は、本心なのかがわからない。ただ、本心ではないことを願う。
だって、彼女のその気持ちが正しいのならば。
――彼女にとって、ラインヴァルトさまはなんなのだろうか。そう、思ってしまうから。
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