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本編 第4章

第7話

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 書き物用の机の前に座って、私は小さく折りたたまれた手紙を開いていく。

 封を開ければ、中には二枚の便箋。一枚はミーナの言っていた返信用のものだと思う。真っ白だ。

 そして、もう一枚の便箋を開いた。

「……ラインヴァルトさま」

 そこには、ラインヴァルトさまの字で文章が綴られていた。

 今は、お仕事が忙しくて時間がなかなか取れないということ。そこには王妃殿下の策略が妨害があるのだろうということ。

 ラインヴァルトさまは、私の不貞を嘘っぱちだと信じていると。

 ラインヴァルトさまのほうで、隙間時間を使っていろいろと調べていると。

 そんなことが、便箋いっぱいに綴られている。小さな小さな文字を追っていると、自然とぎゅっと唇を結んでしまった。

(……真実を、聞かせてほしい、か)

 最後には、そんな言葉が綴られていた。

 真実。それは、信じていないから聞きたいわけじゃない。ただ、実際のことを知りたいということなのだろう。

(とりあえず、ゲオルグさまに付きまとわれていたこととか、書いたほうがいいのよね……)

 私はペンを取って、入っていた便箋に文字を綴っていく。

 ここ最近ゲオルグさまに付きまとわれていたこと。そこを王妃殿下の侍女に目撃され、伝えられたということ。それを悪い意味で受け取ったのであろう王妃殿下が、私に出て行くようにとおっしゃったこと。

 一応ここら辺を書いていく。一枚の便箋では、どうしても綴れる文字に限界がある。

 ……けど、大体のことは綴れたと思う。

「これを……どう、すればいいのかしら?」

 文字がびっちりと埋まった便箋を見つめて、私は小さくそう呟いた。

 ……ミーナは、最後に名前を書けばいいと言っていたけれど。

(ううん、ミーナを疑うわけじゃないもの。……書きましょう)

 最後に『テレジア』と文字を綴って、折りたたむ。一応格子から出られるサイズまで折りたたむと、手紙が淡く光り始めた。

「……わぁ」

 その手紙はきれいな蝶の形になって、格子から出て行く。

 ……そっか。そういう、魔法がかかっていたのね。

「移動魔法の一種、なのよね」

 こういう魔法は、一度人の手で道を教えなくちゃならない。

 そうしないと、上手く機能しないから。ミーナがここに運んできたのは、そういう意味もあったのだろう。

「どうか、ラインヴァルトさまに伝えてね」

 便箋で出来た蝶に向かって、私はそう伝えた。

 ……蝶が見えなくなって、私は一旦息を吐いた。

「よし、諦めるのは、ダメだわ」

 それから、自分の頬を軽く叩いて、自分を鼓舞する。

「ミーナも、ラインヴァルトさまも。私のことを信じている。ならば、私が頑張らなくてどうするの」

 少し弱気にはなっていた。が、このまま諦めるのは本意じゃない。

 私にできることは、全部やる。抗ってみせる。

「ゲオルグさまであろうと、王妃殿下であろうと。……私は、負けないわ」

 自分にできることは、限られている。

 ただ、とりあえず。今までの出来事を紙に書いて、おかしなところがないかチェックしよう。

 その一心で、私は紙を取り出して、ここに来てからの出来事を綴っていく。

 コルネリアさまのお言葉と、彼女とのいざこざ。ゲオルグさまとのことを目撃された際のこと。

 おかしなところを少しでも見つけなくちゃ。……それら一つ一つが大したダメージにならなくても。

 きっと、集まれば確かな攻撃になるはずだから。
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