【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ

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本編 第4章

第5話

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 けど、そう思ったところで。

 今の私には、どうすることもできない。

 それに、そんな不確定なことを口にすることも許されない。だって、相手は王妃殿下――ラインヴァルトさまの、お母さまなのよ? 不敬罪に問われてしまう。

(今は、ぐっと我慢しなくちゃ……)

 とはいっても、いつまで我慢すればいいのか。それは、定かじゃない。

 少なくとも、私が出て行くまでの猶予は五日しかない。その間に、なんとか出来ないだろうか。

(だけど、私みたいな小娘が、どうこう出来る問題じゃないわ……)

 それに、ラインヴァルトさまは最近お忙しくされている。合わせ、彼との接触を禁じられているのだ。

 私には監視もつけられるみたいだし……。

(もう、無理なのかもしれないわ……)

 そう思ったら、胸の中に募るのは諦めの感情。

 正直、諦めたくない。ラインヴァルトさまに「私も好き」と伝えるまで、諦めたくない。

 かといって……私なんかにどうすることが出来るというのだろうか?

「王妃さまからのご命令で、世話役は取り上げます。また、外から鍵をかけさせていただきますので、ご了承くださいませ」

 女官はそう言うけれど、私の了承なんて必要ないだろうに。

 心の中でそう思っていれば、女官が部屋の扉を開けて、私を押し込む。鍵がかけられる音、それからチェーンかなにかをつけるような音が耳に届いた。

(……これじゃあ、本当に罪人じゃない)

 室内を見つめる。少し前までと、同じ状態。

 つまり、ここは豪華絢爛な牢なのだろう。私は、ここから出ることが許されない。

「世話役を取り上げるということは、ミーナとも会えないっていうことね……」

 この豪華絢爛な牢で、私はたった一人、追い出されるのを待つのだろう。

 ……前までの私だったら、もうあきらめていた。なんの感情も抱かずに、流されるままだっただろう。

 でも、今の私は諦めたくないって思う。

「だって、全部ラインヴァルトさまが教えてくださったのだもの……」

 彼は愛を与えてくださった。愛することを教えてくださった。

 私はそんな彼の側にいたい。まだ、諦めたくない。

(扉のほうには、鍵がかかっている。監視もいるみたいだし……)

 そう思って、窓のほうに近づく。

 窓にはいつの間にか格子がはめられており、窓からも逃げることが出来そうにない。

(……どう、すれば)

 とにかく、考えなくちゃ。考えて、考えて、逃げ道を探さなくちゃ。

 王妃殿下にあぁ命令されたからといって、易々と引き下がるわけにはいかない。

 だって、私は無実なのだもの。一度、しっかりとラインヴァルトさまとお話をしなくちゃ……!

 彼ならば、私の不貞が真っ赤な嘘、でたらめだって、信じてくださる。

 そのためには、ここから出て、彼に会って――。

「諦めたく、ないの」

 窓を開けて、格子を握りしめる。握った格子は、とにかく冷たい。長くは、握っていたくないものだった。

「ラインヴァルトさま。……私、諦めたくない。あなたに、好きだって伝えていないもの」

 黒幕が王妃殿下であろうと、ゲオルグさまであろうと。

 今の私には、それよりも重要なことがある。

「どうか。……どうか、私の気持ちを伝えさせてください」

 ぎゅっと目を瞑って、必死にそう願う。

 願っただけじゃ、なにも変わらないかもしれない。それでもいい。あきらめるよりは――ずっと、いいから。
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