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本編 第4章
第3話
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それからのことは、よく覚えていない。
どうやってお部屋に戻ったのか。ゲオルグさまといつ別れたのか。
思い出せない中、ぼうっとしつつソファーに横たわる。
(きっと、彼女は報告したのでしょうね……)
あの様子だと、間違いなく報告していると思う。
胸がずきんと痛む。
あの状況では、私がいくら「違う」と言っても、信じてもらえなかっただろう。
だったら、少し間をおいてから、言ったほうがいいかも。
そう思って、私は一度深呼吸をして起き上がる。それとほぼ同時に、お部屋の扉がノックされた。
「テレジアさま。王妃さまがお呼びでございます」
私の返事も聞かずに、侍女が扉を開けてそう伝えてくる。
彼女は私が頷いたのを見て、ぱたりと扉を閉めた。……彼女の顔も、知っている。
王妃殿下付きの侍女だったはず。
(やっぱり、王妃殿下のお耳に入ってしまったのね……)
でも、王妃殿下ならば私の無実を信じてくださるのではないか。
小さな小さな希望が胸の中に芽生えて、成長していく。……だって、あのお人はいろいろと親切だったもの。
(……けど)
だけど、それと同じくらい、私を不安にさせるような言動をされていたような気がする。
コルネリアさまのこととか……。
「……いいえ、気のせいよ。王妃殿下を疑うなんて、とんでもないわ」
必死に自分にそう言い聞かせて、軽く頬を叩いた。
そうだ。まずは、王妃殿下に事の顛末を説明しなければ。
私とゲオルグさまは無関係だ。関係を持ったわけがない。むしろ、私は彼を嫌悪していた。
真実を伝えれば、彼女は無下にはしない。そう、思っていたのに。それは、儚い願いだった。
一人で王妃殿下の執務室の前に来て、ノックしようと手を伸ばして、引くのを繰り返す。
胸の中には相変わらず不安とか、恐ろしさとかが渦巻いている。が、こうなってしまった以上きっちりと自分の言葉で説明をしなければ……。
その一心で、私は扉をノックする。しばらくして「どうぞ」という女性の声が聞こえて来た。
扉を開けて、深々と頭を下げる。
「失礼いたします」
挨拶をすれば、王妃殿下付きの女官にお部屋の奥へと入るようにと促された。
なので、私は一歩一歩足を踏み出す。王妃殿下は、こちらに背を向けていて、表情が読み取れない。
「……王妃、殿下」
震える声で彼女のことを呼ぶ。すると、彼女がゆっくりとこちらを向く。
「二人きりにして頂戴」
王妃殿下は静かな声でそうおっしゃって、数名の侍女と先ほどの女官を追い出された。
これで、正真正銘二人きりだ。私の唇が、微かに震えた。
「その、今回のことは……」
「――えぇ、しっかりと聞いています」
私の言葉は、ほかでもない王妃殿下によって遮られた。
「まさか、あなたが元婚約者と通じていたなんてね」
「……あの」
「全く。これだけ目をかけていたのに、裏切られてしまったわ」
彼女が肩をすくめて、私を見つめる。その目には、愛なんて宿っていない。ただひたすら、冷たい色が宿っているだけだ。
……背中が、ぞくっとした。
「次期王太子妃には、ラインヴァルトの妃には。あなたは相応しくないわ」
かつかつと音を立てて、王妃殿下がこちらに近づいてこられる。
私のすぐそばで立ち止まった彼女は、私のことを見下ろす。高いヒールを履かれている所為か、いつもよりもずっと迫力があった。
「あなたには、王太子妃に。いずれは王妃になる覚悟がなかったのですね」
バカにしたような声だと思った。……けど、ここで引いちゃいけない。
私は、ラインヴァルトさまに自分の気持ちを伝えるのだから。
「違います! 私とゲオルグさまは――」
――無関係なのです。
そう言おうとした。でも、言えなかった。
「っつ」
その代わりとばかりに、頬に走る痛み。
ジンジンとした痛みを感じて、現実に戻る。
顔を上げれば、王妃殿下は閉じた扇を持っていらっしゃった。
「お黙りなさい」
あぁ、たたかれたんだ。
私は瞬時に、それを悟った。
どうやってお部屋に戻ったのか。ゲオルグさまといつ別れたのか。
思い出せない中、ぼうっとしつつソファーに横たわる。
(きっと、彼女は報告したのでしょうね……)
あの様子だと、間違いなく報告していると思う。
胸がずきんと痛む。
あの状況では、私がいくら「違う」と言っても、信じてもらえなかっただろう。
だったら、少し間をおいてから、言ったほうがいいかも。
そう思って、私は一度深呼吸をして起き上がる。それとほぼ同時に、お部屋の扉がノックされた。
「テレジアさま。王妃さまがお呼びでございます」
私の返事も聞かずに、侍女が扉を開けてそう伝えてくる。
彼女は私が頷いたのを見て、ぱたりと扉を閉めた。……彼女の顔も、知っている。
王妃殿下付きの侍女だったはず。
(やっぱり、王妃殿下のお耳に入ってしまったのね……)
でも、王妃殿下ならば私の無実を信じてくださるのではないか。
小さな小さな希望が胸の中に芽生えて、成長していく。……だって、あのお人はいろいろと親切だったもの。
(……けど)
だけど、それと同じくらい、私を不安にさせるような言動をされていたような気がする。
コルネリアさまのこととか……。
「……いいえ、気のせいよ。王妃殿下を疑うなんて、とんでもないわ」
必死に自分にそう言い聞かせて、軽く頬を叩いた。
そうだ。まずは、王妃殿下に事の顛末を説明しなければ。
私とゲオルグさまは無関係だ。関係を持ったわけがない。むしろ、私は彼を嫌悪していた。
真実を伝えれば、彼女は無下にはしない。そう、思っていたのに。それは、儚い願いだった。
一人で王妃殿下の執務室の前に来て、ノックしようと手を伸ばして、引くのを繰り返す。
胸の中には相変わらず不安とか、恐ろしさとかが渦巻いている。が、こうなってしまった以上きっちりと自分の言葉で説明をしなければ……。
その一心で、私は扉をノックする。しばらくして「どうぞ」という女性の声が聞こえて来た。
扉を開けて、深々と頭を下げる。
「失礼いたします」
挨拶をすれば、王妃殿下付きの女官にお部屋の奥へと入るようにと促された。
なので、私は一歩一歩足を踏み出す。王妃殿下は、こちらに背を向けていて、表情が読み取れない。
「……王妃、殿下」
震える声で彼女のことを呼ぶ。すると、彼女がゆっくりとこちらを向く。
「二人きりにして頂戴」
王妃殿下は静かな声でそうおっしゃって、数名の侍女と先ほどの女官を追い出された。
これで、正真正銘二人きりだ。私の唇が、微かに震えた。
「その、今回のことは……」
「――えぇ、しっかりと聞いています」
私の言葉は、ほかでもない王妃殿下によって遮られた。
「まさか、あなたが元婚約者と通じていたなんてね」
「……あの」
「全く。これだけ目をかけていたのに、裏切られてしまったわ」
彼女が肩をすくめて、私を見つめる。その目には、愛なんて宿っていない。ただひたすら、冷たい色が宿っているだけだ。
……背中が、ぞくっとした。
「次期王太子妃には、ラインヴァルトの妃には。あなたは相応しくないわ」
かつかつと音を立てて、王妃殿下がこちらに近づいてこられる。
私のすぐそばで立ち止まった彼女は、私のことを見下ろす。高いヒールを履かれている所為か、いつもよりもずっと迫力があった。
「あなたには、王太子妃に。いずれは王妃になる覚悟がなかったのですね」
バカにしたような声だと思った。……けど、ここで引いちゃいけない。
私は、ラインヴァルトさまに自分の気持ちを伝えるのだから。
「違います! 私とゲオルグさまは――」
――無関係なのです。
そう言おうとした。でも、言えなかった。
「っつ」
その代わりとばかりに、頬に走る痛み。
ジンジンとした痛みを感じて、現実に戻る。
顔を上げれば、王妃殿下は閉じた扇を持っていらっしゃった。
「お黙りなさい」
あぁ、たたかれたんだ。
私は瞬時に、それを悟った。
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