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本編 第4章
第2話
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そして、その日もゲオルグさまは王城にいらっしゃった。
私が図書館に向かうために、廊下を歩いていたとき。彼は偶然を装ったように、私に声をかけてこられたのだ。
初めはスルーしようとした。だけど、彼があまりにもしつこくて。
しびれを切らしてしまい、彼のほうに視線を向けた。
「……もう、関わらないでくださいませ」
じっと彼を見つめてそう言えば、ゲオルグさまはにっこりと笑われた。……不気味だ。
「そうだな。関わらないでほしいというのならば、条件がある」
「……条件?」
どうしてこちらがゲオルグさまの出す条件とやらを呑まなければならないのだろうか。
そう思ったけれど、やっぱりここ最近の彼のしつこさには参っていて。私は彼のほうに身体を向ける。瞬間、ゲオルグさまの唇の端が上がった。
「人気のない場所で話したい。人に聞かれたら、困るんでな」
「……そういうの、やめてください」
婚約者同士だった頃ならばまだしも、私と彼の関係はただの知り合いとなっている。
合わせ、二人とも未婚。そんな、未婚の子息子女が二人きりで人気のない場所なんて……。
「私とゲオルグさまは、もう無関係です。……二人きりになりたくないです」
はっきりとそう告げれば、ゲオルグさまの眉間がぴくりと動く。
その後、彼は周囲をぐるりと見渡して――私の手首を掴んで、近くの階段の陰に連れ込む。
「放してください!」
どうして、こんなことをされなくちゃならないのか。
彼が私の腰に腕を回す。……気持ち悪い。そう思って、彼を突き飛ばそうと、したのに。
「きゃぁあっ!」
近くから、女性の悲鳴が聞こえて来た。驚いて、私はそちらに視線を向ける。
そこには王城に仕えている侍女がいた。彼女の胸元には、王妃付きであるという証になるバッチ。
そして、その侍女は私のほうを凝視していて、その指が私とゲオルグさまを指している。
……嫌な予感が、頭と心に浮かぶ。
(ま、って……)
この状態は、見方によっては私とゲオルグさまが密会しているみたいだった。
彼女はわなわなと唇を震わせる。それは、明らかに怒りからだった。
「テレジアさまが、そんなふしだらなお方だと、思いもしませんでしたわ!」
侍女が大きな声で、そう叫ぶ。その所為で、周囲に人が集まってくる。
私の背中に、嫌な汗が伝った。
「ラインヴァルト殿下に愛されていながらも、元婚約者の方と繋がっていたなんて……!」
「ち、がっ!」
違う。そんなわけがない。だって、私はゲオルグさまに無理やりここに連れ込まれて……!
「違うわ! 私、そんなの……」
「言い訳は結構です! このことは、王妃さまに報告させていただきますわ!」
カンカンに怒った侍女は、私の意見も聞かずにすたすたと歩きだす。
その足取りはしっかりとしている。合わせ、彼女の態度を見るに間違いなく王妃殿下に報告するのだろう。
(これは、誤解なのにっ……!)
私はゲオルグさまと密会していたわけじゃない。繋がっていたわけでもない。
そう思うのに、周囲から向けられる視線が怖くて、口から言葉が出てこない。喉から小さな息が漏れるだけだ。
「あーあ、企みが全部台無しだな、テレジア」
そんな私を嘲笑うかのように、ゲオルグさまが私の耳元で、私にだけ聞こえる声量でそう囁いた。
……彼は、確信犯だ。それを、察する。
(ゲオルグさまは、私のことを嵌めたのね……)
もうどうすればいいかわからなくて。頭の中が真っ白で。私は、その場に崩れ落ちた。
「ラインヴァルトさま……!」
せめて、彼にだけは信じてほしい。そう思って、ぎゅっと手のひらを握って、零れそうになる涙をこらえた。
私が図書館に向かうために、廊下を歩いていたとき。彼は偶然を装ったように、私に声をかけてこられたのだ。
初めはスルーしようとした。だけど、彼があまりにもしつこくて。
しびれを切らしてしまい、彼のほうに視線を向けた。
「……もう、関わらないでくださいませ」
じっと彼を見つめてそう言えば、ゲオルグさまはにっこりと笑われた。……不気味だ。
「そうだな。関わらないでほしいというのならば、条件がある」
「……条件?」
どうしてこちらがゲオルグさまの出す条件とやらを呑まなければならないのだろうか。
そう思ったけれど、やっぱりここ最近の彼のしつこさには参っていて。私は彼のほうに身体を向ける。瞬間、ゲオルグさまの唇の端が上がった。
「人気のない場所で話したい。人に聞かれたら、困るんでな」
「……そういうの、やめてください」
婚約者同士だった頃ならばまだしも、私と彼の関係はただの知り合いとなっている。
合わせ、二人とも未婚。そんな、未婚の子息子女が二人きりで人気のない場所なんて……。
「私とゲオルグさまは、もう無関係です。……二人きりになりたくないです」
はっきりとそう告げれば、ゲオルグさまの眉間がぴくりと動く。
その後、彼は周囲をぐるりと見渡して――私の手首を掴んで、近くの階段の陰に連れ込む。
「放してください!」
どうして、こんなことをされなくちゃならないのか。
彼が私の腰に腕を回す。……気持ち悪い。そう思って、彼を突き飛ばそうと、したのに。
「きゃぁあっ!」
近くから、女性の悲鳴が聞こえて来た。驚いて、私はそちらに視線を向ける。
そこには王城に仕えている侍女がいた。彼女の胸元には、王妃付きであるという証になるバッチ。
そして、その侍女は私のほうを凝視していて、その指が私とゲオルグさまを指している。
……嫌な予感が、頭と心に浮かぶ。
(ま、って……)
この状態は、見方によっては私とゲオルグさまが密会しているみたいだった。
彼女はわなわなと唇を震わせる。それは、明らかに怒りからだった。
「テレジアさまが、そんなふしだらなお方だと、思いもしませんでしたわ!」
侍女が大きな声で、そう叫ぶ。その所為で、周囲に人が集まってくる。
私の背中に、嫌な汗が伝った。
「ラインヴァルト殿下に愛されていながらも、元婚約者の方と繋がっていたなんて……!」
「ち、がっ!」
違う。そんなわけがない。だって、私はゲオルグさまに無理やりここに連れ込まれて……!
「違うわ! 私、そんなの……」
「言い訳は結構です! このことは、王妃さまに報告させていただきますわ!」
カンカンに怒った侍女は、私の意見も聞かずにすたすたと歩きだす。
その足取りはしっかりとしている。合わせ、彼女の態度を見るに間違いなく王妃殿下に報告するのだろう。
(これは、誤解なのにっ……!)
私はゲオルグさまと密会していたわけじゃない。繋がっていたわけでもない。
そう思うのに、周囲から向けられる視線が怖くて、口から言葉が出てこない。喉から小さな息が漏れるだけだ。
「あーあ、企みが全部台無しだな、テレジア」
そんな私を嘲笑うかのように、ゲオルグさまが私の耳元で、私にだけ聞こえる声量でそう囁いた。
……彼は、確信犯だ。それを、察する。
(ゲオルグさまは、私のことを嵌めたのね……)
もうどうすればいいかわからなくて。頭の中が真っ白で。私は、その場に崩れ落ちた。
「ラインヴァルトさま……!」
せめて、彼にだけは信じてほしい。そう思って、ぎゅっと手のひらを握って、零れそうになる涙をこらえた。
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