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本編 第4章
第1話
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あの日以来。私とラインヴァルトさまの距離は、また一歩縮まったように思う。
彼は私と会うたびに抱きしめてくださって、「好き」と愛を告げてくださる。それが嬉しくて、心地よくて。
私も彼の気持ちに答えたい……そんな感情が、芽生えてくる。だけど、そうもいかない理由がある。
(せめて、私は彼に相応しくなりたい)
気持ちが惹かれて、ラインヴァルトさまのほうに傾いていたとしても。
今の私じゃあ、彼には釣り合わない。相応しくない。
だから、私はせめて彼に相応しくなって、そのときに「私も好きです」と返したい。
その一心で、私は王太子妃になるための教育の基礎勉強に取り組んでいた。
王太子妃になるべく教育は、今まで受けてきた公爵夫人になるための教育とは全然違った。
でも、ある程度は通じるところがあって。私は、そこまで苦痛もなく受けることが出来ている。元々勉強が嫌いじゃないのも、関係しているとは思う。
この日も、半日の授業を終え、教師を見送った私は大きく伸びをしていた。
「テレジアさま。お疲れさまでした」
教師と入れ替わりに、ミーナがやってくる。彼女はワゴンを押しており、ワゴンの上にはティーセット。
ミーナは流れるような仕草でティーポットからカップに紅茶を注いでいく。さすがは王城に仕える侍女というべきか。動きは滑らかで、迷いがない。
「……ねぇ、ミーナ」
「どうなさいました?」
私が声をかければ、彼女はカップを私の目の前に置いて、返事をくれた。
カップを手に取って、ミーナを見つめる。
「ミーナから見て、私ってどうなのかしら?」
少し困らせるような質問だと思う。だけど、聞いておきたかった。
「どう、とは?」
「その……ラインヴァルトさまに、相応しくなっていると思う?」
どういう風に聞けばいいかがわからなくて、考えた末にそう問いかけてみる。
ミーナは、きょとんとしつつも「はい」とためらいなく頷いてくれた。
「以前に比べて、本当に素晴らしくなっておりますわ。……あ、もちろん、以前が悪かったというわけではございませんよ」
「……知っているわ」
ミーナがそういうことを言う侍女だとは、思っていない。
そういう意味を込めて笑みを向ければ、ミーナがほっと胸を撫でおろしていた。
「立ち振る舞いも、所作も。本当に素晴らしくなられました。この調子ですと、ラインヴァルト殿下と並べる日も近いかと!」
「……そう」
その言葉は、どんな褒め言葉よりも嬉しい。
「彼の隣に堂々と並べるようになったら、私ね、気持ちを伝えるつもりなの」
ミーナに笑みを向けて、そう言う。彼女は一瞬だけきょとんとしたものの、すぐに手をパンっとたたいた。
「そうなのですね! きっと、いいえ、間違いなく殿下も喜ばれますわ!」
けど、そこまで手放しに言ってもらえるとむず痒い。
そんなことを思って、私は俯く。
(後の、問題は……)
そう思って、私はちょっとため息をついてしまった。
「テレジアさま?」
「いえ、なんでもないわ……」
ミーナが心配そうな表情を浮かべるので、私は笑みを向けてゆるゆると首を横に振った。
カップを口に運んで、飲む。温かくて、心が落ち着いた。
(あとは、ゲオルグさまのことを、どうするか……)
あの日、ゲオルグさまと再会してからというもの。どうしてか、彼は私にしつこく関わろうとしてくるのだ。
(さすがに迷惑なのだけれど……)
あるときは王城の庭園で。またあるときは、図書館で待ち伏せされる。一番ひどいときなんて、王城の廊下だ。
(彼の狙いは、一体なんなのかしら……?)
ただ私にちょっかいを出したいだけでは、ないと思う。
もしかして、なにかよからぬ企みがあるのでは……?
「いえ、考えすぎね」
でも、そう言って暗くなった気持ちを振り払った。
そして、紅茶の入ったカップをもう一度口に運んで、ミーナに笑みを向けた。
彼は私と会うたびに抱きしめてくださって、「好き」と愛を告げてくださる。それが嬉しくて、心地よくて。
私も彼の気持ちに答えたい……そんな感情が、芽生えてくる。だけど、そうもいかない理由がある。
(せめて、私は彼に相応しくなりたい)
気持ちが惹かれて、ラインヴァルトさまのほうに傾いていたとしても。
今の私じゃあ、彼には釣り合わない。相応しくない。
だから、私はせめて彼に相応しくなって、そのときに「私も好きです」と返したい。
その一心で、私は王太子妃になるための教育の基礎勉強に取り組んでいた。
王太子妃になるべく教育は、今まで受けてきた公爵夫人になるための教育とは全然違った。
でも、ある程度は通じるところがあって。私は、そこまで苦痛もなく受けることが出来ている。元々勉強が嫌いじゃないのも、関係しているとは思う。
この日も、半日の授業を終え、教師を見送った私は大きく伸びをしていた。
「テレジアさま。お疲れさまでした」
教師と入れ替わりに、ミーナがやってくる。彼女はワゴンを押しており、ワゴンの上にはティーセット。
ミーナは流れるような仕草でティーポットからカップに紅茶を注いでいく。さすがは王城に仕える侍女というべきか。動きは滑らかで、迷いがない。
「……ねぇ、ミーナ」
「どうなさいました?」
私が声をかければ、彼女はカップを私の目の前に置いて、返事をくれた。
カップを手に取って、ミーナを見つめる。
「ミーナから見て、私ってどうなのかしら?」
少し困らせるような質問だと思う。だけど、聞いておきたかった。
「どう、とは?」
「その……ラインヴァルトさまに、相応しくなっていると思う?」
どういう風に聞けばいいかがわからなくて、考えた末にそう問いかけてみる。
ミーナは、きょとんとしつつも「はい」とためらいなく頷いてくれた。
「以前に比べて、本当に素晴らしくなっておりますわ。……あ、もちろん、以前が悪かったというわけではございませんよ」
「……知っているわ」
ミーナがそういうことを言う侍女だとは、思っていない。
そういう意味を込めて笑みを向ければ、ミーナがほっと胸を撫でおろしていた。
「立ち振る舞いも、所作も。本当に素晴らしくなられました。この調子ですと、ラインヴァルト殿下と並べる日も近いかと!」
「……そう」
その言葉は、どんな褒め言葉よりも嬉しい。
「彼の隣に堂々と並べるようになったら、私ね、気持ちを伝えるつもりなの」
ミーナに笑みを向けて、そう言う。彼女は一瞬だけきょとんとしたものの、すぐに手をパンっとたたいた。
「そうなのですね! きっと、いいえ、間違いなく殿下も喜ばれますわ!」
けど、そこまで手放しに言ってもらえるとむず痒い。
そんなことを思って、私は俯く。
(後の、問題は……)
そう思って、私はちょっとため息をついてしまった。
「テレジアさま?」
「いえ、なんでもないわ……」
ミーナが心配そうな表情を浮かべるので、私は笑みを向けてゆるゆると首を横に振った。
カップを口に運んで、飲む。温かくて、心が落ち着いた。
(あとは、ゲオルグさまのことを、どうするか……)
あの日、ゲオルグさまと再会してからというもの。どうしてか、彼は私にしつこく関わろうとしてくるのだ。
(さすがに迷惑なのだけれど……)
あるときは王城の庭園で。またあるときは、図書館で待ち伏せされる。一番ひどいときなんて、王城の廊下だ。
(彼の狙いは、一体なんなのかしら……?)
ただ私にちょっかいを出したいだけでは、ないと思う。
もしかして、なにかよからぬ企みがあるのでは……?
「いえ、考えすぎね」
でも、そう言って暗くなった気持ちを振り払った。
そして、紅茶の入ったカップをもう一度口に運んで、ミーナに笑みを向けた。
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