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本編 第3章

第7話

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 それから、一体どれほどの時間が経っただろうか。

 私も、ラインヴァルトさまもなにも言葉を発しない空間。私はただじっと俯いている。ラインヴァルトさまが何処を見られているのかは、わからない。

 ただわかるのは。……この沈黙の空間が、案外悪くないということだけだろうか。

「……ラインヴァルトさま」

 でも、さすがにこのままでは時間の無駄だ。

 そう判断して、私はそっとラインヴァルトさまのお名前を口にする。彼が「うん?」と呟いて、私に視線を向けてくださった。

「いえ……なんでも、ありません」

 けど、言葉は続かなくて。ゆるゆると首を横に振る私を見て、ラインヴァルトさまは「そうか」と呟かれる。

「……でもな、テレジア」

 その後、彼が言葉を続けようとした。

 だから、私は彼のお顔を見る。真剣な面持ちをされた彼は、私の頬に指を押し当てた。

「言っておくけれど、俺はなにがあってもテレジアの味方だ」
「……あ、の」

 いきなりそんなことをおっしゃらなくても、私はそれをよく理解しているつもりだ。

 ラインヴァルトさまはいつだって私の味方で、私のことをとても大切にしてくださる。それくらい、理解している。

「だから、なんでも話してくれ。……迷惑とか、そういうことは考えなくていい」

 不思議だった。

 どうしてか、彼のお言葉には私の心の硬い部分をほぐすような。そんな効力がある。

 それを理解しつつ、私は口をもごもごと動かした。……どう、お伝えすればいいか、わからなかったから。

「ゆっくりでいい。俺は、テレジアを苦しめたいわけじゃない」

 私の様子を見て、ラインヴァルトさまが落ち着くような声音で、そう続けてくださる。

 そのお言葉を聞いて、何度か深呼吸を繰り返す。

(だけど、ラインヴァルトさまだって、ゲオルグさまのことを出されれば、不快になられるわ……)

 彼はゲオルグさまのことがお嫌いのようだし……と思って、私は少しぼかして伝えることにした。

「……その、先ほど、なのですが」
「あぁ」
「会いたくない人に、出くわしてしまったのです」

 間違いじゃない。私はゲオルグさまと会いたくないと思っていた。だから、嘘じゃない。

「それで、少し……その、気持ちが、落ち込んでしまって」

 私のたどたどしい説明。ラインヴァルトさまは、急かすこともない。続きを促すこともない。

 ただじっと私の言葉を聞いて、支離滅裂な話を聞いてくださった。

「だから、心配されるようなことでは、ないのです。……これは、私の問題――」

 ――ですから。

 そう言おうとして、不意に手首を掴まれて、身体を引き寄せられた。

 驚いて目をぱちぱちと瞬かせる。気が付けば、私の身体はラインヴァルトさまの腕の中にあった。

「テレジアだけの問題じゃ、ないだろ」

 彼がちょっとした怒りを孕んだようなお声で、そう呟かれる。

「俺はテレジアが好き。いずれは、夫婦になりたいって思ってる。……ここまでは、わかる?」
「は、はい……」

 それは、何度も何度も聞いたので……。

 心の中でそう付け足しつつ、私はラインヴァルトさまのお言葉の真意を探る。

 けど、私がどれだけ想像しても、答えは出てこない。

「……俺からすれば、夫婦っていうのは助け合うものだと思う」
「……はい」
「だから、俺はテレジアを助けたい。なにか辛いことがあるのならばしっかりと話を聞きたい。……それが、俺の望みだ」

 彼のお言葉の意味を、ようやく理解した。

 彼は、私の力になりたいとおっしゃっているのだ。……こんな、真面目しか取り柄のないような女の……。

「……その、あの、ですね」
「あぁ」
「せ、せめて、少し離れてくださいませ……!」

 が、今はそれどころじゃない。彼に抱きしめられているという現実だけで、私の心臓が破裂しそうなほどにうるさいから。
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