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本編 第3章
第5話
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(ラインヴァルトさまが教えてくださったのだもの。きっと、とても面白いんだわ)
それを実感すると、今すぐにでも読んでみたいと思う。
留守は預かっているけれど、本を読んでいても問題はない。彼も度々本を読んでいるし。
「誰も来ないときは、退屈ですからね」
彼はなんてことない風にそう言っていた。だったら、私もこの近くにいれば本を読んでいても問題ないだろう。
そう判断して、私はすぐそばにある椅子に腰を下ろす。そして、ぺらりと一ページ目をめくってみた。
視線で文字を追う。おとぎ話というからには、明るいお話なのだろう。王子さまとお姫さまのお話とか、だと思う。
最後はハッピーエンド。それが、お決まり。
けれど、読み進めていくうちにその考えは間違っていると実感する。おとぎ話でも、これは多分大人向けだ。真剣に読まないと、上手く理解できないかもしれない――と思って、一度顔を上げる。
時計の針は、あれから十五分ほど進んでいた。
「熱心に読んでしまったわ」
短編だと言うのに、考察を始めると十五分では半分も読めなかった。
でも、苦痛じゃない。むしろ、面白くて心がワクワクとするのがわかる。
(もう少し、読めるかしら?)
いつ彼が帰ってくるかは、わからない。かといって、すぐに帰ってくる保証もない。
ならば、もう少し読み進めよう――と思って、視線を下げて、図書館の扉が開いたのがわかった。
司書の彼が戻ってきたのだろうか?
そんな風に思って、顔を上げる。……自然と、息を呑んでしまった。
「あぁ、テレジア。こんなところにいたのか」
彼が足音を立てて、こちらに近づいてこられる。かつかつと言う音が、やたらと不気味だった。
「どうした? そんな、幽霊でも見たような顔をして」
ふっと口元を緩める彼に、私はどう返せばいいかがわからなくて。視線を彷徨わせて、言葉を探す。
「テレジア」
そのお人が、私の前の椅子に腰かけた。……相変わらずというか、豪奢な衣装だった。
「ど、うして、ここに……」
震える声でそう問いかける。すると、彼――ゲオルグさまは、にっこりと笑われた。
「テレジアに会いたくなったから、会いに来ただけだよ」
ある種の恐怖を抱いてしまうような、穏やかなお声だった。
だって、彼はいつだって私の前では不機嫌だった。それなのに、どうして……。
「テレジアが、王城に居候していると聞いたからな。……少し、顔を見に来ただけだ」
ゲオルグさまは私のほうにぐいっとお顔を近づけてこられる。慌てて顔を後ろに引く。
そうすれば、彼が私の手首を掴む。
「少し、表情が豊かになったか?」
「……放してっ!」
彼の手を振り払って、私は逃げようと椅子から立ち上がる。がたんとけたたましい音が鳴って、椅子が倒れる。
「私に、触れないでください……!」
必死にそう訴えれば、ゲオルグさまは面白くなさそうにお顔を歪められた。
小さな舌打ちが、私の耳に届く。
「少しくらい相手をしてくれてもいいだろう? 婚約者だった者同士、仲よくしよう」
その理屈は、一体何処から出てくるのか。そもそも、私のことを捨てたのは彼のほうじゃないか。
「私は、仲良くしたくないです。……お話も、したくない」
ぎゅっと手のひらを握ってそう伝えれば、彼が一瞬だけ目を見開く。けれど、やれやれと言った風に肩をすくめられた。
「全く、わがままな女だな。お前のような女を相手してやるだけ、嬉しく思うんだな」
ゲオルグさまが、私の側にまた寄ってこられる。脚を引こうとして、引けない。身体が恐怖から硬直して、動いてくれない。
「なぁ、テレジア。……お前、王太子殿下のお気に入りなんだって?」
それを実感すると、今すぐにでも読んでみたいと思う。
留守は預かっているけれど、本を読んでいても問題はない。彼も度々本を読んでいるし。
「誰も来ないときは、退屈ですからね」
彼はなんてことない風にそう言っていた。だったら、私もこの近くにいれば本を読んでいても問題ないだろう。
そう判断して、私はすぐそばにある椅子に腰を下ろす。そして、ぺらりと一ページ目をめくってみた。
視線で文字を追う。おとぎ話というからには、明るいお話なのだろう。王子さまとお姫さまのお話とか、だと思う。
最後はハッピーエンド。それが、お決まり。
けれど、読み進めていくうちにその考えは間違っていると実感する。おとぎ話でも、これは多分大人向けだ。真剣に読まないと、上手く理解できないかもしれない――と思って、一度顔を上げる。
時計の針は、あれから十五分ほど進んでいた。
「熱心に読んでしまったわ」
短編だと言うのに、考察を始めると十五分では半分も読めなかった。
でも、苦痛じゃない。むしろ、面白くて心がワクワクとするのがわかる。
(もう少し、読めるかしら?)
いつ彼が帰ってくるかは、わからない。かといって、すぐに帰ってくる保証もない。
ならば、もう少し読み進めよう――と思って、視線を下げて、図書館の扉が開いたのがわかった。
司書の彼が戻ってきたのだろうか?
そんな風に思って、顔を上げる。……自然と、息を呑んでしまった。
「あぁ、テレジア。こんなところにいたのか」
彼が足音を立てて、こちらに近づいてこられる。かつかつと言う音が、やたらと不気味だった。
「どうした? そんな、幽霊でも見たような顔をして」
ふっと口元を緩める彼に、私はどう返せばいいかがわからなくて。視線を彷徨わせて、言葉を探す。
「テレジア」
そのお人が、私の前の椅子に腰かけた。……相変わらずというか、豪奢な衣装だった。
「ど、うして、ここに……」
震える声でそう問いかける。すると、彼――ゲオルグさまは、にっこりと笑われた。
「テレジアに会いたくなったから、会いに来ただけだよ」
ある種の恐怖を抱いてしまうような、穏やかなお声だった。
だって、彼はいつだって私の前では不機嫌だった。それなのに、どうして……。
「テレジアが、王城に居候していると聞いたからな。……少し、顔を見に来ただけだ」
ゲオルグさまは私のほうにぐいっとお顔を近づけてこられる。慌てて顔を後ろに引く。
そうすれば、彼が私の手首を掴む。
「少し、表情が豊かになったか?」
「……放してっ!」
彼の手を振り払って、私は逃げようと椅子から立ち上がる。がたんとけたたましい音が鳴って、椅子が倒れる。
「私に、触れないでください……!」
必死にそう訴えれば、ゲオルグさまは面白くなさそうにお顔を歪められた。
小さな舌打ちが、私の耳に届く。
「少しくらい相手をしてくれてもいいだろう? 婚約者だった者同士、仲よくしよう」
その理屈は、一体何処から出てくるのか。そもそも、私のことを捨てたのは彼のほうじゃないか。
「私は、仲良くしたくないです。……お話も、したくない」
ぎゅっと手のひらを握ってそう伝えれば、彼が一瞬だけ目を見開く。けれど、やれやれと言った風に肩をすくめられた。
「全く、わがままな女だな。お前のような女を相手してやるだけ、嬉しく思うんだな」
ゲオルグさまが、私の側にまた寄ってこられる。脚を引こうとして、引けない。身体が恐怖から硬直して、動いてくれない。
「なぁ、テレジア。……お前、王太子殿下のお気に入りなんだって?」
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