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本編 第2章
第26話
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彼はさも当然のようにそうおっしゃって、ウィンクを飛ばしてこられる。
その姿が眩しくて、かっこよくて。……私は、ラインヴァルトさまから視線を逸らす。
「テレジア?」
「み、ない、で、くださいっ!」
ラインヴァルトさまが私の顔を覗き込もうとされたので、慌てて自らの顔を手で覆う。
だって、今の私は絶対に真っ赤だ。そんな顔……彼に見られたくない。
「照れてる? ……可愛い」
でも、彼はさも当然のようにそうおっしゃって、私の頬にちゅっと口づけてくる。
「ひゃっ」
驚いて身を引こうとする。なのに、ラインヴァルトさまは私の身体を引き寄せて、逃げられないようにしてこられる。
背中に回された腕が、まるで私のことを「逃がさない」と伝えているかのようだった。
「本当、テレジアは可愛いよ」
そして、彼は流れるように私にそう囁きかけてこられて、私の頬にもう一度口づけを落とされた。
その後、私はお部屋に戻ってミーナが淹れてくれたお茶を飲むことにした。
彼女は戻って来た私を見て、表情が明るくなったと喜んでくれた。どうやら、私は彼女にとても心配をかけてしまっていたらしい。
「テレジアさまには、暗い表情は似合いませんからね」
ニコニコと笑った彼女は、私の前にティーセットを置いて、紅茶を注いでくれた。
その近くには王都の有名店から買ってきたという焼き菓子がいくつか並んでいる。クッキーやマフィン、マドレーヌなどなど……。
とても美味しそうで、気が付いたら私は自然と焼き菓子に手を伸ばしていた。
「……美味しい」
マドレーヌを一口かじって、そう呟く。
私のその言葉を聞いたからか、ミーナは「ようございました」と言ってくれる。
「先日からお食事の量が減っておりましたので、なにか食べられそうなものを……と思いまして」
「……そ、っか」
どうやら、ミーナは私のことを相当心配してくれていたらしい。
……ぽかぽかと、胸が温かくなった。
「あ、そうだわ。お金……」
ふと思い出して、私はなんとかお金を払えないかと考える。でも、ミーナは「必要ありませんわ」と言う。
「お金ならば、ラインヴァルト殿下からしっかりといただいておりますので」
「まぁ」
その言葉に、自然と笑えた。
「……あのね、ミーナ。私、もう他者のお言葉に振り回されるのはやめるわ」
今回は、王妃殿下のお言葉に感情を揺さぶられてしまった。その結果、ラインヴァルトさまとすれ違ってしまった。
……今度からは、しっかりと彼にお話を聞こう。彼は、私のことを蔑ろにしない。それが、よくわかった。
「さようでございますか。それがようございますよ」
ミーナが笑って、空になったティーカップに紅茶を注いでくれる。
(えぇ、そう。流されてばかりでは、ダメなのよね)
そう思ったとき、不意に胸の中になにかがつっかえたような気がした。
(……王妃殿下のあのお話は)
なんだろうか。今思い出せば、あれはまるで――私に不安を植え付けることが、目的のようにも聞こえる。
コルネリアさまとラインヴァルトさまの仲をにおわせて、私にラインヴァルトさまとの結婚をあきらめさせるように……という風にも、受け取れた。
「テレジアさま?」
「……いえ、なんでもないわ」
ゆるゆると首を横に振って、私はクッキーを口に入れる。
(どうせ、ただの勘違いよ。……行き違いが、あっただけだわ)
自分自身にそう言い聞かせて、私は咀嚼したクッキーを呑み込んだ。
喉が渇いていくような感覚は、クッキーの所為だったのか。はたまた――これから起こることへの、不安の表れだったのか。
それは、現状定かではなかった。
その姿が眩しくて、かっこよくて。……私は、ラインヴァルトさまから視線を逸らす。
「テレジア?」
「み、ない、で、くださいっ!」
ラインヴァルトさまが私の顔を覗き込もうとされたので、慌てて自らの顔を手で覆う。
だって、今の私は絶対に真っ赤だ。そんな顔……彼に見られたくない。
「照れてる? ……可愛い」
でも、彼はさも当然のようにそうおっしゃって、私の頬にちゅっと口づけてくる。
「ひゃっ」
驚いて身を引こうとする。なのに、ラインヴァルトさまは私の身体を引き寄せて、逃げられないようにしてこられる。
背中に回された腕が、まるで私のことを「逃がさない」と伝えているかのようだった。
「本当、テレジアは可愛いよ」
そして、彼は流れるように私にそう囁きかけてこられて、私の頬にもう一度口づけを落とされた。
その後、私はお部屋に戻ってミーナが淹れてくれたお茶を飲むことにした。
彼女は戻って来た私を見て、表情が明るくなったと喜んでくれた。どうやら、私は彼女にとても心配をかけてしまっていたらしい。
「テレジアさまには、暗い表情は似合いませんからね」
ニコニコと笑った彼女は、私の前にティーセットを置いて、紅茶を注いでくれた。
その近くには王都の有名店から買ってきたという焼き菓子がいくつか並んでいる。クッキーやマフィン、マドレーヌなどなど……。
とても美味しそうで、気が付いたら私は自然と焼き菓子に手を伸ばしていた。
「……美味しい」
マドレーヌを一口かじって、そう呟く。
私のその言葉を聞いたからか、ミーナは「ようございました」と言ってくれる。
「先日からお食事の量が減っておりましたので、なにか食べられそうなものを……と思いまして」
「……そ、っか」
どうやら、ミーナは私のことを相当心配してくれていたらしい。
……ぽかぽかと、胸が温かくなった。
「あ、そうだわ。お金……」
ふと思い出して、私はなんとかお金を払えないかと考える。でも、ミーナは「必要ありませんわ」と言う。
「お金ならば、ラインヴァルト殿下からしっかりといただいておりますので」
「まぁ」
その言葉に、自然と笑えた。
「……あのね、ミーナ。私、もう他者のお言葉に振り回されるのはやめるわ」
今回は、王妃殿下のお言葉に感情を揺さぶられてしまった。その結果、ラインヴァルトさまとすれ違ってしまった。
……今度からは、しっかりと彼にお話を聞こう。彼は、私のことを蔑ろにしない。それが、よくわかった。
「さようでございますか。それがようございますよ」
ミーナが笑って、空になったティーカップに紅茶を注いでくれる。
(えぇ、そう。流されてばかりでは、ダメなのよね)
そう思ったとき、不意に胸の中になにかがつっかえたような気がした。
(……王妃殿下のあのお話は)
なんだろうか。今思い出せば、あれはまるで――私に不安を植え付けることが、目的のようにも聞こえる。
コルネリアさまとラインヴァルトさまの仲をにおわせて、私にラインヴァルトさまとの結婚をあきらめさせるように……という風にも、受け取れた。
「テレジアさま?」
「……いえ、なんでもないわ」
ゆるゆると首を横に振って、私はクッキーを口に入れる。
(どうせ、ただの勘違いよ。……行き違いが、あっただけだわ)
自分自身にそう言い聞かせて、私は咀嚼したクッキーを呑み込んだ。
喉が渇いていくような感覚は、クッキーの所為だったのか。はたまた――これから起こることへの、不安の表れだったのか。
それは、現状定かではなかった。
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