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本編 第2章
第23話
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それからしばらく時間が経って。
誰かが、私の側に立つのがわかった。その誰かは私の身体に上着をかけてくれて、「風邪引くぞ」と言葉を発した。
「……ラインヴァルトさま」
その人物のお名前を口にすれば、彼は「あぁ」と端的に返事をくれた。
そして、彼の手が私の肩に触れようとする。……咄嗟に、振り払ってしまった。
「テレジア?」
視界に入った彼の驚くような顔が、私の心臓をぎゅって締め付ける。
でも、彼に優しくされたくなかった。だって、優しくされたらもっともっと苦しくなってしまうだろうから。
「……ごめんなさい」
小さくそう言うのが、精一杯だった。
震える声で謝罪をする。ラインヴァルトさまの手が、宙を彷徨っているのがわかった。
多分、私に触れていいものか思案されているのだろう。
「テレジア。なにか、嫌なことでもあったか?」
彼がそう問いかけてくる。……嫌なことが、あったかどうか。
それは、私にもよくわからない。ラインヴァルトさまがほかの女性と親しくされていて、それがほかでもないコルネリアさまで。挙句、王妃殿下もコルネリアさまのことを認められていて……。
(それは、当然のこと。私がどう思おうが、関係ない)
私がどう思おうが、周囲の反応は変わらない。合わせ、ラインヴァルトさまのコルネリアさまを見る目が、あまりにも優しかったから。私は、どうすればいいか本当にわからなかった。
「なにもないです。……少し、頭を冷やしたくて」
「……テレジア」
「ラインヴァルトさまには、関係ありません」
そうだ。これは、私個人の問題だ。つまり、ラインヴァルトさまには全く関係ない。
私が勝手に嫉妬して、私が勝手に苦しくなっているだけ。……誰も、悪くない。悪いのは、私の心の狭さだ。
「なぁ、テレジア。なにがあったか、本当に教えてくれ」
「……なにも、ないです」
彼が縋るようにそうおっしゃる。でも、やっぱり言葉には出来なかった。
ぎゅっと唇を引き結んで、溢れ出そうになる黒い感情をこらえる。ダメだって、わかっている。
――彼に八つ当たりをするのは、お門違いだと。
「なにもないのです。私が、勝手に苦しんでいるだけですから」
「テレジア!」
「私を一人にしてくださいっ!」
ラインヴァルトさまのお顔なんて、見たくもない。
その一心で、涙目になりながら彼を睨みつけた。……彼の端正なお顔が、傷ついたような表情を浮かべる。
「……ごめんなさい」
それも見ていられなくて、私はその場を立ち去ることにした。
(とりあえず、お部屋に戻ってお茶でも飲もう。……少し、心を落ち着けなくちゃ)
そうじゃないと、もっとひどい言葉を彼に浴びせてしまう。それだけは、とてもよくわかって。
「テレジア!」
ラインヴァルトさまが私の名前を呼ぶ。……けれど、立ち止まれなかった。振り返ることも、出来なかった。
私は彼にとって、一体なんなのだろうか?
(周囲に認めてもらえない。そんな私が、彼の婚約者なわけがない)
彼は「好き」だと言ってくださる。たくさん愛を与えてくださる。
だけど、いいや、だからこそ。
……私は、浅ましくも求めてしまう。
――彼の愛が、私にだけ向けられればいいのに、と。
(あのお方と、私は、全然違う。期待値も、信頼も……背負うものも)
だから、私は。……彼の重荷には、なりたくない。
そう思う。しかし、今の私は何処までいっても彼の重荷でしかないのだ。
そんな私に、彼の側にいる資格なんて――ない。
誰かが、私の側に立つのがわかった。その誰かは私の身体に上着をかけてくれて、「風邪引くぞ」と言葉を発した。
「……ラインヴァルトさま」
その人物のお名前を口にすれば、彼は「あぁ」と端的に返事をくれた。
そして、彼の手が私の肩に触れようとする。……咄嗟に、振り払ってしまった。
「テレジア?」
視界に入った彼の驚くような顔が、私の心臓をぎゅって締め付ける。
でも、彼に優しくされたくなかった。だって、優しくされたらもっともっと苦しくなってしまうだろうから。
「……ごめんなさい」
小さくそう言うのが、精一杯だった。
震える声で謝罪をする。ラインヴァルトさまの手が、宙を彷徨っているのがわかった。
多分、私に触れていいものか思案されているのだろう。
「テレジア。なにか、嫌なことでもあったか?」
彼がそう問いかけてくる。……嫌なことが、あったかどうか。
それは、私にもよくわからない。ラインヴァルトさまがほかの女性と親しくされていて、それがほかでもないコルネリアさまで。挙句、王妃殿下もコルネリアさまのことを認められていて……。
(それは、当然のこと。私がどう思おうが、関係ない)
私がどう思おうが、周囲の反応は変わらない。合わせ、ラインヴァルトさまのコルネリアさまを見る目が、あまりにも優しかったから。私は、どうすればいいか本当にわからなかった。
「なにもないです。……少し、頭を冷やしたくて」
「……テレジア」
「ラインヴァルトさまには、関係ありません」
そうだ。これは、私個人の問題だ。つまり、ラインヴァルトさまには全く関係ない。
私が勝手に嫉妬して、私が勝手に苦しくなっているだけ。……誰も、悪くない。悪いのは、私の心の狭さだ。
「なぁ、テレジア。なにがあったか、本当に教えてくれ」
「……なにも、ないです」
彼が縋るようにそうおっしゃる。でも、やっぱり言葉には出来なかった。
ぎゅっと唇を引き結んで、溢れ出そうになる黒い感情をこらえる。ダメだって、わかっている。
――彼に八つ当たりをするのは、お門違いだと。
「なにもないのです。私が、勝手に苦しんでいるだけですから」
「テレジア!」
「私を一人にしてくださいっ!」
ラインヴァルトさまのお顔なんて、見たくもない。
その一心で、涙目になりながら彼を睨みつけた。……彼の端正なお顔が、傷ついたような表情を浮かべる。
「……ごめんなさい」
それも見ていられなくて、私はその場を立ち去ることにした。
(とりあえず、お部屋に戻ってお茶でも飲もう。……少し、心を落ち着けなくちゃ)
そうじゃないと、もっとひどい言葉を彼に浴びせてしまう。それだけは、とてもよくわかって。
「テレジア!」
ラインヴァルトさまが私の名前を呼ぶ。……けれど、立ち止まれなかった。振り返ることも、出来なかった。
私は彼にとって、一体なんなのだろうか?
(周囲に認めてもらえない。そんな私が、彼の婚約者なわけがない)
彼は「好き」だと言ってくださる。たくさん愛を与えてくださる。
だけど、いいや、だからこそ。
……私は、浅ましくも求めてしまう。
――彼の愛が、私にだけ向けられればいいのに、と。
(あのお方と、私は、全然違う。期待値も、信頼も……背負うものも)
だから、私は。……彼の重荷には、なりたくない。
そう思う。しかし、今の私は何処までいっても彼の重荷でしかないのだ。
そんな私に、彼の側にいる資格なんて――ない。
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