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本編 第2章
第22話
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王妃殿下の口から紡がれていく、ラインヴァルトさまとコルネリアさまの思い出話。
同じテーブルの方たちは、楽しそうに相槌を打って聞いている。……なのに、私だけそんな気持ちにはなれない。
胸がずきずきと痛んで、心が逃げ出したいと叫んでいるのが、わかった。
(……コルネリアさまのほうが、私よりも)
ずきずきと痛む胸を押さえて、ラインヴァルトさまのほうを見つめる。彼は、コルネリアさまとお話をされていた。
彼の目には邪険そうな感情なんて見えない。……あぁ、特別なんだ。嫌と言うほどに、思い知らされる。
(こんな気持ちに、なりたくないのに)
ラインヴァルトさまの目が、優しい。何処か声音が柔らかい。
そんなもの、彼女に向けないでほしかった。私だけに、私だけに――向けてほしかったのに。
口を開いたら悪意のある言葉が溢れてきそうで、私はぎゅっと唇を引き結ぶ。
(ダメ、ダメよ。……場をしらけさせるようなことを言うのは、ダメ)
自分自身にそう言い聞かせて、必死に俯いて、目を瞑って。
目に入るものも、耳に入る言葉たちも。なに一つとして、私の意識には入れない。
そんな風にこの空間に耐えて。……気が付けば、お茶会は解散の時刻となっていた。
お茶会の際中、私はラインヴァルトさまと一言もお話をすることは、出来なかった。
お茶会が解散になっても、部屋に戻る気にはなれなかった。
だから、私はぼうっとしながら、片付けが行われる庭園を見つめる。
先ほどまで、様々な人たちが談笑していた場は、今ではもうかなり片付いていた。
(……なんだか、虚しい)
私を怪訝そうに見つめる使用人たちの視線を、感じる。でも、今の私にはやっぱりそういうことはどうでもいい。
……自分の胸の中に募るモヤモヤを理解するのに、必死だった。
多分、これは嫉妬とかそういうものの一種なのだろう。
コルネリアさまは、ラインヴァルトさまに相応しい。
彼女のことは周囲の誰もが認めている。……対して、私はどうだろうか?
誰からも認められない。役にも立たない。……権力だって、ない。
それすなわち、私は彼に相応しくないのではないだろうか?
「……ラインヴァルトさま、コルネリアさまと楽しそうだった」
彼のコルネリアさまに向ける笑みは柔らかくて、親近感を含んでいた。
私に向けられる笑みには、溢れんばかりの「愛おしい」という気持ちがこもっている。が、結局はそれだけ。
親近感という気持ちは、こもっていない。私とよりも、きっとコルネリアさまと一緒にいたほうが、楽なんだろう。
「……う」
そう思った瞬間、涙が込み上げてきた。
自然と目元をこする。
でも、涙は止まらない。どれだけこすっても、拭っても。とめどなく溢れてきて、私の頬を濡らしていく。
「私……じゃ、ダメ、なの」
私じゃダメだ。誰も、私のことなんて愛してくれないし、選んでもくれない。
今更それを突きつけられて、苦しくなって。……バカみたい。
ラインヴァルトさまが、私を大切にしてくれるから。……舞い上がって、しまったのだろう。
――本当の私は、愛を与える価値もない人間だというのに。
「うぅ」
しまいには嗚咽が漏れ始めた。
近くを通りかかったメイドが、何事かと声をかけてくれる。けど、私は「なんでもない」というのが精いっぱいだった。
だって、そうじゃない。……今、誰かとお話をしたら。
――絶対に、八つ当たりしてしまう。
その自信だけは、あったから。
同じテーブルの方たちは、楽しそうに相槌を打って聞いている。……なのに、私だけそんな気持ちにはなれない。
胸がずきずきと痛んで、心が逃げ出したいと叫んでいるのが、わかった。
(……コルネリアさまのほうが、私よりも)
ずきずきと痛む胸を押さえて、ラインヴァルトさまのほうを見つめる。彼は、コルネリアさまとお話をされていた。
彼の目には邪険そうな感情なんて見えない。……あぁ、特別なんだ。嫌と言うほどに、思い知らされる。
(こんな気持ちに、なりたくないのに)
ラインヴァルトさまの目が、優しい。何処か声音が柔らかい。
そんなもの、彼女に向けないでほしかった。私だけに、私だけに――向けてほしかったのに。
口を開いたら悪意のある言葉が溢れてきそうで、私はぎゅっと唇を引き結ぶ。
(ダメ、ダメよ。……場をしらけさせるようなことを言うのは、ダメ)
自分自身にそう言い聞かせて、必死に俯いて、目を瞑って。
目に入るものも、耳に入る言葉たちも。なに一つとして、私の意識には入れない。
そんな風にこの空間に耐えて。……気が付けば、お茶会は解散の時刻となっていた。
お茶会の際中、私はラインヴァルトさまと一言もお話をすることは、出来なかった。
お茶会が解散になっても、部屋に戻る気にはなれなかった。
だから、私はぼうっとしながら、片付けが行われる庭園を見つめる。
先ほどまで、様々な人たちが談笑していた場は、今ではもうかなり片付いていた。
(……なんだか、虚しい)
私を怪訝そうに見つめる使用人たちの視線を、感じる。でも、今の私にはやっぱりそういうことはどうでもいい。
……自分の胸の中に募るモヤモヤを理解するのに、必死だった。
多分、これは嫉妬とかそういうものの一種なのだろう。
コルネリアさまは、ラインヴァルトさまに相応しい。
彼女のことは周囲の誰もが認めている。……対して、私はどうだろうか?
誰からも認められない。役にも立たない。……権力だって、ない。
それすなわち、私は彼に相応しくないのではないだろうか?
「……ラインヴァルトさま、コルネリアさまと楽しそうだった」
彼のコルネリアさまに向ける笑みは柔らかくて、親近感を含んでいた。
私に向けられる笑みには、溢れんばかりの「愛おしい」という気持ちがこもっている。が、結局はそれだけ。
親近感という気持ちは、こもっていない。私とよりも、きっとコルネリアさまと一緒にいたほうが、楽なんだろう。
「……う」
そう思った瞬間、涙が込み上げてきた。
自然と目元をこする。
でも、涙は止まらない。どれだけこすっても、拭っても。とめどなく溢れてきて、私の頬を濡らしていく。
「私……じゃ、ダメ、なの」
私じゃダメだ。誰も、私のことなんて愛してくれないし、選んでもくれない。
今更それを突きつけられて、苦しくなって。……バカみたい。
ラインヴァルトさまが、私を大切にしてくれるから。……舞い上がって、しまったのだろう。
――本当の私は、愛を与える価値もない人間だというのに。
「うぅ」
しまいには嗚咽が漏れ始めた。
近くを通りかかったメイドが、何事かと声をかけてくれる。けど、私は「なんでもない」というのが精いっぱいだった。
だって、そうじゃない。……今、誰かとお話をしたら。
――絶対に、八つ当たりしてしまう。
その自信だけは、あったから。
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