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本編 第2章
第21話
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そう思いつつも、じっと押し黙り続ける私。
そんな私を見たコルネリアさまは、まるで面白くないとばかりに一瞬だけ表情を歪める。
多分、彼女が期待していたのは。私が感情的になることだったのだろう。それを察しつつ、私は唇を結ぶ。
「コルネリアさま。テレジアさまは、きっと真実だから言い返せないだけでございますわ!」
「えぇ、そうです! こんな人よりも、コルネリアさまのほうがラインヴァルト殿下に相応しいですわ!」
同じテーブルにつくご令嬢たちが、そう声を上げる。きっと、気まずい空気をなんとかしようとしたのだろう。それに、ここで一番の権力者はコルネリアさまだ。彼女の味方をするのはある意味正しい。
(ダメよ。感情的に、なってしまっては……)
いつだって冷静でいるのが貴族の令嬢の美徳だから。ゆっくりと目を瞑って、何度か呼吸を整える。
そうしていれば、周囲がざわついたのがわかった。
「まぁ、ラインヴァルト殿下よ……!」
一人のご令嬢が、そう声を上げた。驚いて、私は顔を上げる。……だって、このお茶会には。ラインヴァルトさまは参加されないはずだったもの。
慌ただしく視線を動かして、ラインヴァルトさまのお姿を捜す。そして、少し離れた場所に彼の姿があった。
ラインヴァルトさまは、当然と言うべきか。人に囲まれている。……近づくのは、少し無理かも。
(後で、ご挨拶すればいいわ……)
だから、なにも今焦る必要は――と、思う私を他所に。
コルネリアさまは立ち上がると、ラインヴァルトさまのほうに早足で向かう。
ほかの人たちが、コルネリアさまに道を開ける。そこを堂々と通るコルネリアさまには、確かなオーラがあった。
……私とは、全然違うと思ってしまう。
「ラインヴァルト殿下!」
コルネリアさまが、飛び切りの明るい声でラインヴァルトさまを呼んだ。
ラインヴァルトさまが、コルネリアさまに視線を向ける。その目は何処か優しいもので、彼女のことを邪険にしていないのはよくわかった。……ずきんと、胸が痛む。
「やっぱり、ラインヴァルト殿下はコルネリアさまとご結婚されるのね」
何処からか聞こえてきたその声。それは、私の夢を打ち砕くには十分だった。
……彼と過ごした日々は、楽しかった。けど、思い返せば当然なのだ。……私は、彼に相応しくない。
(……私には、嫉妬する権利なんてない)
もしも、私がコルネリアさまの立場だったら――なんて思って、一人で自己嫌悪。
どうしてもお二人のほうを見て居られなくて、私は視線を下げる。すると、ふと「テレジアさん」と聞きなれた声が聞こえてきた。
「どうなさったの? 浮かない顔をされているけれど?」
「……王妃殿下」
私に声をかけてきたのは、ほかでもない王妃殿下だった。
彼女はなんてことない風に先ほどまでコルネリアさまが腰掛けていた椅子に腰かける。
周囲の空気が、ぴりりと緊張を帯びる。
「え、えっと……」
なんて返答すればいいのか。それがわからなくて、私は視線を彷徨わせる。
「仲がいいでしょう?」
「……え」
ふと王妃殿下が意味の分からないことを口にして、私は彼女を見つめる。彼女の視線の先には、ラインヴァルトさまとコルネリアさまがいる。……あのお二人を指したお言葉なのだと、理解してしまう。
「昔から顔なじみなのよ。……幼馴染っていう関係かしら?」
「……幼馴染」
だから、あんなにも距離が近いのか。妙に納得してしまう。
「昔のラインヴァルトはね……」
その後、王妃殿下はラインヴァルトさまの幼少期のお話を聞かせてくれた。
……ただ、そのお話のすべてにコルネリアさまの存在があった。
それはまるで、私よりもコルネリアさまのほうがラインヴァルトさまに相応しい。そう、表しているかのようだった。
……そんなわけ、ないのに。
そんな私を見たコルネリアさまは、まるで面白くないとばかりに一瞬だけ表情を歪める。
多分、彼女が期待していたのは。私が感情的になることだったのだろう。それを察しつつ、私は唇を結ぶ。
「コルネリアさま。テレジアさまは、きっと真実だから言い返せないだけでございますわ!」
「えぇ、そうです! こんな人よりも、コルネリアさまのほうがラインヴァルト殿下に相応しいですわ!」
同じテーブルにつくご令嬢たちが、そう声を上げる。きっと、気まずい空気をなんとかしようとしたのだろう。それに、ここで一番の権力者はコルネリアさまだ。彼女の味方をするのはある意味正しい。
(ダメよ。感情的に、なってしまっては……)
いつだって冷静でいるのが貴族の令嬢の美徳だから。ゆっくりと目を瞑って、何度か呼吸を整える。
そうしていれば、周囲がざわついたのがわかった。
「まぁ、ラインヴァルト殿下よ……!」
一人のご令嬢が、そう声を上げた。驚いて、私は顔を上げる。……だって、このお茶会には。ラインヴァルトさまは参加されないはずだったもの。
慌ただしく視線を動かして、ラインヴァルトさまのお姿を捜す。そして、少し離れた場所に彼の姿があった。
ラインヴァルトさまは、当然と言うべきか。人に囲まれている。……近づくのは、少し無理かも。
(後で、ご挨拶すればいいわ……)
だから、なにも今焦る必要は――と、思う私を他所に。
コルネリアさまは立ち上がると、ラインヴァルトさまのほうに早足で向かう。
ほかの人たちが、コルネリアさまに道を開ける。そこを堂々と通るコルネリアさまには、確かなオーラがあった。
……私とは、全然違うと思ってしまう。
「ラインヴァルト殿下!」
コルネリアさまが、飛び切りの明るい声でラインヴァルトさまを呼んだ。
ラインヴァルトさまが、コルネリアさまに視線を向ける。その目は何処か優しいもので、彼女のことを邪険にしていないのはよくわかった。……ずきんと、胸が痛む。
「やっぱり、ラインヴァルト殿下はコルネリアさまとご結婚されるのね」
何処からか聞こえてきたその声。それは、私の夢を打ち砕くには十分だった。
……彼と過ごした日々は、楽しかった。けど、思い返せば当然なのだ。……私は、彼に相応しくない。
(……私には、嫉妬する権利なんてない)
もしも、私がコルネリアさまの立場だったら――なんて思って、一人で自己嫌悪。
どうしてもお二人のほうを見て居られなくて、私は視線を下げる。すると、ふと「テレジアさん」と聞きなれた声が聞こえてきた。
「どうなさったの? 浮かない顔をされているけれど?」
「……王妃殿下」
私に声をかけてきたのは、ほかでもない王妃殿下だった。
彼女はなんてことない風に先ほどまでコルネリアさまが腰掛けていた椅子に腰かける。
周囲の空気が、ぴりりと緊張を帯びる。
「え、えっと……」
なんて返答すればいいのか。それがわからなくて、私は視線を彷徨わせる。
「仲がいいでしょう?」
「……え」
ふと王妃殿下が意味の分からないことを口にして、私は彼女を見つめる。彼女の視線の先には、ラインヴァルトさまとコルネリアさまがいる。……あのお二人を指したお言葉なのだと、理解してしまう。
「昔から顔なじみなのよ。……幼馴染っていう関係かしら?」
「……幼馴染」
だから、あんなにも距離が近いのか。妙に納得してしまう。
「昔のラインヴァルトはね……」
その後、王妃殿下はラインヴァルトさまの幼少期のお話を聞かせてくれた。
……ただ、そのお話のすべてにコルネリアさまの存在があった。
それはまるで、私よりもコルネリアさまのほうがラインヴァルトさまに相応しい。そう、表しているかのようだった。
……そんなわけ、ないのに。
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